6、事務所や倉庫等の人目に付かない場所の清潔さでオーナーの意識度が分かる
<短期>コレカラ町で多発しているスリや万引きの摘発!<未経験者歓迎!>
これが町中のギルドをかけ回ってようやく見つけた依頼内容である。
「新米冒険者OK・笑顔の絶えないアットホームな職場です」と書いてあるし、これなら俺とカロンでも出来よう。
採用人数は俺達を含めて十一人。
内七人は覆面捜査員のGメンチーム。
残りの四人はスリの注意喚起をして治安維持に努めるパトロールチームとの事だ。
「はーい、それでは今から二人一組を作って下さいねー」
おい止めろ。
「余っちゃった人は事務所待機でお願いしまーす」
だから止めてあげて。
何人か学生時代のトラウマ抉られてるではないか。
商店街会長によって数名の(心の)負傷者が生み出された後、簡単な説明を受けた俺達はそれぞれのチームに別れて大通りへと向かった。
「……まさかパトロールの方に当てられるとはな」
「マオーさん、タスキ似合いませんねぇ」
「誉め言葉として受け取っておこう」
現在、俺とカロンは「スリ多発注意!」とデカデカ書かれたタスキを掛けてコレカラ町の大通りを練り歩いている。
手に持ったメガホンで注意を呼びかけなければならないのだが、これが地味に恥ずかしい。
他の冒険者と交流する必要が無いのは良いが、もし今正体がバレたら「二代目魔王、スリ注意喚起のパトロールしてたってよ」と後世まで語り継がれてしまうだろう。
「それにしてもGメンチームじゃ無くて良かったですよ~。私、万引き犯やスリを捕まえられる自信ないですもん」
「だが犯人を捕まえたら出る特別手当ては欲しい所だったな」
こんな目立つタスキコンビの前で犯行を行う馬鹿はいないだろうし、こりゃ日当九〇〇エーヌだけで終わるだろうな。
丸一日働いても二人で一八〇〇エーヌ……
張り切るカロンには悪いが、どうもやる気君が引きこもったきり出てこないのだ。
まぁ無収入よりはマシと思おう。
ブラブラ歩き回る事およそ三時間。
いい加減飽きてきた俺の視界にちょっと気になる物がチラついた。
うーーーむ……面倒だが見過ごす訳にはいくまい。
「おい、そこの御仁」
「…………んぉ? あぁ、私か?」
間の抜けた返事で振り返ったのはミルクティーブラウンの癖毛を肩まで伸ばした三十歳前後の男だ。
うっすらと顎髭を生やしているが不衛生な感じではなく、爽やかな富裕層の市民といった出で立ちをしている。
どれ、少しは真面目に仕事をしてやるとしよう。
「そうだお前だ。気付いてないようだが尻ポケットから財布が出ているぞ。この辺りはスリが多発している故、気を付けよ」
「おや、これはご丁寧にすまないね。忠告感謝する」
「構わぬ。これも仕事だ」
ウッカリ者の市民に気付いて被害を未然に防ぐ……なんてGJだろう。
俺にはパトロールの才能があるのかも知れない。
……と、どや顔をカロンに向けるも、スリの発見と注意喚起に集中していた彼女は俺の活躍に気付いてすらいなかった。残念!
「暇なう」
いや、暇なのは平和で良い事だけども。
この大通りだけでももう何度往復したか分からない位には巡回している。
「うぅ……なんだか人に酔ってきましたぁ……」
「マジそれな。……ん?」
はたと気付いたのは偶然だった。
ガヤガヤと人が交差する隙間から、先刻注意した男が露店商と会話している後ろ姿を捉えた。
その尻ポケットからは革の財布が半分以上はみ出している。
「全く、折角忠告してやったというのに」
人混みの中を華麗なステップで避けながら男に近付く。
魔王の顔も三度まで。これで残機は一回だぞ、ウッカリ君。
「あ」
声をかけようと口を開くのと尻ポケットの財布に第三者の手が伸びたのは同時だった。
スリだと思うより前に体が動いてしまい、ついその手を捕らえてしまった。
俺の手と誰かの手がスリの右手をガッツリ掴む。
……ん? 誰の手だコレ?
