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1、ベッドマットのダニは部屋を暗くして暫くしてから掃除機

 モチット町から東に半日歩いた場所にある、ドマンナ街道入り口。

そこにはツッムの関所と呼ばれる小さな検問所があり、不審物を持ってないか、お尋ね者はいないか等の簡単な検査が行われている。


 内心ハイパードッキドキ。

これ「魔王だー! 者ども、であえであえー!」ってなったりしない?


 しかし俺の心配をよそに、冒険者登録証(カード)見せただけであっさり解決。

警備ザルかよ。

その甘さは逆に不安になるわ。


 所持金の額には少し驚かれたものの、後ろ暗い物は何も無い金である。

素直にマイホーム資金だと言ったらすんなり納得して貰えた。

あえて言うなら父上の形見を勝手に売った後ろめたさは少しあったが。




 無事にツッムの関所を突破した俺達は延々と続く広い道を前に立ち並ぶ。

平坦な道の先は何があるのか全然見えない。

道の両側には青々とした平原が広がり、遠くに山や森が見える。


「おぉ、これがかの有名なドマンナ街道! トチュー大陸のど真ん中にある、世界一大きな街道か!」


「何故説明口調なんですか、魔王様」


「馬車も多いですねぇ」


 カロンが馬糞を避けながら辺りをキョロキョロと見渡す。

行商人らしき馬車の他にも冒険者らしき人々の姿がチラホラと見られた。

道自体は至ってシンプルで、長年踏み固められた固い土の道である。

とにかく横に広く、そして先が長い街道だ。


「モチット町が活気付いたのもあるし、前より往来が増えたのね、きっと。フフッ、良い事だわ」


「なるへそ。街道の途中にも立ち寄れる村がいくつかあるらしいし、そんなに焦って進まずとも良さそうだな」


 俺の気楽な言葉に同意して、グルオも地図を片手に頷く。


「そうですね。なるべく小金を稼ぎつつ、ドマンナ街道を抜けた先のコレカラ町を目指しましょう」


 この時の俺は気付いていなかった。


 世界一と呼ばれる街道の真の恐ろしさを……




──今日はドマンナ街道を歩いた。

立ち寄ったのはツツイの宿。

今日はここで休む事となった。

ベッドメイキングの雑さに俺とグルオがキレた。


(魔王の日記、一部抜粋)



──今日もドマンナ街道を歩いた。

立ち寄ったのは有料キャンプ地。

温泉もあるが、人の入った湯などマヂもぅムリ……諦めょ……

俺はかけ流しの湯で泣く泣く湯浴みをするだけとなった。

風呂に入れず覗きも出来なかった俺は、一睡もしないで人生初のハンモックを楽しんだ。


(魔王の日記、一部抜粋)



──今日もドマンナ街道を歩いた。

立ち寄ったのはツッヨ村。

グルオとカロンが畑仕事を手伝って報酬を貰っていた。

エーヒアスも鍛冶仕事してた。

俺は爪を切ったり枝毛を探した。


(魔王の日記、以下略)



──今日もドマンナ街道を歩いた。

立ち寄ったのはミィの村。

森での狩猟や川の漁が盛んらしい。

グルオ達が何かやってたようだがよく知らん。

偶然知り合った爺さんと仲良く喋っていたら、徘徊癖のある探し人だったらしい。

息子夫婦からお礼にと沢山の干し魚と三〇〇エーヌ貰った。


(魔王の日記、以下略)



──今日もドマンナ街道を歩いた。

立ち寄ったのはフゥの宿。

でかいしそこそこ綺麗。

エーヒアスが宿の客にナンパされてた。

相手にされてなかった。

ざまぁぁぁ!(以降、字が乱れて解読不能)


(魔王の日記、以下略)



 今日もドマンナ街道を歩いている。

……


…………


…………あー、もう!


「何っなんだ、この大した事が何もない日常は!? 全然代わり映えがないではないか! こんな平凡な生活を、ただ繰り返す毎日! このありふれた日常を壊す何かは起きないのか!?」


「魔王様、言ってる事が平凡太のモノローグと完全に一致してます」 ※一章二話参照


 だって! これ! 冒険者の旅!

