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Past Letter  作者: 東師越
第3章 ホシノキズナ
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第91話 Moon lullaby 16

 「……本来なら殺さずに済んだんだが……まあいい、ようやくその胸くそ悪い顔に鬱憤を晴らせた」


 「……ケイナン王……何を……」


 発展は人を大きく変えていく、しかしケイナンの思想は戦争を引き起こし、民衆達を底無き恐怖に陥れかねないモノだった。


 そんな未来を見据え、弟をそんな思想に行き着かせた非は自らにもあるとケジメをつけるために、弟共々死のうと刃を突きつける。


 しかし護身用の拳銃を手にしたケイナンは、覚悟を決めた兄の額に問答無用で銃弾を撃ち込む。


 誰からも狙われる危険が無いからと護身用武器を持たなかったケイナン唯一の誤算が、自らの浅はかにも捉えられる結果の元で脳を撃ち抜かれた。


 常に身を護る用意があるケイナンの方が立場上賢明と言えるが、その後の抵抗など不可能な兄の顔面に弾の限りを撃ち込むその行動には、誰もが人としての心を疑った。


 ただ1人、ハロドック・グラエルを除いては───


 「ミソラ様、この事はどうかここだけの話でお願いします……不干渉条約の規定に反しますから」


 「っ……」


 数秒前とは一変した溢れ出る血、跡形も無く弾丸により抉られ見るも無惨な姿と化したチャーリー、そしてケイナンに漂う異様なオーラ……。


 言葉を失いその場で座り込むユリは両手で口を押さえて吐き気を抑え、ルナはほんの短い間だが優しくされた母親の大切な人が死んだことを理解し、喚くように大声で泣き叫ぶ。


 「わーお、弟怖っ」


 血みどろな状況下でも軽口をたたくハロドックの表情は決して軽くなど無く、狂気染みたケイナンの行動も日常の些細な許せない行動程度に捉えて正気を保てている。


 これよりも悲惨な状況を知るハロドックが1人冷静であることにより、大きな騒ぎにはまだなってはいない。


 「兄さ……っ!!……げほっげほっ!!!がはっ……げほっげほっ!!!……ぅあ……」


 せめて何かチャーリーに、答えずとも何か言おうと舌を動かしたユリは突然激しく咳き込み、滝のように血を吐くと、目眩を起こして倒れた。


 「……まま?……」


 「ユリ!おい!ユリ!!!」


 ハロドックは倒れたユリに駆け寄り、呼吸が楽な態勢にする。


 しかし呼吸は小さく、尋常じゃなく汗をかき、おおよそ無事とは言えない状態で苦しむユリ。


 「急性発熱、過呼吸、吐血……ザルブかぜの末期症状と一致したな、もう治らないところまで進行している、ククッ……やれやれ、運は俺にどこまで味方するのやら……」


 次々と身に降りかかる幸運に笑いの止まらないケイナンに対し、倒れたユリや泣き喚くルナが最優先のために迂闊に手が出せない。


 さらにまだケイナンの呪力が未知数のためなのと、ケイナンまで死ねば人間界が機能しなくなる事を見て、クルエルの血族の未来を考えたならケイナンに手を出さない事が最善だと判断した……当然不服ではある。


 「ちぃ…」


 ハロドックはユリをおぶり、泣き喚くルナを抱きかかえて王室の扉からルブラーンの街中に向かって王宮を脱出していった。


 「……さて、作業のつづ」


 何事もなかったかのようにケイナンが戻ろうとするその猟奇的な行動に、警戒心が解けないセロナは柄を構える右手が離せず……




 ───瞬間、ボロボロのシュベレットが大きな音を立てて王宮の壁を突き破り、2人の目の前に転げ落ち王室の壁に激突した。


 「な!貴方は……シュベレット・フレブル!?」


 ハロドックとケイナンが各々が濃いオーラを放っていたため感覚が鈍り、目の前にシュベレットの姿が現れるまでミソラはその存在に気が付かなかった。


 「……今さら何なんだ、シュベレット」


 そしてシュベレットが吹き飛ばれ空いた王室の穴から、セロナがふわっと跳び上がり舞い降りる。


 「あ、やっぱり知り合いなのミソラ?」


 「元特等聖戦士序列10位です」


 「…知らない」


 (くっ、何という速さだ……特等聖戦士で1、2を争う速さとは聞いていたが……速過ぎる……私が全力でやってもあくびをかいている……9位と10位に、これほどまでの差があるとは……)


 「…9位と10位にそこまで差があるのですか?ミソラどの」


 全身切り傷だらけで起き上がることも困難なシュベレットと、全くの無傷で刀を収め涼しい顔をするセロナとを見比べ、単純に疑問を持つケイナン。


 「1位から9位には大差はありません、誰が1位でも納得出来る力を保持しています故、10位は上等から頭1つ抜ける程度なら誰でもなれます、即人間界に異動しますから」


 状況がこんがらがる現状でも下手にケイナンを刺激しない方が良いと冷静に踏んだミソラは、丁寧に質問に答える。


 「なるほど……セロナどのは龍人と聞いておとぎ話のリザードマンのような姿を想像したが、やはり他種族と同じく人間と全く変わらない姿……それでも、力の差は絶大なモノですな」


