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3、Gは叩くと菌が撒き散らされるから気を付けよう

「あんたら、ここ一ヶ月の間に起こってる人攫いの噂って知ってるか?」


 おぉ。

まさかヒィの町に着く前に情報が手に入るとは思わなんだ。

青年は神妙な面持ちで腕を組む。


「話によると、この広いドマンナ街道の一部。霧の洞窟へ続く道周辺でのみ人が居なくなるそうなんだ。それ以外の場所での被害報告は無いってさ」


 やっと真面目なターンがやって来た。

グルオとエーヒアスも真剣に相槌を打っている。


「なるほど、それで霧の洞窟に人攫いがいると考えられたのか」


「被害者に共通点はあるのかしら?」

 

「あるぞ。被害者は分かっているだけでも九人。ほとんど女。大体一人か二人の所を狙われている。目撃者はいないし、戻ってきた人もいないらしい。噂ばかりが広がっているみたいだ」


 ふむ、それは難儀な話だ。

人攫いと聞いた時は漠然と奴隷商人か女好きサイコパスの犯行かと思っていたが、目撃者が全くいないとなると魔物の線も考えられる。


「だから、オレは美魔女のフリをして敵の目を欺こうとしたんだ! いわゆる囮ってやつだな! 全然犯人出てこなくて魔物に囲まれただけだったけどな!」


 なんも言えねぇ。

こいつ馬鹿だ。

あれのどこが美魔女だったのかと小一時間問い詰めたい。

俺的ツッコミポイントは軽く流し、グルオは情報を集められるだけ集めていく。


「ほとんど……という事は、男の被害者もいたという事か?」


「そうだ。その被害者は女に間違われたんだろうって言われてたよ。可哀想な話だよな!」


 なるほど、中性的な美男子だったのだろうな。

いつもならイケメン爆発とか軽いノリで言えるのだが、実際に被害に遭ったイケメンには同情す……


「ほら、たまにいるだろ? オジサンだかオバサンだか微っ妙~に分かんない奴。なんかそういう人だったらしい!」


「待て、ちょっと待て!」


「ん? ここで待ってればいいのか?」


「違うそうじゃない」


 え、どゆこと?

理解が追い付かないんだが、もしかして俺、根本的な所で勘違いしてる?


「青年よ。悪いが、被害者女性の共通点をもう少し詳しく」


「あ、オレ、ユート! ユート・ルーリッヒ!」


 青年ことユートは元気よく片手を上げて挨拶する。

うん。元気なのは良いことだ。

花マルやるから話を進めて。


「……ユートとやら。もう少しkwsk」


「良いぞ! えぇっと、被害女性の年齢は四十代から七十代! 全員今は独り身で戦闘経験はなし!」


「おぉ、うん、そうか……そうか」


 前半の情報のせいで後半の情報が霞んだわ。

年齢の幅が予想外すぎるんだが。

ほら見ろ、他の三人も目が点になっている。


「……確かに、誰も『若い女性』なんて言ってませんでしたね」


「あら、女はいくつになっても女よ?」


「でも正直意外ですぅ……」


 分かる、分かるぞカロン。

被害者には悪いが何とも言えないこの感じな。

微妙な空気も意に介さず、ユートは熱く拳を握る。


「俺、一刻も早く拐われた皆を助けなきゃいけないんだ! 勇者がこんな所でつまづいて、立ち止まってる訳にはいかない!」


「「え゛?」」


 珍しく俺とグルオがハモった。


「ゆ、勇者? あぁ、勇者目指してんの? あるあるぅ~。俺も子供の頃サンタさんになりたかったもん」


「んん? 俺は別に勇者目指してないぞ? 国王に頼まれて魔王を倒すついでにここに立ち寄った勇者だ!」


 ほら、と掲げられたのは金縁の冒険者登録証(カード)

