4、主の寝る間に……
※「三章、野良依頼」の10話~11話間の小話です。
(悪徳領主のギャンザクを捕らえた後、魔王様が寝不足&連戦でぶっ倒れてる時のお話)
扉が開く微かな音で意識が浮上する。
どうやら不覚にもうたた寝してしまったらしい。
「あら先生。起こしちゃったかしら? ごめんなさい」
入室してきたのは今回の騒動の発端である依頼人、エーヒアスだった。
「構わん」
すぐ目の前には主がベッドの上で死んだように眠っており、その隣ではカロンが椅子に座ったまま寄り添うように眠りこけている。
涎を垂らしたままムニャムニャ言う寝汚さは年頃の娘としてどうかと思う……が、とりあえず拭いておこう。
今この潔癖症が目覚めたらうるさい事は目に見えているからな。
「丸一日経ったけど……マオーさんはまだ起きないのね。心配ね」
「……病気や怪我をした訳じゃないんだ、そう騒ぐ事でもないだろう」
「フフ、嘘ばっかり。マオーさんより顔色悪いくせに」
声量を抑えたエーヒアスは水差しをそっとサイドテーブルに置いて主を見下ろした。
窓の外は完全に日が暮れ、昼間に散々聞こえていた復旧作業の喧騒は一切聞こえない。
「丁度良い。俺は出掛ける。お前は魔王様とカロンでも見ていろ」
「あら、こんな時に夜遊びでもする気?」
「……鬼の居ぬ間にな」
荷物を手にして席を立つと、エーヒアスは「鬼、ねぇ」とこれみよがしにため息を吐いた。
「こんなに寂れて疲れきった町で、一体誰とかくれんぼするつもりなのかしらね?」
嫌な所で勘の良い小娘だ。
余計な事を言われるのは気に入らない。
そもそも厄介事に巻き込んでくれた事自体、俺はまだ完全に許してはいないのだ。
「何の事だかな。何なら先にお前と遊んでも良いんだぞ」
「フフ、お断りするわ。そんなギラついた目の人と遊んだら、折角助かった命が勿体無いもの」
時間が惜しい。
こんな話をしてる間にもあの魔物調教師は遠くへ逃亡しているかもしれないのだ。
個人的にはギャンザク以上に許せない、あの隻眼の男が──
多くの魔物を道具扱いし、トレントをけしかけて魔王様に心的負担をかけ、後輩を傷付け、かつての部下を狂わせ、結果的に死に追いやった男が──
地下室に響いていた言葉にならない呻き声が、今も耳にこびりついて離れない。
アイツは真面目で良い奴だった。
「……チッ」
舌打ちをした所でこの苛つきが紛れる筈もなく、俺は音を立てずに夜闇に消えた。
しかし──
◇
「は……? 自首、だと?」
「そうなんですよぉ。グル先生のお連れのお嬢さん、カロンちゃんでしたっけ? きっとあの子の情けがあの悪党の心を動かしたんでしょうねぇ」
「…………」
残念ながら一歩遅かったらしい。
夜を徹して探し回った人物は翌日の夕方に自首してしまい、俺の激しい憤りは完全に行き場を失ってしまった。
……が、魔王様が目覚めた事により何だかんだでそれ所では無くなってしまうのだった。
「はぁ……魔王様って人のやる気を削ぐ天才ですよね」
「唐突な悪口! 俺何かした!?」
全く、誰が素直に褒めてやるものか。
<念の為の補足追記>
グルオの一人称は魔王様や読者様、目上の人に向けては「私」で統一してます。
しかし幼少期や個人視点(独白)、目下相手だと時々に応じて「俺」になります。
なのでミスでは無いです。




