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7、フローリングの浅い傷は濡れタオルとアイロンで修復ワンチャン

 魔王の城を出て以来、俺は数ある困難にぶつかってきた。

ボロい宿、馬糞の道、ベタベタの潮風、畑での戦闘、初野宿、寝不足の連戦、エトセトラ……


 だがしかし、これ程の危機に直面した事はあっただろうか。


「あぁぁぁ!? 何でホワイ!?」


 ラピスの服はビリビリに切り裂かれている。

大事な部分は見えないものの、ある意味かなり危険な状態だ。

布面積は約四割。

これは大変教育に宜しくない。


「ギャンザク! 女性に暴行とは何て卑劣な!」


「いやワシここで見てただけで何もしてないけど……」


 デスヨネー知ってた。

これ多分あれだ。

ビックリした拍子に無意識で魔法発動しちゃったパティーンだ。


 風邪引いた時とか、クシャミの度に風魔法(ウインド)発動しちゃって部屋が大惨事になった事あったし。

あと足の小指ぶつけた時とか、うっかり火魔法(フレイム)出しちゃったりな。

いやぁ、うっかりって怖い。

急な魔力漏れにご用心。


 とりあえずマントを外してラピスの体にかけておく。

今はこれが精一杯。


 気を取り直して婦女暴行疑惑から話をすり替え……じゃなかった、本題に入る。


「……さて、年貢の納め時だぞギャンザクよ……あれ?」


 ギャンザクは扉付近で倒れていた使用人達を踏みつけ、応接間からバタバタと逃げ出す所だった。

まさか彼女がやられるなど微塵も思っていなかったのだろう。


「チッ、逃がさぬ!」


 使用人を跨いで廊下に出ると、玄関前の大広間に向かって駆けていくギャンザクの後ろ姿を捉えた。

外に逃げる気か?


 慌てて後を追いかけ首根っこ目掛けて手を伸ばす。


「待て、大人しく捕まれ」


「……貴様がな」


 ドガンッ


 爆風にも似た強い衝撃が屋敷を揺らす。


 危ない危ない。

ギッリギリで回避できた。

今の攻撃……中々の威力だったが何なんだ?

魔力は感じなかったが……


 床には大きな穴が空いており、何かが叩きつけられたのだと分かる。

穴の周りは割れた床材が鋭く突き出ていて非常に危ない。


「上か」


 二階に続く広い階段を見上げると、中段に筋肉質で大柄の男が立っていた。

二十代後半といった所か。

上品な屋敷には似合わない、見るからに傭兵と言った外見をしている。


 大男は右肩に大きな両刃の剣を掲げていた。

なるほど、今のはあの大剣による攻撃か。

攻撃した直後にも関わらずこの距離を取れるという事は、力だけでなく素早さも兼ね備えているらしい。

勝利を確信したらしいギャンザクが意気揚々と胸を張る。


「ほぉーん。これで貴様も終わりだな、若造。おい、ドーザー。やってしまえ! こいつも魔物の餌だ!」


「……承知」


 ドーザーと呼ばれた大男はゆっくりと左手を動かし、後ろ手に持っていた何かを見せつけるように持ち上げた。


「……がはっ……」


「グルオ!」


 ギリギリと首を締め上げられ、グルオが呻き声を上げる。

あ、良かったまだ生きてた。

だがまだ油断は出来ない。


「ぅぐ……」


 散々痛め付けられたのか、グルオは抵抗する事もなくゆらゆらと揺さぶられている。

あいつがここまでやられるとか珍しいな。

傷だらけの姿が新鮮すぎる。


「へい、パスパース! へい、へーい!」


「…………」


  出来るだけフレンドリーに両手を広げて見せたが無視された。

こいつ、一人で点取りに行ってチームメイトに嫌われる奴だ。

間違いない。


 ドーザーは仏頂面から鬼の形相に変わる。

何か気に入らない事でもあったのだろうか。


「……ふん。この仲間、そんなに返して欲しければ返してやろう」


 言うが早いか、奴はブンッと大きく振りかぶってグルオを投げつけた。

向かう先は先程開けられた大穴である。

ノーコンかよ!

