8、戸棚や本棚の裏は埃の巣窟
ちなみにさっきの「ドドンッ!」って音はただの効果音ではない。
本当に辺りに響いた音である。
「ふはははは! これぞ俺の超裏奥義、『正々堂々と見せかけて魔法発動』である!」
斬りかかると思ったか? 残念だったな!
この技が裏奥義の理由は単純である。
普通に卑怯だからだ。
しかも魔王のくせに光魔法っていうギャップ付き。
もちろん俺の弱点属性な為、威力はかなり弱めだ。
超練習した。
光の柱が直撃したドーザーはプスプスと煙を上げて地に倒れている。
あれ? 出力間違ってなかったよね? 生きてるよね?
「ぐぬ、ぬぅぅ……」
「あ、生きてた。YATTA」
意識はあるようだがとても立ち上がれる状態ではないらしい。
ドーザーは観念したように瞠目して肩の力を抜いた。
……残るは……
クルリと振り返るとギャンザクは「ヒィッ」と腰を抜かす。
どうやら俺の魔法を至近距離で見て心が折れたらしい。
というかこいつ地味に運良いな。
まさか一発も当たらないとは驚きである。
さっきの魔法、グルオ以外を狙った広範囲無差別攻撃だったのに……
やはり今の俺は命中率が低いらしい。
丸い焦げだらけの大広間の隅で、ギャンザクはガタガタと震えている。
「さて、ギャンザクよ」
「ギャアァァ!」
いや、まだ何も言ってないから!
「た、助けてくれ! そ、そうだ! ワシの」
「断固拒否」
「いや、まだ何も言ってないから!」
内容くらい予想がつく。
どうせ「ワシの元で働かんか? 金なら弾むぞ」とか言うのだろう。
そういうテンプレいらないんで。
「今すぐ地下の人質と……あと魔物を人里離れた森に解放しろ。そして今まで犯した過ちを全て自白し、領主の座から退け」
「そ、それは……!」
ここで悩むのかよ。
よほど今の生活を手放すのが惜しいと見える。
チャッと剣をちらつかせると、ギャンザクは脂汗を流しながら声を絞り出した。
「……分かった。分かったから、今は見逃してくれ! 頼む! 必ず約束は守る。心を入れ替え、皆解放する。信じてくれ……!」
「後でやろうはバカ野郎って教わったのでな。本当に約束する気があるなら今すぐここで果たせ」
「えっ……」
「えっ?」
何こいつ。
もしかして人質が解放されたかどうか、俺が日を改めて確認しに来るとでも思ったの?
流石にそれはない。
「とりあえずは身柄の拘束をさせて貰う。次にまだ残ってる屋敷の者に命じて人質の解放。魔物の解放は危ないから俺がやろう」
「ちょ、待っ」
「それが終わったらモチット町に連行する。町の者に説明会と謝罪会見だ。最後は町の者の判断に委ねるが、まぁ間違いなく国王の元に悪評が届くだろうな」
「それだけはっ! それだけはあぁっ……!」
国王に知られる事だけは避けたいらしい。
当然か。
散々国を後ろ楯に悪政を強いていたのだ。
国王の遠縁らしいし、国の面汚しとして重い罪に問われるだろう。
ギャンザクは床に頭を擦り付けて号泣し始めた。
「ワシはぁぁもう一生懸命ほんとに町の人々の事を思っでぇエェぇー! 税金や魔物の問題はー! ワシが解決するためゥウワッハーァ! これらは全部ワシ等の問題でぇー! お前のような冒険者にゃ分からないでしょうねぇ!」
「うん。アウトゾーンに足を踏み入れてる事だけは分かる」
チャレンジャーかな?
