9、二人以上での清掃は役割分担と協力する心が重要
彼は胸まであるバサバサの髭をさすり、俺を見上げる。
しかし小さいな。
ドワーフとしては標準サイズなのかもしれないが、俺の腰位しかない。
「お前の弟子を名乗る者に頼まれてここまで来たのだ。外で弟子が待っているぞ」
「……フンッ。あのじゃじゃ馬のハナタレが。余計な事を……」
ドワーフは名乗りもせずモサモサの頭を掻いて階段を上り始める。
うぅむ、取っつきにくい。
地下室に一人残された俺は更に奥にある檻を振り返る。
こっちも気配が多いな。
蠢く気配と息遣いが伝わってくる。
すぐに助けてやりたいのは山々だが、今魔物を出したら大混乱だろうからなぁ……
「……あと少し待て。必ずまた戻って来ると約束しよう」
こうなったら善は急げである。
さっさと人払いをしてここの魔物達を逃がしてやるとしよう。
俺は足早に階段を上りグルオ達との合流を急ぐ事にする。
「う、うわぁっ!?」
「お、お前はっ……!」
階段の途中で先に地下室を脱した人達の驚く声が聞こえてきた。
「おおっとぉ? 今度こそ新手か?」
ダッシュで階段を上りきると書斎部屋の扉にラピスが寄りかかって立っていた。
もう意識が戻ったのか。早いな。
部屋から逃げ遅れた半数近い人間が怯えたように後ずさっている。
いや、そんな事より重要な所がある。
俺のマントを体に巻いてるとか何それえろい!
肩ちょっと出てる! ありがとうございます!
「地下が怪しいとは思っていたが、まさかこんな所に階段があったとは……」
ラピスは悔しげに俺を……というより俺が出てきた隠し階段を睨み付けている。
彼女は自身の格好を恥じらうでもなく扉を殴り付けた。
「チィッ! お前達のせいでこちらの計画は台無しだ!」
「女性陣による塩対応からの流れるような罵声……もう何も怖くない」
悟りを開いていると、ラピスは怯える者達に向かってヨロヨロと姿勢を正した。
「皆の者、安心しろ。私はラピス・リーアヤード。国王様直々の命により、内密にギャンザク邸の調査に入っていた者だ」
ラピスが凛々しい名乗りを上げると書斎部屋はどよめきに包まれる。
え、待って。
俺情報弱者だから処理が追い付かないんだけど。
ぽか~んとする俺を残して話は進む。
「リーアヤードってまさか貴族の……?」
「そんな、どうして貴族様がこんな町に……!?」
「詳しい話は館の者が集まってから事情聴取と共にさせて貰う。ひとまずこの場にいる全員、部屋を出ろ」
「はっ、はいぃっ!」
なんて高圧的なんだ。
貴族なら仕方ないのかもしれないが、彼女の場合はただ真面目が過ぎるといった印象だ。
どちらかというと騎士的な物を感じる。
「兜の男、お前もだ。腕が立つのは認めるが、以後、こちらの指示には従って貰おう」
「オッケーポッケー」
敵じゃないならあえて逆らう理由もない。
俺達はゾロゾロと書斎を出て玄関前の大広間に向かう。
廊下の途中で振り返ると、丁度ラピスがわき腹を押さえて顔をしかめている所だった。
「俺が言うのも何だが大丈夫か」
「……くっ……気遣いは不要だ。自分が未熟だっただけの事」
いや、ものっ凄ぉ~い悔しそうなんだけど。
睨むのやめて、無意識でもやめて、ツラい。
それにお前結構強かったから。
多分グルオと良い勝負いけるから!
大広間には先程より人が増えていた。
隠れていた使用人やメイドが出てきたのだろう。
皆ギャンザクを取り囲んでギャーコラやってる。
全く騒がしいものだ。
グルオは……あ、良かった起きてる。
カロンにアイアンクローをかましているが、一体何があったのやら……
二人のやり取りを見て笑っていたエーヒアスはこちらに気付くと珍しく大声を上げた。
「師匠っ! マオーさん!」
「こぉんのハナタレがぁ!」
ゴチーン!
