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6、燻煙剤は使用時よりも準備と片付けが大変

「行くぞ、カロン」


「うぇぇ~……ってマオーさん? トイレはそっちじゃないですよ?」


 怪訝な表情を浮かべるカロンを引き連れ、近くを歩いていた使用人らしき若い女性に声をかける。

断じてナンパではない。


「失礼、我々の連れの着替えは何処に?」


「突入部隊の皆様はこちらのお部屋で着替えられたので、そこにあるかと……」


「そうか。感謝する」


 不審がられる前に使用人の女性と別れ、教えて貰った部屋に堂々と入る。

変に見咎められでもしたら下手に動けなくなって本当に詰んでしまうからな。


「あのぅ、マオーさん? もしかして私達も着替えて先生達を助けに行くつもりですか?」


「それだけはない。あ、あったあった」


 俺が目敏く見付けたのは棚の隅に置かれたグルオの荷物である。

お目当ては当然、グルオが個人的に使用している圧縮魔法鞄(清掃道具一式)だ。


「重曹、クエン酸、クレンザー、洗剤。どれも違うな。これは……重曹、またお前か」


 ゴソゴソ鞄を漁る事数十秒。

やっと見慣れない瓶が出てきた。

手書きのラベルのおかげでそれが目当ての物だと瞬時に理解する。


我発見せりぃ~(ユーリカ~)


「それって……G-コロリじゃないですか! 何で先生の鞄から?」


「グルオが清掃関係の珍しい道具(アイテム)をおすそ分けして貰わない筈がないんだよなぁ」


 しかもちゃっかり予備のガスマスクも持ってるし。

もしかしたらパーティーの人数分貰ったのかもしれない。

まさか俺達が使うはめになるとは思わなかったろうけど、何にせよグルオGJ。


「で、でもこの後はどうするんです? 防護服は無いしバリアーもあるしで私達はお城に入れないんですよ?」


「だから入らないと言ってるだろう」


 時間が惜しい。

俺はガスマスクをカロンに押し付けるとすかさず魔法を発動した。


「ペクマクマヨヨン!」


「呪文ダサいです、マオーさん!」


 グニャリと視界が歪み、ブランコに乗った時の内臓が浮くような浮遊感に見舞われる。

うむ、嫌な懐かしさだ。


「よし、着いた」


 久方ぶりの空間転移魔法は無事に成功したようだ。


「うぅ……ここは?」


 突然の青空に目を白黒させるカロンを促し、ざっと辺りを見渡す。


 美しく手入れされた花壇に小さな薔薇のアーチ。

そばには鉄製の丸テーブルと椅子が設置されており、遠く離れた眼下には城下町が広がって見えた。


「本城の屋上だ。庭園になっていたのだな」


「な、何でいきなり敵本陣の最上階に突撃しちゃうんですかぁっ!?」


「いやいや城内には入ってないぞ? ほら、屋上の扉は固く閉ざされているから中には入れないし、小窓にもしっかりバリアー張られてるし」


 我々はあくまで閉鎖された敵地の上部に「乗っかってる」だけである(屁理屈)

ここならGは居ないし、大臣や兵士達の目も無いので自由に動く事が出来よう。


 屋上庭園の中心付近に目星をつけて見てみると、予想より早くそれっぽい物が見つかった。


「カロン、この金網外せそうか?」


「これって……もしかして通気口ですか? たぶん外せますけど、内側にバリアー張ってあるからどっちにしろ入れないですよ?」


「良いから早く」


 うぉぉぉーと女子らしからぬ踏ん張りで金網を外したカロンに拍手を贈る。

金網の下は本来ならば人一人くぐれそうな大きさの穴が空いていたのだが、今は薄灰色の光の壁(バリアー)で塞がれていてアリ一匹通る事が叶わない状態だ。


「さぁカロン、特訓の成果を見せる時だ。俺が今からこの通気口のバリアー()()を解除する。お前はG-コロリに着火し、風を起こして煙を城内に送り込め」


「え、えぇぇ!? そんな急に言われても!」


「実践は急に来るものだ。ガンガレ」


 そう言いながらさりげなくカロンの死角に移動し、手早くガスマスクを装着する。

兜&ガスマスク。

間違いなく今シーズンで一、二を争う非モテコーデである。

泣きたい。


『とにかく今は時間が惜しい(フシュー)始めるぞ(フシュー)』


 カロンの返事を待つ事なくバリアーに手をかざし、魔法の部分的解除に取り掛かる。

少しでも力加減を間違えると城全体のバリアーを連鎖破壊しかねない、地味に繊細な作業だ。

術者の魔法使いに穴を開けた事がバレないように誤魔化すのも厄介なのだが、まぁ俺なら何とかなるだろう。


『ぬぅ……針に糸通す位難し……あ、出来た(フシュー)』


『早っ!(スー)まだ私G-コロリ設置できてないんですけど!?(コー)』


 カロンはオタオタとG-コロリを通気口の前に置くと、小さくファイアを唱えた。

生意気にも彼女なりに加減をしたらしい。

パチッと小さな火花が飛び出してG-コロリからプスプスと煙が上がり始めた。

おぉ、ここまでは百点である。


『よ、よぉし……(スー)ストーム!(コー)』


 ヒュオォォー──


 構えた乳白色の杖の先端から風が吹き、薄緑色の煙が通気口の奥へと押し流れていく。

よしよし、修行の成果がちゃんと出ている……っていうかさっきから俺等の呼吸音うるさっ。

無駄に苛々するんだけど!


