4、庭石や外壁の苔はお湯か酢水をかけて数日様子見→ブラシで除去
「……さぁついにやって参りました。ドキドキ・霧の洞窟探訪のお時間です……解説のグルオさん。今の心境をどうぞ……」
「どうしてこんな事になってしまったんですかね……」
ほんとそれな。
俺とグルオは遠い目をしながら「変質者注意!」の立て札を通り過ぎる仲間達の背を眺める。
「おーい。兄ちゃんも先生も、何ボーッとしてんだよ。早く行こうぜ!」
大体お前のせいだよ。
などと心の中で悪態を吐きつつ、意気揚々と突き進むユートの後に続く。
天気の良い午前中にも関わらず森の中は相変わらず薄暗い。
たまに鳥の鳴き声がするが木々のざわめきばかりが耳について仕方ない。
昨日の魔物集団の件もあるからな。
これは注意して進んだ方が良いだろう。
「洞窟にはどのくらいで着くのだ?」
「地図的には三、四十分もあれば着くかと思われます」
そんなもんか。
早く終わらせたいものだ。
草木に残る朝露が服に付かないか気が気ではない。
パキパキと小枝を踏み鳴らし、エーヒアスは辺りを見回した。
「でも、どうして『霧の』洞窟っていうのかしら? この辺、霧なんて出なさそうな気候じゃない」
「確かに! 洞窟の場所も山奥って感じじゃなさそうですしねぇ~」
呑気にお喋りをする女性陣をよそに俺とグルオのテンションは全く上がらない。
何で昨日、勢いに任せて引き受けちゃったし。
「あ、オレ知ってる! なんか洞窟から帰ろうとすると急に霧が出てきて迷う人が多いから霧の洞窟って言うらしいぞ!」
「そういう重要な事は事前に言って欲しかったのだがな」
「そうか! ごめん!」
はい良い返事! 次は気を付けましょう。
「そしてグルオよ。お前は何をしているのだ」
道の途中途中で木に何かやってるの、地味に気になるんだが……
「いえ、その情報は私も知っていたので、念の為に目印として紐をくくり付けているだけです。一応武器にも使われる鋼鉄製ワイヤーを使っているので、そう簡単には切られないかと」
「はい有能」
見たか勇者よ。
これが元魔王城一のエリート掃除屋の力だ。
「すっげー、ワイヤーって武器になるのか! オレ知らなかったよ、さすが先生!」
んー、ちょっと違うがまぁ良いか。
今一つ緊張感に欠けるやり取りをしながら進む内に少し視界が開けた場所に出た。
ここが目的地か?
「わぁ、大きな岩がゴロゴロしてますねぇ~」
森を抜けたら、そこは岩場でしたとさ。
カロンがピョンっと近くの岩に飛び乗る。
転ぶ未来が見えるのは気のせいだろうか。
「あ、マオーさんマオーさん! あっちに大きな穴がありますよ! あれが霧の洞窟かもです!」
「分かったから落ち着け。転ぶぞ」
「平気ですよぅ。私は注意されてから転ぶ程あざといドジっ娘じゃないですから!」
ふむ、なら良いか……
いや良くない、全然良くない!
何故あいつは勝手に洞窟に近付いているのだ!
不用意にも程がある。
「皆早く早く!」と急かす彼女を止めるべく歩き出すと微かな物音が聞こえてきた。
何だ? どこから聞こえてくる?
どうもこちらに近付いてくるような……
「カロン! 伏せっ!」
「ふがっ!?」
俺は咄嗟に駆け寄り洞窟に近付くカロンに足払いをした。
──ピロリロン。
潰れた豚のようなカロンの悲鳴と同時に、しゃがみ込む俺の頭上を飛んでいく複数の黒い影。
ギィギィと鳴くしわがれ声……インプで間違いない。
「っつー……何が起きたんですか……?」
「敵襲だ、構えろ」
「うぅ、戦闘前に負傷したんですが……」
それに関しては正直すまんかった。
転ぶ×
転ばされる○
だったとはな。
まさか顔面からいくとは思わなかった。
すぐに体勢を整え振り返ると既に他の皆が駆け寄って来ていた。
「魔王様、ご無事ですか。そしてレベルアップおめでとうございます」
「俺は無事だがレベルアップ音は空気読め」
さっきのピロリロン、タイミング的に考えてカロンを倒したからだろう。
城を出て初めてのレベルアップだというのに全然格好つかないんだが。
マオー
レベル82→83(+1)
「ぅぐ、時間差で鼻血出たぁ……」
私女の子なのに、と涙ぐんで鼻を擦るカロンには悪いが今はそれ所ではない。
ふむ、三十センチ程の大きさが三匹か。
インプは煽るようにギリギリ剣の届かない高さを飛び回っている。
この大きさのインプにしては賢い。
恐らく近くにリーダー格のインプが隠れているのだろうな。
蝙蝠のような翼をバタつかせ、三匹のインプはギィギィと俺達の頭上を交錯する。
俺は兜があるから平気だが、上手く避けねば頭の毛をゴッソリ毟られるだろう。
「あだだだだ、くそ! 引っ掻くな! 引っ張るな! いってぇ!」
「ひぇぇ、ファイアが当たらないぃ」
ブンブン大斧を振り回しておちょくられるユートと地面を這いつくばって逃げ回るカロン。
「チッ、ちょこまかと……」
「よっ、ほっ、とぉっ!」
少しずつ攻撃を当てて敵の体力を削っていくグルオとエーヒアス。
「皆、頑張れ。多分あと少しだ! 多分!」
「キィ~」
インプの攻撃を華麗なるステップでかわしながら応援する俺とコエダ。
これはバランスのいい布陣ですね(白目)
「しかし無駄な消耗は避けたい所だな……奴等のボスは一体どこに……」
周囲を見回してもよく分からない。
なにせ辺りは茶色い岩場ばかりで隠れられそうな場所ばかりなのだ。
「キー……キィ!」
突然、俺の剣とベルトの間に挟まっていたコエダが飛び降りた。
あっぶな!
