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4、瓦礫の撤去作業は一人でやらない

 やはりというか、思った通りになってしまったというか……

飛び付いてきたのはカロンだった。


「カロン、離せ」


「……嫌です……」


 マント越しに後ろから回された腕が震えているのが伝わってくる。

……というか、脇腹はやめてくすぐったい。

こんな真面目なシーンで笑う訳にはいかないのだ。

頼む、保ってくれ、俺の腹筋!


「っとにかく離せ、カロン……!」


 シリアス壊れる!


「……こ、この人、凄く悪い人、みたいですけどっ、でも、でも殺しちゃ、ダメですっ……!」


 嫌ぁぁー! 抱き付いたまま話を進めないでぇぇ吹き出す! これ魔王吹き出すから!


「くっ、話は聞く……とにかく一旦離れろ、カロン……!」


 剣を下ろしてカロンの腕を軽く叩くと、少しだけ腰回りが解放される。

危ない危ない。

マジでシリアスがシリアス(笑)になる所だった……!


「あ、謝ってるし、いっぱい反省してるっぽいです……だから、だから命までは、取っちゃダメです……!」


「そうは言うがな、この手の男はすぐに同じ事を繰り返すぞ。もしくは日を改めてお礼参りダァー、ヒャッハー! とかしてくるぞ?」


「絶対、百パーセント、万が一にも改心しないなんて言い切れないじゃないですかぁ!」


 いやまぁそれはそうだけど。

困ったな。

疑う心を知らん子供をどう言いくるめれば良いのか、言葉が思いつかぬ……

頭を捻っていると、カロンは「それに」と口を尖らせた。


「私は、い、今のマオーさんの方が怖いです……知らない人みたいで。いつもの、いつものアホでカッコ悪いマオーさんが良いですぅぅ~!」


「懐いてくれてると思ってた子にアホでカッコ悪いと思われていた悲しみ」


 とんがり帽子に隠れて顔が見えないが、マジで(M)泣く(N)五秒前(5)なのは気配で分かる。

ある意味こっちも泣きたいのだが、これはマズイかもしれな──


「──~~……ぐすっ……」


 マ ズ イ(確定)

え、何でいつものギャン泣きじゃないの?

まさか声も出ない程!?

そんなに怖かったの!? カロンのこんな泣き方初めてなんだけど!


「待て待て待ってカロンさん!? 泣くな泣くな! ほら、剣しまったから! マオーさんもう全っ然いつも通りだから!」


「…………~~っ………………ひっく、」


「グルオォォー!」


 助けてグルオ、良心が痛い!

心臓がヒュンてした!

隻眼男をちょっと強めに踏みつけてから足を退かすが、カロンはマントをつまんだまま静かにベソをかき続けている。


「あれだ、ちょっとムカ着火ファイアーしちゃっただけだから! 驚かせたなら謝るから!」


「……ぐすっ……」


「魔王様を困らせるな、カロン」


 グルオがゴスッとカロンの頭に拳骨を落とす。

えぇ~……おま……えぇ~……?