覗き込むと確かに明記されていた。


──名前『ユート・ルーリッヒ』

称号『勇者』

職業ジョブ『戦士』

レベル30


「……ちょっと失礼。グルオ」


「……はっ」


 俺とグルオは少し離れた木の陰に移動する。


「ヤバイよヤバイよ! マジの勇者来ちゃった! これ身バレしたらヤバくね? かなりヤバくね!?」


「魔王様、語彙力が息してません。まずはおち、落ち着きましょう。幸い奴のレベルはまだそんなに高くありましぇん。殺るなら今です」


「噛んでる! お前も落ち着け! もう俺は魔王引退してるし、とり、とりあえず様子を見くぁwせdrftgyふじこlp」


 これは困ったなんてもんじゃない。

風呂入る直前にゴキブリの親子を発見した時以来の大ピンチである。


「なぁ、あんたらさっきから何をコソコソ話してんだ?」


「なな、何でもないともさ! なぁグルオ!」


「はい、何でもないです」


 俺達は渋々と木陰から姿を現す。

こうなったらさっさとこの場を乗りきって隠し通してやる!


 ユートは不思議そうな顔をしていたが、すぐに考えるのを止めたようだった。

助かる。


「オレ、先を急いでるんだよ。だからお願いだ! 力を貸してくれ!」


「えっと……そうだな……むぅ……」


 何と答えるべきか言い淀んでいると、カロンがハイッと挙手した。


「マオーさん! ぜひ! 勇者さんに協力しましょう!」


 いやぁぁぁああぁぁ!?

何言ってくれちゃってんのカローーン!?

そういやこいつ、ゆくゆくは勇者のパーティーに入って安定した収入を得るのが夢とか言っていたな。

誰だよそんな無謀な夢を早めに否定しなかったお人好しの馬鹿は!


「おぉ! 魔法使いのお前、良い奴だな!」


「カロンです! ちなみにレベルは5です!」


「あっ…………そ、そうか……」


 あれ、これ逆に断られるかもしれんな。

ナイスだ、カロン。

しかし彼はネバーギブアップ精神が強いらしい。

すぐに気を取り直してグルオに詰め寄った。


「なぁなぁ、さっきの戦いで思ったんだけど、兄ちゃんはかなり強いよな! 頼むよ! 人助けだと思ってさ! な? な?」


「うるさい、すり寄るな」


 ゴスッと落とされるゲンコツ。

お前何してんの!?

回りくどい自殺かよ。

なんで殴っといて「しまった!」みたいな顔してんだ。


「いってぇ~……やっぱ強ぇじゃんかよぉ」


 防御力が高いのだろう。

ユートは軽そうな頭を擦りながら頬を膨らませる。

グダグダな展開を見かねたエーヒアスが眉間を押さえた。


「協力するしないは別にして、そろそろ移動した方が良いんじゃないかしら? もうすぐ夕方になるし、暗い森は危険よ」


 言われてみれば確かに!

俺達はまだ本日の宿も確保していないのだ。

もう野宿だけは勘弁である。


「ユート、だったかしら。ここからヒィの町までどれ位かかるか分かる?」


「ここからなら歩いて四十分って所だな!」


「そう。なら、今日は予定通りヒィの町に泊まって、霧の洞窟に行くなら明日以降って事にしない?」


 冷静なエーヒアスがいて助かった。

そうしようそうしようと俺達はぞろぞろ森の道を引き返し、ドマンナ街道まで戻るのだった。

あぁ、疲れた。




 そうして辿り着いたヒィの町。

のどかで小さな田舎町だ。

道を歩けば必ず鶏かロバか羊か牛の鳴き声が聞こえる。

仕方ないとはいえ動物臭い。

どうしても衛生面が心配になってしまう。


 そんな町の片隅にある酒場兼宿屋……の一室に俺達はいる。

問題なのはただ一つ。


「ユートよ。なぜ貴様が同室なのだ」


「いやー、まさか大部屋一室しか空いてなかったとはな! でも知り合い同士で安心したよ!」


 お前が安心でも俺が安心出来ないのだが。

何だろう、見えない嫌な力が働いている気がする。

ユートはベッドの縁に座り人懐こい笑顔で体を揺らす。


「なぁなぁ、これも何かの縁だしさ! 明日頼むよ! 霧の洞窟探索!」


「そう簡単に言われてもな……」


「ちゃんと騎士団の人にはあんたらの協力の事話すって! それに、もし拐われた人を無事に助け出せたら、その人からも感謝されるんだぜ! 悪い話じゃないと思うんだけどなぁ」


