11、「燃えないゴミ」と「危険物」と「有害ゴミ」は似てるけど違う
「……確かに俺は元魔王……正確には三代目に玉座を譲った二代目魔王である」
あっさり肯定したのがよほど意外だったのか、シーナのみならずグルオの方からも動揺の気配が感じられる。
この期に及んで見苦しく言い訳するのも癪だしな。
俺はテーブルに片肘をつき、それはもう全力で開き直る事にした。
「……で、俺が元魔王だったら何だ? 何か問題でも? 俺が人様に一体全体エビタイ何をしたと?」
「いや問題っていうか……今サラッと海鮮が混ざらなかった?」
シーナは気が削がれた様子で「調子狂うなぁ」と頭を抱えている。
うむ、こちらの無害アピールが伝わったようで何よりである。
威厳を失う代償は大きかったがな。
「ま、まぁ良いや。あなたが本当に魔王ってんならコチラとしては願ったり叶ったりだし。実はアタシ、マオーさんに……いや、魔王様に大事な頼みがあるんだよ」
「頼みだと?……まさか魔王を『ナンカの魔人』や『願いを叶える神的な龍』と勘違いしてないか? 俺に出来る事など美味しい物を食べてぐっすり寝る以外は特に無いんだが」
「健やかな毎日を送ってるようで結構だけど、アタシの頼みは多分、魔王様にしか叶えられないと思うんだ」
なにやら意味深な事を呟きつつ、彼女はおもむろに圧縮魔法鞄から大きめの木箱を取り出してきた。
まるで割れ物でも扱うような慎重な手つきだ。
コレisなぁに?
そう問うより早く、彼女は木箱のフタを空けて俺達に中身を見せてくれた。
勿体ぶらない姿勢に感謝。
「っと……これは……?」
中に入っていたのは大きなヒビが入った鏡の残骸であった。
どう見ても危険物の燃えないゴミだが、綿や布に包まれている所からして余程大切にしている事が窺える。
そして何より気になるのが鏡を縁どる装飾部分であった。
えぇ~~~っと、すんごい既視感なんだよなぁ。
くっそ趣味の悪い、右を向いた山羊っぽい悪魔のゴテゴテしたデザイン。
どこで見たんだったかなぁ~?
えぇ~~と──
「魔王様、魔法鏡です、魔法鏡。初代様の遺品の一つだった……」
「もちろん見た瞬間にピンときてたが????」
説明しよう!
『魔法鏡』とは魔王城に古くから伝わっていた、異世界の様子を覗き見る事ができるロマン溢るる不思議な鏡の事である!
歴史的にも価値のある宝物の一つだったので、決して私利私欲やイヤらしい目的の覗きに使っていい代物ではないのだ!!
なぜ過去形なのかって?
平凡太を無理矢理召喚した際に割れてしまったからである!(※詳しくは一章参照)
ま、割れちゃったもんは仕方ないからね。
過去の失態には囚われず前向きに行こーぜ。
「……して、なぜ魔王城にあった筈の魔法鏡がここにある。もしや魔王城の廃棄物が横流しの末にここまで辿り着いたとかか? 怖っ」
もしくは俺にゴミ漁りのストーカーがいた説。
せめて爆美女であれ。
いずれにせよ真に恐ろしきは人間の闇かと激震が走るも、どうやら違ったらしい。
「この鏡はアタシが召喚された時に使われた物だよ。何百年も前の勇者が、魔王の城で大事そうに保管されていた二枚の鏡の内の片方を持ち帰って国王に献上したっていう国宝だったみたい」
「それ勇者っていうか強盗!」
まさかのウチから盗まれた物だった件。
勇者を追い返したのは立派だが、お宝を盗まれたまま放置とは……父上にも詰めが甘い時代があったようだ。
ほっこり。
「そういえば魔王城にあった鏡の山羊は左を向いたデザインでしたね。まさか二枚一組の鏡だったとは思いませんでした」
「言われてみれば確かに!(よく覚えてるなお前)」
記憶力の差を見せ付けられる俺をよそに、シーナは鏡の残骸をしまいながら話を進める。
「元の世界に帰ろうにも、鏡がこれじゃあ無理らしくてさ。王城の魔術師や技術者でもこの鏡は直せないし、そもそも『人を異世界に転送できる程の魔力を持った人間は存在し得ない』って事で完全に詰んでたんだけど……」
ア゜ッ、これは嫌な予感。
「アハハッ。まさかこんな所でマオーさん……いや、魔王様に会えるなんて思わなかったよ。やっとアタシにも運が回って来たって感じかな!」
あぁぁあぁ、ヤメテー! 期待値上げないでーー!