「おや、君は先程の……」
俺と共にスリの腕を掴んでいたのは尻ポケットの男本人だった。
ギリギリと腕を締め上げられ、スリの男が悲鳴を上げる。
ぅゎっょぃ(確信)
どうやらこいつ一人で大丈夫そうだ。
そっと手を離して尻ポケット氏に向き直ると、彼はスリを捕らえたまま白い歯を見せてキラリと笑った。
「いだだだだごめんなさいぃ!」という悲鳴さえBGMに無ければ良い笑顔ダッタノニナー。
「いやぁ、二度も親切にしてくれてありがとう、若人よ」
「何を言う。俺の助けなど不要だったではないか」
いらぬお節介しちゃうのって恥ずかしいんだぞ。
「じゃあこれで」と気まずく踵を返すも、尻ポケット氏は何故か空いている方の手で俺のマントを掴んだ。
「親切ついでにすまんが、このスリを役人の所に引き渡しに行ってはくれぬか? 私はその、用があって時間がないのだ」
「ヨッシャ特別手当てウマー!……ゴホン。貴公の手柄を取るようで気は進まぬな」
「お前の本音スケスケだぜ。とりま私の事は気にせず、どうか一つ宜しく頼むよ」
尻ポケット氏は謝罪を繰り返すスリの腕を俺に預けると、ヒラヒラと片手を振って雑踏の中へと消えて行った。
変わった奴じゃねーの。
「よし、ではこのまま商店街の事務所まで来てもらおうか」
「初犯です! 初犯なんです! しかも未遂なんです!」
「だからどうした」
罪は罪ですぞ。
事態の一部始終を目撃していた露店商の男に軽く確認だけしてスリを後ろ手に縛り上げる。
「カロン、行くぞ。……あれ、カローン?」
「…………うっぷ、あ、マオーさぁん、こんな所に居たんですかぁ……」
「察した」
口元を覆ってフラフラと建物の陰から現れた少女には同情しかない。
船に乗らずとも三半規管弱い系女子固めていくの何なの。
「反省するから見逃してぇ」と騒ぐズリィスリをズリズリと引きずり、俺達は依頼主のいる商店街の事務所へと戻った。
特別手当てウマー。
「ご苦労様。はい、これ特別手当て。犯人捕縛一人につき五〇〇エーヌね」
「ワンコイン頂きんか~」
かなり微妙な金額だが、狭い事務所内にギュウギュウに正座させられているスリや万引き犯達を見てしまっては我が儘も言ってられまい。
どんだけ捕まってんだよ、治安悪すぎだろコレカラ町。
「マオーさん、そろそろ上がりの時間ですよ~」
「ふむ、丁度良い頃合いだったか。おい、商店街会長殿。少し早いが今日の所は上がらせて貰おう。日当を頂くぞ」
「あぁ、うん……別に良いけど、こんな偉そうな新人初めてでビックリだよ」
やべ、素でやらかした。
「ゆとり世代なもんでサーセン」と上手く誤魔化し、俺とカロンは晩飯を求めて近場の食堂へと向かう。
いやぁ、オレンジ色の夕日が仕事で疲れた心身に染みますなぁ。
働くって素晴らしい。
適当に選んで入店したのはそこそこ繁盛している食堂だった。
大衆食堂はあまり好きではないが、空腹には代えられん。
「……む」
「おや!」
空いている席は無いかとグルリと店内を見渡していると、最奥のテーブル席の隅に座る男と目が合った。
尻ポケット氏! 少し前に別れたばかりの尻ポケット氏じゃないか!
彼はニコニコと人好きする笑顔を浮かべてちょいちょいと手招きをしている。
え、来いってか?
「あの人、マオーさんの知り合いですか?」
「さっき少し会話しただけの名も知らぬ顔見知りだな」
「それもう他人で良いと思いますー」
無視する理由もない。
俺達は誘われるままノコノコと尻ポケット氏の元へと歩み寄る。
彼のテーブルには店で一番高いと思われるステーキ定食と赤ワインが並んでいた。
ケッ、ボンボンかよ。
「先程は面倒事を押し付けてすまなかったな。礼を言おう」
「いや、こちらも助かった。おかげで五〇〇エーヌ儲けたからな」
「ほぅ。あのスリはワンコインだったのか」
尻ポケット氏は苦笑しながら俺とカロンに向かいに座るよう手で促す。
え、相席して良いの? お言葉はないけど甘えちゃうよ?
迷いなく席に着く俺にならい、カロンも「失礼しまーす」とおずおずと会釈しながら左隣に座る。
どうだ、ウチの子は礼儀正しい良い子だろう!
若干ドヤりながら尻ポケット氏を見やるが、彼はワイングラスを嬉々として傾けていて俺の事など見ちゃいなかった。ちぇっ。
「スリも捕まったし、これでコレカラ町の窃盗騒ぎは一件落着だろう」
「……今何て?」
「? いや、町を騒がせるスリの犯人を捕らえたから、コレカラ町はもう大丈夫だと言ったのだ」
もしかしてこの男、このメチャ人が多くてクソ広い町でえらい横行しているスリの犯人が、たった一人しか居ないと思ってるのか?
そんなバナナ。
「あのー、スリも万引きも毎日のように起きているので、全然解決してないと思いますよぅ」
カロンの口から遠慮がちに告げられるぐう正論。
尻ポケット氏はキョトンと目を丸くした数秒後、「そんなバナナ……」と呟いた。
おいオッサン、それは死語だぞ。




