10、枝木を処理する際の長さや量は自治体によって違う
「うひょー! 豊作じゃあ~い!」
渓谷に着くやいなや、カッパと手袋で完全防備の俺はザッシュザッシュとジーコローリエ刈りに勤しんでいた。
何これ思ったより楽しいぃ!
おろしたての枝切りバサミは使いやすいし、生い茂るジーコローリエの枝は切りやすいしで気持ちいい。
もうワッサワサだ。
「何よりこの音がたまらん快感」
ザッシュ、ザッシュ。
うむ、ずっと聞いていられる素晴らしきストレス発散音である。良き良き。
一括破壊系のバーサーカーモードで駆け回る俺に死角はない。
今なら枝切りスキルだけで渓谷一つ消せる気がする。
「マオーさんのテンションがフルスロットルですねぇ」
「ふむ、何か嫌な事でもあったのかな?」
ヒソヒソと話すカロンとドリュー氏には目もくれず、ローリエ無双をおっ広げる。
そぅら、でっかいローリエの枝、討ち取ったりぃー!
「魔王様、そろそろ鋏をお納め下さい。もう十分です」
「え、もう十分?」
「じゅうぶんです、魔王様」
ちぇーっ。
もっと刈りたかったが仕方ない。
我々の目的ではあくまでジーコローリエであって自然破壊ではないからな。
俺が刈ったローリエの枝葉をカロンとエーヒアスがホイホイ拾っては篭に投げ入れていく。
ドリュー氏も手伝ってくれてはいるが、虫が怖いのか動きはかなり消極的だ。
グルオは俺とドリュー氏から付かず離れずの距離で周囲を警戒している。
ゥゴョンヌーの件もあったし、獣や魔物との遭遇を警戒しているとも取れるが、ドリュー氏への不信感もあるのだろう。
生きにくい性格だなぁ。
「キィ」
「あらコエダ、手伝ってくれるのね。ありがとう」
「キ!」
ヨタヨタと自身より長いローリエの枝を運ぶコエダ。
超エモい。
爆裂可愛い。
犬猫に服着せちゃう親バカ飼い主の気持ち、今なら分かる。
「ところでずっと気になっていたんだが、君達は何故魔物を連れているんだい?」
「「「「おっふ」」」」
ドリュー氏の急な質問に場の空気が凍りついた。
質問のある方は挙手をしてからでお願いします、代理の者が答えますので。
因みに代理の者は本日欠席です。
「流石に国の許可は得ているだろうが、放し飼いとは感心しないな」
「「「「Oh……」」」」
そういや途中から全然気にしてなかったー!
よく考えなくても、魔物を連れ回す一般人なんてそうはいないだろう。
「ちなみに、国の許可って……?」
ナイス質問だ、カロン。
ここで違和感なくその疑問を口に出来るのは全世界でお前だけだ。
「あぁ、一般的ではない話だからお嬢さんが知らないのも無理はない。魔物の飼育は基本的に禁じられているだろう? しかし、見世物小屋や一部の層での娯楽、鑑賞用などで取り引きがなされる事もあるのだ」
娯楽か……ギャンザクの屋敷を思い出すな。
嫌な事件であった。
「よって、捕らえた魔物を運搬する資格や許可証、魔物売買の認可証、魔物調教師の資格、魔物飼育の許可申請……色々な法が定められているのさ。魔物を取り扱うというのは、それだけ危険な行為という事だ」
「長ぇわ寝てた」
「魔物の飼育は大変だって話です、魔王様」
な~る。
つまり正当な手段でコエダと共に過ごすには国の許可を得ておかねばならないのか。
めんどくさっ。
「それはともかく、この子はとても大人しい良い子でな。噛まない・吠えない・爪研ぎしない。おまけに水しか飲まないし花粉も飛ばさない。今まで何の問題も無かったのだからノーリードだけは大目に見てくれ」
「そ、そうか……なんか聞く限り犬猫より飼いやすそうだな」
羨望の眼差しがコエダに注がれるが、絶対あげないからな。
こうして我々はどうにかドリュー氏を丸め込み、黙々とジーコローリエ収集を続けたのだった。
途中から枝がかさばる事に気付いて葉っぱだけ切り取るようにしたり、遅いティータイムしたりと色々あったが割愛する。
そしてついに、その時は来た。
「王都に着いた我々は見事にジーコローリエで城の危機を救い、国王から報酬をガッチリ頂きマンデーしたのだった。
そしてその金を元に冒険者事業の拡大に努め、出前の代理などをしながら資金を増やし、ものの数ヵ月でサイッショ大陸に上陸する事となる。
なんとそこには我々が想像し得なかった衝撃的な光景が──!」
「魔王様。嘘のあらすじと嘘予告ネタは癖になるからお止めくださいとあれ程……」
「癖になってんだ、真面目な展開殺して歩くの」
っと、いい加減グルオの視線が痛いので自重しとこう。
さて現在。
無事にミチワキ渓谷からコレカラ町へと帰還した俺達は、広場の片隅で収集したジーコローリエの葉を乾燥させる作業に入っていた。
でかいザル(×10)にズラリと並べられた葉っぱの量は圧巻である。
業者かな?
「むむ……燃えよ、燃えよ、ファイア!」
ボワッと勢いよく松明が燃え上がり、すっかり日が暮れていた周囲一帯が明るくなる 。
ローリエの葉に松明を掲げ、カロンが薄い胸を反らした。
「ふっふっふー、どうだ明るくなったろう! これがレベル7の力です!」
「フフ、カロンたら絶好調ね」
「……カロンよ。喜ぶのは良いが調子に乗ってると痛い目みるぞ」
渓谷から戻る際にカロンのレベルが上がったのだが、そのドヤりが今なお続いていて地味にウザい。
というか一般論でいうならまだレベル7だかんな、お前。
今後足元を掬われる展開にならなければ良いが……まぁ彼女にはへし折ったフラグの残骸の上に立てる位強くなって貰うとしよう。
カロン
レベル6→7(+1)
「ふっふーん。私の魔法で葉っぱをカラッカラにしてみせますよぅ!」
「いやそのやり方は無理がある」
「グルオ、シッ」
確かに松明1つでは不寝番を置いたとしても乾燥には至らないだろうが、ここは楽しそうなので黙っとこうず。
「そういやドリュー氏は?」
「彼なら自分の宿に戻ったわよ。ローリエが乾くのに一、二週間はかかるらしいから、とりあえず三日後に様子を見に来るとか言ってたわ」
「え゛、乾燥ってそんな時間かかるのか」
無邪気に火で葉っぱを炙るカロンの後ろ姿を何とも言えない気持ちで見守る。
俺の火魔法じゃ一瞬で消し炭だろうし、これはフォローのしようがない。
「とにかく、今日はもう遅い。我々もローリエしまって宿屋に戻るぞ」
ザルはどんどん重ねて圧縮魔法鞄にしまっちゃおうね。
慣れない山道ですっかりクタクタになった俺達は、オッサンの民宿に着くとシャワーもそこそこに就寝した。
……そういや水回りもベッドも、完璧に掃除が行き届いていたな。
これもグルオの指導の賜物か。
あのオッサンの「誰得か分からない可愛い仕草」は犠牲となったのだ。
代償でけぇや。
まだ耳に残る「皆様お帰りなさいませ!!!! そして本日もお勤めお疲れ様でした!!!!! ボス!!!!!!」というオッサンの声から逃れるべく、俺は泥のように眠りに就くのだった。




