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9、天井掃除は三角巾や帽子、ゴーグルで埃や液垂れを防ごう

 うぅむ、こうしてみると結構な斜面だ。

登りはさほどキツくなかっただけに、難易度のギャップに気持ちが追い付かない。

杖を使えば普通に歩ける所も多いが、たまに木や地面に手をつかなければ降りられない所もあるのだ。


 これがどういう事かおわかり頂けるだろうか?


「持ってて良かった長手袋。買ってて良かった雨ガッパ(全身仕様)」


「魔王様、かつてないダサさの極みです」


 剣もマントもしまい込み、上下白いカッパを着こなした兜の男が居たら、それは俺です。

裸じゃないから恥ずかしくない。ないったら、ない。


「しかしこの足場で戦闘になったら悲惨だな」


「ちょ、マオーさん! 変な事言わないで下さいよ!」


 何度となくズザザーっと転がるカロンが割りとマジなトーンで叫ぶ。

ごめんて。HAHAHA。

そう半笑いで謝ろうとした時だった。


…………ン…………ズシン……


「ん?」


……シン……メリメリッ…………ズシン……


 かなり遠くからだが、地響きのような音が聞こえ始めるではないか。

この重低音、かなりデカい奴とみた。

山の神ってばフラグ回収早すぎどうなってんの?


 俺が警戒するのとほぼ同時にグルオとドリュー氏が地面の揺れに気が付いた。


「! 全員止まれ!」


「おや、地震かな?」


……シュヒュー…………ギギッ…………シュヒュー……


 残念ながら地震ではない。

その証拠に俺の耳にはハッキリと独特な呼吸音が聞こえている。

初めて聞く鳴き声だ。

「えっ、えっ、何ですかぁ?」と身体中に葉っぱを付けたカロンの口をエーヒアスがサッと塞ぐ。さすエー。


 ゆっくりと──だが確実に足音は近付いてくる。

足から伝わる振動が程よく足裏のツボを刺激してくるが、普通に嬉しくないマッサージ法である。

ただならぬ事態だと判断し、全員息を殺して近くの木の陰に身を潜めた。


 ズシン……ズシン…………バキバキッ


 枝の折れる乾いた音が響く。

恐らく前方右側から我々の前を横切るように左側へと移動しているのだろう。

肝心の姿はまだ見えない。

木が多い上、谷の方はうっすらと霧がかかっているので視界が悪いのだ。なんてこったい。


「一体何なんだ?」


「(マオー殿、静かに! あの独特な息遣い……異常な大きさだが、間違いない。奴は──)」


 シュヒュー…………シュヒュー……ギッ……シュヒュー……


 ズシンズシンと重厚感ある音が、今まさに俺達の前を横切ろうとしている。

覗きたい……この木から顔出したい……

ウズウズする俺の横で、ドリュー氏は額に玉の汗を浮かべながら深刻な顔で呟いた。


「(奴は──特定保護指定動物、ゥゴョンヌー!)」


「(ってマジかーっ!)」


 俺の脳裏に浮かぶのはビクンビクンと痙攣している緑と紫のラメ入りグラデーション肉。

え、あの肉塊の生きてるver?


「(かつてゥゴョンヌーはその見た目の愛らしさと美しさ、そして美味しさから乱獲され、今では絶滅危惧種と認定されており、狩猟や売買は法律で禁止されている生物だ)」


「(いや町の露店商でメッチャ安く売買されていたんですがそれは)」


 やっぱあの辺の店、通報案件だったわ。

帰ったら商店街の事務所に密告しようそうしよう。

どうせワンコインだろうけど無いよりはマシな収入だ。


「(ゥゴョンヌーは二、三メートルもある巨体な上、かなり神経質な性格でな。下手に近付くと途端に凶暴になり、背中の触手で獲物の首と胴をねじ切るのだ)」


「((ヒェッ……))」


 怖っ。

戦慄する俺とカロンに構わずドリュペディアの解説は続く。


「(幸い耳と羽は退化しているのだが、足裏と尻尾の吸盤を使い、地面からの振動で外敵を見付けるらしい。そして鼻の横の長いベロベロから分泌される消化液で獲物を溶かしながら啜り食べるという)」


「(ヒェッ……)」


「(ヒェ……って待って。全体像の想像がつかないの俺だけ?)」


 シンプルにキモい。

動物っていうか最早クリーチャーじゃね?

色んな意味で恐れ慄く俺達とは対照的に、グルオは様子を窺いながら険しい顔で悪態をついた。


「(チッ。二、三メートルだと? あれはどう考えても、)」


 メリメリ、という音と共に頭上に影がかかる。

ウッソだろおい。


「(……五メートル以上はありそうね)」


 なっ……! 思ったより近い!?


