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Past Letter  作者: 東師越
第3章 ホシノキズナ
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第89話 Moon lullaby 14

 チャーリーはハロドックとユリに、自身に起きた事の顛末を全て話した。


 それは概ね新聞に書かれていた通りだったが、チャーリーの口からでないと得られない状況やケイナンの様子を聞く事が出来、ハロドックは真剣に話を聞いた。


 「工作してるに決まってんだろ」


 結論を出すのが早いハロドックは、チラチラと焼ける貝の匂いが気になり視線を移す。


 「そうですよ……兄様が外部と取り引きなんて……」


 「だが、第三者からデータが細工された形跡は無いと言っていた」


 「なら呪力だな……誰のどんなか知らねぇけど、呪力の認知度は人間界は決定的に無い、都市伝説程度にしか考えてねぇだろ」


 半鎖種主義を貫く人間界は、外部から強者など入ってくるはずもなく、人間は7種族で単体の戦闘能力が最も弱いために、発現する者はほぼ0に近い。


 突発的に発現する者もいるが、個人が隠したり、その地域だけで隠蔽されたりして、他の街や未来には伝わらず、結果的に都市伝説扱いとなる。


 「私も実際にそう思っていた……が、もうそれしか無い……ケイナンがそうなのだろうか……」


 「いや別の、配下の1人にいるんだろうな……あの野郎の呪力の気配は、知り合いに似てる……ぶっちゃけ呪力の性質だけで言えば、俺を越えてる」


 世界中のあらゆる猛者達を何千年も見てきたハロドックだから分かる、人の気配の奥底に存在する呪力のにおい。


 こういったタイプの呪力はこういうにおいだというものを嗅ぎ分けられるハロドックの気配探知能力は長年の経験でのみ培われる代物だ。


 「え!?ハロドックの……時止めより強いって……」


 「性質は上……しかも、〝五聖〟だろうな……」




 呪力にも強弱はあるが、それ以上に差別化されているのが、効果を発揮する対象の存在だ。


 例えばラルフェウの〝瞬間移動(ワープ)〟はが効果を発揮する対象は自分と、自分が決めた範囲に存在する決めた対象の人や物だ。


 ハロドックの〝時停世界(ヘブン)〟は自分と、それ以外の世界全てと絶大な範囲に絶大な効果を発揮するため、その強さに伴う代償も大きい。


 ハロドックの言う〝五聖〟とは、この世にたった5つしか存在しない──効果を発揮する対象が呪力である呪力だ。


 呪力を駆使する猛者同士の闘いにおいてのみその真価が発揮されるという全くもって不便なものだが、発揮されたならば為す術はほぼ0に等しいとされている───。




 「……そんなとんでもない代物を、ケイナンが……」


 「あくまで可能性だ……まあ俺の勘、っていうか証拠に基づく仮説は概ね正しいだろうな」


 弟がそのような都市伝説扱いされている程の希少な存在を仮説ではあるが体に宿し、隠していた事を知ったチャーリーは、険しい表情を浮かべる。


 弟の事を何も知らず、手の平の上で良いように転がされ、そんな自分が情けなくて怒りが込み上げる。


 「どうなさるんですか、兄様」


 「……ルブラーンに戻る、そして今一度、ケイナンと話がしたい」


 「死ぬぞ」


 ケイナンがどれほどまでチャーリーに対して踏み込むかは分かりかねるが、命の保障が無い事は確定していると言っても過言ではない。


 本人も分かっているだろうが、念押しのためにハロドックはド直球に言葉をぶつける。


 「ハロドックどの、俺とケイナンの元に来てくれないか……ユリと……それから、ルナ君も」


 「ルナも?」


 「ああ、彼は次期王候補だ、クルエルの血が通っているからな……人間界全体が揺らぐだろうが、ケイナンの野望は何としても食い止める……その姿を、ルナ・クルエルには見届ける義務がある」


