8、そもそも部屋の「片付け」と「掃除」は全くの別物です
昨日宿泊した部屋を引き続き借り、俺は窓辺に座ってグルオ達の帰りを大人しく待つ。
カロンは皿に水を張ってコエダと戯れている。
THE・平和。
「時にカロンよ。シューバン大陸を出た頃と比べ、大分レベルが上がったな」
「はい! 今レベル6です! 夢みたいですよ!」
もっと褒めてくれと言わんばかりの笑顔を向けられるが、あまり甘やかすと調子に乗りそうだ。
ここはビシッと厳しくせねば。
「だがまだまだ伸び代もあろう。ファイアの威力も上がってきたし、そろそろ火魔法以外の練習もしてみたらどうだ?」
「おぉ、おおぉぅ……いよいよこの時が……!」
元魔王直々のありがた~い説教に心打たれたのか、カロンは燃えた目で木の杖を握りしめる。
「マオーさんっ! 私やりますっ。もっと頑張って強くて偉大な美人魔法使いを目指します!」
美人である必要性……まぁ良いか。
やる気が出たのは良いことだ。
新魔法の練習に付き合うこと数十分。
やっとグルオ達が戻ってきた。
「……何をしたらこんなに部屋が荒れるのですか……」
「おぉ、グルオ。おかえりんこ」
「つられませんよ。ただいま戻りました。こちらが我々四人分の報酬です」
ノリの悪い奴だ。
差し出された白い袋には前と同じく二万五千エーヌが入っていた。
今回は四人で割る上、回復薬も無い。
「今回ちょっと安くないか?」
「町の大罪人捕縛と中高年数人の救出では額が違って当然かと。インキュバスの情報を伏せて報告したので、大した事件では無かったと思われたようです」
「な~る……」
それなら仕方ない。
俺のマイホーム資金にカロンとエーヒアスの金を加算する訳にもいかないしな。
実質得たのは一万二千五百エーヌか……先は長い。
先行き不安に苛まれていると、ユートがガバリと頭を下げてきた。
「皆、協力してくれてありがとう! お陰で早く解決出来た! 急いでいたから本当に助かったよ!」
「そ、そうか」
礼は良いから早く解散したいのだがな。
あ、でもコイツが魔王城に行くのを止めないといかんのか……困ったものだ。
「どうしてユートはそんなに先を急いでいるのかしら?」
エーヒアスの疑問も尤もである。
人魔戦争中でもあるまいし、魔王討伐の任務なんて時間制限ないだろうに。
ユートはよくぞ聞いてくれましたとばかりに顔を輝かせた。
あ、これ、話長くなるやつだ……
「オレ、サイッショ大陸で大工の見習いをしながら木こりの仕事をしてたんだ!」
サイッショ大陸……だと?
「私達の旅の目的地じゃないですかぁ」
シャラァァップ!
カロンがこれ以上余計な事を言わないよう口を押さえる。
彼は「あ、そうなんだ?」と大して気にした様子もなく話を続けた。
「で、ある日、ハジーメ村って所で仕事があってさ。村外れの森で木をこってたんだ。でも途中で道に迷って、綺麗な泉に辿り着いた」
そこ俺の最終目的地ぃ!
え、お前俺のマイホーム予定地に居たの?
世間って狭っ。怖っ。
「歩き疲れたオレは気分転換に泉の畔で木をこる事にした。けど、手が滑って斧が吹っ飛んでしまった」
グルオが「なぜ疲れて木を……」と呆れていたが、コイツならやりかねない。
この勇者は未知すぎる。
「振り返ったら中洲に斧が刺さってた。急いで泉を渡って斧を抜いたんだが、よく見たらそれは斧じゃなくて『魔王を倒す力のある者にしか抜けない』と伝えられる伝説の聖剣だったんだ」
「その剣の製作者は魔王に何の恨みがあったというのだ」
「フフ、随分と面白い見間違いをしたのね」
何わろてんねん。
そもそも何故間違えたし。
「そしたら急に泉と中洲が光りだして、オレは二人の女神に前後を取られ挟み撃ちにあった」
「……は?」
一体どういう状況だ、それ。
「中洲の女神はこう言った。『この日を待っていました。この聖剣を抜いた、貴方こそ勇者』ってな。同時に、泉の女神もこう言った。『貴方が落としたのはこの金の斧ですか、銀の斧ですか』ってな」
それ、混ざっちゃいけない話が混ざってない?
