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8、ボロ隠しも整理整頓術の一つ

  顔を見せたのは水色のポニーテールをフワリと揺らした涼やかな目元のクールビューティーだった。

耳の先が少し尖っている。

そうか、エルフの女だったのか。

エメラルドの瞳が俺達を捉える。


「美人エルフキターーー!」


「はわぁ~……勝てる要素ないですぅ」


 見惚れる俺達に向かい、美人エルフは優雅に腰を折った。


「正確には半人半エルフだけどね。私の事はエーヒアスと呼んで頂戴」


「本名ではないのか」


 顔を見た所で何一つ納得してないらしいグルオが苛立たしげに腕を組む。

お前は何なのアンドロイドなの?

エーヒアスは少し困ったように頬を掻く。

大人びた印象が少しだけ和らぎ、美人に可愛らしさが加わった。


「ごめんなさい。本名は自分でも上手く発音出来ないのよ。今は使われていない古代言語でね。音が何となく近いのがエーヒアスなの」


「へぇ~、どんな感じなんだろう?」


 興味を持ったカロンが分かりやすく気にし出す。

失われし古代言語か……いくつかあるが俺もあまり詳しくはないな。

エーヒアスは「えぇと」と顎に手を当て、小さく咳払いをした。


「ィエィヒャアクシュ……? ……違うわね。ィエェシャェアッシュ……? ィエァヒャ……」


「あ、もう良いです」


 全力でしゃくれながら潰れ声で発音を頑張る彼女にカロンが哀れみの目を向ける。

何だろう。

一気に残念美人の気配が漂い始めたんだが。


「で、報酬は?」


 顔色一つ変えずに金の話をするグルオに対し、エーヒアスは考え込むように胸の前で腕を組んだ。

俺は寄せられる谷間を見ながらそっと拝む。


「そうね……今は手持ちがあまり無いの。先払いで三〇〇エーヌ。モチット町の宿屋まで無事に送ってくれたら、働きに応じた報酬をお渡しするわ」


「安っ!」


 おいおい、護衛で三〇〇エーヌとは流石に安すぎでは──


「勿論、戦闘になったら私も戦うわ。治癒術には多少心得があるの。あとはそうね……元気の出るマッサージも得意よ」


「「採用」」


「先生までぇぇ!? っていうか採用じゃないですよ! これ、依頼です! 依頼!」


 カロンが声にならない悲鳴を上げる。

グルオは「冗談だ」と煩わしそうにカロンをしっしっと追い返した。

ちっ、冗談かよ。


 グルオは「ちょっと失礼」とエーヒアスに断りを入れると、俺を引っ張り女性陣から距離を取る。

何だ? こんな所で誰狙いかの相談か?


 合コンあるある……とふざけたら凄い目を向けられてしまった。

怖っ。夢に出そう。

せっかく今夜は良い夢が見られそうだと思ったのに、上書きされた気がする。絶許。


「魔王様。あの女、やはり怪しいです」


「何故そこまで警戒する必要がある? 例え悪人であったとしても、この俺が寝首をかかれる事などあり得ぬ」


「ですがあの女は初めから妙に魔王様にすり寄っていました。地図を持ち、話の主導権を握っていた私ではなく、変な兜で表情の見辛い魔王様の方にです。魔王様が最も強い力の持ち主であり、リーダーである事を確信していたとしか思えません」