 相打ち覚悟……己自身を捨ててもケイナンの暴走を食い止める必要があると踏んだ上で、ユリとルナも来るように言うチャーリー。


 「お堅いね~、大丈夫だユリ、俺が守るから」


 「……うん」


 不安げな様子のユリを不思議そうに眺めるルナごとハロドックは懐に抱きしめ、ユリを安心させる。


 この家族の様子を見て心が温かくなり微笑むチャーリーだったが、次のハロドックの言葉がクルエル兄妹を絶望に陥れる。






 「───と、言うわけだケイナンさんよぉ……」






 ハロドックは突然そう言って部屋の端っこの蜘蛛の巣に近付いた。


 「っ!!!……まさか」


 「どういう事!!?」


 「隠密に行くかよ、画面越しに宣戦布告だ、待ってろよ欠落者」


 そう言ってハロドックはナイフで蜘蛛の巣を粉々に切り裂いた。


 「……監視されていたのか……」


 「監視……あの蜘蛛の巣が?……」


 「そういうハイテクなのがあるんだよ、この男がここまで落ちたのはその蜘蛛のせいだよ」


 「……いつから気付いていた?」


 「この家に入ってから、まああるだろうなとは思ってたが、気付いてなかったのかよ……自分が何に負けたのかちゃんと学べよ」


 痛いところを突かれたチャーリーは言葉が出ず、歯を食いしばり俯く様子を横目にハロドックは焼けて殻を開いている貝を手に持ち、「熱っ!」と反射しながらも、貝殻ごと頬張る。


 「……うん、美味ぇ」


 おおよそ食べる時には鳴らないバリボリとした音がハロドックの口から聞こえ、驚きのあまり開いた口が塞がらないクルエル兄妹。


 「なんて咬合力だ……さすがハロドック・グラエル」


 「殻って美味しいの?」 


 チャーリーは何故か感心し、ユリは正しく気持ち悪がりつつも質問し、ハロドックは口の中のモノを飲み込んで答える。


 「野菜果物は皮の方が栄養あるだろ?そういうことだよ」


 「いや分かんないよ……」




   ※ ※ ※ ※ ※




 そして王室の極秘の部屋では、四角く形取られた4本の蜘蛛の巣に画面が表示され、さらにその部屋の様子を王室からハロドック達の様子を見ていたケイナンの姿があった。


 「そっちから来てくれんなら、こちらとしてはありがたい……はい」


 兵が王室の扉ノックし、ケイナンの声で開くと、引率した兵2人と共に2人の女が入ってきた。


 「これはこれは、遠方よりご足労いただきありがとうございます、セロナ様、ミソラ様」


 「ん」


 「……あの、ケイナン王」


 「はい、何でしょう?」


 セロナと共に来た〝特等専属戦士(セカンド)〟のミソラ・キリシマが敬礼をしてケイナンに質問をする。


 「我々がコーゴーから来るという事は伝えていないはずですが」


 「はあ……そもそも入らないですし」


 「入ります」


 「は?……」


 「我々の技術力であれば、たった一つの〝携帯型言伝貝(リリア・ディーシャレ)〟さえあれば情報なんて幾らでも入ってきます、あなた方が〝言伝貝(ディーシャレ)〟を使う限り」


 コーゴーが持つ最新の技術が、〝言伝貝(ディーシャレ)〟を手のひらサイズに小型化させ、電波をジャックさせてしまう事を知り、口を少し開けて驚く。


 「脅しですか?いやいや困りますよぉ~……まな板のくせに」


 今の一言でミソラは気に入らないと確信したケイナンは、特に関係ない暴言を吐き始める。


 「今回の我々の任務は、ここ最近の人間界の近況を知ることです……協力願います」


 「……良いですが、我々は何を?」


 「ふわぁ~あ、長い」


 気の短いセロナは中々終わらない2人の会話を聞きながら大きなあくびをし、話を遮ろうと謀る。


 「もう少しお待ちください、最近ジェノサイドのかなりの人員が人間界以外を不自然な程往来しています、ですので、人間界に何かあったのではないか、と……


 ……あなたが即位されてから近況報告等が一切断たれました、これは不干渉条約の規定に反します、その件も含めて、ご協力お願いします、当然ながら拒否権はありません……


 ……あなたは今コーゴー本部により、我々の疑いの真偽を問われていますので」


 しかし任務のために至って大真面目なミソラはセロナのかまってちゃんに付き合わずケイナンとの対話を続ける。


 「勝手だな~……まあいいですけど」


 「それと、ここに来るまでにかなり大勢の方が療養されていましたが、何でしょうか」


 「はい、ザルブかぜと言いまして、10数年に一度、人間界全体で大流行する、死亡率の高い感染症です……


 ……以前の大流行で母が亡くなりました、子供老人はそうですが、前回の大流行での研究で、女性の感染率が男性の6倍、死亡率は10倍以上でした……お気を付けて」


 「風邪引いたこと無いんだけど~」


 退屈そうに体をくねくねと動かすセロナは再びミソラとケイナンの話を遮り、玉座から座って離れないケイナンの前にふわっと飛んで目の前に立つ。


 「さすがは特等聖戦士様」


 「ほらほら始めますよセロナ様」


 その時、ミソラですら感じ取れていない気配を、セロナとケイナンはただ2人だけ勘づいていた。

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