後日談 狛田 琴音編 運命(琴音後日編・最終話)
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〇狛田 琴音 運命(琴音後日編・最終話)
翌朝、窓から差し込む朝日に目が覚めた私はキッチンで朝食を用意している将兵さんの背中が見えた、枕元には私の着替えの入った大きめのカバンと逃げてる最中に落としていた財布やスマホの入った小さなカバンが置かれていた
「将兵さんお早う御座います・・わざわざ落としたカバンまで拾って下さり有難う御座います・・・」
将兵さんの背中にむかって朝の挨拶とお礼を言うと、将兵さんは軽く振り返り
「あ、琴音さんお早う御座います、昨日はよく寝てたみたいなので勝手に枕元に置いとかせてもらいました中身を確認しておいて下さいね、朝食ももう少しで出来ますんで」
言われた様に自分の荷物を確認し、スマホを取り出し旅館に電話を掛け、宿泊料金の精算は後日の振込で了承してもらった
「旅館の人は何かいってましたか?」
トーストとハムエッグとインスタントのスープをテーブルに並べながら将兵さんが聞いてきたので
「ええ、どうも旅館運営は暫く止めるらしく、今は閉めてるので振込の方が有難いそうです」
「それより朝食まで用意してもらって申し訳ございません・・・」
未だ足に痛みが残るが何とか立ち上がっる事は出来た
朝食を食べ終わり、顔を洗わしてもらい自分の服に着替え将兵さんの運転する軽自動車に乗って病院へ向かう
「ところで、琴音さんは初めて会った時も、その・・・昨日の夜も・・僕の事をお兄さんと間違われた様ですが?」
「あ、はい・・・その・・色々あって今は家族ではないんですが・・・私には義理の兄が居まして・・」
「へぇそうなんですね?そのお兄さんが僕と似てるとか?」
運転しながら会話の流れで剣兄の事に触れてしまい、私の中の罪悪感で胸が締め付けられる
「そうかもしれませんね・・・」
何とかこの罪を悟られない様に取り繕いながらも左の窓の外を向く、窓越しにチラッとこっちを伺う将兵さんの顔が見えたが直ぐに前を向いていた
「では、琴音さんは独り暮らししながらバイトを掛けもちしつつ大学に通っているんですか?」
「はい・・それでも周りの人に沢山助けてもらってますが・・」
「それでも、立派です!」
そんな会話の中でお互いの親の話しになった
「お母さんとは既に縁を切っていて、元義父もお母さんと別れてから何度か連絡が有りましたけど・・その・・私の事なんかより自分の事ばかりで・・」
昨日出会ったばかりの男性にお世話になったからと言って何もかも打ち明けられる程お人よしにはなれないので、最低限の事だけを伝える
「僕の両親は本当に仲が良くて、父も忙しい中たまの休みには趣味の釣りに一緒に連れて行ってもらって・・・」
「でも・・あの男は・・・俺達家族を・・母さんを裏切って・・・」
運転してる将兵さんの表情を見ると苦悶の表情だった
「その・・・将兵さんのお父さんは・・・・」
「死にました・・・事故で・・・いや違う・・殺されたんです、ある男に・・・」
一瞬だが将兵さんの目に狂気を帯びた怪しさを感じた
「アイツが死ぬのは自業自得です・・でも・・アイツを殺した男がのうのうと生きていて・・・母さんはクズの親父がしでかした事のせいで・・・クソ!!」
将兵さんは強く軽自動車のハンドルを叩く
「・・・・・・」
「僕と母さんは裏切り者の親父と、親父を殺した男のせいで全てを失って・・・・この村に逃げてきたんです」
これ以上は踏み込んではイケないと察しそれ以上は聞かない事にした
私は連れてこられた病院で受付をすませると、将兵さんはお母さんのお見舞いに行くと言い入院病棟に向かった
CTやレントゲン、血液、心電図、あちこちの部屋で検査を受け診断書を書いてもらった
「両足首の捻挫と足の裏の裂傷については全治2週間です、それと顔の打撲については全治1週間です、歯が折れて無くて何よりです」
診断書を貰い清算してからロビーに戻るがまだ将兵さんは戻って来てない、私は今のうちに大学に連絡を入れる
「ええ、昨晩大学の方にもそちらの警察署の方から電話があって、うちの大学の男子生徒が同じ大学の女子生徒を無理やり暴行しようとして現行犯逮捕されたと報告がありました」
「そうですか・・・それで私は今、病院で診断をもらいまして全治2週間という診断書を貰いました」
「分かりました・・えっと・・1年の狛田 琴音さん?でしたよね?昨日の警察の方の言う通り被害届を出されるんですよね」
「はい、私は・・・大学に行く機会をくれた人達の為にも真面目に学ぼうと誓ったのに・・こんな事・・絶対に許せません・・今から此方の警察署で被害届を提出してきます」
「分かりました・・・大学側でも厳粛に対応させて頂きます、この度は在学生が酷い事をして大変申し訳ございませんでした」
そう謝罪と共に電話は切られた
「琴音さん意外と早かったですね・・・僕の方が逆にお待たせしたみたいで・・」
「いえ・・今しがた大学の方へ診断結果と今回の事を報告してましたので・・・」
将兵さん運転する車で警察署に向かい、窓口で事情を話すと応接に案内され女性警官といくつか面談して被害届に必要事項を記載した
「被害届を提出後は警察による捜査と事実確認により、事件性が認められた場合は刑事事件として処理されます」
「また、相手側が示談による解決を求めてこられ、狛田様がこれに応じる場合に置いてはこの被害届を取り下げて頂くことになります」
「殆どの場合ですが、慰謝料とか迷惑料という金銭での解決が一般的です、事実、収監されてる相馬氏についてはご両親から保釈金の支払いと狛田様へ示談を望む旨お聞きしてます」
私は示談には応じない旨、女性警官に伝えるとお礼を言い応接室を退室した
受付のロビーで将兵さんが待ってくれていた
「琴音さん無事終わりました?」
「はい、将兵さんのお陰です、昨日助けていただいた上にこんなにお世話になって・・こんど日を改めてお礼をさせて下さい」
そう伝え深々と頭を下げる
「偶然です・・・琴音さんは運が良かったんです・・・」
警察署から最寄りの駅まで道を挟んだ先なのでそこまで歩いて向かう事にした
「琴音さん足は大丈夫ですか?」
正直まだ痛みが残るが
「はい、先ほど病院でテーピングをしてもらって痛みは治まりました」
道を渡り駅の前にあるロータリーの前で将兵さんからカバンを受け取りもう一度頭をさげる
「あ、そう言えば連絡先交換してませんでしたね・・・今度改めてお礼をさせて頂きたので交換宜しいでしょうか?」
そう自分のスマホのメッセージアプリの登録用のバーコードを表示し
「分かりました・・・けど本当に気にしなくて大丈夫ですよ?」
そう苦笑いしながらもそのバーコードを読み取り登録する将兵さん・・・・
「琴音さん・・・・・このアイコンて・・・・」
「はい・・実は私の義兄だった大切な人は・・・小説家の不動 剣一なんです・・・周りには黙ってますけど・・・」
「将兵さんて、あれ?苗字、金森でしたっけ?」
後日談 狛田 琴音編 完