 バッと顔を上げた瞬間、ハラハラと落ちてきた木の葉の欠片が目に入った。

痛っっってぇぇぇぇっっ!!?


 目がぁ、目がぁぁ、と叫ばなかった自分を全力で褒めてやりたい。

悲鳴を上げそうになるカロンをグルオとエーヒアスが押さえる気配が伝わってきたが、もうそれ所じゃない。


 どんな屈強な男でもスネを狙われたら泣くし、アキレス腱やられれば立てないし、足の小指ぶつけたら消えて無くなりたくなるのだ。

だからいくら魔王といえど、目にゴミが入ったら痛がって当然なのである。


「(うぐおぉぉぉぉ……!)」


 ボロ…ボロ…と生理的な涙が溢れ出る。

今はゆっくりお休み、俺の男のプライド。

代わりに頑張れ俺の涙腺。

その勢いでゴミを綺麗サッパリ洗い流してくれたもう。


 ゴシゴシと何度もハンカチで目元を擦り、どうにか瞬きが出来るようにまで回復し──てねぇわ。

やっぱまだ痛いマヂもぅ無理。

痛すぎて言語忘れる。

もう次からゴーグルも着けて熱血系主人公のように生きようかな。

……流石に不審者が過ぎるか、やっぱやめよう。

俺のチャームポイントは角兜だけで十分だ。


「いやぁ、珍しいものを見たね」


 瞬きに集中しまくっていると、突然ドリュー氏が長いため息を吐いた。

……え?


「5メートル級の超大型ゥゴョンヌーとは……数十年に一度、お目にかかれるかどうかの大物だ」


「あら、じゃあ私達は相当ラッキーだったのね」


……マ?

慌てて辺りを見回すが、既に周囲には何も居ない。

耳をすませば遠ざかりゆく足音が微かに聞こえた。

……え、ちょっと待ってちょっと待ってゥゴョンヌーさん。


「ふわぁぁ、怖かったですけど、凄く綺麗でビックリしましたぁ~」


 カロンさぁぁぁん!?

あなたさっきまでドリュー氏の情報にビビりまくってた側じゃないですかヤダァー!

思わずグワッと振り返ると、ゥゴョンヌーが去って行ったであろう先を見つめるグルオと目が合った。



「……綺麗は綺麗でしたが、私的には可愛い系の顔だと思いましたね」


「」


 嫌ぁぁー! 見逃したぁぁ!!

あのグルオですら目を奪われる外見の動物(触手と長いベロベロ付き)ってどんなのよ!?

俺だけ何も見てないとか嘘だドンドコドーン!


 四人の悪魔は無情にもやれ「美しかった」だの「癒されましたぁ」だの「あの吸盤は何かの役に立ちそうだ」だの「鱗は装飾に使えそうね」などと盛り上がっている。

やめてー、これ以上盛り上がらないでー!

俺だけ会話に入れなくて仲間外れみたいなの本当やめてぇー!


「あんな見た目って知っちゃうと、いくら安くてももう食べる気にはなれませんよねぇ」


「フフ、そうね。取り引き禁止って事も知っちゃったし、残念だわ」


「……旨かっただけにな」


 食 っ て た ん か い 。

え、この旅、魔王様ご一行の愉快な旅だよね?

パーティーメンバーに俺、ちゃんと存在してるよね?

なんで俺以外の奴全員ゥゴョンヌー料理経験者なの? ハブなの? イジメなの?


 呆然と立ち尽くす俺の足元に、コエダがピョコピョコとやってくる。


「……キィ」


 まるで「まぁ元気だせや」とでも言わんばかりの顔でトントンとスネを叩かれた。

全然痛くはない。

むしろ胸が痛い。


「……~~~っ……行くぞ野郎共っ!」


「おや、マオー殿はやる気満々だねぇ。頼もしいよ」


 ふんっ、俺の悲しみに気付かない皆なんてもう知らん!

ザックザックと大股で歩く速度を早める。

ヤなやつ、ヤなやつ、ヤなやつ! 俺を大切にしない奴なんて大っ嫌いだ!


 後方で何度となく誰かの転ぶ音がしたが、どうせカロンだろう。少女放置。

不機嫌MAXな俺はしばらくの間、頑として振り返る気になれなかった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 安定感抜群なギャグセンス、先読みをさせない筋立てと、工夫の跡が明らかな読ませる努力、いずれも私にとっては欲しくても手に入れられないスキルです。頑張られているんですね。応援してますよ。 [一…
[一言] マオー様、元気出して! 五メートル級のゥゴョンヌーなんて、きっとすぐにまた会え…………会え……るかなあ? って言うか、そもそも発音が出来なゥゴョンヌー
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