ベコリと凹んだとんがり帽子が痛々しい。

頭を抱えて蹲るカロンの涙が痛みによるものに切り替わっている。

強くなれ、若人。


「はぁ……しかし、これは酷い有り様だな」


 焦げ臭い煙のせいで少し頭がクラクラする。

辺りは災害の後の如き大惨事だった。

幸い怪我人は少なかったようだが、道はボコボコでとても歩ける状態ではない。

炭になったトレントが横たわっているせいもあり、完全に通行止めだ。

道沿いの建物も六軒全壊、二軒半壊。

住人の皆さんご愁傷さまとしか言いようがない。


「まさか私一人の為にここまでするとはね……」


 エーヒアスが軽やかに瓦礫を飛び越えながら近付いてくる。

ため息を吐いて頬に手を当てる仕草が実に悩ましい。


「私、今から領主の屋敷に向かうわ。本当はこっそり忍び込むつもりだったのだけど……あなた達はこれからどうするつもりか聞いても良いしら?」


「俺も領主の屋敷とやらに行くぞ。用事が出来たのでな」


「そう……」


 周囲の喧騒が大きくなってきた。

ここに留まっているのは得策ではないな。

また増援が来ないとも限らない。

その考えは彼女も同じだったのか、エーヒアスは「こっち」と近くの脇道に入って行く。

俺とグルオはまだメソメソしているカロンを引きずるようにしながら後を追う。


……そういやあの隻眼男の事、忘れてた。

チラリと振り返ったが既に逃げてしまったのか姿が見当たらない。

まぁ仕方ないか。

カロンに免じて今回は見逃してやろう。


「それにしてもマオーさん。さっきの魔物を倒した魔法、相当の威力だったわね?」


「火事場ノ馬鹿力ダヨー」


 エーヒアスは俺の戦闘力に対する認識を改めたらしく、裏路地を歩きながら話を進める。

汚ないからあまり通りたくない道だが、文句言ってられないな。

生ゴミと犬のフンにだけ気を付けよう。


「あの町外れの小高い丘、見える? あそこに領主の屋敷があるの。向かいながら全てお話しするわ」


「やっとか」


 出来ればもっと早く説明して欲しかった。

それこそ三行くらいで手短に。


「モチット町に入ってすぐの広場に、銅像があったでしょ。彼がこの町の領主、ギャンザクよ」


「あぁ、あの小肥りのオッサンが……」


 あったなぁ、そんな趣味の悪い銅像。

すっかり忘れてたわ。


「ギャンザクは国王様の遠縁に当たるらしいの。先代領主の一人息子で、温厚だった先代亡き後、その残虐な性格が浮き彫りになったと聞いたわ」


「なんだか、魔王様とは真逆をいく男のようですね」


「そうか……?」


 俺別に温厚でも残虐でもないんだけど。

グルオの感覚はよく分からん。

後ろでカロンが「ひぇっ犬のフン踏んだ!」と悲鳴を上げていたが、無視しとく。


「領民達から必要以上の税を搾り取り、自分の娯楽に浪費する……最低な人間よね」


「そんな人物、国としては問題だろう。なぜ民は外部に報告しない?」


 あ、確かに。

グルオのもっともな疑問に、彼女は静かに首を振った。


「人質よ。ギャンザクはモチット町を始め、辺り一帯の村々に魔物避けの結界を設置した。『高い税と引き換えに守ってやる』って名目でね」


「なるほど。裏を返せば、逆らったら結界を外して飼ってる魔物をけしかけるぞ……という事か」


 真面目に考え込むグルオには悪いがそろそろ話に飽きてきた。

もっとこう、児童向けを意識した分かりやすい説明キボンヌ。


「それだけじゃないわ。若者も労働に駆り出されてるし、若い娘は皆屋敷に奉公に出され、連絡はつかず……抗議に行って帰って来た人間はいないそうよ」


 とんでもない話だな。

俺はカロンと共にフムフムと相槌を打ちながら歩き続ける。

決して下手に喋ったら馬鹿が露見しそうだとかそういうのではない。

決して。


「ギャンザクは女好きであると同時に、かなりの武器マニアでね。それが私が狙われた理由」


「……武器?」


 思わぬ単語に俺達三人は同時に首を傾げる。

わお、シンクロー。


「私、鍛冶職人なの。師匠はドワーフで、その道では神の手を持つとまで言われた高名な鍛冶職人だった。……けど、師匠は一年前に……」


 あ、嫌な予感。

シリアス注意。


「……師匠は、腱鞘炎が辛くて引退してしまった……」


 さよなら、シリアス。


「でもそんなの関係ねぇ! と、ギャンザクは師匠を捕らえ、良い武器をひたすら作るよう命じた。付き添っていた私も捕まったけど、隙を見て師匠と脱走したの。でも、途中ではぐれてしまって……」


 中々にハードな経験をしたようだな。

彼女は悔しそうに近くの塀を叩く。


「落ち合う約束の場所は、さっきの宿屋の筈だった……でも師匠は現れず…………仕方なく、私は宿屋に師匠宛の伝言と荷物を預けて、助けてくれそうな強い冒険者を探しに出たって訳」


「でも、それがなぜエーヒアスを捕まえる事に繋がる? 領主的にはそのドワーフさえ捕らえれば良いのではないか?」


 やっとそれっぽい事言えた! ドヤァ……


「さっきも言ったけど、師匠は腱鞘炎が辛いからイヤだって断ってるの。ドワーフが頑固な種族なのは、いくらマオーさんでも知ってるでしょ?」


「息を吐くように毒吐かれたの巻」


 でも美人だから許す。

エーヒアスは何事も無かったかのように自身の細い手を見つめた。


「私は師匠の知識、技術をほぼ全て受け継いでる。それがギャンザクにバレたみたい。奴は師匠を人質に、私を捕まえて武器を打たせようとしてるのよ」


「あぁ、長かった(やっと話が繋がったな)」


「魔王様、本音駄々漏れです」


 いっけね、うっかりポン。

カロンが話を完全に理解したかは不明だが、俺とグルオはとりあえず納得した。

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