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7、ボロい布は雑巾にリサイクル

 イノシシ肉の下処理も無事に終わり、いよいよ俺達はイヨイヨの港町を出発する。


「ではさっそく、空間転移魔法でサクッと行くとしよう」


 町の外れで人に見られてないか確認する。

この魔法は地味に上位魔法すぎて人間で使える者は居ないに等しいからだ。

あまり人目について騒ぎになるのもまずい。


「え? 魔法? 空間? はぇ?」


 この移動手段を知らないカロンがキョトキョトと困惑している。

まぁこいつに知られる位は良いだろう、簡単に誤魔化せる気がするし。


「では行くぞ。……ペクマクマヨヨン!」


「呪文ダサいです、マオーさんっ」


 久しぶりに感じる、この全身が歪むような浮遊感……嬉しゅうない。

やはり少しオエッとしながらも、数秒後には俺達の足は地面に着いていた。


「よし、上手く着いたな」


「ここは……村の手前のようですね。恐らくあそこに見えるのがソロソロ村でしょう」


 周囲を見回すと少し離れた所に小汚い土壁に囲まれた小さな村らしきものが見えた。

なんだ、随分田舎くさい場所のようだな。

地図を確認する俺達の間に、カロンが大袈裟に割り込んできた。


「ちょ、ちょっと待って下さい! 何でさっきまでイヨイヨに居たのに、いきなり次の村に着いちゃったんですか!? いくら何でもおかしいですよ!?」


「……あぁ、それはだな、えっと、最近の魔法は何かこう凄いのだ。ほら、色々とな」


「いやいやいや! 凄いってもんじゃないですよぅ!」


 隣でグルオが「誤魔化すのが下手すぎです」と嘆いていたが、これは俺悪くない。

カロンが鋭いのがいかんのだ。

すかさずフォローの達人が介入する。


「カロン。マオー様はこんなだが、魔法の力はナンダコレ珍百景に登録される位凄いのだ。故に、普通じゃない事を魔法でサラッと解決してしまう」


「えぇ……その説明だとあんまり凄くなさそうなんですが?」


「とにかく慣れろ。そして面倒だから他言はするな。解雇されたくなければな」


「先生のパワハラァ!」


 少々強引ではあったがカロンは納得してくれたらしい。

良かった良かった。

だがグルオ、俺の事「こんな」呼ばわりした事は当分忘れんからな。


 さて、と俺はもう一度空間転移魔法を使うべく意識を集中させ──


「ちょーっと待って下しぁい!」


 カロンのストップが入り、思わず魔法の発動を止める。


「しぁい?」


「噛みました! 流して下さい!」


 素直でよろしい。

カロンは「そんな事より」と膨れっ面で俺を睨みつけた。


「まさかまた魔法で移動するつもりじゃないですよね!?」


「まさかまたそのつもりですが何か?」


 問題でもあるのだろうか。

カロンは俺の服を掴むとガクガクと揺らした。


「ダメですよぅ! 旅感ゼロじゃないじゃないですか! 世界を見て回れないじゃないですか! レベルが上がらないじゃないですかー!」


「ちょ、服が伸びる。やめよ」


 最後のが本音だろ絶対。

ギャーコラ騒ぐカロンの襟首をグルオが掴む。

「ぉぐぇっ」と変な声がしてカロンはようやく大人しくなった。

……次はもう少し早く止めて欲しいものである。


「魔王様、ある意味カロンの言い分も正しいかもしれません」


「え、正しいかもと思ってその仕打ちなの?」


「一瞬お花畑が見えましたよぅ」


 戦慄する俺達を無視し、グルオは地図をパシパシと叩く。


「目的地であるサイッショ大陸最東部のハジーメ村。そこまでまだまだ距離があります。しかし、立ち寄れる村や町の数には限りがございます。ド田舎のハジーメ村に着いてからでは大きな仕事が見つかるとは思えません。旅の中で資金繰りをする必要があります」


