8、洗濯機でカッパを洗う時はネットに入れて洗う(脱水はNG)
翌朝。
約束の食堂へ向かう道中、俺はグルオにブゥブゥと文句を垂れまくっていた。
「……本当に来るのか? 別に無理して来ずとも、俺とカロンとコエダだけでもやれると思うんだが」
「町の中ならともかく、お人好しの世間知らずだけで見知らぬ土地に行かせる訳にはいきません。何かあってからでは遅いのです。自由行動など言語道断です」
そう。
グルオによる、まさかの「知らない人に誘われて付いてっちゃいけません」が発令されたのだ。
この年になって保護者(家臣)の目の届く範囲内での行動を制限される成人男性の気持ち、分かる?
相当凹むよ?
「だが講習会は良いのか?」
「予約制ではないので問題ありません。私は立場上魔王様ファーストですし、何よりマダムは私など居なくても次の推しを見つけて生きていける逞しい生き物なのですから」
随分な言いようだ。
とてもお布施だのおひねりだの差し入れだのを貰っている立場とは思えない台詞である。
あれ? 今更だけどあの集まりって本当に掃除の講習会なんだろうか……?
疑惑に首を傾げる俺の後ろではカロンとエーヒアスが呑気にお喋りタイムズしている。
「私は二人が来てくれるの、とっても心強いです! でもエーヒアスは鍛冶屋の方、大丈夫なんですか?」
「フフ、臨時休業にしたわ。だってこんな楽しそ……謎の多い依頼、マオーさんとカロン達だけじゃ心配だもの」
おい今楽しそうって聞こえたんだが。
全く、俺達はどれだけ信用されてないんだ、情けない。
べっ、別にいつものメンバーでちょっと安心したとかそんな事はないんだからねっ!
勘違いしないでよねっ!(裏声)
食堂へ着くと、そこには既にドリュー氏が待ちぼうけっていた。
柱に背を預けて佇む姿が様になっている。
あのポーズ、柱が汚れてないか気になってしまう俺には出来ない芸当だから少し羨ましい。
「待たせたな。かくかくしかじかで他の仲間も一緒で良いなら引き受けよう」
「そうか。何故かくかくしかじかで通じると思ったかは不明だが、引き受けてくれるならありがたい」
説明ダルいからそこはハートで察して。
ドリュー氏と初対面のグルオとエーヒアスが挨拶を交わしたところで、俺達は雑談もそこそこにミチワキ渓谷に向かうべく近くの広場で準備を始めた。
どんな準備かって?
地図を広げてルート確認しながら必要な道具の話し合いをするグルオ&ドリュー。
買い出しに行ったエーヒアスとコエダ。
まだ練習中である魔法のイメージ確認を行うカロン。
流れる雲を目で追う俺。
……別にやる事が無い訳ではない。
フッ、強者はいつ如何なる時でも平常心でいられるものなのだ。
わーあの雲金魚に見えるぅー。
「さて魔王様。準備も整いましたし、そろそろ出発しましょうか」
「うむ、待ちくたびれたぞ。旅のしおりとハンカチは持ったか? おやつも持ったか? 丸太は持ったか?」
「マオー殿はどこの村に遠足に行く気かな?」
もうじき正午だよ、全員集合! した我々は滞りなくコレカラ町を出発し、ミチワキ渓谷を目指して歩き出した。
「それにしても、マオー殿のパーティーにこんな美男美女がいるとは思わなかったよ」
「フッ、類は友を呼ぶと言うからな」
「えっ……?(難聴)」
何だかんだでドリュー氏はアレコレと臆さず話しかけてくる。
女性陣のみならずグルオに対しても絡みにいける当たり、かなりのお喋り好きなのだろう。
今のところグルオがドリュー氏から金を搾り取るような言動は見られない。ヨカタ。
「ドリューさんって何をしてる人なんですかぁ~?」
「いやぁ、この年になってもフラフラしてる、ただの道楽者だよ。お恥ずかしいね」
「あら。この年って、一体おいくつなのかしら?」
「いくつに見える? と言ったら女々しいかな?」
……話好きな割りに自分の話や城の問題とやらについて触れないでいるのは流石と言うべきか。
「あら、はぐらかされちゃったわ」と綺麗な笑みを浮かべるエーヒアスに目を奪われる様子もない。
僧かよ。
どうにも払拭しきれぬ不信感は心の引き出しにしまい、俺達は山とも丘ともいえる微妙な傾斜の森を登っていく。
当然舗装はされていないが、過去に人が通った道のような跡はある。
エーヒアスに登山用の杖を渡された時は「いやこの程度の山なら杖なんていらんだろ」と思っていたが、その考えは甘いのだとすぐに理解した。
プランッ。
「「ひぃっ! 蜘蛛ぉ!?」」
ガサッ。
「「ひぎゃっ! ムカデェ!!」」
俺とドリュー氏は悲鳴を上げながらブンブンと杖を振り回して蜘蛛の巣やら飛んでくる虫や草葉を払うというパターンに嵌まっていた。
恐るべし、大自然トラップ。
ドンドコ先陣を切って進むグルオが脅威の大半を払ってくれているが、それも完璧ではない。
獣道つらい。
まだ森に入ったばかりだけど既にもう帰りたい。
何でこうも森の虫って無駄にデカいんだ!
