4、Gは表面のみの凍結だと蘇生する事があるので油断は禁物
昔父上が言っていた「この世は弱肉強食」という教えがこんな所で実感させられるとは思わなんだ。
「……カロンよ。もしこの戦いが敗北となった暁には介錯を頼む」
「唐突な死!? もっと生に執着して下さいよ」
「Gまみれの世界に未練などない。異世界に転生してでも俺は逃げる」
「いやそんなキリッとした顔で言われても……あ! ほらマオーさん、魔法鏡に先生達が映りましたよ!」
カロンが指し示す鏡に目を落とせば、白ツナギ集団が厨房の裏口らしき場所から侵入する様子が映し出されていた。
何度見てもダサ……いや、完璧に隙(間)のない防護服である。
『魔王様、敵の位置はどうなっていますか?』
シュコーという呼吸音と共にグルオのくぐもった声が聞こえてくる。
使用範囲が限られているとはいえ、持ち運べるサイズの通信器機があるとはな……人間の技術力も大したものだ。
便利だし世間一般に広まったら絶対流行ると思うのだが、材料が貴重だから量産は難しいらしい。
俺も携帯したかったのに残念である。
「こちらオペレーターMAOー。総員正面ドアに潜入せよ。数十秒後、今居る通路に敵が二体接近するだろう」
『分かりま………………グルオ、了解』
「せっ先生が空気読んだ!?」
お子ちゃまなカロンには分からないのだろうな、男のロマンというものが。
今の俺は部隊の命運を握った有能な指揮官なのだ!
乗りに乗った俺はズラリと並ぶ魔法鏡と城内のマップを素早く見比べ、得た情報を迅速に伝えるべく口を開く。
「今お前達が入ったのは──食料庫か。そこで通過してくる敵をやり過ごしたら再度部屋を出て右に進め」
『……』
『あっ、えっと、ファースィオン了解です』
グルオの奴、空気読むの止めるの早くない?
とりあえずファースィオンが乗ってくれる良い奴ってのは分かった。
鏡に映し出されるGの影からソッと目を逸らしていると、カロンが「こちらオペレーターKAR。たった今Gが二体、食料庫前を通過しましたっ」と報告してくれた。
いや、結局お前もノリノリなんかーい。
カロンの言葉を合図に隊員達はのそのそ、ゾロゾロと狭い食料庫から出ていく。
そして全員左に曲がって──左!?
「えっなんっ、ちょ待っ──」
『……チッ』
『えっ!?』
通信器機から一斉に隊員達の困惑する声が聞こえてくる。
そらそうだ。
彼らが向かった左側には先程通りすぎていった二体のGがいるのだから、それはもう見事な「後ろから失礼しまーす!」となってしまった。
一瞬で現場の空気が凍りついたのがこちらにも伝わってくる。
ギチギチ、シャーシャーといった威嚇音は想像したくもないが、間違いなく敵から発せられたものだろう。
『魔王様、今右と仰いましたよね?』
「ごめん、俺から見て右だった」
『フフ、お約束ってやつね』
「誠にすいまソーリー」
冷や汗ダラダラで机に平伏するが、突入部隊には見えてない上、時すでに遅し。
侵入早々にして戦闘が始まってしまった。
こうなっては俺に出来る事はただ一つである。
「……さて、気を取り直していきましょう。遂に開始してしまいました第一ラウンド。実況解説は私、魔王。ゲストはカロンさんでお送り致します」
「マオーさん、イマジナリー観客を相手に現実逃避しないで下さい」
※このやり取りの間にも現場では戦闘が繰り広げられています。
冗談もそこそこにするとして、敵はどちらも大型犬程の大きさで結構素早い。
警戒しながらもカサカサと床と壁を駆け回って隊員達を翻弄している様は手に汗握る展開である。
素早さに自信のあるグルオとエーヒアスも動きにくい防護服とガスマスクの視界の狭さで苦戦しているようだ。
『くっ、ちょこまかと……!』
『厄介ね』
中々攻撃が当たらず苛つくグルオとエーヒアス。
ファースィオンも大剣を軽やかに振り回しているものの、決定的なダメージを与えられず焦りの声を上げている。
恐らくだが彼はパワータイプと見た。
隊員達も靡く触覚やバタバタと広げられる羽に怯えることなく果敢に挑んでおり、その一連の光景は一見すると「えらいこっちゃなトンチキダンスホール」である。
ほんとごめんて。
『皆さん伏せて下さい!』
一人の隊員の声に反応して全員がしゃがむと同時に、そこそこ大きな氷魔法が通路に沿って飛んでいった。
おぉぉ! これが後片付けが楽な瞬間冷却退治というものか!
壁を登っていたGと床を走っていたGの足がピキピキと凍り付いていく。
しかし絶命には至らず、二匹はその場でギチギチと体を揺らすようにもがき苦しんでいる。
「あ、これまずいのでは」と思ったのも束の間の事で、次の瞬間にはグルオとファースィオンがそれぞれGに止めを刺していた。
視覚の暴力ぅ。
「Gに短剣で挑むなんて、先生って度胸ありますねぇ。怖くないんでしょうか?」
「俺としてはG一刀両断の映像を見せられてもその反応で済むカロンも怖いんだが」
敵を倒すやいなや、グルオ達は即座にその場から移動を始める。
直接的に仲間を呼ばれなかったとはいえ、結構ドタバタしたからな。
対象は人より遥かに震動に敏感らしいし、こんな序盤での連戦はかなりまずいので当然の流れといえよう。
『魔王様、次は我々と解釈違いが起きないナビゲートをお願いします』
『魔王、了解!(ただし間違えないとは言ってない)』
過去の失敗と反省を生かせるのが知識人の強みである。
ただサイズが大きくなっただけのG共とは格が違うということを見せてやらねば、元魔王の名が廃るというものだ。
「コホン、ではその通路を俺から見て左──いやお前達から見て右に曲がれ。そしたらその、上? えっと、地図の上のコレ、あの……何か大きいアレの横に入れ」
「マオーさん、地図の大きいアレって厨房の事ですかぁ?」
「……だ、そうだ。その厨房の横の部屋が何かあの……長~く続いてて敵が居ないぞ! 今がアタックチャーンスだ!」
カロンのナイスアシストにサムズアップをしていると、無機質な通信器機を通して静かな声が届けられた。
『魔王様』
「アッハイ」
『『『オペレーターチェンジで』』』
……まぁ適材適所を理解出来るのが知識人の強みだからな。
俺にはナビゲートの才が無かった、ただそれだけの事である。
悔しくなんてない。
緊張した面持ちで「あ、じゃあ次は私が……」と鏡に向き合うカロンの背後にそっと移動しつつ、俺は年甲斐もなくむくれるのであった。
悔しくなんて、ない。




