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4、布に付いた血はお湯洗いNG

 デカボアは地鳴りと共に真っ直ぐこちらに向かって突っ込んでくる。

俺とグルオは左右に跳んで回避したが、カロンはベシャリとその場で転んで避けた。


 ドゴン!


 轟音が響き渡る。

デカボアはカロンの頭上を飛び越え、俺達が居た後ろの木に激突した。

木はへし折れる寸前で、実っていたアナゴレモンがポロポロと落下する。

なんと勿体ない。

デカボアは興奮しているらしく、鼻息荒くこちらを振り返った。


「いぎゃあぁあぁ!」


「いやその悲鳴はちょっと」


 なんとか立ち上がったカロンが無様としか言い様のない格好で木の杖を振り回しながら逃げまどう。

グルオはバックステップで獲物と距離を取りつつ隙を窺っている。


「カロンよ、逃げてばかりいないで魔法を使うのだ」


「はっ、はいぃっ!」


「グルオはカロンが魔法に集中出来るように足止めをせよ」


「はっ」


 カロンは俺の指示に応えるべく魔力を杖に集中させ、グルオは大振りな動きでデカボアの気を引き始めた。


 手も足も出ない俺は少しでも二人の役に立てるよう離れた場所から口を動かす事に専念する。


「カロンの足元に蛇の死骸がある。グルオの後ろには腐ったアナゴレモンが落ちている。二人とも踏まぬよう心せよ。それとデカボアが仲間を呼んだから気を付けよ。あ、カロンの頭上にデカいクモの巣が……」


「「魔王様 (マオーさん)、うるさいです!」」


 こんな時にハモるとは仲良しか。

折角アドバイスしたというのに、全く。

言論の自由は一体どこに落ちてるのやら。


「あわわわわ、ファイア、ファイアァ!」


 カロンがしきりにファイアを放っているが、小さな火花がパチリパチリとデカボアの近くで爆ぜるだけだった。

毛先が焦げたのか嫌な臭いが鼻を掠める。


「くっっさ!」


 思わずシーツで鼻を覆っていると、樹木の陰から大きめのイノシシが三頭姿を現した。

先程のデカボアの呼び声に引き寄せられたのだろう。

リーダーのデカボア同様、イノシシ達は皆興奮して目を血走らせている。


 しかし野生の本能がそうさせるのか、イノシシ共は俺には目もくれずカロンとグルオばかり狙っていた。

正直、こちらの分がかなり悪い。


 避けるので精一杯のカロン。

カロンが狙われないよう的になりつつ、木を守りながら戦うグルオ。

応援しか出来ない俺。

実質二対四である。


「ひゃっ!?」


 足をもつれさせてカロンが転倒する。

その隙をイノシシは逃さなかった。

正にシシまっしぐらな中、グルオがカロンを蹴り飛ばしてイノシシの軌道から彼女を逃す。

「おぅっふ」という謎の呻き声と共に、カロンが地面に顔面ダイブした。

あれは痛い。


「ぐっ……!」


 ゴシャッという音と共にグルオの体が吹っ飛んだ。

マジか。

軽く五メートルは吹っ飛んだぞ、おい。

あの体当たりをまともに食らったとなれば流石の俺も黙ってはいられない。


「頑張れグルオ、諦めるなやれるやれる、行けるって自分を信じろ! 何で諦めるんだそこで! 絶対大丈夫だから頑張れって、諦めんなよもっと熱くなれよ!」


「うるさいです、魔王様」


 グルオはヨロリと立ち上がりながら、ペッと血を吐き捨てる。

おぉ良かった、やはり生きてたか。

シーツの下で拍手をしていると「カロンの方、頼みます」と睨まれてしまった。

しょぼんぬ。


 カロンはグルオがやられた事で本格的にパニックになったのか、半狂乱でファイアを乱発していた。

これではMPの無駄遣いである。


 うーーーーーーーーん。


 仕方ない。

俺は渋々嫌々致し方なしに絶対防御形態を解く。

砂ぼこりが気になるが、あまり我が儘も言ってられない。


「ほら来い、ケモノ」


 白いシーツを大きく振り、デカボアの気を引く。

よしよし、上手い具合にこちらを向いたぞ。

一番厄介な奴さえ消してしまえば、後はグルオが何とかするだろう。


 俺は右手を前に突き出し、消去魔法(イレイサー)を発動しようと──あ、いやちょっと待て。

跡形もなく完全に消してしまったらイノシシ退治した証拠すら残らないではないか。


「あっぶな! それだけは、タダ働き(それ)だけは勘弁!」


「ひぃ! 何がですかぁぁ!?」


 カロンがイノシシから逃げまどいながら悲鳴を上げる。

デカボアはこちらの都合などお構いなしに俺に向かって突っ込んできた。


「ちっ」


 咄嗟に左に避けて距離を取る。

デカボアは先程まで俺が立っていた地面にドカンと激突した。

地面に大きなクレーターが出来る。

うぅむ、汚れるのは嫌だが背に腹は代えられぬ……!


