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5、使わない空箱を「いつか何かに使える」と延々集めがちな人は整頓下手が多い

 洞窟内部は縦横三メートルはある広いものだった。

俺でも余裕で通れるというのはありがたい。

ただし人の手で掘られたとは思い難い形状をしており足場はかなり悪かった。


 グルオとユートがカンテラを持ち、なるべく音を立てず慎重に進……


「おっと、トカゲだ!」


「ひいぃ!」


「あ、兄ちゃん、そこネズミの死骸!」


「嫌ぁぁ!」


「魔王様、うるさいです」


 訂正。

元気よく進んだ。

どうせ使い魔を通じて俺達の存在バレてるだろうし、今更コソコソしたって無意味だからな、うん。

平気平気。


 それにしても洞窟か……懐かしいな。

城の皆や平凡太は仲良くやっているだろうか。

先程カロンが「マオーさんが洞窟入るのに躊躇わないの、ちょっと意外ですぅ」とか言っていたが、こちとら洞窟の城育ちだからな。

むしろ別荘のような安心感である。

汚いのは勘弁だけど。


「また分かれ道ですね。如何致しましょう」


「ふむ。先程選んだのも右だったし、とりあえず右から潰していくので良かろう」


「分かりました。では右で」


 ズカズカと足音も殺さずに俺達は右の道を進む。

途中で二組のつがいネズウサギと戦闘になったが、大した事は無かったので割愛。


 辿り着いたのは水がうっすらと溜まった広い空間だった。

残念、行き止まりだ。

雨水が溜まった物なのか地下水が染み出ているのかは分からない。

何にせよこちらはハズレの道だったようだ。


「仕方ない、先程の分かれ道まで戻るとするか」


「あら? あれは何かしら?」


 エーヒアスが目敏く見つけたのは金と銀の装飾が施されたえんじ色の箱だった。

うむ。

何処からどう見ても立派な宝箱である。

ここまで人工物が何一つ見当たらなかった洞窟の奥に、小綺麗な宝箱がポツン。


「怪しいにも程があるな」


「これ、罠……ですよね? 私でも分かります」


「これが噂に名高いミミックって奴か! オレ初めて見たよ!」


 カロンやユートですら分かるとか、もはや罠として機能してないだろう。

何がしたいんだ、このミミック(仮)は。

罠だと分かっていて誰が開けるか。


「よいしょ」


 完全無視の流れを断ち切り、グルオが宝箱の蓋を開けた。


──グギャギャギィーー!

(何の用だワレコレぇー!)


 えぇぇ!? 何してんだお前!

宝箱はガバリと蓋……いや口を開けてポーンと飛び上がった。

ギザギザの牙と真っ赤な舌からボタボタと涎が滴っている。

凄まじい視覚的暴力だ。


「あぁ、やはりミミックでしたね」


「知ってた! 全員知ってたから!」


 何でわざわざ開けたし!

慌てて臨戦態勢に入る俺達だったが、ミミックが襲ってくる気配はない。

あれ?


──グギャギィーギィー

(あ、グルオパイセン、お久しぶりっす! 二代目様も元気そうで何よりっす!)


 まさかの知り合いその二かよ!

攻撃に入ろうとする皆を止め、俺はミミックに向き直った。

見覚えはないが俺を知ってるという事は城にいた事があるのだろう。


「えっと……貴様はここで何をしている」


──グギャギャギャー

(自分探しの旅の末、この仄暗い穴の奥に真の安寧を見い出し、悟りを開くべく精神修行をしてた所っす!)


 自分探しの旅する奴多くないか?

え、そんなに魔王城の勤務って辛いの?

平凡太が働き方の改革を進めている事を切に願う。


「あー……この洞窟、他に何が棲んでいるか知っているか?」


──ギャギャグギィーー

(そういや二ヶ月位前に若いインキュバスが引っ越して来ましたよ。その一ヶ月後くらいから、人間の女の声が聞こえるようになったっす!)


 Oh……どこから突っ込んで良いものか……

インキュバスってのはあれだ。

端的に言うと女性を魅了して好き放題するという、紳士にはたまらん設定のけしからん悪魔だ。

だが相手は四十代から七十代……よし、これ以上は考えないようにしよう。


「情報感謝する。ちなみに場所は分かるか?」


──ギャッツギー

(入り口から入って左、真ん中、右っす!)


