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7、小銭はお酢やレモン汁等に浸けて置いてから洗うと綺麗になる

 明らかに動揺を見せていた尻ポケット氏は咳払いを一つして居ずまいを正した。


「フ、冗談だ。勿論、事はそう簡単に解決しないとは知っていたさ。知っていたとも、うん」


「……そうか」


 その言葉を信じる素直な奴はユート位なものだろう。

そういやアイツ今何してる? 元気に勇者してるかな。


 生ぬるい視線を送りつつ、俺とカロンは「安い! 旨い! 多い!」と三拍子揃った桃ライムグリーンカレーを注文した。

カレー臭に混ざる爽やかな桃ライムが癖になる、コレカラ町定番のB級グルメだ。


「ところで二人は兄妹かい? あまり似てないようだが」


 尻ポケット氏は上品にステーキを切り分けながら俺達の顔を見比べる。


「我々は冒険者仲間だ。あ、間違えた。正確にはステキな保護者とマスコットだ」


「全然正確じゃないですマオーさんっ!」


 プンスカと怒るカロンをよそに、尻ポケット氏の目が驚いたように見開かれた。


「魔王……?」


「はいどーもー! マ↑オ↓ーでぇ~っす! 最近のマイブームは野に咲く花を遠目に愛でる事でぇ~す!」


「そ、そうか……昨今の親は変わった名をつけたがると聞くからな……さぞ名前で苦労した事だろう」


 よし誤魔化せた!

この勢いだけのゴリ押しがいつまで通用するのか逆に不安になるな。

それはさておき尻ポケット氏、その憐れみの目は止めろ。

マオーって偽名、俺割りと気に入ってんだぞ。


「そういえば尻ポケット氏。もしや貴公は単身でスリの囮捜査をしていたのか? だとしたら邪魔してすまなかったな」


「構わんさ。あと尻ポケット氏は止めよ。私の事はそうだな……ドリューとでも呼んでくれたまえ」


「ほう。つまり本名はアンドリューといった所か」


「そこまで頭が回るのなら折角ぼかした意味まで察して欲しかったのだが。全く……」


 あ、これ本来ならもう少し親しくなってから本名打ち明けるパティーンだったか?

色々段階すっ飛ばしてゴメソ。

ミステリーとか結末知ってから読む派なもんで。


 別段反省するでもなくカレーを頬張っていると、ドリュー氏は思案気味に口を開いた。


「ふむ、冒険者だったか……ならば少し相談なのだが」


「あ、ウチ無料相談受け付けてないんでー」


「そうか。いくらだ?」


 冗談を真に受けて財布を取り出すドリュー氏に慌てて待ったをかける。


「金はもっと大事にせんか、このボンボンが!(よーく考えよう? お金は大事だよ?)」


「マオーさん、辛辣の方が口から出てます」


「えぇと、よく分からぬが、話して良いって事でおk?」


 どうぞどうぞ、とカロンと手で促せば、ドリュー氏は身を乗り出して声をひそめた。

何だ何だ? 内緒話なら任せろぉっ!!!


「最近、ハーブが高騰しているのは知っているか?」


「あぁ。王都の方で大規模な買い占めがあって、周辺の町から転売ヤーが出てるとか何とか……」


「そうだ。実はここだけの話、買い占めを行っているのは城の者達でな」


「へーほーふーん」


 それが事実だとしても「で?」っていう話である。

退屈な話の予感がしたのか、カロンはテーブルの下でコッソリとコエダに水をやり始めた。ずるい。


「立場上詳しくは言えないが、城内で何やら問題が起きているらしい。その問題の対処法として大量のハーブが必要とされているのだが、それはあくまで一時凌ぎで根本的な解決にはならんのだ」


「国王様ご病気展開でFA(ファイナルアンサー)


「ゴホン! とにかく私は城の者を始め、国民の為にも早急にハーブ不足問題を解決したいのだ」


 俺とカロンを見て爽やかな笑みを浮かべるドリュー氏に嫌な予感が芽生える。

あーこれ絶対面倒事だわー。


「その為にはどうしてもミチワキ渓谷に行く必要があってな。丁度信頼できる護衛を探していた所なのだ。見ず知らずの私に何度も親切にしてくれたマオー殿ならば私も安心して頼めるというものだ」