「長い。簡潔に」


「稼ぎながら進みましょう」


「りょ」


 なるほど分かりやすい。

だが一つ問題がある。

徒歩で移動中、魔物とエンカウントしてしまった場合どうするかという問題だ。

デカボアのような魔獣や下位の魔物ならまだしも、中位級以上の魔物や魔族にうっかり出会ってしまったら、俺の立場が危うい。


 例えばドラゴンとかダークエルフとか、トロールとかシャーマンとかエトセトラ……

「あ、元魔王様じゃないっすかー、ちっすちっす」なんて言われてみろ。

マイホーム探しどころではなくなる。

絶対に魔物に見つからないようにせねば。


 俺達はチキンの如く辺りをキョロキョロと警戒しながら村へと向かう。

道は舗装も整備もされていない。

村を守る筈の土壁も雨風にさらされ過ぎて非常にお粗末な造りとなっている。

こんな所にもし魔物が襲って来たらひとたまりもないだろう。


──バチッ


「いっ!」


 村の入り口に差し掛かった瞬間、静電気のようなものが身体を駆け巡った。

一応言っておくが恋などではない。

これは……と何気なくグルオをチラ見すると、奴も同じ痛みに襲われたのか、眉間に皺を寄せていた。

なんかウケる。


「わぁ……何か、イヨイヨとは全然雰囲気が違いますねぇ」


 カロンだけが何も考えていない顔で見張り番の老人に挨拶をしている。


「あんたら~、イヨイヨん方から来たんかぁ~」


「はい! ここはどんな所なんですか?」


 最近の若い娘のコミュ力パネェ。

ワクワクを隠しもしないカロンに、老人は嬉しそうに灰色の顎髭を撫でた。


「ここ~ソロソロ村は~、今は~、あまり良い所はないのぅ~。若いモンが~いないんでなぁ~」


「なんで~ですかぁ~?」


 喋り方が感染してる彼女をスルーし、老人は悲し気に目元を擦った。


「領主様が~代わってのぅ~。税が上がって~、若いモンはみ~んな隣の町に出稼ぎに行ったきりでなぁ~」


 あぁ~、悪徳領主か~、よくあるパタ~ンだなぁ~。……ハッ!


「魔物は~村まで入っては来ないが~、この辺も物騒だし~、あんたらも~、ここを出るなら~明るい内に出た方が~良いぞ~」


 そう言って老人は見張り用の椅子に腰掛けると、遠くを眺め始めてしまった。

俺達は気まずくその場を離れる。

村は明らかに活気がない。

農家が多いようだが、乾いた土の臭いばかりが鼻につく。

今一番言ってはいけない言葉ナンバーワンは「儲かりまっか?」だろう。


「おいグルオ。こんな寂れた村で冒険者の仕事なんてあるのか?」


「アレレー、オッカシイゾォー」


「純粋に腹立つ」


 たまに見かける村人は中年以上の者ばかりである。

その誰もが疲れた顔をしており、一様に俺達を不審な目で遠巻きに見てくる。

決して俺の兜が怪しいからという訳ではない。決して。


 いつまでもこんな宿も無エ、食堂も無エ、たまに来るのは回覧板のような所にいても仕方がない。

俺らこんな村ぁはさっさと出てしまうに限る。

俺達は今後の方針を固めるべく、足早に村の外れに移動した。

……どうにも面倒くさい展開の匂いがするな。


「とりあえず、ここを離れて次の町を目指しましょう。地図的にそこそこ大きな町なので、そこなら仕事もありましょう」


「なんて町だ?」


 三人で地図を覗き込んでいると地図に影がかかった。


「一番近いのはモチット町よ」


 俺のすぐ近くで艶やかな声がかる。

おぉ、()()()に来るのか。これは少し意外だった。

不意を突かれたカロンがビクリと跳ね上がる。

グルオは殺気を隠して──ねぇや。

めっちゃ警戒心剥き出しで声の方を向いていた。

田舎のヤンキーかよ。


「ごめんなさい、驚かせてしまったかしら?」


 そこにはボロい灰色のフードを深く被った若そうな女が立っていた。

顔も体も殆ど隠されていて怪しさ百点満点だが、ローブの隙間から夢の谷間がチラリと見える。

これは……


「巨乳美人の予感!」


「どこ見てんですかマオーさんっ!」


 カロンが真っ赤になって俺のマントを引っ張る。

いやだって、こればっかりは仕方ないだろう。男のサガだ。


「目の保養くらい良かろう。なにせ家を出てからずっと女っ気のない生活を送っているのだ」


「私だって女の子ですぅー!」


 本日二回目のギャーコラを聞き流しながら美人(仮)の方に向き直る。

彼女は引く様子もなく俺に向かって静かに微笑んでいた。


「して、我々に何か用か」


「あら。無視しないで話を振ってくれるなんて、お兄さん優しいのね」


 美人(確信)は色白の手で口元を隠して笑う。

今度は夢の谷間がハッキリと見えた。

ありがたや。今夜は良い夢が見られそうだ。


「私、隣のモチット町に出稼ぎに行きたいのよ。でも一人じゃ魔物が怖くって……お仕事を探してるのなら、私の護衛を受けてくれないかしら?」


「ふむ、良かろ──」


「お待ち下さい。勝手に決められては困ります」


 グルオが立ち塞がり、真正面から美人を睨みつける。

普通の女なら竦み上がるものだろうが、彼女は動じる事なく小首を傾げた。

これはただ者ではないな。気に入った!

しかしカロンは不満だったようで必死に抗議の声を上げている。


「先生の言う通りですよぅ。そんな怪しい人と旅なんて危ないです! それに私まだヒロイン解雇されたくありません!」


「採用すらされてないだろ」とあしらうグルオとは温度差があるようだが、要は二人ともこの美人が信用出来ないらしい。


「だがこんなか弱そうな女性を放っておく訳にもいかぬだろう」


「簡単な儲け話とあからさまな美女は騙されフラグです。数日後に『ごめんなさいねぇ』って有り金を持ってかれるのがお約束です」


「あら、私ってば相当信用ないのね」


 美女は特に気を悪くした様子もなくフードを取った。

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