このまま特筆すべき事が起きないなら、「次回、最終話。魔王の家完成! 尺がないので早送りダイジェストでお送りします」とかになりかねん。


「落ち着いて下さい、魔王様。まだ回収してないフラグがあります」


 そう言ってグルオはペラリと地図と国王からの手紙を取り出した。


「国王の手紙にあった人攫いが出るという霧の洞窟ですが、どうやらこの先にあるようです」


「えっ、何それ物騒じゃん。怖いから早く離れよ?」


「何を仰ってるのか理解出来ませんが、これは追加の謝礼を貰える絶好のチャンスです」


 金色の瞳をギラつかせるこの男に、誰か俺の言葉を届けて。

人攫いと聞いて完全に尻込みしたカロンがおずおずと挙手をする。


「あのぅ、いきなり行くのは危なくないですか? そういうヤバそうな事件は騎士団や、最近現れたという勇者様にお任せした方が良いんじゃ……」


「そうよねぇ。やるにしろやらないにしろ、情報がない事には動けないしね」


「いやいや、エーヒアス。私はやめた方が良いと言ってるんですよぅ……」


 ふむ。

霧の洞窟攻略に()る気満々のグルオ。

状況によっては引き受けても良いと考えるエーヒアス。

怖いから関わりたくないカロン。


 さて俺はどうしたものか……

正直、国王と関わりを持つ可能性があると考える時点でかなーーり面倒くさい。

でもなぁ……確かに謝礼は魅力的な話である。

ここに至るまでの日記を思い返すと、そろそろ大きな収入が欲しい所だ。


「……よし。まずは次の宿を確保し、人攫いの情報を集めよう。話はそれからだ」


「分かりました。では今日の所はひとまず霧の洞窟はスルーしてヒィの町を目指しましょう」


「あう……何事も起きませんように……」


 カロンは不安げにとんがり帽子を深く被り直している。

どうやら彼女には挑戦するやる気というか、戦う心構えのようなものが足りないようだ。

こんな逃げ腰のままではレベルなんて中々上がらないだろう。


 仕方ない、一肌脱いでやるとするか。

俺は歩きながら、子供の頃に読まされた「クソガキ必読! サルでも分かる戦いの心得~初級編~」をカロンにレクチャーしてやるのだった。




 一時間後──


「……あと、敵からは決して目を離すな。どんなに怖くとも睨めっこのつもりでいけ」


「分かりました! それにしてもマオーさんって意外と教えるの上手ですよね」


「キー!」


 あの本の作者すげぇや。

俺の話に食いつくように、カロンと帽子に乗ったコエダが聞き入っている。


「何なら俺を師と崇めても良いのだぞ、カロン」


「うわ……それはちょっとどうかと思う提案ですねぇ」


「普通に傷付く返答はちょっとどうかと思いますねぇ!」


 凹みー。

デイグ氏とエーヒアスみたいな何だかんだで信頼しあってる仲良し師弟感、少しばかり憧れたのだがなぁ。




 そうこうしている内に、我々はついに霧の洞窟へ続く分かれ道の前まで差し掛かった。


 道の入り口にはロープが二重でかけられていて、一応は通れないように措置されている。

ご丁寧に看板まで立てられており、そこには「この先、霧の洞窟。変質者注意!」と微妙に下手な手書きで書かれていた。

そんなんで良いのか、国の対応。


 何にしろ今はスルーである。

まっすぐヒィの町に行くとしよう……と思うじゃん?


──ピギィィイイィィ!


 再び歩き出した俺達の耳に、金属のぶつかる激しい音と獣の鳴き声が飛び込んできた。

何事だ。


「おぉい、誰かいないかー!? いるなら手を貸してくれーっ!」


 あ、これ確実にめんどくさい展開だ。

俺の第六感(シックスセンス)がそう言っている。

助けを求める男の声は、ロープが張られた看板の向こう側──霧の洞窟へ続く道から聞こえていた。

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