「お前それ喧嘩売ってんの?」


 それは俺も最初に驚いたが、あえて指摘されると腹が立つ。

俺だってたまには兜系男子としてモテたって良いじゃん。


「しかもローブの下に隠されている服は中々に上等な物。どう見てもこの寂れた村娘の格好ではありません。出稼ぎというのも疑わしい話です」


「え、お前そんなトコ見てたの?」


 胸ばっか見てた俺最低じゃん。止めて恥ずかしい。


「うぅむ……しかしこのままでは話が進まぬ。どうしたら良いのだ……」


「依頼料も安いですし、断るのが無難です」


「ぬぅ……」


 やはりそうか。

もし彼女が本当にただの依頼人だったのなら申し訳ない話であるが、やはりここは無難な選択をするしかないのか。

すまぬエーヒアスとやら──さらばナイスバディー。


 しょぼくれる俺に、グルオは苦虫を噛み潰したような顔でため息を吐いた。


「……もし、どうしても受けるというのであれば、決して油断せずくれぐれもご注意下さい。決めるのは魔王様です」


「ぐ、ぐ、グルえもぉぉん!」


 つい年甲斐もなくヒャッホゥと飛び上がって喜んでしまった。

腐ったニラを見るような目を向けられるが気にしない。

喜び勇んで女性陣の元へ駆け寄ると、二人は何故か楽しげに話し込んでいた。


「へぇ、マオーさんってそんなに強いの?」


「はい、すっごく強いです! 魔力なんてナンダコレ珍百景に登録される位すごいそうです! でも先生の方が怖いです!」


「フフ、なんだかあまり凄くなさそうねぇ」


 あれ、これ悪口? 女子怖い。

するとグルオがぐわしっとカロンの頭を鷲掴んだ。

前言撤回、こいつのが怖いわ。


「何をペラペラ喋っている」


「あだだだだすみませんすみませんすみませんー!」


 騒ぐ二人を無視して俺はエーヒアスと話をつける事にした。


「その護衛の依頼、引き受けよう」


「あら良いの? ありがとう」


 優雅に笑みを浮かべるエーヒアスに「ただし!」と語気を強める。


「こちらも色々あってな。そちらを手放しで信用する訳にもいかぬ。もしグルオとカロンに危害を加えるような真似をしたら決して許さぬ故、心せよ」


 いつになく真面目に話すと、彼女はクスクスと楽しそうに自身の体を抱き締めた。

うっわ色っぺぇ。


「フフ、了解よ。マオーさんって仲間思いで熱いのね。好きよ、そういうの」


「え、あ、マジで!? もっと具体的に詳しぐぇっ」


 急にマントごと服を引っ張られ、首が絞まった。

「ナンパはダメです!」とカロンがブー垂れている。

これは断じてナンパではない。

百歩譲って逆ナンである。


「では時間も勿体ないですし、行くとしましょう」


 さっさと村の出口に向かうグルオにエーヒアスが続く。

俺は背中にしがみついて騒ぐカロンを引きずりながら、颯爽と歩く二人の後を追った。

……もしかして俺、子守り担当?

彼女もいないのに子持ちなの?

いやいやそんな馬鹿な、と嫌な考えを払拭する。


 こうして俺達はソロソロ村で出会ったエーヒアスという半人半エルフと共に、モチット町を目指すのだった。




 人が全然通らない街道を歩くこと十数分。


「へぇ~エーヒアスさんって年近いんですねぇ」


「フフ、さんはいらないわ、カロン」


「わぁい、エーヒアス、よろしくです!」


 あれ、何かやたらめったら仲良くなってない?

疎外感キツいんだけど。

カロンとかちょっと前まで俺に引っ付いてたのに、なんで女同士楽しくなっちゃってんの?

ピクニックではないのだぞ。


 何となく口を挟めずにヘソを曲げていると、村を出てからずっと黙っていたグルオが目を見開いた。


「年が近い……だと……?」


 そこに反応するのか! と思ったが確かにそれはもっともな疑問である。

カロンはニコニコとエーヒアスの腕に抱きつきVサインを向けた。


「はい! 私は十六歳なんですけど、エーヒアスは十八歳だそうです!」


「ダウトォ!」


「……人とは不思議な生き物ですね」


 人間の年齢とエルフや魔族の年齢とを照らし合わせてみても、それはおかしいというものだ。

カロンがあと二年程度でエーヒアスのような色香を漂わせられるとはとても思えぬ。


「私としてはカロンが十六というのが驚きです。せいぜい十四位のクソガキかと思っていました」


「エーヒアスなんてもっとずっと上かと思っていたぞ。やばい、俺危うく犯罪に走る所だったわ」


 エルフの寿命はめちゃくちゃ長い。

故に賢明なエルフ族はやたらと殖えたりはしないのだ。

例え半エルフといえど十代のエルフとか都市伝説級にレアである。


 こそこそ話す俺達が怪しかったらしい。

不思議そうにしているカロンのとんがり帽子を、エーヒアスが面白そうに撫でている。


「あぁ、そうだ。折角お近づきになった訳だし、ほら、私の冒険者登録証(カード)。見せてあげるわ」


 見たい見たいとはしゃぐカロンを尻目にグルオが目を光らせた。


「お前も冒険者なのか」


「いいえ。でも、登録証(これ)があると色々便利なのよ。身分証明になるし舐められないし、小金稼ぎもしやすいしね」


 なるほど。そんな理由で冒険者登録する者もいるのか。

俺達はどれどれと彼女の登録証(カード)を覗き込む。


──名前『エーヒアス』

職業(ジョブ)治癒術師(ヒーラー)

レベル17


「ふむ、普通だな」


「あら、失礼しちゃう」


 そう言いながらも彼女は全く気にしていない様子だ。

折角なので裏面も見る。

細かいステータスの他に使える技と魔法が記載されていた。

回復魔法(ヒーリング)状態回復魔法(アンチドート)か……どれも俺達には無い能力である。

素直に感心していると、エーヒアスはかがみ込むように俺の顔を見上げてきた。

これは良い上目遣い!


「マオーさん達の登録証(カード)も見てみたいのだけれど、ダメかしら?」


「あぁ、別に構わ──」


 ゲフン、とあからさまな咳払いをされる。

すぐ横から「まさか見せねぇよなァ?」という無言のプレッシャーが重くのし掛かる。

……そうか、ダメなのか。


「あー、すまぬが……」


「フフ、良いのよ。いつかお兄さん方に信頼して貰えるように頑張っちゃうわ」


 どうにも彼女はエルフらしからぬ飄々とした態度を崩さない。

本来エルフは矜持が高く、毅然かつクールな種族の筈なのだが……これは人間の血が影響しているのかもしれない。


 あれこれと話しながら進んでいると、いつの間にか複数の気配に取り囲まれている事に気が付いた。

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