後日談 狛田 琴音編 歪曲
〇 狛田 琴音 歪曲
私は、義兄の経営していた会社の支援と複数のバイトの掛け持ちをしながら生活して何とか現役で大学に合格する事が出来た
高校受験では志望高校に落ちたけど、今回は状況が違った
「私が頑張ってる姿を見せ続ければきっと剣兄だっていつか・・・・」
その事だけをモチベーションに睡眠時間を削って机に噛り付いた、挫けそうな時は剣兄からの手紙を手に取り自分を振るい立たせた
都内のK大合格発表の日、周りは友人と一緒に合否結果を見にきたり、親と一緒に来ていたりする人達が沢山居たが、私の周りには誰も居ない
母親とはずっと絶縁状態で、あの夜にいかがわしい風俗店のスタッフに連れ戻された後は何処で何してるのかも分からない
私が勉強とバイトに明け暮れ自由な時間が無くなった事で友人達との付き合いも無くなり、自然と皆私から離れて行った
そんな時に剣兄が巻き込まれた、東京湾での船舶事故が起こる
ニュースでは連日事故についての報道が続き、3名の乗客の内、唯一生き残った剣兄に対し亡くなった遺族達が心無い罵声を浴びせる場面が繰り返し報道される
剣兄はその会見で、作家としての活動を休止する旨を宣言した後に、突然の体調不良で緊急入院したと報道が続いた、そして学校には剣兄が事件の責任と自身の体調不良を理由に自主退学したのだと全校生に向けて説明があった
そんな事もあり世間では、剣兄が都合が悪い事実から逃げる為に仮病で雲隠れしたとか、罪から逃げる為に海外に逃亡したとか憶測だけで心無い情報がネット界隈を飛び交っていたが
以前に、剣兄と会談した事のある大臣が報道陣の前で剣兄を擁護する様な発言をした後で、事件当時の映像や音声の情報が世間に流れる事になる
ネットで拡散されてる画像は、かなり年配の貫禄のある老人に拳銃を向けられる剣兄の映像と剣兄の作品を盗用しようと強迫していた大物作家とその担当編集者の企みを暴露する皆川本人の音声データだった
世論は一気に掌を返し、剣兄の事を自分の作品への愛情と責任を命を懸けて守り抜いた作家の鏡(鑑)だと賞賛した、対して会見に乗り込み剣兄に対し暴言と罵声を浴びせた皆川の家族と編集長だった金森の遺族は世間から大バッシングを受ける事になる
私は久しぶりに澄恵に声を掛け何とか剣兄へのお見舞いさせて欲しいと頼み込んだが
「琴音ちゃん?悪いけど剣一君には私だけが居れば十分なの?わかる?あなたは不要なの♪」
明らかに蔑まれ疎まれたが、それでも諦めきれず澄恵の前で土下座をする
「みっともない・・・琴音ちゃん?琴音ちゃんは自分が剣一君にしてきた事をもっと理解した方がいいよ?」
そう言われ、土下座して床しか見えてない私を置いてその場を去っていこうとしたが、急に足音が止まり
「まぁ・・お見舞いの品とかなら届けてあげない事もないけど・・」
その言葉に驚き歓びが爆発する
「ほ、本当!?ありがと澄恵ちゃん!!明日もってくるね!」
私の言葉に返事を返す事も無く教室に戻って行く澄恵を跪いたまま見送る
それから私は剣兄へと、バイトで貯めてたお金を少し下ろして革製の表紙の手帳を買った、剣兄のお母さんが残した手帳の代わりにはならないけど何故かこれが良いと思った
そして手帳と一緒に剣兄に対し手紙をしたためる・・・
此れまでの事についての謝罪と今の状況への感謝、そしてこれから自分が正しい道を歩んで行くために、検事か弁護士を目指す事を書き綴った
返事が貰えるとは思っていないので、剣兄に対し答えを求める様な内容は書かない
本当はいつか許してもらえるならもう一度会いたい・・・例え義妹としてじゃなくても・・
そんな気持ち書きたかったがグッと押し殺し、零れる涙で手紙を少し濡らしながらも気持ちを込めて最後まで書き綴った
翌日・・・・
「これ・・・それじゃ悪いけど剣兄・・不動先輩に渡して・・・下さい・・お願いします」
放課後に澄恵を呼び止め、恐る恐る手帳と手紙が入った紙袋を手渡すと、不機嫌そうに受け取り目の前で掲げてぐるぐると見渡す
「??ど、どうかした?」
「いや・・あんたの事だからどっかに自分の連絡先とか書いたもの入れてるんじゃないかと思っただけ・・まぁ今更、剣一君がアンタに興味持つとは思わないけどね」
「・・・・・」
「それじゃ・・これは確かに剣一君に渡しておくけど、こういうのはこれっ切りにしてね」
そう言うと私が渡した紙袋を持ち立ち去って行った
それから2年後・・・・
結局、澄恵の言う通り剣兄から私に対し何の連絡も返事もないまま、高校生活が終わり春からは大学生となった
「君ぃ可愛いねぇどこかもうサークル決めた?」
「いえ・・私はサークルには・・・」
「いいじゃんいいじゃん、お試しでも良いから俺達のサークルに入ってみようよぉ~」
大学に入って早々で如何にもチャラそうな先輩達にしつこく勧誘される
「私、そんな時間有りませんので・・・失礼します」
それからも講義前や講義後にも何人もの男の人に声を掛けられる・・・
「ねぇ君ぃこの教授の講義毎回受けるの?だったら俺と履修一緒にまわらない?」
「可愛いねぇ彼氏とかいんの?良かったら俺達のグループで一緒に飯いかない?」
軽薄そうな男達からは下心丸見えの目で見られ、無神経に私の傍に寄って来る
「そういうの興味ないんで・・・」
そんな大学生活を送る中で、地方への研修を兼ねた短期旅行に行く事になった、チーム課題の為、仕方なく他の人とチームを組む・・・
「宜しくお願いします・・・狛田 琴音・・1年です」
「「「宜しくねぇ~」」」
「ねえ琴音ちゃんて呼んでもいい?」
「はい・・構いません」
私は何とか4人の女性だけのメンバーに入る事が出来た
そして、研修旅行当日・・・・
「あ、こちだよぉ~琴音ちゃん!!」
そう手を振るメンバーの子達・・・・しかしその奥に以前私に声をかけてきたチャラい男の子がニヤニヤしながら立っていた
「え、えっと・・そちらの人達は?」
私が恐る恐るメンバーの子に尋ねると
「ああ、琴音ちゃんに言って無かったけど、私の彼氏の所のメンバーも同じ場所に行く事になったから、ついでに一緒にいく事になってるの~」
悪びれもせずに笑顔でそう答えると、以前わたしに声をかけてきたチャラそうな男の子の腕に抱き付いた
「えっと?琴音ちゃん?だっけ?今日明日とよろしくなぁ」
私の上から下までを舐める様に見ながらニヤニヤと嫌な笑顔で話す、この男に得体の知れない嫌悪感を覚える
「おいおい、明憲ぃ~彼女怖がってるじゃんかよ~お前は顔が怖いんだよぉ~」
「はぁ?てめぇふざけるなよ?」
近くにいて談笑していた他の男3人も合流し、私の不安がさらに大きくなる
「あ、あの・・・」
「とりあえず、お互いの自己紹介は電車の中でしようぜぇ皆~出~発!」
こうして半ば無理やり私は男女8人の1泊2日の短期旅行に行く事になった・・・・・




