4、実は「コロコ◯」は粘着テープの商品名
何奴っ! なーんて格好良く振り向けたら良かったのになー。
匂いと気配で分かっちゃうんだなぁこれが。
「どうした、エーヒアス」
普通に振り返った俺はニコニコと微笑みを携えたエーヒアスに問いかけた。
「あら……驚かせようと思って近付いたのに見付かっちゃったわ、フフッ。マオーさんに先生からの伝言よ」
「あ、やり直し。今振り返ったの無し。もう一回わたくしめにチャンスを」
俺の懇願が聞こえなかったのか、エーヒアスは問答無用でグルオの伝言を話し出す。
何てこった。
どうやら俺は稀少な「だーれだ?」的なキャッキャウフフイベントを取り逃してしまったようだ。
「今日の宿は別の宿屋に変更よ。今頃カロンがチェックインしてる筈。先生はさっきの民宿に残るんですって」
「な、なんだってー!」
あの腐った空間に残るとか正気の沙汰とは思えない。
あいつマジかよと両腕の鳥肌を擦っていると、エーヒアスは肩を竦めながら「清掃の基礎を叩き込むんですって」とため息を吐いた。
掃除屋魂に火を着けるとはあの主人、よっぽどアレな御仁だったようだ。
「ふむ……では日も暮れてきたしカロンと合流するか」
宿屋は何処かと周囲を見渡せば、エーヒアスが地図らしきメモを渡してきた。
アィエエエ、チズ!? チズナンデ!?
「悪いけど宿屋にはマオーさんとコエダだけで行ってくれる?」
「思わぬ別行動宣言にオッタマゲー。二人で並んで歩きたくないって理由だったら俺、半年は立ち直れないんだけど」
大袈裟にいじけて見せるも、「違うわよ」と言ってのける彼女のテンションは何ら変わらずであった。ぅゎっょぃ。
「今から鍛冶のお仕事するの。多分、この町には暫く滞在するはめになりそうだしね」
「早速仕事とは恐れ入っ……滞在?」
とんだ爆弾発言である。
近くの露店商で「ゥゴョンヌーの肉、あと一つで完売だよー!」という声が聞こえてくる。
あんな変な肉売ってる町に滞在とか軽く恐怖なんだけど。
「ウフフ、詳しくはカロンに聞いてね。それじゃ、お仕事行ってきまぁす」
「いってらっさぁ~い……」
「キィ!」
可愛らしく手を振られてしまえば振り返す他あるまい。
俺はザックリとした手書きの地図を片手にコエダと宿屋を目指すのだった。
そして特に迷わず面白い事件もなく、ごくごく平凡な宿屋に到着するという。
うん、サクサク行くって知ってた!
案内されたのは冒険者用の四人部屋。
四人入ると手狭そうだが、今はカロンしか居ないので随分と広く見える。
「わぁ、おかえりなさい、マオーさん!」
扉を開けた途端に顔を輝かせて寄ってくるカロン。
魔王の帰還をここまで喜んでくれるか……
と、感動したのは一瞬で、カロンは俺からコエダを奪い取ると「おかえりコエダァ」と頬擦りし始めた。
「カロンよ。実は兎は寂しくても死なないらしい。だがマオーさんは寂しいと死ぬのだぞ」
「へぇ~、兎ってマオーさんより強かったんですねぇ」
「違うそうじゃない」
頭を抱えているとカロンに背中を押される。
どうやらテーブルに着かせたいらしい。
テーブルには煮豆のスープと芋が挟まったパンが置かれていた。
シンプルに旨そう。
「先生はさっきのおじさんに指導をするそうで、今日は帰らないそうです」
「それはさっきエーヒアスに聞いた。ちなみにエーヒアスは仕事らしいな」
「そうなんです! 今日は鍛冶屋の出来る場所を押さえて、まずは私の新しい杖を作ってくれるそうです!」
ほぅ、それは初耳。
そういや今のカロンは丸腰だったな。
誰かさんに木の杖へし折られたからね。シカタナイネ。
「まぁレベルも上がったしな。今なら木の杖よりも良い武器を装備出来よう」
「はい! イヨイヨの町で貰ったデカボアのツノで武器を作ってくれるって言ってました!」
「ここに来てアレが役立つのか」
あったなぁ、そんな報酬品。
