105話
空腹も少し落ち着いたところで、視線を動かして知り合いを探してみた。
けど、ここからじゃ何も見えない。人多すぎるってこれ……
とりあえず、すみっこの方に抜け出て、きょろきょろと見回してみた。
お。黒髪発見。あの高さは……キョウスケさんかな?
パーティー用の燕尾服が実に似合っている。
でも何か、女の人と良い感じに話してるっぽいなー。
あ、あの人、王城の書物庫の管理してる人だ
ふむ。なんか邪魔したら悪いし、他を当たるか。
再度辺りを見回していると、またもや黒髪発見。
あのツンツンヘアーはツカサさんだな。
ハヤトさんにエイカさんも一緒に居るっぽい。
あっちなら大丈夫かな。
「ちわっす。どもです」
「お、オウカさんやないか。久しぶりやな」
「…こんばんは。飯、美味いよ」
「ツカサ君、凄い勢いで食べてますからね」
三人ともいつもの様子で少し安心した。
なんか若干場の空気に圧倒されてたんだよね。
正装だけど、そこまで堅苦しい服装でもないし。
「それは何よりです。今日は食材が良いですからねー」
「…そうだね。ドラゴンなんて、前のパーティー以来かも」
「あれ? そうなんですか?」
いつも豪華なもん食べてるんだと思ってたわ。
「せやなー。普段は焼き魚とかオーク肉なんかやな」
「国王様は贅沢を好まれませんからね」
あー。確かに。あの方なら普通に食堂とか行きそうだし。
ん? なら、なんであんな高級食材が準備されてたんだろ。
「…あ。そう言えば。こないだ、レンジュさんが自慢してたね」
「……自慢? 誰に、何をですか?」
何となく、嫌な予感がする。
「…オウカさんが作ったおつまみを、陛下に」
「……え、なに。じゃあ今日のって」
「あー。たぶん、そういう事やないかなー」
レンジュさんに自慢されたから、自分も私が作った料理を食べたくなった、みたいな?
うわあ。てか、それならそうと、最初から言ってくれれば良かったのに。
……あ、いや。その時は多分逃げてたかな。
てことはあれか。シナリオ作ったのは多分、カノンさんか。
「何はともあれオウカさん、ありがとうございます。
こんなに幸せそうなツカサ君を見るのは久しぶりです」
「…ん。美味い」
幸せそう、なのかな、これ。
表情全く変わってないんだけど。
でもいわれてみれば、なんてゆーか、いつもと空気がちょっと違う?
「他の人には分からんやろうけどな。つーちゃん、メッチャ機嫌ええで」
「つーちゃん?」
「この勇者サマや」
「ああ、ツカサさんだからつーちゃん。なるほど………」
「…ハヤト、勇者じゃない」
「あーせやな。人前やさかい、堪忍したってや」
「…納得いかない」
「ツカサ君らしいですね。癒されます」
睨みつけるツカサさん。
笑いながら流しているハヤトさん。
そして、ツカサさんの頭を撫でているエイカさん。
んー。仲が良いのは分かるけど……何の話か分からん。
勇者だけど、勇者じゃない?
……あ。そゆことか。
「そっか。魔王倒したのって……」
「ストップ。ここでその話はアカン」
「おっとと。そですね」
つまり、あれか。
魔王を倒したのはツカサさんじゃなくてアレイさんだから、自分は勇者じゃないって言いたいのか。
そう言えば初対面時も似たような事言ってた気がする。
……なんて言うか、真面目だなー、この人。
「て言うか何で知っとるん? 身内しか知らん話なんやけど」
「前にカノンさんから聞きました」
「あかんやろそれ……アレイさん絡みになると口軽ぅなるからなー。ま、ナイショにしたってな?」
「…俺は広めてくれた方がいい」
頑なに自分の意見を曲げないな、この人。
いや、なんかツカサさんらしいけど。
「せやから政治的な問題があるんやって」
「ツカサ君はいつでも私の英雄です」
「はいはい、ややこしなるからエイカは黙っとれー」
なんだろーなー。この三人、他の人達と比べて特に仲が良いような。
てゆかハヤトさん、苦労してそうだな。
「そう言えば前から疑問だったんですけど。英雄の皆さんはこっちに来る前から知り合いだったんですか?」
「いんや、俺たち三人は幼なじみやけど、他はちゃうな」
「…アレイさんとカノンさんは、兄妹だけどね」
「こっちに来る前に女神様のところで会ったのが初対面ですね」
あれ、そうなんだ。ちょっと意外だ。あんなに仲良いのに。
「…昔はよく、ケンカしてた」
「せやなー。主につーちゃんとレンジュさんがやり合っとったな」
「……よく世界滅びませんでしたね」
「その頃はまだ、つーちゃんも人間のカテゴリーやったからなー」
なるほど。
ツカサさんの加護、『神魔滅殺』って成長限界突破だっけ。
昔はそれほど強くなかったのか。
……いや待って。てことは、今は魔王と戦った時より強いってこと?
うわあ……そりゃ確かに今は人間辞めてる気がするわ。
てゆかそれより、ちょっと気になること言ってたな。
「あの、レンジュさんがケンカですか?
なんかそういうイメージ無いですけど」
いつも楽しそうに笑ってるもんね、あの人。
冗談半分ならともかく、本気で誰かとケンカするとかちょっと考えらんない。
「あの人はなー……昔は結構ピリピリしとったからなー。まさに抜き身の刀って感じやったな」
「……え。レンジュさんがですか?」
まじか。あのハイテンションセクハラ魔人がそんなシリアスっぽい人だったとか、ちょっと信じられないんだけど。
「信じられへんやろ? アレイさんともよく言い争いしとったわ。
しかも昔はめっちゃテンション低いと言うか、クールな感じやったな」
「誰ですかそれ?」
「なー。まさかあーなるなんて、当時はだーれも思っとらんやったし」
テンション低くてクールなレンジュさんって、それ別人では?
想像すらできないんだけど。
あーいや、待てよ。一度戦った時、確かにクールと言うか、そんな感じになってた気がする。
そっか。常にあの感じの……あ、やっぱダメだ。想像できないわ。
どうしてもハイテンションで騒いでる姿が出てくる。
「…みんな、変わったよね」
「せやな。俺もエイカもつーちゃんも。みぃんな変わったなー」
「昔も今もツカサ君は最高に格好良いですけどね」
「エイカのそゆとこは変わっとらんなー」
「…俺も、変われたのかな」
拳を握り締め、ポツリと呟く。
うーん……なんか、私はこれ以上いない方が良いかも。
「んでは、私はこの辺で。あ、他の人が何処にいるか分かります?」
「ん? アレイさん達ならあっちの方におったな。カエデも一緒やと思う。
レンジュさんは……あー。うん。ま、多分テラスやないかな?」
「なるほど…じゃあとりあえずアレイさんとこ行ってみます」
「おう。それじゃあなー」
「…美味い飯をありがとう」
小さく手を振ってその場を離れる。
前から感じてはいたけれど、やっぱり英雄も普通の人間なんだよなー。
悩んだり後悔したり。旅の途中でいろんな事があったんだろう。
機会があれば旅の話とか聞いてみたいけど…うーん。
なんかイマイチ、まだ距離感が掴めてないんだよねー。
……まーとりあえず、アレイさんのとこ行こっかな。