えぇぇ……
師匠と弟子の感動的再会……と思ったらいつの間にか弟子がぶん殴られていたでござる。
弟子がセクシー美女エルフとか関係ねぇという頑固親父の恐ろしさを垣間見た瞬間だった。
「儂に構わず逃げろと言っただろうが! 何をノコノコ戻って来てんだこのハナッタレ!」
「痛いわね殴る事ないでしょ! このヒゲ親父っ!」
バチーン!
えぇぇ……(困惑)
ギャラリーの皆さんも引いていらっしゃる。
エルフとドワーフはあまりそりが合わない種族と聞くが、これはなんと言うか……
誰かがボソリと「親子喧嘩だ……」と呟く。
それだ!
和み始める空気の中、スッとグルオとカロンがやって来た。
いやぁ、三人揃うと落ち着くわー。
「魔王様、ご無事で何よりです」
「お前はご無事じゃなかったけどな」
「申し訳ありません。レベル的に無理ゲーでした」
レベルが足りなかったなら仕方ない。
「先生もまだまだって分かって私は安心ですよー」
フハーッと笑うカロンの顔は中々に腹立つ饅頭のような顔をしている。
あぁ、これはアイアンクロー案件だ。
わいわい騒ぐ俺達だったが、「そろそろ良いか」というラピスの冷たい声で大広間は一気に静まり返る。
これが鶴の一声というものか。
「改めて名乗ろう。私はラピス・リーアヤード。王家配下の騎士である。この辺りの税の徴収率と町の雰囲気、噂に疑問を持った国王様の命により、身分を隠して内定調査に入っていた」
ほんとに騎士だった。
己の勘の良さに自分でもビックリである。
ざわ……ざわ……というどよめきの中に「確かリーアヤードって、何年か前に貴族の地位を剥奪されたんじゃ……」という声が聞こえてきた。
あちゃー、それマジでか。
つまりラピスとしては、ギャンザクの悪事を暴いて国王に気に入られようとしていた矢先、俺達に手柄をかっさらわれてしまった……と。
だからあんなに怒ってたのだな。
ごめりんこ。
「それは本当か……!?」
それまで大人しく縛られていたドーザーが驚いたように頭を持ち上げた。
今度は何だ。
「俺はイヨイヨ町の正規ギルド員、ドールザーだ。この町から逃げ延びてきた男に極秘で依頼され、旅の傭兵だと偽り潜入調査していた」
お前もかーい!
え、何この空間。
付き人のフリをした騎士。
傭兵のフリをしたギルド員。
人間のフリをするグール。
冒険者のフリをする元魔王。
身分を偽る人多すぎだろ!
ラピスが渋い顔をしてドーザー改めドールザーの前に立つ。
「それは本当か。私はてっきり、お前はギャンザクの右腕だと思っていたぞ。魔物の取引きに居合わせていたようだし、何より人質の居場所を知らされている数少ない一人だったからな」
「……その言葉、そのまま返す。確かに取り引きの証拠は押さえていたし、人質の居場所は把握していた。……が、俺はお前が不正の証拠書類を管理していると踏んでいた」
「くっ……確かに書類の管理は任されていた。だが不正の証拠だけではギャンザクを追い詰める決め手にはならず……」
ギスギスする空気をカロンの素朴な疑問がぶち壊した。
「? つまりどういう事です? もっと簡単に言って下さい」
「フフ、つまりお互い同じ目的だったのに、敵同士だと思って話が進まなかったって事ね」
流石エーヒアスである。
さっきまでドワーフと殴り合っていたとは思えない、実にサラッとした解説だ。
気が抜けたのか、アホらしいと思ったのか……
ラピスとドールザーはガックリと肩を落とした。
当然か。
情報共有が出来ていたら、もっと早く証拠が揃って事件解決していたかも知れないのだからな。
と、ここで発狂したのはギャンザクだった。
ギャンザクは怒りで我を忘れたかのように頭を振り乱し始める。
肩を震わせ唾を撒き散らし、ひたすら怒鳴る姿は正気とは思い難い。
「だぁぁあぁ! くそが! この裏切り者共! ワシは国王の身内だぞ! この町の領主様だぞ!? それを庶民が! 冒険者風情が! 何なんだ、くそが! ほおぉぉん!?」
逆ギレ、カッコ悪い。
いい加減耳障りが過ぎると思っていると、ラピスの部下らしき騎士達がドヤドヤと押し入ってきた。




