1、ヘチマたわしは定期的に漂白&よく洗い→乾燥で長持ち
トオデ大陸からサイッショ大陸へ行く方法は二つある。
一つは連絡船を使って行く方法。
これだと最短一日半でサイッショ大陸に上陸できるらしい。
二つ目は橋を渡って中間地点にある島に行き、そこから連絡船で上陸する方法である。
これだと徒歩で二日程かかり、船での移動は半日で済むそうだ。
「なるほど。我々は圧倒的に船酔いに弱いパーティーだからな。徒歩でマズワ島を目指す他あるまい」
「魔王様、主語がでかいです。船酔いするのは五名中二名だけです」
細かい指摘をするグルオから目を逸らし、俺は船酔い仲間のカロンと共に「徒歩ろうぜ」とエーヒアスを勧誘した。
一日半も船に揺れるとか考えるだけで萎えるんだから、こちとら必死である。
優しい事にエーヒアスは「別に急いでる訳でもないし、良いんじゃない?」と徒歩の移動に理解を示してくれた。
渡るのに五日掛かったイーガナ大橋の時といい、寛容なのはマジで助かる。
こうして我々の次の目的地がナガヤヤ橋経由のマズワ島に決まったのだった。
◇
さて、国王やドリュー氏を始めとした関係者各所への挨拶は前日の内に済ませたし、もう王都でやり残した事はないだろう。
グルオは仕事の延長を熱望されたようだが、「結構な額が稼げたから予定通りに切り上げる」と断ったそうだ。
「今更だが本当に良かったのか? 本城の清掃はまだまだ残っていると聞いたが……何ならもう少し滞在しても良かったんだぞ?」
「いえ、それより早くハジーメ村を見て土地や家の相場価格を知りたいと思いまして。もし資金が足りないようであれば、その時また王城で再雇用してもらう約束を取り付けておいたので問題ありません」
「え、何それ。抜かりなさ過ぎて笑えないんだが?」
お城ってそんな小遣い稼ぎ感覚で気軽に出戻れる場所だっけ?
この短期間でどれだけ信用を得たんだ、この男は。
エーヒアスも店を畳む前に「サイッショ大陸を目指しながら商売する」と触れ回ったらしいし、抜かりない面々で頼もしい限りである。
「よぉーし、頑張って歩きましょ~う!」
「キィ~!」
一番抜かりありそうなカロンがコエダと共に張り切っているが、ここは放っておこう。
王都の関所は来た時と同じく、ドリュー氏の口添えのおかげで簡単に抜ける事ができた。
やはり彼は無許可でコエダを連れ回している事を察していたようだ。
有り難い気遣いである。
次に会った時はコエダを抱っこさせてあげようそうしよう。
「しかし王都から少し離れただけで、こうものどかな道に出るとはなぁ」
人や馬車の往来はあるが、やはり王都の人口密度と比べれば雲泥の差である。
土の道の感触がどこか懐かしく、ようやく旅立ちの実感が湧いてきた。
「フフ、王都は広い上に結界があるもの。結界の外となれば人通りなんてこんなものじゃないかしら?」
「なるほどなぁ。思えばこの二ヶ月、俺も随分とシティーボーイに染まってしまったものだ」
「魔王様、本物はシティーボーイを自称しませんのでご安心下さい」
そんな雑談を交わしつつ、我々はひたすら南東の港を目指して進む……が。
小さな集落をいくつか抜けていく内に、俺の中で段々と不安が押し寄せてきた。
「……なんか平穏すぎないか? ヤラセでも良いから軽いハプニングとか何かない?」
「なぜハプニングを求めるのか理解に苦しみますが、ドッキリが欲しいならあちらに馬糞が落ちてますよ」
「それで俺に何をしろと?」
絶対に踏まんからな。
仮に踏んだとしてもそのネタだとただの再放送だから。
(※第一章、5話参照)
結局、特に目立った出来事もないまま四日が経過する。
久しぶりのボロ宿や野宿にメンタルを削られながらも、我々は遂に南東の港へと到着した。
「ヤット港……か。変な名前の港だな」
「でも結構大きな港ですよ~。穏やかで明るいし、私は結構好きです!」
確かにイヨイヨ漁港のようなけたたましい市場の喧騒はない。
かといって寂れている訳でもなく、むしろ人の往来は多く見られた。
