117話
何だかよく眠れなかった気がするけど、手紙を手元に置きっぱなしなのも何か怖い気がしたので、朝一でアレイさんを訪ねてみた。
こないだ助言をくれてメイドさんによると、この時間はだいたい訓練所にいるらしい。
前回のお礼の意味も込めて特性マカロンを渡して、訓練所に行ってみた。
そこでは、異次元と言えるレベルの何かが行われていた。
ドラゴンイーターを乱射するエイカさん。
何百という数の火の玉を放ち続けるカエデさん。
それら全てを避け、躱し、弾き続けるアレイさん。
一瞬毎に剣の形を変えながら斬りつけ続けるハヤトさん。
それらを盾と長剣で捌き続けるリリアさん。
魔王の攻撃さえ防ぎ切る障壁を多重展開しているカノンさん。
それらを素手で割り続けるツカサさん。
背中から六本の腕を生やして魔弾を乱射するマコトさん。
その全てを鞘で斬り落とすレンジュさん。
なんだこの化け物展覧会。
「……よし。帰るか」
「おやっ!? そこにいるのは愛しのマイハニーかなっ!?」
「げ。見付かった」
「おはよーっ!! 今日はっ!! どうしたのっ!! かなっ!?」
こちらに目線を向けたまま、先程までと変わらず全ての魔弾を切り落としている。
……あれさー。加護、使ってないように見えるんだけど。
さすが、最強の一人。
「いや、えーと……手紙の配達に来たんですけど」
「私にっ!?」
「アレイさんですね」
「なるほどっ!! ちょっと待ってて………ねっとぉ!!」
持っていた鞘を構えて。
上空にいるアレイさんにぶん投げた。
物凄い速度でぶっ飛んで行き、アレイさんの手甲に弾き落とされる。
いやいやいや!? 何してんのこの人!?
「うおわっ!? レンジュ!? なにしてんだ!?」
「アレイっ!! オウカちゃんが手紙持ってきてくれたよっ!!」
「はあ!? 手紙!? うおっ、あぶなっ!! ちょ、待て待てお前ら!!」
「照準修正……我が魔弾は、何人足りとも逃がしはしない……」
「ふはははは!! 墜ちろ墜ちろ墜ちろぉっ!!」
「加減をしろ加減をっ!!」
……うわぁ。なんだかんだ言って直撃しないし。
てか何だあの動き。慣性とか完全無視してんじゃん。
一瞬も同じ場所にいないし。
やっぱオリジナルの方が性能高いんだなー。
で、結局。
痺れを切らしたレンジュさんが、アレイさんを蹴り落として訓練は終了した。
「……つぅ。だから加減しろって」
「当たらないアレイさんが悪いと思います。あと、ツカサ君は今日も素敵です」
「……やっぱ、り。当たらない、ね」
左手をぷらぷら振るアレイさんと、悔しげな二人。
他の人たちも訓練を止め、集まって来た。
「で、なんだ。手紙? 誰からだ?」
「えーと。言っていいのかな」
「ん?言えないのか?」
「んー……まーいっか。クラウディアさんからです」
「…………はあ!?」
あーうん。そんな反応になるよね。
とりあえず手紙を渡してみると、アレイさんは裏表を確かめ、中身を日に透かして見た。
「……手紙、だな」
「手紙です。私の目の前で書いてました」
「……呼ばれたのか。災難だったな」
「一緒にお茶会してきました」
「あー。いつものやつだな。クッキー美味かったろ」
「ですねー。レシピ聞いたんで後で作ってみます」
「……あれ手作りだったのか」
うん、分かる、その気持ち。
女神パワーとかで生み出した物じゃなく、普通にオーブンで焼いたらしいし。
どーなってんだ、あの空間。
「あの……お兄様? オウカさんが女神様に会ったと聞こえたのですが」
「あーはい。昨日の夜中に拉致られました」
その言葉に対して、何故かみんな驚いていた。
いやまー、私的には大事件だけど……何この反応。
「オウカさん、女神様に会えるのは、今までお兄様だけだったんです。
私たちも召喚された時にしか、お会いしていません」
…………。なるほど?
これは説明してくれても良かったんじゃないかな、女神様?
やっばい。やらかしたな、これ。
うーん。どうすっかな。
……ふむ。アレイさんのせいにしとこ。
「……まーあれです。実質、アレイさんのせいかと思います、はい」
「ああ……なんか、すまん」
「……いえ。私が敬虔な女神教徒じゃなくて良かったです。とりあえずそれ、読んでください」
「ああ。しかし神託なら直接言えばいいだろうに」
いえ、ただの恋する乙女からのラブレターです。
あ、てかここで読まれるの、まずくないか?
「……えっと。アレイさん」
「……。なんだ、これ?」
「えーと。女神様の個人的な手紙というか…」
「いや、そうじゃなくてな……オウカちゃん、これ読んでみろ」
え、ラブレターを他人に見せる……の?
いやいやいや。なんだこれ。
全く知らない字が書かれてるんですけど。
まさかの展開すぎる。
え、てか、字なのこれ。絵か記号にしか見えないんだけど。
「読めませんね」
「ああ、読めないな。内容は聞いてないのか?」
「……。聞いてませんね」
嘘です。バッチリ聞いてます。
あの方、声に出しながら書いてたし。
多分一言一句間違えずに言えます。
……いや、違う意味で言えないけど。
てか、女神様、またやらかしたかー。
「……まあ、今度クラウディアに会ったら直接聞いてみるか」
「えーと。んー……そですね」
ごめんなさい女神様。さすがにフォローしきれませんでした。
……慰めの言葉を考えておこう。
「ところで、オウカちゃんも訓練に参加していくか?」
「死にたくないのでやめておきます」





