3、白い服の汚れは目立つ
役場でのやり取りは省略させて頂こう。
冒険者の登録と言っても、所詮はただのお役所仕事の流れ作業。
非っ常~につまらないものだったからだ。
再び宿に戻った俺達は「せーの」でカードタイプの冒険者登録証を見せ合う事となった。
──名前『マオー』
職業『魔法剣士』
レベル82
──名前『グルオ』
職業『斥候』
レベル44
──名前『カロン』
職業『魔法使い』
レベル2
「マ、マオーさんのレベルがヤバい、ヤバすぎる!」
第一声がそれか。
それを言うならお前もある意味ヤバすぎるからな。
まじまじと互いの手中にある小さな冒険者登録証を見る。
「グルオは掃除屋じゃないのか」
「冒険者としての職業には掃除屋が無かったんです。受付の人に聞いたら斥候を薦められました」
斥候か。
確かにグルオはいの一番に現地を動き回るし、合っているのかもしれぬ。
「さて、これで安心して仕事を探せますね。早速明日、ギルドにでも行って仕事を探しましょう」
「いきなり明日からか……お前グイグイ行くなぁ」
「むしろ魔王様が呑気すぎるのです」
全く、魔王にだって心の準備がいるというのに。
今まで遊び呆けてた学生にいきなり「お前明日からバイトね」って宣言するようなものだ。
文句の一つでも言おうと思ったが、ウキウキとベッドに腰かけてカードを見つめるカロンを見て口を閉ざした。
俺だって空気が読める。
「ひゃー。私、冒険者のお仕事って初めてです~! 楽しみ~!」
キャッキャと足をばたつかせてはしゃいでいるが、あまり暴れないで欲しい。埃が舞う。
俺が注意するより先にグルオのゲンコツが飛んだ。
「大人しくしろ」
「あだっ!」
あーあ、と思っているとピロリロンと軽快な音が鳴った。
何だ?
どうやらグルオの登録証から鳴ったようだが……
「何だ、今の音」
「はて……? あぁ、レベルが上がった事を知らせる音のようです」
「お前ゲンコツでレベル上がったの!?」
見るとグルオの登録証に記載されているレベルが45になっていた。
このカード、そんな便利機能があるのか。
「私でレベル上げないで下さいよぅ」
「正直自分が一番驚いている」
淡々と返す様は全く驚いているようには見えない。
それにしても狙ったかのようなタイミングのレベルアップであった。うける。
ブーブーとむくれるカロンを何とかなだめながら、我々の賑やかな夜はふけていった。
翌朝、某ギルド受付カウンター前。
「マジか……」
俺達は一枚の求人チラシを見て立ち尽くした。
清潔感とは程遠い酒場。
朝にも関わらず酔っ払いが多くて騒がしい。
なんとも酒臭くて男臭い場所だ。
そんな場所で紹介して貰えた仕事はたったの一件だった。
『求む! 果樹園を荒らす凶暴イノシシ退治』
場所はイヨイヨ町の外れの果樹園。
成功報酬、一〇〇〇エーヌ。
……昨日の登録料一人分にも満たない。
え、これが普通なの? こんなもんなの?
「……まぁ、確かに新人冒険者の初仕事にいきなり大仕事は斡旋できませんよね」
「お二人のレベルでは楽勝でも、私には大仕事ですよぅ……」
カロンは緊張した面持ちで上着の裾を握っている。
何を心配する必要があるのやら。
初陣とはいえ俺達が付いている時点で死ぬような目には合わぬだろうに。
「ではさっさと済ませるとしましょう」
「そうだな」
「あぅ、頑張ろう……私……」
いまいちやる気が出ないが仕方ない。
俺達は果樹園に向かってトボトボとギルドを後にした。
「やぁやぁ、待ってたダヨ! 頼りにしてるダヨ!」
果樹園に到着するなり、俺達は依頼人の陽気な小太り男に歓迎された。
果樹園の主だと名乗る彼は意気揚々と俺達を現場へと案内する。
イノシシ退治は今すぐにでも解決したい死活問題だったらしい。
「これがうちで育ててる、イヨイヨ町の特産品、アナゴレモンダヨ!」
「アナゴレモン?」
眼前には俺より背の高い木が立ち並び、その枝にはキュウリのように細長くて黄色い果物がたわわに実っていた。
これってレモン……なのか?
「イノシシ、夜になるとアナゴレモン狙って森から出てくるダヨ。実も木も傷むから困ってるダヨ!」
「そうか」
どうやら果樹園のすぐ隣は森らしい。
簡素な鉄の柵で土地を区切ってはいるが、錆び付きが酷くてボロボロだ。
これではイノシシなど簡単に進入してしまうだろう。
「出来れば三頭は退治して欲しいダヨ! 一頭一〇〇〇エーヌ! モチロン沢山退治してくれたら、それなりにお金出すダヨ!」
「え、マジで?」
「出来高制とは有り難いですね」
俄然やる気が出てきた。
そうと決まれば俺も腹を括るしかあるまい。
本当はこの手段は使いたくなかったがやむを得ん。
俺はあるアイテムを取り出し、夜を待った。
「いやマオーさん、何ですかその格好」
「これぞ我が絶対防御形態……その名もマント・オン・シーツ!」
説明しよう!
マント・オン・シーツとは、汚れるのが嫌な魔王が生み出した簡易的な防御措置である。
大きなシーツを頭から被る事により、外からの砂や埃、虫といったあらゆる外敵から身を守る事が出来る。
しかも白いシーツのため、どんな汚れがどこに付いたかが一目瞭然である。
この形態の代償の一つに、こちらからは手も足も出ないというものが挙げられる。
正に諸刃の剣!
更に最大の欠点は、時間が経てば経つほど中が蒸れてしまう事だ!
(※読み飛ばし可)
「魔王様、てるてる坊主にしか見えません」
何とでも言うが良い。
俺達は果樹園の外れ──森との境目を見張れる位置に身を潜めた。
「あ、何か動きましたよ」
グルオが黄色い瞳を光らせる。
確かに獣臭い。
イノシシは複数いるようだ。
しばらく息を潜めていると、俺達の前に巨大なイノシシが姿を現した。
そいつがノシノシと歩く度枝や木の葉がパキパキと折れる音が聞こえる。
(で、デカいですね……)
小声でカロンが怯えたように言う。
彼女のレベルでは怖がるのも無理はない。
あのイノシシはただのイノシシではなくデカボアだ。
獣は獣でも魔物に近い存在、いわゆる魔獣である。
(しかし、何とも都合よく俺達の前を通ったものだな)
何となしに呟くと、グルオがイノシシから視線を外す事なく答えた。
(夕方、あらかじめ何ヵ所かにロープを張っておいたのです)
(ロープ?)
(イノシシは鼻が良いので人の匂いがする物が急に設置されると避けるのです。その習性を利用してこちらに誘導させました。上手くいって良かったです)
(有能すぎワロタ)
目の前のデカボアは恐らく群れのリーダーだろう。
小柄なカロンと同じ位の背丈がある。
勿論重さは彼女の何倍もあるだろうが。
普通のイノシシかと思っていたが、こいつは骨が折れそうだ。
(二人とも頑張れ!)
「マオーさんは頑張ってくれないんですか!?」
「手も足も出ないなう」
カロンのツッコミに反応した巨大イノシシがギロリとこちらを向いた。




