7、ゴミは捨てても困っている人は見捨てるな
そんな俺達のやり取りを見ていたカロンがおずおずと挙手をした。
何だ? 質問か?
「あのう、もしかしてあなたは高貴な方なんですか……?」
「え、俺?」
「だって喋り方は偉そうだし、変な兜被ってるし。妙に綺麗好きっぽいし、先生はまるで家来みたいだし……」
え、そんな風に見えてたの?
今まで普通に喋ってたけど、俺のこと偉そうとか変な兜被ってるとか思ってたの?
それはちょっと……
「傷付くのだが!」
「「うわビックリした」」
やべ、声出てた。だがまぁ良い。
軽く咳払いをして小首を傾げたカロンに向き直る。
「確かに以前は偉かったかもしれん。だが今の俺は一般人(?)である。そして綺麗好きなのも兜が変なのも事実だ」
「いや変な兜って自覚してるなら外せば良いんじゃ……」
ふん、そんなか弱いツッコミなど聞こえぬ。
そんな事よりも一番訂正せねばならぬ事があるのだ。
「だがしかし! グルオはただの家来などではないぞ!」
「はぁ……」
「グルオは俺が見込んだ唯一の理解者にして掃除マスターである! どんな頑固な油汚れも涼しい顔をして取ってしまう、スルーもツッコミも出来る、色々と凄ーい奴なのだ!」
声高らかに胸を張る俺の説明に、カロンは「それは凄いですね!」と感心したように目を輝かせた。
そうだろう、そうだろう。
うちのグルえもんは有能で凄いんだぞ!
カロンに向かってドヤっているとグルオがため息混じりに割って入ってきた。
「……下らない話はそこまでです」
「いや別に下らなくないですしおすし」
「そのネタは以前私がやりました、魔王様」
「え……? 魔王、様……?」
「「あっ」」
カロンが怪訝な顔で俺達を見上げる。
パッチリとした青い瞳と目が合う。
そんな目で見るな頼むから。
「今、魔王様って……?」
……デスヨネー、やっぱ突っ込まれた。
魔王がこんな町中にいると知れたら冒険者どころか騎士団が出てくるんじゃないか?
今MP切れてるし、ここで戦闘イベントは困るのだが。
だからといってレベル2の小娘相手に口封じという訳にもいかぬ。
どうしようとグルオを見ると、奴はカロンに向けて実に爽やかな笑顔を浮かべた。
軽く金髪をかき上げる仕草は自分がイケメンだと理解している動きだ。
実に腹立たしい。
「魔王様ではなく、マ↑オー↓様です。イントネーションの違いは昔からのあだ名のような物です。ね、マオー様」
こいつ息を吐くように嘘を……!
「あぁ、そうなんですか。そりゃそうですよねぇ。こんな港町の宿屋に魔王がいる筈ないですもんね」
「当然です。ね、マオー様」
「アッハイ」
グルオ、恐ろしい子……!
だがそのお陰で何とかカロンの目を誤魔化し、騒ぎになる事は回避できた。
ホッと胸を撫で下ろしつつ、俺はカロンに話を切り出す。
少々言い難い事だがこういう事はハッキリと言わねばなるまい。
「さて、もう用は済んだだろう。外もだいぶ暗くなってきた。早く家に帰れ」
「あう……じ、実は私、住む家が無くて……」
おっと、嫌な予感。
「……ならばどこかの宿にでも、」
「服を買っちゃったから一文無しなんですぅ……」
これはまずい流れだ。
俺達はそこまで善人ではない。
今日初めて会った無職の人間に金を貸してやる程お人好しではないのだ。
……まぁしかし、こんな若い娘を見捨てられるほど冷血にもなれな
「では野宿でもして頑張って下さい」
「グルオォ!?」
お前、そんな迷いなく無慈悲な事言う? 普通言えんだろ!