 悪い話じゃない。

ただ、メンツが悪い。

何故(元)魔王が新米勇者と仲良く国王の頼みを聞かなければならんのだ。

それも生きているのかすら分からない人間の為に、だ。

俺とグルオのリスクが高すぎる。


「あのぅ、マオーさん。どうしてこの依頼を引き受けたがらないんですか? 最初はどっちでも良さそうだったのに……」


 チッ。

カロンめ、余計な事を……

おかげでユートの目が輝きを増してしまったではないか。

その澄んだ目を向けるの止めろ下さい。


「なら決まりで良いじゃんか! あ! もしかして兜の兄ちゃんって今流行りの『つんでれ』って奴なのか!」


「それはない。しかも今流行りではない」


「そーかぁ?」


 こいつはなぁ……どこか憎めないのが末恐ろしいんだよなぁ……

頭が弱そうだし、まぁまぁ良い奴っぽいし、無視して洞窟で死なれても目覚めが悪いし……どうするかなぁ……


「でもオレ聞いた事あるぞ! つんでれってツンッてかっこよくて、良いことして皆をデレッてさせる美男美女の事を言うんだろ?」


「ユート君、君は人を見る目があるな!」


「魔王様ェ……」


 俺の格好よさ、やはり分かる奴には分かるんだな!

気に入った!

洗面所の方からグルオのため息が聞こえたが、聞かなかった事にしよう。


 とにもかくにも、明日は霧の洞窟へレッツラゴンだ!




「……ところで、さっきからそっちの金色兄ちゃんは何やってんだ?」


「……別に、魔王様の服を洗っていただけだ。……ちなみに洗濯用洗剤は、石鹸や台所用洗剤で落ちない黒ずみ汚れを取る事が出来る」


 ま~た始まった、グルオのうんちく。

スッとカロンがメモを取り出すのも、もう見慣れた光景である。


「洗面台や鏡、シンクなどに有効です。食器やトイレには使えませんが、原液を薄く伸ばし、ティッシュなどをかけて放置。その後スポンジで軽く擦り水でよく洗い流して下さい」


「はい、先生! 何でティッシュをかけるんですか?」


「かける、というより『浸す』の方が正しいですね。要は液ダレさえしなければいいのです」


「ほぉ~……」


 熱心にメモをとるカロン。

お前は何を目指しているんだ。


「はいっ! 先生! 逆に食器用洗剤で服は洗えますかっ!?」


 増 え た 。

ピシッと手を挙げるユートにグルオは「これは面白い質問ですねぇ~」と目を細める。

スイッチ入ったグルオに質問するとかあいつ勇者かよ。

勇者だった。


「食器用洗剤は中性や弱アルカリ性のものが多く、洗濯用洗剤は弱酸性か弱アルカリ性が多いです。汚れの種類によって使い分ける事が肝心で、衣服の汚れの大半は皮脂による……」


「……エーヒアスよ。俺はもう寝るぞ」


「あら、結構面白いのに。おやすみなさい」


 付き合ってられん。

俺はうつらうつらしているコエダを枕元に寝かせ、ベッドに潜り込むのだった。

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― 新着の感想 ―
ここまで読ませていただきました。この物語、どこを切り取っても本当に面白いですね。ドマンナ街道をゆく魔王様の日記がどれも面白かったです。 そして、突然現れた花柄ワンピースの女性…と思ったら、まさかの(…
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