 ケイナンはこの状況下に飽き始め、高みの見物と言わんばかりに玉座に座り、右肘を腿につき右拳に顎を乗せ、不敵な笑みを浮かべたままどっしりと構える。




 「それでも元10位?らしいのはホントなんだ……致命傷はギリギリ避けられてる……」


 「はぁ……はぁ……」


 仰向けに倒れ込むシュベレットの胸ぐらを掴み、冷酷な眼差しで巨漢の目を刃の如く突き刺す。


 「ねぇ元10位の人、何のために戦うの?」


 「……戦ってなどいない……守っている……」


 「うんけどさ、守るために戦うのって結局は無益な争いじゃん……守るために憎しみを持つ……戦う人が戦う理由って、正義じゃなくて優しさだと思うんだ……優しい人は戦いたがりなんだよ、もう一度聞く……お前、何のために戦うの?」


 試すような口ぶりで再び刀を抜き、右眼にほんの1、2ミリの距離に切っ先を向けて問う。




 「───愛する者の、自由のためだ」




 一点の曇りなき瞳と言葉に、不覚にもシュベレットを心の隅で認めた自分自身を認めたセロナは刀を収め、ミソラのそばに寄る。


 「……その愛する人、死にかけだよ」


 しかしその願い、想いを無慈悲にねじ伏せる事実を、隠すことなく伝えるセロナ。


 「っ!!?…何を…」


 「何かヤバい風邪引いてるんだって」


 「っ…まさか…ザルブかぜに…」


 どこからその情報を得たのかはミソラすらも不明なまま、セロナはそれ以上語ることはなかった。


 「さ、終わりましょうか無益な戦い……行くよミソラ」


 「え、でもまだ任務が」


 「道草食いながら帰って辻褄合わせ、サボって本5万冊とか楽勝ゲーだよね~」


 「また怒られますよ」


 「それも含めてよろしく~」


 代理に部下を上司に怒られられるように指示するブラック上司のセロナはそう言って、補修にかなりの時間を要するであろう穴から降りた。


 「……ああもう……ご迷惑おかけしました……」


 結果的に得られた情報は多かったが、それをコーゴーに伝えるか否かを悩むミソラはセロナを追いかけていった。


 「……まあいい……邪魔者は消えた」


 「ぐ……っ!!!……チャーリー王!!……」


 シュベレットは何とかうつぶせの体勢になり、這いながらケイナンの元に向かうと、目の前に無惨な姿のチャーリーを見た。


 「死に損ない、さっさとどこかに行け」


 「……この……うぐっ!!……」


 すると自分では手に負えない脅威が去ったことを感じ取ったギュートラスが王室に現れ、うつぶせのシュベレットを蹴り飛ばして壁に激突させた。


 ギュートラスはすぐにシュベレットの胸ぐらを掴み、壁に背中を押しつけて小声で囁く。


 「……ギュートラスさん……っぐ……」


 「悪い事は言わねぇ、今はやめとけ……俺の言う通りにしろ」


 チャーリーをこのような姿にしたケイナンに対する激情を未然に抑えたギュートラス。


 ギュートラスはシュベレットの耳元でそう囁き、ギュートラスはシュベレットを王宮の外に投げ飛ばした。


 「……あれが先代長官なんすか?」


 「ああ……呼んでも無いのによく分かったな」


 「気配読み取んのなんか初歩中の初歩だよ」


 そう言ってギュートラスはシュベレットを追って王宮を飛び降りた。


 「……何が起こっている……」


 ルブラーン……いや、人間界で巻き起ころうとする大嵐に少し鳥肌を立て腕が震える自身の体で感じ取る。




   ※ ※ ※ ※ ※




 ハロドックは2人を抱えたまま街中を周り、病院や医療所を見て回るも、どこも人で溢れかえっていて、看て貰う事は出来ずにいた。


 「…くそっ…」


 ハロドックはルブラーン中を回るも、ついに頼れる場所は見つからなかった。


 「はぁはぁはぁ……げはっ……」


 おぶられてるユリの呼吸は早いまま、吐血してハロドックの右肩から腕にかけて血だらけになり、顔も赤く熱いままだった。


 王宮から出た時からルナはいつの間にか泣き止み、ユリを心配そうに見ていた。


 (くそ…ラルフェウの〝瞬間移動(ワープ)〟がありゃ便利なんだがな…まあどこ飛んでも同じだと思うが…)




 「───命令(コマンド):ユリ・クルエルとその同伴者をここに連れて来る」




 するとユリがルナを出産した医療所の部屋にハロドック達は突然、ラルフェウの呪力とは違う感覚を覚えた瞬間移動をした。


 そこには以前ハロドックが留守にしていた際にルナにおもちゃをプレゼントし、ユリと出会った女の姿があった。


 そう───リミル・ゼルアだ。


 「……リミル・ゼルアか……ならさっきの意味分からん瞬間移動も納得だな」


 「いいから寝かせろ、私は医術の知恵なら多少ある」


 「ああ……」


 この病院もザルブかぜの患者達で職員全員でも回らないほど手に負えない現状だが、リミルはそこからユリ1人のために小さな個室をキープしていたのだ。


 「まあ呪力を使ったおかげで、ユリの右目の視覚と左足の触覚が消えた、安い方だろう」


 「……それはユリが決める」


 ハロドックはとにかく苦しむユリをベッドに寝かせ、リミルの治療をルナと共に見守る。


 そしてリミルが苦痛から少しは楽になれる作用のあるカプセル型の薬をユリの肛門から入れると、ユリは落ち着き安定した呼吸で眠り始めた。


 「……どういう了解だ?」


 「ただの人助けだが?」


 リミル・ゼルアという女の存在が如何ほどのモノなのかを知っているハロドックだからこそ、ユリのために、〝ホシノキズナ〟継承者のために個人で動く事が解せなかった。


 裏は当然あるだろうが、リミルがハロドックに発した言葉が嘘という訳では無い。




 ─────

 ────

 ───

 ──

 ─




 「初めまして、ユリ」


 「……え……」

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