 今まで全く使った事の無かった腰の剣を抜く。

この剣はブロードソードに似ているが尖端が鋭く、斬るのも刺すのもドンと来いな魔王ブランドの一品モノだ。

デカボアが体勢を立て直し、再び突進してくる。


「破ぁ!」


 俺はシーツを盾に、シーツごとデカボアの額を貫く。

これぞ城生まれのMさんの底力である。

ピギィィィと耳を塞ぎたくなるような甲高い悲鳴を上げ、デカボアは絶命した。

噴き出す返り血で白かったシーツがジワジワと赤黒く染まっていく。


「あぁ、剣が汚れてしまった……血が……」


「ひっ……!」


 剣を抜き、まだ汚れていないシーツの端で切っ先を拭う。

その光景をバッチリ見てしまったカロンが口元を覆った。

夜目に慣れてしまったのが裏目に出たらしい。


「魔王様、終わったならこちらも手伝って下さい」


「え、嫌なのだが」


 汚れた剣が気になってこれ以上は戦うテンションではない。

それをそのまま伝えると、グルオは鬼のような形相でイノシシの首に短刀を突き刺した。

あ、怖い。

次刺されるのは俺かも分からんね。


「ならカロンのフォローをして下さい」


「がってん! がってん!」


 俺は素直にカロンの元へ向かう。

っていうか何気にグルオの奴、イノシシ二体倒してるじゃん。

残りあと一体じゃん。

何で俺が……と思ったがアレか。

カロンに経験値あげようとしてんのか。

フォローの達人かよ。


「カロンよ、いつまでも青い顔をしている場合ではないぞ。魔法の練習だ」


「うぅ、はいぃ……」


 カロンはフラフラになりながらも杖を構える。

イノシシはリーダーがやられたせいで少し腰が引けているようだ。

これはチャンスである。


「よし、カロンよ。ファイアを発動する前に、まずはイメージしてみろ」


「い、イメージ?」


 基本的に魔法とは魔力を自分のイメージに合わせて具現化する物である。

そこから更に属性だの何だのと細かい話になる訳だが、とにかくイメージが大切なのだ。


「先程から見ていれば、お前はただファイアと口先で唱えているだけではないか。もっと具体的にどんな火を出したいのかイメージしてみろ」


「えぇぇ? じゃ、じゃあ、黒い炎が巨大な竜になって敵を影しか残さない消し炭にしたいです!」


「違うそうじゃない」


 なにその黒竜波怖い。

俺とカロンはイノシシが逃げないようにジリジリと挟み込むように移動する。

うぅむ、なんと説明したら良いものか……


「もっと自分のレベルに合わせて考えてみよ。敵のどこにどう当てたいか。火の大きさや色はどうか。どんな感じで燃えるのか……出来る限り丁寧にイメージするのだ」


「むむむ……」


 カロンは眉間に皺を寄せながら目を閉じる。

いや、敵を前に目を瞑るのは自殺行為だが……まぁ今回は大目に見よう。

イノシシは俺から逃げられないと悟ったのか、カロンに向かって地面を蹴った。


 俺はすぐにカロンの前に回り込む。

上手く集中しているらしく、彼女の魔力が少しだけ上昇していくのを感じた。

すぐには止まれないイノシシが俺達に向かって突っ込んでくる。

さて、どうしたものか。

彼女を抱えて避けるか、魔法の発動を待つか──


 イノシシが眼前に迫った瞬間、カロンはカッと目を見開いた。


「燃えよ、ファイア!」


「おぉ!」


 シュボッと杖の先から火の粉が飛び出し、イノシシの右目に命中する。

イノシシはブビィィィィと甲高い悲鳴を上げて頭を振り乱した。

カロンを担いでギリギリの所でその場を離れる。

あっぶね。


 イノシシは右目をやられた事ですっかり戦意喪失したらしい。

残った片目でヨロヨロと俺達に背を向ける。

可哀想だが仕方ない。

所詮この世は弱肉強食、強い者が生き、弱い者はボッシュートって父上も言ってたしな。


「さぁカロンよ。もう一発だ。よく狙え」


「うひぇぇぇ……」


 カロンは腰を抜かし、肩で息を切らせていた。

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