3、ぼや騒ぎ後の煤掃除と消臭処理は業者に頼む方が早いし楽
<注意!>
今回のお話は人によってはややショッキングな内容かもしれません。
Gの詳しい話や生態に嫌悪感がある方は、グルオ先生のうんちく話が始まりそうになったら飛ばしてお読み下さい。
「何だい?」と穏やかに聞き返すファースィオンから良いお兄さん味が感じられる。
カロンは今なら発言をしても大丈夫そうだと判断したらしく、モジモジしながら口を開いた。
「わ、私は何をお手伝いすれば良いですか? まだ弱い火と風の魔法しか使えませんが、頑張りますっ!」
えぇえぇぇ~……
お前レベル7だって自覚ある?
敵は城勤めの兵士を倒しちゃう強さだっちゅーの。
しかも風の魔法ってあの練習中のストームもどき(笑)の事言ってるのか?
確かに日々の練習の甲斐あって少しずつ威力は上がってきてはいるが、あの風力では精々夏に涼を取る位しか役に立たないだろう。
期待に満ちた目で指示を待つカロンの度胸は色んな意味で尊敬する。
そんな彼女に対し、ファースィオンは子供を丸め込むかの如く、実に優しい対応をしてくれた。
「ありがとう、とても心強いよ。もし君の力が必要になったらすぐに声をかけるとしよう。とりあえず今は我々大人達を信じて応援していてくれると嬉しいな」
「ぁぅ……分かりました……」
うむ、優しさは時として残酷となる見本のような流れである。
要は「子供は危ないから大人しくしててね」って事だろう。
勿論彼に悪気は一切無いのだろうが、結果として仲間外れ状態になってしまったカロンの心情を考えると少しばかり居たたまれない。
スゴスゴと一歩引く彼女のとんがり帽子をポスポス叩けば、不思議そうな目を向けられた。
若人よ、元気だして成り上がれ。
……と、ここでグルオが「火の魔法といえば」と思い出したとばかりに呟いた。
「ファースィオン殿。一つ忠告しておきたい点があります」
「? 何でしょうか」
「ゴキブリに火はNGです」
「え? そうなのですか!?」
マージでー!?
汚物は消毒だぁーヒャッハー的な感じで全て燃やせば解決じゃないの?
俺やファースィオンのみならず、この場にいた他の兵士や研究者達も驚きの声を上げている。
グルオは淡々とした口調でツカツカとテーブルの周りを歩きながら解説を始めた。
あー、これはうんちく開始の予感ですわ(退避推奨)
「周囲を気にせず高火力で一気に消し炭にするなら構いませんが、今回の現場は城内なのでそうもいきません。ゴキブリは油分が多く燃えやすいと思われがちですが、それはあくまで表面部分の話です。実際は中々燃えず、もし火を着けると……」
「つ、着けると……?」
「触角や羽を燃やしながら死ぬまで辺りを全力疾走します」
_人人人人人人人人人人_
> 知りたくなかった <
 ̄Y^Y^Y^YY^Y^Y^YY^Y^Y ̄
あまりにも想像を絶する悲惨な事実に、「その間に周囲の物に火が燃え移る二次被害が起きる可能性が高いです」という言葉が霞んで聞こえる。
絶句する一同に構わず、グルオの話は続く。
「ただでさえ奴等は巨大化している状態。半端な火力では此方が痛い目をみます。今回の戦いは火気厳禁が宜しいかと。それよりも氷魔法で足止めする方が効率的です。機動力を削げば仕留めやすくなりますし」
「ぜ、是非そうしましょう。直ちに氷魔法が使える者を突入部隊に組み込みます!」
すっかり青ざめたファースィオンの指示により、控えていた兵士達もバタバタと慌ただしく動きだす。
城を炎上なんてさせたら別の意味でも炎上するだろうし、仕方ない流れである。
それはさておき──
「グルオよ……できれば今後、敵の名称は『G』とぼかして言ってくれないか? 心臓に悪い。城の者達もドリュー氏に配慮してる訳だし、お前も俺に配慮して欲しいというかだな……」
「言い方を変えた所で事態が変わる訳ではありませんが、承知しました」
良かった。
一言多い気はするけど了承してくれた。
そういやコイツ、昔Gを取っ捕まえてた事があったっけ。
ゴム手袋をしていたとはいえ虫耐性ありすぎだろ。
森育ち怖い。
やれ「どのルートを通る」だの「どこにG-コロリを設置する」だのと話すグルオ達のやり取りを適当に聞き流し、俺は数人の研究者達と城内の様子を観察する。
見たくもない影がチョロチョロと通過する度に鳥肌が立つが、ここは我慢する他ない。
少しでも奴等の行動パターンを掴めれば良いのだが……
「ふと思ったのだが、敵が窓を割って出る恐れはないのか? 大将のネズミは賢いのだろう?」
こちらから確認できるだけでも結構な数の窓があるにも関わらず、不思議と敵は一匹としてそこから外に出る様子が見られないのがどうにも引っ掛かる。
俺の問いに研究者の一人が「実は……」と答え難そうに口を開いた。
「本城の窓なんですがね……アレ、既にGによって全て割られてるんですよ」
「何その悲劇的リノベーション」
って事は何か。
今俺が見てる映像の窓って枠だけのスカスカな状態……ってコト?
