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5、ビンのラベルは剥がさず捨てても問題ない(※自治体による)

 俺はこの旅で何度、人間との一期一会の縁に感心させられただろうか──


「じゃあな、兜のあんちゃん。またどこかで会えたら楽しませてくれよ!」


「毎度あり。気が向いたらな」


「変な兄ちゃん、サインありがと! バイバーイ!」


「達者でな。口の利き方を覚えて親孝行しろよ」


 最後の栄養剤を購入した行商人親子の背を見送り、俺は恐る恐る背後を振り返る。


 強張った顔で片付け作業をしているカロンの更に後ろに、恐ろしく冷たい眼をしたグルオが立っていた。

怖ぇよ監視者かよ。


 というかコイツ、もう全商品売り切ったのか……

やはり雰囲気イケメンは伊達ではなかったようだ。

どこから(・・・・)見られていたのか分からない為、俺は努めて冷静に対処する事にした。


「あっ、グルオパイセン、お疲れさぁ~っす! ジブン、たった今仕事終わり(しごおわ)っしたぁー!」


「魔王様、全ての若者がそんなバイト敬語遣いだと思ったら偏見が甚だしいです。それよりも……」


「それよりも聞いてくれ。俺とカロンだけで二箱完売出来たぞ! 凄くない? 天才じゃない?」


 無理矢理ハイテンションで捲し立てたものの、この家臣には通用しなかった。


「魔王様。とりあえず『祝辞』と『苦言』、どちらを先に聞きたいですか?」


「どうにかして『祝辞』だけを聞く選択肢は無いものか」


 そんな「良い知らせと悪い知らせ、どっちから?」みたいなノリで聞かれても困る件。

魔王様の耳は耳障りの良い言葉しか受け付けないんだよなぁ。


 フヒュー、と口笛を吹いて目を逸らせば、大きな溜め息を吐かれてしまった。


「では『祝辞』から。初の接客販売、完売おめでとうございます」


「ありがとう。よし、解散」


「次に苦言ですが、販売方法に大きな問題があります。魔王様の権威、品位、沽券に関わる大事な事なので、率直に言うと今後二度としないで下さい」


「苦言の威力が高すぎない?」


 やはり見られていたようだ。

俺は適当にハイハイと頷きながら、既に散ってしまった人だかりに思いを馳せた。


「いやでも不可抗力だったからな? まさか客の中に俺の事を知ってる人間がいるとは思わないじゃん」


 そう、なんとお客様第二号の一声が「あれ? その兜は……王都のイロモノコンテスト常連の兄ちゃんじゃねぇか! 何でこんな所に!?」だったのだ。

まさかこんな所で「俺が王都の広場で行われていた面白コンテストに参加していた事」を知る者がいるとは思わなかった。


 しかも続けざまに「俺アンタの事応援してたんだぜ!」なんて握手を求められてしまったものだから焦った。

いくら正体を隠しているとはいえ、俺の溢れんばかりのカリスマ性までは隠しきれなかったようだ。


 手袋してるから良いか……と握手に応じたのが決め手だったらしい。

周りから「え、何、有名人?」と好奇の目に晒され、更に野次馬の中からも俺のコンテスト経歴を知る者が現れ、あれよあれよと言う間に人だかりの完成である。


「へぇ! アイツが王都で地味に話題になってた兜パフォーマーか!」


「アタシは一回見た事あるよ。『懸垂de食材名しりとり』で優勝してたね」


「優勝か上位入賞しかしてないとかどんだけ多才だよ!」


 人が話題を呼び、話題が人を呼び──

俺はあっと言う間に時の人となったのだった。

カロンがなぜか(・・・)ドン引き顔で俺から離れたのは流石に傷付いたが。


「なんかやってるなーとは思ってましたが、ここまでとは……」


「ときにカロンよ。『名誉と汚名を同時に獲得した時の気分』の話、する?」


「遠慮しますー」


 どうやら複数種類のコンテストで次々と優勝や準優勝を収めるのは前例のない快挙だったらしい。

思わぬ所で無駄に新たな伝説を生み出していたなんて事、ある?(困惑)


「王都を出たって事は、もうあのヘンテココンテストには出ないのかい?」


「まぁ……そうなるな」


「そいつは残念だ。ウチのガキ共はアンタの『裏声ラップダンスバトル』の大ファンだったってぇのによ」


「そうか。家に帰ったら『応援ありがとう☆』と伝えておいてくれ」


 思わぬ場所でこんなに人気者になれるなんて事、ある?(歓喜)


──などとチヤホヤされている内に、ある子供の一言が新たな流れを作った。


「ねぇ、兜のお兄ちゃん。前に準優勝してた『にらめっこ歌唱大会』のネタやってー!」


「今は仕事中ゆえ、またいつかな」


「良いじゃねぇか、兄ちゃん。栄養剤ならオレっちが買うからよ、サービスに一芸見せてくれや」


「え? 買ってくれるの? マジで?」


 こうして俺は魔法薬と栄養剤を売るついで(・・・)に、大勢の客や野次馬のリクエストに応える羽目になったのだった。




<完>






「いや魔王様。何丸く収まったみたいなハッピーエンド感出してるんですか。人混みの中で変顔を披露する主を発見した家臣の気持ちを少しは考えろ下さい」


「それについてはゴメンとしか言いようがないな」


 確かに調子に乗り過ぎた感は否めない。

正直すまんかった。


 なにしろ最終的には「旅芸人」もしくは「修行中のコメディアン」という認識でサインと握手を求められてたからね。

そんな奴の家臣とあっては、流石のグルオも不服であろう。

俺がグルオの立場なら転職するね。


「多分もうしないと思うから離反も謀反も考え直してくれ」


「別に考えてませんが、今後はもっとお立場に相応しい立ち振る舞いをお願いします」


 Q、己の立場とは? なんて野暮な質問はしないでおこう。

考え出したら思考が哲学的なルートに入りかねん。


「あのぅ、マオーさん、先生。そろそろエーヒアスと合流しません?」


 グルオのお叱りが終わったタイミングでカロンの片付けも終わり、我々は一度宿屋に戻る事にした。


 ちなみにエーヒアスもほぼ同タイミングで宿屋に戻っていた。

特に安売りをしていた訳でもないのに一時間ちょっとで四箱完売するとか早くない?