ぶっちゃけ忘れてたわ。
っていうかスープうめぇ。
具がやたらと多くて田舎のばあちゃんが親戚の集まりで振る舞うスープって感じだ。
俺田舎のばあちゃん居た事ないけど。
「そういや先程、暫くこの町に滞在するかもとか不穏な話を小耳に挟んだのだが」
「あぁ……それはですね」
カロンはパンをちぎる手を止め、困ったように宙を仰いだ。
「トオデ大陸へ渡る為のイーガナ大橋なんですが、渡りきるのに五日もかかるらしいんです。しかも途中に宿やお店は無いので、今を逃すと当分お金を稼ぐ機会は無いだろうって先生が……」
「俺氏、無事死亡確定」
宿屋無いとかうせやろ。
カロンが「キャンプ地はあるらしいですよ!」とか言ってるが、何のフォローにもなってない。
「と、とにかく! 旅を続けるにもマオーさんの夢の為にもお金は必要です! なので、暫くは冒険者としての仕事をメインに活動しましょうって事になりました!」
「長い簡潔に」
「この町で稼ぎましょう!」
宣誓。
俺、お金稼いだら携帯用バスタブとベッド買うわ。
決意を胸にスープを飲み干すと、カロンが言い難そうにモジモジしている事に気が付いた。
何だ、飯が足りなかったのか?
「カロン。言いたいことがあるなら俺が傷付かない程度にハッキリ述べよ」
「は、はい……お仕事の話なんですが……エーヒアスは鍛冶屋で忙しいから冒険者の仕事は出来ないそうです」
「まぁそうだろうな」
それが何か? と訝しむ俺に呼応するように彼女はズムズムと肩を落とす。
「先生も……暫くやりたい事があるからって、別行動宣言をしてまして……」
「ファーーーーーーッ!?」
グルオンこの野郎。
仮にも俺主人ぞ? 主ぞ?
あいつ何サラッと許可なく別行動(長期)おっ始めてんだ。
団体行動乱すな!
「あの、なので、冒険者の仕事をするの、私とマオーさんの二人だけです……」
「ごめん不安しかない」
「私の方がマオーさんの百倍は不安ですよぅ~!」
テーブルに突っ伏して喚くカロンにかける言葉が見つからない。
むしろ俺も喚きたい。
窓から見える空が紺と紫のグラデーションに染まっている。
チラチラと星が瞬いて……ラメ……グラデーション……ゥゴョンヌー……うっ、頭が……
「もうやだこの町。早く出たいのに出たくない」
「ジレンマがスゴいですねぇ」
つまりあれか。
俺はカロンに魔法を教えつつ、コエダとカロンのお守りをしながら冒険者として仕事を探して稼がねばならんのか。
グルオのやりたい事が何なのかは不明だが、俺の負担デカくね?
生活が一気にハードモードなんだけど。
「まぁなるようになろう。死ぬ事無く、大きな赤字にならなければ我々の勝ちだ」
「それは流石にハードル低すぎです、マオーさん」
下手に目標金額なんて決めるものではないからな。
俺には自分の首を絞める趣味はないんだZ。
その後、食事を終えたカロンが風呂場やベッド周りの清掃を済ませてくれた。
有り難い……が、時折メモを見ながらブツブツ呟く姿がお掃除部隊の新人達と重なって仕方ない。
この娘、将来化けるやもしれぬ。
「マオーさん! ベッドのお手入れ終わりました!」
「あざーっす」
何故か今日はやたらと長い一日に感じた。
こんな日はさっさと寝てしまうに限る。
「ハッ! 大の男と若い娘が二人きりの密室で夜を明かすとか事案発生扱いになるのではなかろうか……!?」
「? 二人じゃないですよー、コエダが居ます」
「セーフ! これはセーフな案件です!」
既にコエダはカロンのベッドでスヤァ……と寝息を立てているが、誰が何と言おうと我が旅はド健全な珍道中でお送り致します。
こうしてコレカラ町での一日目はパーティーバラバラのまま終わるのだった。
──今日はコレカラ町に着いた。
ハーブは高いしオッサンの民宿は汚ないしグルオがキレたし。
明日から暫くカロンと仕事する。がんばる。
(魔王の日記、一部抜粋)