全く、床材が刺さってしまうだろうが。


「まぁ、止めを刺さずにすぐ返してくれるとは、意外と優しい方ではあるな」


「……!?」


 グルオを穴の手前でナイスキャッチするという俺のファインプレーに驚いたのか、ドーザーの目が見開かれた。


「……お前、何者だ」


「しがない冒険者Aです」


 ゴロリとグルオを足元に横たえると、案外邪魔だと気付いてしまった。

地の利は取られてるし、大穴もあるし、グルオも寝てるしでこのバトルフィールドは動きにくいったらない。

コートチェンジ求む。


「ふん、ふざけた男だ」


「真面目に不真面目と呼んでくれ」


 ドーザーはダンッと足を踏み出し、階段から飛び降りてくる。

先程のラピス程では無いが十分に早い。


 ガキィィィン──


 息つくも暇もなく次々と繰り出される攻撃に、俺はひたすら受け身で対処する。

……うぅむ? 力は強いが違和感があるな。


 このドーザーという男、俺を相手にまだ本気を出していないようだ。

面白い……というか、普通に珍しい。

ちょっとコイツに興味が湧いたわ。

あ、いやそっちの意味じゃなくて。


「貴様、ドーザーと言ったな。なぜ本気で来ない」


「……ただの手合わせに命をかける程、戦いに生きていないだけだ」


 俺達の会話は武器のぶつかる金属音にかき消され、ギャンザクの耳には届いていないらしい。

ギャンザクは手に汗握り、高揚しながら「ほぉぉん! やれ! 行け! そこだぁ!」と叫んでいる。

あーもーうるさい。

観戦料取るぞ!


「ドーザーよ。貴様の狙いは何だ? 主人の命令を聞くだけならグルオを生かして返す理由は無い筈だ。人質や盾にする事もせず、貴様は何がしたい?」


「……おしゃべりな奴だ」


 高く振り上げられた大剣が斜めに振り下ろされる。

チッ。

目深な兜のせいで上部の視界が狭い事が読まれていたか。

誰だよこんな死角が出来る変な兜選んだ馬鹿は!


 上体を大きく後ろに反らして避ける。

見たかこの審査員も驚く立派なエビ反り!

確実に仕留めたと思っていたからか、ドーザーは驚いた様子で距離を取った。


「強いな……お前も、そこの男と同じだ。殺すのは惜しい」


「唐突なデレに戸惑いを隠せない」


 ギャンザクの怒声が大広間に響く。


「何をしている、ドーザー! 高い金で契約したんだ、早く働かんかぁ!」


「……承知。だが一つ頼みがある」


「おぉん!? 何だ!」


「この男を始末する代わりに、さっき捕まえた地下の人間共は許してやれ」


 ぐぬー、とギャンザクは鼻を膨らませ、渋々だが頷いた。

やだーこの領主、俺の事絶対殺すマンになってる……!

っていうか人質また地下に逆戻りしてたのかよ。

それはちょっとまずいな。

今ギャンザクに地下の魔物を使って人間を人質に取られたら、今度こそR-18な展開になってしまうかもしれない。

スプラッタの回避ロールをせねば。


 幸いにもギャンザクはそこまで知恵が回らなかったのかその場で待機している。

単に俺の死に様が見たかっただけかもしれないが、アホで助かった。

こちらとしては好都合だ。


 似た事を考えているらしいドーザーが両手で剣を構える。


「……事情が変わった。悪いがお前には犠牲になって貰う」


「お断りしますん」


 もうね、分かった。

ドーザーは結構良い奴だ。

雇い主の命令は聞くけど、人間は出来るだけ死なせたくないというのが非常に分かり易い。

綺麗事だけではなく、命の数を天秤にかけて取捨しぇ、しゅしゃしぇん……取捨選択できる姿勢は好感が持てる。


 と、なれば尚更本気で相手する訳にはいくまい。

よし、全力で手加減して倒す!


 俺は剣を構えたまま真っ直ぐドーザーに向かっていく。


「行くぞ、ドーザー!」


「っ! 来い、兜の剣士!」


 俺達の戦いはこれからだ!


 ドドンッ!


 ※打ちきりではありません※

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