このパーティーって冒険者じゃなくて商売ギルドか何かだったの?


 とにかく早く済んだのは僥倖である。

まだ日が出ている内に、俺はカロンと共に売上金を持ってタム殿の家を訪れた。

グルオとエーヒアス?

前者は宿屋の清掃、エーヒアスは晩ごはんの買い出しである。


「あれれ? なんだかあっちの方、騒がしくありません?」


「だな。具体的にはタム殿の家の方からだが……」


 どうやら先客がいるらしい。

俺達は目的地の少し手前で足を止めた。


「占いのばーちゃん、引っ越すってホント? 引っ越すからハーブ全部売っちゃったの?」


「なんでこの町を出てくの? オレらが魔女ババァってからかったから?」


「僕の妹、おばぁちゃんの薬のおかげで喘息が治ったんだよ。行かないでよ!」


「ふぇっふぇっふぇ、騒がしいもんだねぇ」


 玄関口に立つタム殿に子供が群がり「ばーちゃん、ごめんなさーい!」とワァワァ騒いでいる。

あー……これはちょっと近付けそうにないわ。


 カロンと目で合図を交わし、俺達は少し離れた所から様子を窺う事にした。

タム殿は飄々とした態度を崩す事なく子供に囲まれている。


「ふぇっふぇっふぇ、別にお前さん達のせいじゃないよ。アタシも歳だからね、そろそろ隠居でもしようかと思っただけさ」


「グスッ……オイラ達のせいじゃないの? この町が嫌いになった訳じゃない?」


「ふぇっふぇ、アタシゃお前さん達の親が悪ガキの頃から知ってんだ。お前さん達の言葉なんて何でも可愛いもんさね」


 どうやらタム殿は思った以上に慕われていたようだ。

謝罪の言葉を口にする子供達を宥める姿はまるで孫に囲まれる祖母のようである。

これが異種族交流だなんて気付ける一般人はそういないだろう。


「ばーちゃん、いつ、どこに引っ越すの?」


「さてね。荷造りが済んだら適当に発つさ。場所は……まぁ遠い親戚(・・・・)がいるからね。そこら辺で厄介になるよ」


 と、ここでタム殿の目がこちらに向いた。

え、何? と思う間もなく。

彼女は「あぁ、噂をすれば遠い親戚(・・・・)が来た。ほら、子供はさっさとお帰り。遅くなると叱られるよ」などと言い放った。

いや、親戚って俺達かーい!


 まさかこの俺が「嘘も方便」のダシに利用されるとは思わなんだ。

とりあえず納得したのか、子供達は口々に好き勝手言いながら解散していく。


 やれ「じゃあまたね、おばぁちゃん」だの「占いばーちゃん、元気でね」だの「長生きしろよ」だの、「うわ、俺このダサ兜知ってる! ばーちゃんの親戚かよぉ(嘲笑)」だの。

おい最後、なんで俺が嘲笑われたんだ。


 子供達が完全に解散した所で、漸く我々のターンである。


「だがその前に、誰が親戚だ」


「ふぇっふぇ、まぁ固いことは言いなさんな。それにほら、そこの可愛い魔法使いのお嬢さんだって、見ようによってはアタシの若い頃に似てなくもない気がするし」


「え゛っ……」


「カロンよ、真に受けるな。というかこの場合、どちらの発言の方が失礼なのだろうな」


 そんな茶番もそこそこに、我々はタム殿に完売の旨を伝えて売上金を渡した。

タム殿は存外早く在庫処分が済んだ事に驚いたようだ。

フッフッフ、流石は元魔王とその仲間たちであろう。


 ドヤ顔を浮かべる俺に、彼女は懐から何かを取り出すとちょいちょいと手招きをした。

どう考えても内緒話のジェスチャーである。


 首を傾げながらも前に出て屈み込めば、彼女はカロンには伝わらない最小の声量で呟いた。


「(こいつはアタシからのお礼だよ。いざって時に使いな。詳しくはラベルをお読み)」


「(?? よく分からんが礼は言っとこう)」


 カロンから見えない角度で押し付けられたのは小さな──紙袋?

手触り的に二本の小瓶である。


 カロンが不思議そうにしているが、俺だって訳が分からない。


「ふぇっふぇっふぇ、とにかくありがとうよ。他の仲間にも礼を伝えとくれ。それじゃあ達者でな」


「もう用は済んだ」とばかりに家に入られてしまえばこちらも帰る他ない。

何を言われたのかと気にするカロンを適当に誤魔化しつつ、帰路につく。


 そして宿屋でコッソリ紙袋の中身を確認した俺は、思わぬ『超高級品』に何ともいえない溜め息を吐いたのだった。




『魔法変身薬』


『用法・用量:大人一瓶。一日一回まで』


『効能:その時に必要な姿に変身する。効果は二時間前後』


『まれに沈殿する事がありますが品質に問題ありません。よく振ってお飲み下さい』

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更新ありがとうございます! 魔王様の大道芸……見たい……見たい…… 多彩すぎる……素晴らしい… さすが魔王様… 続きも楽しみにしています!
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