 おぉ、これはかなり助かる情報だ。

一気に探索の手間が省けた。


 礼を述べるとミミックは「お気を付けて~」とだけ言ってパタンと口を閉じ、静かな宝箱に戻ってしまった。

また悟りを開く修行に戻るのだろう。

邪魔してすまなかったな。


「あ、あのぅ、マオーさん。今のミミック、なんて言ってたんですかぁ……?」


 カロンはエーヒアスの陰に隠れながらビクビクとこちらの様子を窺っている。

あ、説明しなきゃなのか。

面倒くさいな。


「どうやらここにはインキュバスが住み着いているらしい。場所は入り口から進んで左、真ん中、右の道だそうだ」


 ヒヤヒヤしながら説明する俺の心情なぞ露知らず、ユートが目を輝かせる。


「すっげぇ! そこまで聞き出すなんて兜の兄ちゃんマジかっけぇ!」


「なら、最初の分岐まで戻らなきゃね」


 ふぅ……魔物と話せるというこの設定、一度受け入れられてしまえば案外便利なものだ。

グルオがこっそり耳打ちをしてくる。


「お疲れ様です、魔王様」


「あ、うん。いっそお前も魔物語の通信講座受けたって事にしちゃえば良いのに」


「今さらそんな設定出てきたら流石におかしいでしょう」


 そうだろうか。

設定なんて後からいくらでも生えるものですよ。


 俺達はまたズカズカと来た道を引き返す。

そして最初の分岐まで戻るとミミックの情報通りに左の道へ進み、三又の道の真ん中を進んだ。

途中で三回程戦闘があったが、これまた割愛。

しいて言うならカロンとエーヒアスとユートのレベルが上がった位か。


カロン

レベル5→6(+1)


エーヒアス

レベル18→19(+1)


ユート

レベル30→31(+1)


 順調順調。

相変わらずのカロンのはしゃぎっぷりには目を瞑ろう。



 最後の分かれ道を右に進み、歩くこと五分。

取って付けたような雑すぎる木の壁にぶち当たった。

いや、これ、壁じゃなくて扉……か?

通路いっぱいに大きなベニヤ板が三枚立て掛けてあるだけなんだが……


 ユートが「ヨイショォッ」と一枚のベニヤ板をどかすと、人一人分通れる隙間が出来た。

どうやらこの先が人攫い事件の容疑者、インキュバスの住み処らしい。

うぅむ……インキュバスか……


 一番気がかりなのはカロンとエーヒアスである。

流石に18禁展開だけは絶対阻止するし、規制ルートは一〇〇パーセントあり得ない。

……が、うっかり魅了(チャーム)の魔法をかけられてしまったら敵の手駒にされる恐れがある。

そんなダークネス展開はこの娘達にはまだ早い。

しっかり用心せねば。


 決意を新たに進んでいく内に視界が明るくなってきた。

そろそろ目的地か。

恐らく奥の方で明かりを灯しているのだろう。

眩しさに目を瞬かせていると、数メートル先に立つ一人の人物に気が付く。

その者は俺達に向かって意外な言葉を口にした。


「あらあらあらぁ、インキュちゃんのお友達? なぁんにも無い所だけど、どうぞいらっしゃ~い」


「……は?」


 やたら気さくに話しかけてきたのはどこからどう見ても人間の、ふくよかな中年女性だった。

まさかこの婦人が拐かされた人間……とでもいうのだろうか……


「……一つ聞こう。こんな所で何をしている?」


「何って、やぁねぇ。お客さんが来たから応対してんじゃないの~もぅ!」


 カラカラと豪快に笑う婦人の様子を見る限り、魔物に操られているようには思えない。

何だこれ、どういう事だってばね?


 絶句する俺達に構わず、婦人の元に別の婦人がやってくる。

こちらは細身で穏やかそうな初老の婦人だ。


「おやまぁ、こんにちは。この洞窟、歩きにくかったでしょ。ゆっくり休んでいくと良いわよぉ」


「あ、これはご丁寧にどうも」


「お邪魔しまーす」と頭を下げつつ、奥へと通される。

もう一度言おう、何だこれ。

何故俺達は敵陣でヘコヘコしながら客として歓迎されてんだ?


「魔王様、油断は禁物です」


「ハッ! まさかこの歓迎こそが罠……! いや、罠と見せかけてズコーッの可能性も残っている。そう見せかけてやっぱり罠とも……」


「フフ、すっかり疑心暗鬼ね。戦いになったらその時考えましょ」


 余裕の笑みを浮かべるエーヒアスの元にそっとカロンを押し付ける。

よし、これで少しは守りやすくなった。

後は相手の出方次第である。

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