「この近辺の海は穏やかで、連絡船や遊覧船が多く出ているようですね。パッと見ただけでも商人や貨物の運搬が目立ちますし、サイッショ大陸への玄関口というのも納得です」
「グルナビゲート、センキュー」
だが今の我々の目的は船ではない。
俺は海岸線の先であからさまに目立っている橋に目を向けた。
渡るのに五日掛かったイーガナ大橋と比べれば見劣りするが、これもかなり大きな橋である。
あれが中継地点のマズワ島に繋がるナガヤヤ橋で間違いないだろう。
「さて、マズワ島まで二日掛かるとの事だが……どうする? 今出発しても二時間後には日が暮れるだろう」
「今日はここで一泊するのが宜しいかと。買い物も各自ここで済ませておきましょう」
宿屋も程なくして決まり、我々は当然のように一旦解散した。
グルオは部屋の清掃をした後、情報収集を兼ねた買い出しへ。
カロンとエーヒアスは女同士で買い物と散策へ行くそうだ。
うぅむ……俺は何をしたものか。
やる事も買う物も無いんだよなぁ。
「仕方ない。コエダよ、探検に行くぞ」
「キィ!」
何事も気の持ちようである。
俺ははしゃぐコエダを剣の柄に乗せ、海風薫るヤット港の街で暇を潰す事にした。
「ふむ、市場もあるんだな。輸出入が多いからか、海産物以外の品揃えも豊富なようだ」
「キーィ?」
「宿屋や土産物屋も多いし、大陸移動前後の拠点として栄えてきたのだろうな」
「キィッ」
律儀に相槌を打ってくれるコエダだが、確実に理解はしていないだろう。
飲食店に入ろうにも無駄遣いが出来ない為、俺はあてもなく歩みを続けるしかなかった。
「ふぇっふぇっふぇっ。こいつは珍しい旅人が来たもんだねぇ」
露天商の前を何の感慨もなく通り過ぎようとした瞬間、フードを深く被った老婆に声を掛けられた。
「いかにも」な胡散臭さを感じる、占い師のテキ屋のようだ。
不覚にも動きを止めてしまったのは彼女の魔力が人ならざるものだったからである。
この気配と風貌は十中八九、ウィッチだろう。
人間の魔法使いとは違い、魔族の血が流れるウィッチの寿命はエルフ族に次いで長いのが特徴だ。
群れるのが嫌いで森や洞窟の奥にひっそりと暮らす偏屈な種族なので、こんな人間の港町にいるのは明らかにおかしい──というより異常である。
なぁぜなぁぜ。
俺の正体にも勘付いているようだし、ここは関わらないのが吉だろう。
「あ、俺占いは一位の時しか信じない系ヒューマンなんで間に合ってますー」
「ふぇっふぇっふぇっ、占いなんて数ある未来の指針の一つ。信じる信じないはそいつの勝手さね。アタシゃ押し付ける気はないよ」
老婆の顔は口元しか見えず、鷲鼻と隙っ歯にしか目がいかない。
ふぅむ……彼女の目的は何だ?
警戒しておかないと、幸せになる壺とか彼女が出来るブレスレットを買わされるかもしれない。
「そうか。ちなみに俺は毎日がハッピーデーだから間に合ってますー」
「ふぇっふぇっ、そいつは楽しそうで何よりだねぇ。偶に来る不幸も程良い刺激となろうて」
「あとラッキーアイテムが謎すぎる占いって何なの? 需要ある? 昔『ヘチマ柄の蝶ネクタイ』って出た時は爆笑したんだけど、とりあえず間に合ってますー」
「そいつはアタシでも笑うねぇ……ってどんだけ間に合ってる事を主張したいんだい!?」
はい、ノリツッコミ頂きましたー。
それなりに満足した俺は「それじゃ間に合ってるんで」と露店に背を向ける。
しかし彼女はめげなかった。
「待たんかこんの若造が! 本当、マイペースな所は父親譲りだねぇ」
「……おっとっとぉ(察し)……オーケーオーケー、麗しきマドモアゼル。ここからは小声トークでプリーズ」
「ふぇっふぇっふぇっ。手のひら返しが早すぎるのもどうかと思うが、まぁ良いだろう」
>>流れ変わったな。<<
父上の知り合いなら話は違うというものだ。
不本意ではあるが俺の正体に関する口止めをせねばなるまい。
老婆の目線に合わせて膝を折ると、彼女はニタリと笑みを浮かべて水晶玉を撫でた。