「そんなぁぁ、お願いします! 一晩だけ、一晩だけ泊めて下さいぃ……!」
カロンが半泣きで頭を下げまくるも、グルオは全く動じない。
「お断りします。さっさとお引き取り、」
「ちょっとグルオさぁん!? ストップストーップ!」
俺はグルオを引っ付かんで耳打ちをした。
「お前、流石に可哀想ではないか」
「魔王様。世の中にはもっと不幸で不条理に堪える者が星の数ほどいます。この先出会う者ら全てに同情していては、それこそ金がいくらあっても足りません」
「ぐぅ」
グルオの言葉が弾丸のように心にぶち込まれる。
完全に論破されてしまった。
「し、しかし……」
「魔王様、しっかりして下さい。ご自分の夢をお忘れですか?」
「うっ……」
俺の夢。
夢のマイホーム。
静かな湖畔の森の陰に建つ俺の家。
俺は渋々カロンに向き直った。
「……すまぬ、カロンよ。俺は俺の夢の為にも節約をせねばならぬ身なのだ」
「夢……ですか?」
「そうだ。よって我々には金を貸す余裕が……無いのだ」
嘘だ。今なら手持ちの金がある。
当然家を買うには足りないが、小娘一人の宿代くらいなら余裕である。
でも後ろのグルオの視線がめっちゃ怖い。
良心が痛むが仕方ないのだ。すまぬ、若人よ。
「マオーさんの夢って何ですか?」
「え、それ聞くの?」
「私の夢は話しましたよね? だったらマオーさんの夢も教えて下さい。聞いたら……出ていきます」
俺の夢はマイホーム。
しかしこれは人間からしたらそこまで大した夢ではない筈だ。
話した所で「ただの甲斐性なしの夢」だと笑われるのではないだろうか?
言葉に詰まる俺に対してカロンは真剣な眼差しで……いや待て。
こいつ今アクビしなかったか?
急に白けた俺は開き直ってぶっちゃける事にした。
「俺の夢は自分の家を持つ事だ。静かな場所に建つ、程良い大きさで掃除しやすい綺麗な家に住み、平和に暮らすのだ」
「……」
「その為に家を出た。付いて来てくれた家臣はグルオだけ……だから俺の家が手に入った暁には、ご近所にグルオの家も建ててやりたい。それが今の俺の夢、その二だ!」
「「……」」
ドンッ! という効果音が聞こえそうな勢いで胸を張ったは良いものの、何だこの空気。
誰か何か言ってくれ。
熱く夢を語る俺、恥ずかしすぎワロタ。
カロンは手を口に当ててプルプルしている。
何だ、スライムの真似か?
グルオは何故か俯いている。
ちょ、顔見えないの怖いって。
突然、カロンがグッと俺に詰め寄った。近い。
「マオーさん! 素晴らしい夢ですっ! 私、感動しましたぁっ!」
「は? なんで?」
「友情、努力、本当に素敵です! マオーさんならきっと勝利し高みへとジャンプ出来る筈です!」
「いや別に誰とも戦ってないけど」
どうやらカロンに変なスイッチが入ったらしい。
グルオもだんまりを決め込んでいるし、何が何だか……
「と、とにかく我々はサイッショ大陸に向かわねばならん。よって金の無心には答えられぬのだ」
「じゃあマオーさん! 私を雇って下さい! マオーさんの夢のお手伝いをさせて下さい!」
「「……は?」」
何が「じゃあ」なんだ。
あまりにも唐突な申し出に、俺達の目が点になる。
「サイッショ大陸に行くんですよね? 長旅をするなら魔法使いの護衛があると安心だと思いませんか!?」
「いや、全く安心出来ぬのだが」
レベル2の魔法使いとかすぐ死にそうで逆に気を遣うわ。
「そこを何とかお願いしますよぅ、レベル上げたいんですよぅ。掃除でも洗濯でも何でもしますからぁ」
「小娘が私の職を奪おうとしている件」
「あだだだだだ……すみませんすみません!」
カロンがグルオのアイアンクローを食らっている。
あーもう面倒くさいなコイツ等。
埃が舞うから狭い室内で暴れるな!