慌てて足元を見やるとコエダが岩と岩の隙間を指し示している。
「『あ』」
岩の隙間から外の様子を窺い見ているインプと目が合った。
逃げようと岩から飛び出したインプの胴体を瞬時に掴む。
ぐえっと呻き、インプの親玉は長い尻尾をビクつかせた。
五十センチ位あるな……思ったよりでかい。
「貴様があの三匹の親玉か」
『へ、へぇ、そうデッス』
この大きさならば会話も出来るだろうという読みは当たったが、何だその口調。
癖が強すぎだろ。
「ならばすぐに我々への攻撃を止めさせよ」
『ゲ。アッシの言葉が分かるんデッスかい? あれ? あんさん、もしかして魔族……』
キュッと手に力を入れると、インプはヒィ! と竦み上がって攻撃中止の鳴き声を響かせた。
ギィギィと喧しかった三匹はピタリと攻撃を止め、スーッと森の奥へ逃げていく。
え、リーダー置いていくのかよ!
ちょっと同情した俺は少しだけ手を緩めてインプに語りかけた。
「して、貴様らはここで何をしている」
『いやぁ、何って言われても……ここは元々アッシらの縄張りデッス。だから侵入者を追い出そうとしただけデッス』
「それだけではなかろう。貴様らは基本的に強い者に遣えて生きる習性がある。もし本当に野生ならば、後ろ楯もないのにわざわざ戦いに出る筈あるまい」
図星を突かれたからか、インプはグヌヌ……と尖った歯を食い縛っている。
戦闘を終えた皆がこちらに歩み寄って来るのが背後からの気配で分かった。
「早く答えよ」
『わ、分かったデッス! 言うデッス! アッシらはひと月ほど前からこの洞窟に越して来た魔物の為に働いてるんデッス』
「ほう。して、その者は何者で、ここで何をしている?」
インプが震えながら口を開いた瞬間、コホンとグルオの咳払いが聞こえた。
ハッ!
慌てて振り返るとカロン達が戸惑いと困惑の表情を浮かべて立っていた。
これはヤバい。
しかも驚いた拍子に手を離してしまうという痛恨のミスまでやらかした。
インプはスーッと森の方へ逃げていき、もう姿は見えない。
……やってしまった。
「あの、マオーさん……? 今の、まさか魔物とお喋りしてたんですか……?」
「いやぁ、気のせいデッスよ」
「そうかしら? 私にもまるで会話しているように見えたのだけれど」
「そんなバナナ」
まずい、まずすぎる。
これは非っ常~にまずい。
魔物の言語が分かるなど、人間からしたらあり得ない事だろう。
助けてグルえもん……は青空を見上げて現実逃避している。
ずるい。
さて、この窮地をどう切り抜けたものか──
「マジか! 兜の兄ちゃん、魔物と喋れるとか、すっげー特技じゃん!」
そ、それだ!
敵ながらナイスアシストだ、ユートよ!
「……フッ、最近の通信講座は多種多様だからな。やってて良かった魔物語学習。無駄にはならない資格取得……」
「おぉ! 案外兄ちゃんは勉強家なんだなぁ!」
「まぁな。スピーディーにバーニングったのが役に立ったぞ」
「魔王様、それを言うならラーニングです」
今なら初回一ヶ月無料。
体験講座も受け付け中。
詳しくはお近くの魔王城にて。
「ほぁ~……最近の通信講座は凄いんですねぇ」
「知らなかったわ。ギルド就活するなら役立ちそうな資格ね」
よっしゃ乗りきった!(YES! YES!)
ぶっちゃけエーヒアスが信じるのは予想外だったけど助かった!(HEY! HEY!)
今年度一のドヤ顔をグルオに向けると、驚く程やる気のない拍手を贈られた。
この温度差よ。
「あー、んん゛っ! とにかく、話を戻そう。先程のインプの様子から察するに、少し前から何かがこの洞窟に住み着いたようだな」
「少し……ってぇと人攫いが始まったのが一ヶ月前。……ハッ! そいつが犯人か!」
よしよし、上手く話が逸らされたぞ。
「じゃあ、その犯人がインプを従えてるって事になるのかしら?」
「人間……なんですかねぇ……? 黒魔道士とか?」
何でも良いけど、ここ洞窟の前なんだよなぁ。
敵の自宅前で長々と立ち話はどうかと思うのだが……
いつの間にかグルオは洞窟の入り口をこそこそ調べてるし。
ここは自由の国か。
「お前達、そろそろ次の行動を決めよ。埒が明かぬ」
「それもそうだな。よし! 洞窟に入ってみよう!」
やっとか。
「して、グルオ。今度は何をしている」
「いえ、入り口に矢が飛んでくる罠が仕掛けられていたので解除してました。もう通れますよ」
「有能っ」
そういやこいつ、仕掛け罠検定準一級取ってたな。
俺も今度何か資格取ろうかな、モテそうなやつ。