このお城って見た目以上に風通し良すぎなの?
夏場はともかく冬場は地獄ですね。
まぁGに占拠されてる時点で地獄だけどね。
「城の封鎖が決まった時から今現在に至るまで、城勤めの魔法使い達が二十四時間体制で全ての窓に防御魔法を張って敵を閉じ込めているのです」
「【爆報】見えない所で思った以上に過酷な労働が強いられていた模様」
通りで魔力探知がやりにくいと思ったわ!
俺ってば他人の魔力越しにクリスタル探し当ててたのね。
我ながら器用な事したわ、マジで。
それはそれとして魔法使い達……いや、魔法使い様方は本当にお疲れ様です。
何人で回すシフト制かは分からんが、長期間絶え間なくバリアーを張り続けるのは魔力的にも精神的にも大変であろう。
国王とドリュー氏は彼らにボーナスを弾むべきである。
「という事は、魔法使い達が過労で全員ダウンなんて事になったら……」
「バリアーは消え、窓から巨大なGが降ってきます」
「ヒェッ!? 晴れときどきゴ……『ハレゴキ』とか洒落になりませんよぅ」
おいこらカロン、略すな。
怒られても知らんぞ。
切に「実現するな」と祈っていると、背後からくぐもった声がかけられた。
『魔王様、準備が出来ました(スコー)』
『様子見がてら一回突入してくるわね(シュコー)』
振り向けば
ズラリと並ぶ
ガスマスク
~魔王心の川柳~
「誰だお前ら」
『グルオです(スコー)』
『エーヒアスです(シュコー)』
呼吸音うるさっ。
ガスマスクがお揃いなのは仕方ないとして、ここまで全員同じ真っ白防護服だとは思わなかった。
無機質な鉄製のガスマスクが浮いてすら見えて、ぶっちゃけ怖い。
そして先頭の二人が答えてくれたとはいえ、一見しただけではどっちがどっちだよ状態である。
まぁやや小柄な方がエーヒアスだろうが……
体型で判断出来ない程の残念スタイルには涙を禁じ得ない。
「まさか見えてる部分が皆無とは……かなりの重装備なのだな」
『動きにくいですが、少しでも隙間があるとG-コロリの毒にやられるらしいので(スコー)』
『フィルターも改良したし、余程強い攻撃を受けない限りは完璧仕様よ(シュコー)』
信じられるか?
この鬼ダサぶかぶか防護服のガスマスクコンビ、うちのパーティーのビジュアル担当なんだぜ。
映像でお見せ出来なくて良かったのか悪かったのかは分からないが、とにかくシュールの極みである。
『ではマオー様、行って参ります(フスー)』
「あぁ、いってら……いや誰だお前」
シレッと会話に加わってきたガスマスクに思わず突っ込むと『あ、ファースィオンです(フスー)』という答えが返ってきた。
ややこしい上に声が聞き取り難いんじゃあ。
躊躇しながらもドン引く俺にグルオの声がかけられる。
『現場でのナビはファースィオン殿に任せるとして、私はGを効率よく駆除出来る場所を探します(スコー) 魔王様方はこちらから分かる範囲で敵の位置をお教え下さい(スコー)』
「引き受けた。気を付けて行け」
『いや魔王様、私はこっちです(スコー)』
ど れ だ よ 。
もう誰が誰でも同じだろうが(暴論)
こうしてゴキ殺隊の面々は、のそのそと本城へ侵入するべく部屋から出ていったのであった。
「……行っちゃいましたねぇ。皆、大丈夫でしょうか」
「さぁな」
不安げに魔法鏡に目を落としているカロンには悪いが、気休めの優しい言葉を言う気にはなれない。
もしこの戦いが敗北となった場合、俺はこの先間違いなく生きていけないのだから──