※以降、呼吸音の表記は省略します。

……が、魔王様達の耳には常にフシュフシュ聞こえ続けてるURUSAI状態です。



 まぁガスマスクの煩わしさは置いておくとして、今のカロンの風魔法(ストーム)(仮)は「洗濯物がやや強めにはためく程度」の風力である。

戦闘ではまだ何の役にも立たないが、室内の空気を循環させるには丁度良いとしか言いようがない。


 幸いな事にグルオ達のいる場所は吹き抜けのエントランス部分だ。

小部屋までは行き届かなくとも、上手くいけば多くの敵に煙を届ける事が出来るだろう。

だが問題はここからである。


『ではカロン。煙が充満するまで休まず全力で風を送り続けよ』


『ひぇっ? そんなの流石に無理ですよ! 今までの特訓だって七分位が限界だったのに』


『だがお前が手を止めた瞬間、城内の循環は止まって煙が無駄になるぞ? 皆のいる二階まで煙を届けられるかどうかはカロンの腕と根性にかかっているのだ』


『そんなぁ~!』


 半泣きになりながらも杖を握る手に力が入ってる辺りが真面目である。

「自分がやらねば皆が危ない」という脅しは効果抜群のようだ。


『うぬぬぬぅ~、頑張れ私~!』


『そうだ頑張れカロン、負けるなカロン。この戦いが終わったらご褒美のおやつが待ってるぞ』


『うごぉぉぉ~!』


 カロンの顔面偏差値がどうかと思う程急降下している。

年頃の娘としてどうなの。


 そして城内の様子が分からないのも気がかりである。

流石にまだ負けてないと願いたい。

このG-コロリ援護で雑魚だけでも倒せれば勝機はある筈だ。

ネズミの王とG四天王はかなりの強者感を出していたが、俺は信じるぜ! 仲間の力って奴をな!(安全圏から)


『う゛ぅぅぅ~、も、もう限界ですぅ゛ぅ~』


『カロンよ。限界のその先の世界を見てみたくはならないか?』


『マ゛オ゛ー゛さ゛ん゛の゛鬼゛~゛!゛』


 ヒュオォォと吹き続ける風の威力はブレブレなものの、ゆうに彼女の最高持続時間は更新されている。

だがまだ喋る余力があるなら止めさせるつもりはない。

今日の俺は厳しめなのだ。

なぜなら──


──ピロリロン♪


『おめでとうカロン。レベルが上がったぞ』


『なん、か……腹、立つぅ……』


 カロンの体から力が抜け、膝が折れる。

完全にMP(マジカルパワー)が尽きたらしい。

流石に魔力全力大放出は負担がでかかったか。


カロン

レベル7→8(+1)


 すっかり目を回しているカロンを右手で支え、左手で通気口に向けて風魔法を放つ。

リレー選手顔負けの見事なバトンタッチである。

カロンがここまで頑張ったのだ。

少しの煙も無駄には出来まい。


『さて、結構煙が回ったのではないか?』


 押しやる風の手応え的にみても、かなりの範囲にGコロリが行き届いたように思える。

ちょっと加減間違えて何部屋か扉を吹き飛ばしてしまった気もするが、まぁ良いだろう。


 あとはグルオ達がど根性でボスを倒して各部屋の扉を開け放って回れば、作戦は終了である。


 カロンと交代してからおよそ十分後。

G-コロリの煙が出なくなったのを機に、俺は屋上庭園を後にした。

空間転移魔法さまさまである。


 え? 外した金網はどうしたのかって?

触りたく無かったので雑に足で立て掛けときました。

バリアーもかけ直しといたし問題ない問題ない。


 ここからは余談になるが、中継部屋に戻った際、俺を見る大臣や兵士達の視線が痛くて死にかけた。

トイレにしては戻るのに時間がかかってしまったせいか、気を失ってるカロンを抱えていたせいか……あるいは両方かもしれない。

通報されなくて良かったものの、危うくトラウマになる所であった。

全く、俺ほどの紳士はそう居ないだろうに、失礼な奴等である。


 あー疲れた。

俺はパッカーンと口を開いて眠るカロンを椅子に寝かしつけ、その間抜けな顔にとんがり帽子を乗せたのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] カロン、レベルアップおめでとう☆ しかし、Gとチューに支配されてた城…… もう、住めなく無い?
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