118話
相手は武器、及び魔法や加護を使用しないこと。
致命的な攻撃を行わないこと。
手加減すること。
一発でも攻撃が当たれば負けとする。
そして、セクハラしないこと。
尚、こちらに制限は無い。
勝者には、カノンさんからのお褒めの言葉があるらしい。
町娘 対 最強の英雄。再び。
「…やっぱり、あの構えはアレイさんだね」
「ああ、確かに。似てるな」
「お兄様の模倣でしょうか」
「ツカサ君が戦うところを見たかったです」
「いやー……つーちゃんやと加減できんからなー……」
「二人と、も。頑張って」
「ふむ。興味深いね。どれほどの戦力差があるのかな」
「オウカさん、大丈夫でしょうか……」
「大丈夫ですよ。怪我をしても治して差し上げますから」
そして上記が見物客の皆さんのコメントです。
はい。どれが誰だか分かった人いたら、私が褒めてあげます。
「さってさてーっ!! 徒手では初めてだねっ!!」
「……はは。脇目も振らずに逃げればよかったなー」
やる気満々で柔軟体操してるレンジュさん。
うわー。やりたくねー。
ろくな事にならない気しかしないんだけど。
「一応手加減はしたげるからねっ!!」
「お手柔らかに……リング」
「――Sakura-Drive Ready.」
「Ignition」
鮮やかな桜色が世界を彩る。
お遊びとは言え、決まったことは仕方ない。やるか。
「さて。踊りましょうか」
相手は世界最強の一人。
音すら置き去りにする神速の剣士。
全力でやっても届かない、救国の英雄。
ならば、最初から。
限界を越えて行こう。
「リング。リミッター外して」
「――警告:身体に支障が出る可能性があります」
「構わない。今を乗り切らずに未来は無い」
「――OK. Sakura-Drive:Limiter release. Ready.」
「………Exist!!」
焔。
薄紅の魔力は色彩を変え、私を焼き尽くす。
熱い。身体が。心が。燃える。
さあ。何処まで通用するか。
今はただ、全力で立ち向かうのみ。
行こうか。限界の、その先へ。
「……行きます。貴女を倒し、未来を掴んでみせます!」
尚。これはただの模擬戦である。
決して最終決戦とか、そんなものではない。
「あははっ!! いいねいいねっ!! 全力でおいでっ!!」
「くっそ。せめて一発、叩き込んでやる」
停止から、最大速度へ。
空気が、重い。
壁のように私の邪魔をする。
知ったことか。突き進め。
目標に向かって真っ直ぐ飛び、前蹴り。
難なく逸らされ、そのまま回転。
地面と平行になりながら銃底を叩きつける。
これも受け流され、勢いを殺せず吹っ飛ばされる。
うっわ。やっぱ強いわこの人。
あれに対応するとか、人間辞めてるな。
仕方ない、次だ。
レンジュさんの周りを旋回。
両手の拳銃で全方位から弾丸をばら撒く。
一応非殺傷モードである。あるのだが。
「これも避けるのか……」
そもそも、当たる気配すらしない。
こちらの攻撃を見もせずに、最低限の動きでその全てを回避している。
なんだあれ。後ろに目が付いてんのか?
「気配と音で攻撃が丸わかりだねっ!! 対人戦経験が少ないからかなっ!?」
「……は? 音?」
「引き金引く時、小さく音がなるからねっ!! そこから銃口の向きもわかるんだよっ!!」
化け物だ。化け物がいる。
こんだけブースター吹かして飛び回ってんのに、そこから引き金の小さな音を聞き分けるとか、人間じゃないわ。
もうなんか、あれだな。基本性能が違いすぎる。
さて、どうするかな。せめて一発当てたい所だけど。
……ん? いや、まてよ?
…………あるな。一個だけ。
確実に一発当てられる手段が。
いや、しかし……そこまでやるか? ただの模擬戦で?
確かに確実ではあるだろうが、危険な要素もあるしな。
「にひひっ!! オウカちゃんはその程度かなっ!? まだまだ甘いねっ!!」
よし。やってやる。
全てのブースターを使い、螺旋を描いて高空へ向かう。
サクラドライブ。その最大の効果は。
魔弾を撃てることでも、戦い方を模倣出来ることでも無い。
恐怖を消すことだ。
城より高く飛び、地上に向けて最大加速。
そして。
拳銃と、デバイスを。
その場で放り投げた。
同時に、サクラドライブの効果が切れる。
「ぎゃああぁぁああぁぁああぁぁああっ!!」
思ったより高いいぃぃいい!?
「ちょっ!? オウカちゃんっ!?」
「これ死ぬこれ死ぬ無理無理無理無理いやああぁぁああっっ!?」
やるんじゃなかったああぁぁああ!!
落ちるううぅぅぅぅぅ!!
「っ!! やばっ!!」
そして、最速の英雄は。
誰より早く私の元に辿り着き、抱き止めてくれた。
もらいっ。
「……ていっ!」
ずびしっ。
最強の英雄の、がら空きの頭めがけて、チョップした。
「………は?」
「う……ひひ……私の、勝ち、です」
がしっと。
レンジュさんに全力で抱きついて、半泣きで笑う。
……あー。怖かったー。
レンジュさんなら、絶対来てくれると信じていた。
だからこそ、行えた作戦である。
それに、最高の治療師もいるし。
「……なるほどなるほどっ!! お見事ってところかなっ!?」
「あはははは。ぜってぇ、二度と、やらねぇ……」
久々に、マジで、死ぬかと思った。
見事に勝利した私は。
カノンさんから飛びっきりのご褒美を頂いた。
うん。まあ。怒られるとは思ってたけど。
まさか泣かれるとは思わなかったわ。
素直に、ごめんなさい。