突っ込みたくて仕方ないが皆の何とも言えない顔を見て自重する。
良カッタ、コノ感情俺ダケジャナカッター。
「オレは答えた……『聞き取れないから同時に喋るな』……ってさ。そしたら、女神達は殴り合いの喧嘩を始めてしまった」
最近の女神って殴り合いの喧嘩するのか。
知らなかった。
「勝負は日暮れまで決着つかず、二人は引き分ける形で倒れ込んだ。そして、いつの間にか友情が芽生えた二人の女神は、聖剣と金の斧、銀の斧を一つに融合させてオレに託したんだ」
なんという熱血ストーリー。
まさに(女神の)青春ストライク。
「ふむ。では、お前が使っているその大斧が、伝説の剣改め、伝説の斧という事か」
「いや、今使ってんのは親方が旅の餞別にくれたやつ。伝説の斧は握り心地が悪いからしまってるんだ」
伝説の武器<<(越えられない壁)<<親方の餞別では女神も報われなかろう。
「オレ、早く旅を終わらせて大工修行に戻りたいんだ! 魔王を倒すまで帰って来るなって言われてるし……だから一刻も早くシューバン大陸に行って、魔物を率いてる魔王を倒さなきゃいけないんだ!」
我、此処に勝利の活路、見出だしたり。
チラッとグルオを目で促すと、こちらの意図を何となく理解してくれたらしい。
それとなくカロンとエーヒアスを連れて部屋を出て行った。
二人に何を言ったのかは分からないが、察しが良くて助かる。
ここからは元魔王と勇者、サシの話し合いと洒落込むとしよう。
「……ユートよ。よく考えてみよ」
「んん?」
「ここ数十年、魔王配下の魔物達の動きが大人しかったのは知っておろう。何故だと思う?」
「えぇっと、確か城の奴は魔物達がこれから大きな戦を仕掛ける準備をしてるからじゃないか……って言ってたな」
え、そんな風に勘繰られてたの?
魔物が大人しかったのは単に父上が病床に伏してそれ所では無かったからだ。
しかも俺が二代目になってすぐ城の美化強化月間を始めてしまって、やはりそれ所では無かったからである。
まずは誤解を解かねばねば。
「それは違うぞ、ユートよ。これは魔物から得た確かな情報なのだが、昔人魔戦争を起こした魔王は既に病気で死に、今は人間との争いを嫌った二代目と三代目魔王の影響あって、魔物が大人しいのだそうだ」
「えぇ!? それ本当かよ!?」
ほぼ本当である。
ユートには悪いが、お前の旅は今日で終わりとさせて貰おう。
森へお帰り。
「よって、今更魔王の城に行って魔王を倒した所で、折角大人しくなっていた魔物達の反感を買うだけである」
「マジかよあっぶねー! じゃあオレ、何も悪くない魔王に殴り込みに行く所だったのかよ! 最低じゃん!」
ユートはバリバリと頭を掻きむしって国王の言いなりになっていた事を後悔している。
どうやら言いくるめに成功したようだ。
俺の脳内に祝砲代わりの打ち上げ花火が上がる。
フッ……計 画 通 り 。
……と、ここで突然、ユートがズイッと顔を近付けてきた。
ひぃっ! 近い!
「教えてくれてありがとうなー! 兜の兄ちゃんのお陰でオレ、悪者にならなくて済んだよ!」
「†ノープロブレムだ†」
だから少し離れて暑苦しい。
まぁこれで平凡太が勇者に殺られる心配は無くなった訳だ。
いやぁ、良かった良かっ
「あ、でもちゃんと自分の目で確認しなきゃ、国王様にいい加減な報告は出来ないよなぁ。今の魔王にもこっちが誤解してるって事教えなきゃ悪いし」
「えっ」
「だって誤解されたままじゃ、魔王だって可哀想じゃん。やっぱオレ『誤解は自分が解くからこれからもよろしく』って挨拶しに魔王の城に行くよ!」
やだこの子凄く律儀で良い子! 俺の手に余る! ユートのバカ! もう知らない!
「そ、そうか……まぁ……うん。無理はするなよ」
「おぅ! 色々ありがとうな!」
まさか魔王が勇者に気遣われる日が来るとは思わなかった。
せめて死ぬな殺すなと祈っておこう。
話が一段落した俺達は、三人はどこにいったのかと雑談しながら客室を後にしたのだった。




