7、Gフンはアルコール消毒で拭き取る
これは後の世に『奇跡の物語』とひそかに言い伝えられているお伽噺である──
その昔、強大で醜悪な軍勢が城を占拠してしまった。
賢明な王と王子は城を追われながらも敵をその場に閉じ込め、巨悪が町に出られないように強力な結界を施した。
両者譲らぬ緊張状態が続く中、王子は町に偶々立ち寄った流れの冒険者に声をかける。
腕に覚えのあった冒険者は、城の兵士らと共に討伐隊として城内へ切り込む事となった。
しかし城内はすでに悪の巣窟。
始めこそ押していた討伐隊だったが多勢に無勢。
遂には敵に取り囲まれてしまった。
もはやここまで──
そう誰もが思った時、不思議な事が起きた。
それまで醜くひしめき合っていた敵が、何故かじわじわと苦しみだしたのだ。
その機を逃さず、討伐隊は残り少ない力を振り絞って敵を倒していく。
押しつ押されつの大乱闘が続く中──
突然、常人ならば目も開けていられないような突風が城内を吹き荒れた。
花瓶は落ち、燭台は倒れ、扉は吹き飛び。
その風は討伐隊と敵の親玉以外、全ての悪しき存在を凪ぎ倒した。
こうして不思議な風に守られた討伐隊は、長く激しい戦いの末、とうとう敵の親玉を倒す事に成功したのである。
城と平和を取り戻した彼らは口々にこう語ったそうだ。
『神風が吹いたおかげだ』と──
◇
現実(グルオ談)
エントランスで床が見えない程のGに取り囲まれた時は流石に焦りましたね。
特にあの超大型G。
四兄弟だけに強大でした。
数でも早さでも力でも押し負ける……最悪な状況の中、私の心はただ一つでした。
『Q.咎められずに自分 (とついでにエーヒアス)だけでも退却する方法は?』
当然ですよね、誰だって虫の餌は御免ですから。
異変に気付いたのはそんな時でした。
いつの間にか四兄弟以外の雑魚G達の動きが鈍くなっていたのです。
その小さな異変はすぐに明確なものへと変わっていきました。
カサカサと這い回っていた雑魚G達が、次々に悶え苦しみながらひっくり返っていったのです。
この現象にはファースィオンも気付いたようで、かなり驚いていましたね。
『これはG-コロリの効果!? なぜ急に……いや、今が巻き返し時です! 皆さん、今こそ力を合わせて乗り切りましょう! 誰一人、欠ける事なくっ!』
息を切らせながらも檄を飛ばす彼の姿に、疲れきっていた兵士達の士気は一気に上がり、逃げようと思っていた私のテンションは一気に下がりました。
とはいえ勝機は勝機。
苦手な乱戦に身を投じます。
状況が一転したのはその僅か数分後の事でした。
突如として強い風が城内を吹き抜けていったのです。
我々は防護服を来ていたので無事でしたが、無ければ目も開けていられないような突風です。
周囲は一瞬にして薄緑色の煙に覆われてしまいました。
この力加減を知らない、バカみたいに無神経な風力を起こす大雑把な人物なんて心当たりが一人しか居ません。
いやほんと何やってるんですか。
魔法鏡でライブ中継してる中、わざわざこんな目立つ事するとかアホですか。
『……ねぇ先生、今の風ってやっぱりマ──』
エーヒアスも気付いたのでしょう。
ハンマーを振り抜きながら隣に跳躍してきた彼女に無言で人指し指を立てれば、こちらの意を汲んで黙ってくれたので助かりました。
ファースィオンが近くにいるこの状況で、今居るはずのない魔王様の存在を匂わせる訳にはいきません。
彼は我々冒険者パーティーの中で、明らかに魔王様だけを様付けしたりと特別視していましたからね。
魔王様はあえてスルーしていたようですが、警戒しておくに越したことはないでしょう。
当のファースィオンは見かけによらない豪快な剣技で敵を薙ぎ倒しています。
何やら後方で「弟を倒したか……だが奴は四天王の中でも最じゃ……ぐはっ」という声が聞こえましたが、倒してくれたのは名も知らぬ兵士なので特に感慨はありませんね。
ふと気付けばエントランスホールはGの死屍累々という地獄絵図と化していました。
という事はつまり──
『グルオ殿! こちら一帯は片付きました! 残す敵は……』
──ぐぇほっゲホ、ゴォホッげほっ!
『『『『…………』』』』
涙目で激しくむせ返る二足歩行の巨大ネズミが一匹。
よく考えれば当然ですね。
G-コロリはガスマスクが無ければ人体に害がある程の超激臭。
ネズミの嗅覚は犬以上とも言われていますし、そりゃ苦しむ筈です。
こうなると次の行動は一つしかありません。
『皆、今です!』
『うぉぉぉぉー!』
『囲め囲めー!』
『叩け叩けー!』
──あっちょ、待っ、そんな寄ってたかって……こ、これが人間のやり方かぁぁー!
慈悲はない。これが人間ですよ。
むしろ先に寄ってたかってきたのはお前らだろって話ですが、それにしても人間とは恐ろしい生き物ですね。
『とにかくこれで駆除は完了だな』
『フフ、そうね。一時はどうなるかと思ったけど、案外何とかなるものね』
言外に「誰かさんの暗躍のおかげで」という言葉が含まれているのはさておき。
前方ではさほど苦もなく巨大ネズミを倒したファースィオンとその部下達が歓声を上げています。
やれ「神風のおかげだ」だの「神のご加護があったのだ」だの。
「さっきのは神風じゃなくてマオ風やで」などと言える筈もなく、私は周囲を見渡しました。
主の城を取り戻す事が出来た彼らの喜びは分からなくもないですが──
『この城の惨状はどうするつもりなんだろうな……』
『さぁ? 私なら住みたくないわね』
足元を覆い尽くすGの残骸と漂う薄緑の煙。
戦いの最中に壊れた壁や装飾。
絨毯やカーテン等に染み付いた糞汚れやG-コロリの臭いはどんなに洗っても落ちる事はなさそうです。
これ、損害額がかなりヤバそうですが、報酬はきちんと支払われるのでしょうか。
とにかく貰うもん貰って、一刻も早く王都から離れなければ。
戦いが終われども心配事は尽きず──
雑に拭いた短剣をしまい、私は溜め息をぐっと飲み込んだのでした。
◇
戦いの区切りが章の節目って古事記に書いてありました(大嘘)
次回から番外編を五~六話、投稿致します。
更新ペースは普段より早めの予定です。
番外編の区切りがついたら八章が始まります。
よろしくお願い致します。