「って訳でお願い魔王様! どうか魔王様の持ってるもう一つの魔法鏡で、アタシを元いた世界に……『ニホン』に返してちょうだい!」
ガバリと頭を下げるシーナにかける言葉が見つからない。
叶えてやりたくても物理的に無理with無理なんだよなぁ~。
頭を抱えて黙り込む俺。
明後日の方向へ遠い目を向けるグルオ。
分かりやすく不穏な反応をする俺達にシーナが気付かない筈もなく、気まずい沈黙が流れる。
暫し迷った末、俺は正直に事実を伝える事にした。
「非常に残念だがその願いは叶えてやれん」
「え!? は? 何で!? アタシが天敵の聖女だから!?」
「いやその理屈だとむしろ叶えてやった方が俺に利があるだろ。天敵に帰って貰えるんだから」
「あ、確かに……でもじゃあ何で?」
激昂しかけてもすぐに落ち着いたあたり、意外と理性的な性格のようだ。
ヒステリックガールでは無かった事にコッソリ安堵しつつ、俺は魔王城にあった魔法鏡が割れてしまったからだと告げた。
ついでに「平凡太の命の危機を間一髪の所で救った」事と「安全な居場所と地位を提供してアフターケアまで万全だ」という旨も誇張3割増しで伝えておく。
俺は聖女を召喚した違法魔導師とは違うでゲスよー。
「そっ、か……そっちの鏡も割れてたんだぁ……」
残酷な現実を突きつけられたのが余程堪えたのか、シーナは深く項垂れたまま黙ってしまった。
──無理もあるまい。
「もう一つの魔法鏡さえあれば帰れるかもしれない」という微かな希望が完全に絶たれてしまったのだから。
間違っても「ねぇ今どんな気持ち?」などと聞いてはいけない場面である。
やれやれ、仕方ないな(後ろ髪ファッサァ)
ここは一つ、ファビュラスな大人の余裕で優しく励ましてやるとするか。
「シーナよ。お……」
──その時だった。
ズドォォン!!
「「「!?」」」
突然、窓がビリビリと振動する程の凄まじい轟音が鳴り響いた。
どえぇぇ、びっくりした! びっくりしたっ!
何だ今のものスゴい音は!?
グルオとシーナも身構えながら目を丸くしている。
テーブルの下で大人しくしていたコエダが足にしがみついてきた辺り、間違いなく彼も驚いたのだろう。
おぉ、よちよち。
「しかし今の音は何だ? シリアス警報器? それともイケ兜発動注意報?」
「んな訳ないでしょう。地震でもなさそうですし、もしかしたら崩落か爆発かもしれません」
「……! まさかアイツら……!」
困惑と警戒の反復運動をする俺達には目もくれず。
シーナは勢いよく立ち上がると部屋を飛び出してしまった。
励ます前に元気になったようでナニヨリデス。
「……え、これ追いかけた方が良い系? 個人的には『去る者と勝手に飛び出す者は追わない』主義なんだが」
「しかし魔王様。もしこのホテル内の事故・事件だとすると些か問題があるかと思われます」
「! そういえばカロンとエーヒアスがスパに行ってるんだったな」
この高級ホテルで事件だなんて、些かどころか大問題な気がするのはさておき。
俺は足にしがみついたまま離れないコエダを抱え上げると、大急ぎで部屋を飛び出したのだった。
頼む! 無事でいてくれよ、二人とも──!
……断じて、どさくさまぎれに女性用スパに乱入するラッキームフフな展開に期待している訳ではない。
ないったら、ない。