こちらの寿命縮むから止めろし。
嗚咽を漏らすギャンザクをどうした物かと見下ろしていると、複数人が近付いてくる足音が聞こえた。
新手だろうか。
「マオーさぁん! ご無事ですかぁ!?」
「何だカロンか」
カロンは「何だとは何ですか!」と頬を膨らませ、普通に玄関から入ってきた。
すぐ後ろにはエーヒアスを始めとする使用人らしき人間達の姿もある。
「ちょうど良い。ギャンザクを制圧した。俺は触りたくない。誰か代わりに縛り上げよ」
「わぁ、マオーさん相変わらずですねぇ」
だってこの人脂ギッシュなんだもの。
ばっちいのイヤ。
「して、後ろの者達は?」
「無理やり働かされてた人達よ。あのラピスってヒトがやられるのを見て、マオーさんならもしかして……って思ったみたい」
「ふむ。こちらの優勢を判断して、反旗を翻し味方になってくれた、と……」
なら後は地下に行くだけだな。
下に行く階段はどこだと辺りを見回しているとカロンが悲鳴を上げた。
「せせせっ先生がやられてるぅ!?」
「あ、やべ忘れてた」
カロンはグルオの両肩を揺さぶり「先生、死んじゃダメですー!」と派手に叫んでいる。
小さく「うるさっ……」と呟くグルオの声は彼女には聞こえてないようだ。
「エーヒアス、グルオの回復を頼む。カロンもだ」
「フフ、はいはい」
エーヒアスはぐったりと横たわるグルオに手をかざし、回復魔法をかけ始めた。
カロンはグルオの傍で「痛いの痛いのあのオッサンに飛んでけー」と必死に呟いている。
よしよし、あの様子なら地下室の事など忘れているな。
「今から捕らわれている者を解放してくる。全員、この男には色々思う所があるだろうが、今は殺すな。そこの大男もだ」
俺の指示を聞いた元使用人達は全員複雑な表情を浮かべる。
ギャンザクが彼らに何をしてきたのかは知らないが、この反応は無理もないのかもしれぬ。
俺は一番年配の使用人に案内役を頼み、地下室に繋がる階段へ向かう事にした。
後ろの方で使用人やメイド達がギャンザクをきつく詰る声が聞こえたが、これはまぁ自業自得であろう。
使用人は奥まった場所にある書斎部屋に入ると、大きな戸棚を横にスライドさせる。
戸棚の後ろには小さなスペースがあり、石造りの階段が顔を覗かせた。
「隠し階段か……」
よく作ったものだ。
これは一見しただけでは気付けないだろう。
「定期的に入る監査の目を逃れる為です」
「なーる」
燭台を持つ使用人の後に続き、コツコツと長い階段を降りる。
手入れはされているのか、クモの巣だの埃だのといった汚れは見当たらない。
それほどよく通る通路という事か……
地下室は思いの外広くて涼しい。
おまけに血の匂いと腐肉の匂いが凄まじい。
きっついわー。
「皆さん! 大丈夫ですか!? ギャンザクは捕らえられました! もう自由ですよ!」
使用人の男の言葉に、うぉぉぉーっ! と大きな歓声が反響する。
檻の奥は薄暗くてよく見えないが、捕らわれていたのは十五人前後といった所か。
人質達はやつれてはいたものの、特に縛られた様子はない。
皆押し合い圧し合い、鉄格子に掴みかかる。
「本当か! さっきの金髪の兄ちゃんがやってくれたのか!?」
「随分やられてたようだったが、あの兄ちゃんは無事なのか!?」
「うぅ、あんな若いのに俺らを庇って戦って……」
良かったなグルオ。
めっちゃ心配されてるぞ。
「素敵な人だったわ……ぜひお礼が言いたい!」
「私も! ボロボロになっても私達を逃がそうとしてくれて……大恩人だわ!」
「本当に格好良かった……『邪魔だ、下がってろ!』って……キャーッ。もう一度言われたい!」
……
…………
………………もしも願いが叶うなら、あいつが今の俺と同じ位モテるようになりますように。
気を遣った使用人が「いや、ギャンザクを捕らえてくれたのはこちらの兜の方です」と皆に説明してくれている。
ありがとう、名も知らぬ使用人よ。
そしてそこの女子!
「あ、そうなの……それはどうも」はないだろ!
俺だってかなり頑張ったんだけど!
こうして俺は心身ボロボロになりつつも、地下室に閉じ込められていた人間を檻から出す事に成功したのだった。
~完~
「……っとちょっと待て。危うくいい感じに終わる所だった」
肝心な事を忘れてた。
エーヒアスの師匠!
「ここにドワーフは捕まっていないか? 鍛冶職人のドワーフなのだが……」
「儂に何の用だ、小童」
「あ、普通にいたのか」
ゾロゾロと檻から出てくる人間の最後尾に、小柄でずんぐりとした黒い髭もじゃがいた。