「いやいや、一方的に安心感抱かれてもこっちサイドとしては謎が多すぎて全然安心出来ないのだが」


 野良依頼、再来なるか。

エーヒアスの依頼の時はグルオという頭脳が居たが、今回は頼れる頭脳が自分しか居ない。

ここは慎重に答えねば……


「前金として五万エーヌ出そう」


「引き受けよう」


 慎重に即答した俺が最初に思った事は、彼をグルオに会わせてはいけないという確信だった。

きっと良いカモとして限界までむしりとられる。間違いない。


「えっと、マオーさん? せめてもう少し詳細聞いてから決めましょうよー」


 ぬぅ、カロンの言い分ももっともだ。

話の続きを促すと、ドリュー氏は快く説明をしてくれた。


「ミチワキ渓谷はココカラ町から南にある渓谷でな。そこにだけ群生するという植物を採集するのが目的だ」


「植物って、どんなものなんですか?」


「ジーコローリエというハーブの一種だ。夏以外の季節で採れるらしいが、私も図鑑でしか見た事がない」


 カロンが困った顔で俺の顔色を窺ってくるが、どうしたら良いのか俺だって分からない。

とりあえず情報を引き出せるだけ引き出してみるか。


「そのハーブは商人から購入は出来ないのか?」


「知名度が低すぎて出回っていない、というより知られていないに等しいかな。私も王立図書館で調べるまでは知らなかった位だ」


「ほう」


「それにこの情報はやたらと広めたくないのだ。城内で何かあったと民衆に知られるのも問題だし、大自然の残る美しい渓谷をジーコローリエ欲しさの商人達に踏み荒らされたくもない」


 なるほど。

だから内密にその植物をお城に届けて問題を解決したいという訳か。


「っていうか、そのローリエだかカントクだかって植物は本当に城の問題解決に繋がるのか?」


「話の根本的な部分を疑うのも無理はない。だが、少なくとも私はそうだと確信しているよ」


 あまりにも迷いない目が俺の視線とぶつかり、ほんの一瞬だけ気圧された気がした。

知らぬとはいえ、元魔王を相手にこの堂々とした態度とは……案外やるなコイツ。


「前金五万エーヌとの事だが、成功報酬はどうとする気だ?」


「そうだな……いくらが良い?」


「……そういった言葉は簡単に口に出すな。足元を見られるぞ」


 やはり彼をグルオを会わせてはいけないと心に固く誓うが、当の本人は何故か盛大に笑い声を上げ始めた。


「そのような言葉が出るあたり、やはりマオー殿は信用出来る人間のようだ」


 ごめん、人間じゃないんだよなぁ。

っていうか何でヒロインじゃなくて髭男(メンズ)の好感度が上がってんだよ。

一ミリも嬉しくない。


 結局返答を保留にした俺達は、明日の朝にこの食堂の前で依頼を受けるか否か返事をする約束だけ交わしてドリュー氏と別れた。

美味しい話ではあるがまだどこか信用しきれない部分もあるし、さてどうしたものか……


「カロンはどう思う?」


「うーん、ちょっと不安ですけど、悪い人には見えませんでしたし……コエダはどう思う?」


「キ?」


 不思議そうに頭の葉を揺らすコエダ。

うん、可愛いけど絶対話を理解してないから。


「……ふと思ったんだが、彼の話が全て事実ならば、城の問題が解決したら、彼も俺達も立派な功労者となるのではなかろうか」


「ハッ! って事は、国王様からご褒美をいっぱい貰えるチャンス……?」


「ドリューが手柄を一人占めにしなければ、そうなる可能性も大いにあり得よう」


 思わぬ一攫千金のチャンスに俺の中の天秤がグラングラン揺れる。

それはもうヤジロベエもビックリの揺れっぷりだ。

でもなー……マジでこれ以上国王との関わりを持ちたくないってのも本音なんだよなー……


「ぬぅ、コエダよ、お前はどう思う?」


「キィ?」


「いやぁコエダに聞いても分からないと思いますよぅ」


 おまいう。

とりあえずまだ時間はある事だし、明日の朝(タイムリミット)が来るギリギリまで悩むとしよう。

俺達は拠点を移すべく、リフォームされたオッサンの民宿に向かったのだった。

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