ブブブブブ!
「「蜂ぃ!?」」
それにしても何だろう、このシンクロ感……
もしかしてドリュー氏も潔癖症?
そう思ったのは俺だけではなかったらしい。
後ろからよっせよっせとついて来る女性陣の会話が聞こえてきた。
「なんだかマオーさんとドリューさんの動きが双子ダンスみたいになってますねぇ」
「フフ、後ろから見てると面白いわね」
和んでる所悪いけどこっちは何一つとして面白くねぇんだわ。
「いやしかし見事にハモるな……ハッ!? もしや俺とドリュー氏は生き別れの兄弟説がワンチャンあるのでは!?」
「ノーチャンです、魔王様」
グルオが振り返りざまに「んな訳ねぇだろ」的な目線を送ってくる。
やはり俺は一人っ子だったようだ。知ってた。
ポロッ。
「ひぎゃぁ蛇の脱け殻ぁっ!」
「おや。それは財布に入れると良いらしいよ?」
「あ、ドリューさん、蛇の脱け殻は平気なんですねぇ」
親近感湧いてからの裏切りが早すぎる件。
今の俺の心境を想像して少しは胸を痛めて欲しい。
「はは、私は節足動物が苦手でね……こう、見てるとゾワゾワしてしまうのだ」
「分かりみが深い」
なるほど、彼の苦手は虫の方だったか。
確かに俺も虫は好かん。虫だけに。
特に家の中に入ってくる不快虫と害虫、てめーらは駄目だ。
エーヒアスが「あらあら。苦手な物が可愛いわね、お二人さん」と笑う声が聞こえたが、前方に意識を向けるのに忙しくて振り返る余裕はない。
体力的には余裕のよっちゃん(※死語)だが、メンタルがゴリゴリ削られてるのが分かる。
山怖い。
「先生~、あとどの位で着くんですかぁ~?」
息が上がってきたカロンの質問にもグルオは足を止める事なく淡々と答える。
「ドリュー氏の情報と地図から照らし合わせると、あと小一時間もあれば山を越えてミチワキ渓谷に着くだろう」
「うへぇ、小一時間ですかぁ……」
「頑張れカロン。ファイト一発だ」
「小一時間は一発だけで行ける距離じゃないですよぅ」
町を出てからまだ一時間程しか経っていないし、泣き言を言うには少し早すぎるだろう。
これは最近甘やかしが過ぎたのかもしれぬな。
カロンの為にもここらでビシッと鞭を与えねばなるまい。
「ならばそのファイト一発分を小出しにして温存しながら進むのだ。まずはファイト0.1発!」
「どゆこと!?」
「マオー殿の無茶振りは斬新だなぁ」
全く、世話の焼ける軟弱者め。
グルオにバレないようこっそり栄養ドリンクをカロンに手渡し、結局休む事なく歩みを続ける。
山頂を越えるまでの間に二回程ネズウサギや毒大蜘蛛と戦闘になったが、レベル的に俺の出る幕ではなかった。
応援、超頑張った。
依頼人であるドリュー氏も応援頑張ってた。
ナイスエール。
そして道が道じゃなくなってきた頃。
ついに──!
「ほぉ、随分見晴らしの良い場所に出たな」
「あの下に見える辺り一帯がミチワキ渓谷のようですね」
はい残念、まだ渓谷には着いてませんでしたー。
サクッと着いたと思った? 俺は思ったよ。くそぅ。
現在、山頂を越えて九合目辺りにいる俺達は木々の隙間から向かいの山──というより谷を見下ろしていた。
辺り一面木々ばかり。
紅葉シーズンだったら見ごたえ百倍だっただろうが、既に落葉済みなのでかなり寂しい風景である。
地面真っ茶色っ!
「あとは下りて行ってローリエ探すだけね。カロンは大丈夫かしら?」
「おぉぅ……ズバリ明日は筋肉痛でしょう……」
「あら、なら今は大丈夫なのね」
鬼教官かな?
足が生まれたての子鹿ってるカロンを気遣ったのか、いつの間にかコエダがエーヒアスの肩に乗っている。
俺、今世界で一番コエダになりたい。
「ふむ、書物や話に聞くより自然豊かなのだな」
「ドリュー氏もここを訪れるのは初めてなのか?」
「まぁね」
一通り辺りを見回した我々は歩き易そうなルートを探して下る事にした。




