表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Past Letter  作者: 東師越
第3章 ホシノキズナ
76/711

第73話 想いの力

 戦闘を終えたレオキスは、音が止まり静寂の気配を感じ、不思議に思って王宮から外に出た。


 冷え切ったエントランスを閉じ込める、凍り付いた扉を蹴破り冷気が一気に外へと流れていく。


 急激な温度差に調子を落とすこと無く、ものすごく久々に思えてくる外へと一歩踏みしめる。


 瞼を開け、その光景にまず驚愕した。


 正門がはっきりと見える。


 数多の家屋や店などの建物がひしめき合う王都ルブラーンで、王宮入り口から正門がはっきりと見えることなど、あり得ない。


 そんな建物たちは燃えた跡や砕けた跡、吹き飛んだ跡など、とにかく多様に破壊され更地と化したルブラーン。


 決して狭くない、むしろ全世界の中心都市の中では最大規模の面積を誇るルブラーンの約半分が、僅か10数分でこれほどにまで破壊された。


 その戦闘の壮絶さを物語るには、十分過ぎた。


 そんな中、王宮前の広場の跡形も無い場所にて隣り合って寝そべるクラジューとゾーネがいた。


 「お疲れっす」


 「───」


 クラジューはレオキスの顔を見て、レオキスがルブラーンの光景を見た際とほぼ等しく驚愕の表情を浮かべた……そして二度見。


 「……え、なんすか?……」


 「いや……お前は死ぬと思ってたから」


 「ヒドいっすね~クラジューサン、オレ結構頑張ったんすよ?」


 「その闘値じゃそうなるだろ……どんなセコい手使ったんだよ」


 「使ってないっすよ……」


 正直レオキスはホッとした、自身の本来の力を隠せていることに。


 もしもこの力が一行にバレたなら、ジェノサイドがどんな手を駆使しても壊しにくるに違いない……それだけは避けたい。


 今生きている中で、唯一信じられる人々に自分の都合で崩壊が起こることはなんとしてでも避けたいと強く願う。


 たとえ素性を隠していようとも……。


 「相手はろくな死に方しなかったよな……なんか爆発音聞こえてきたし」


 「口ぶりがセコい手使った前提みたいな感じなんすけど……まああれはやり過ぎたっすね……ははは」


 「とりあえず邪魔だ、来んならハニーローストピーナッツ山盛りな」


 「ええ……まあお邪魔なのは理解してたんすけど」


 「してんならさっさと失せろよ」


 「話止まんないな~と思って」


 「お前が死ねばよかったんだろ?」


 「とても命懸けで戦った人に対する言葉とは思えないっす……」


 「ん~……クラジューくん~♪……」


 すると眠っているゾーネはクラジューの右手を自分の胸にくっつけた。


 「ちょっ!!?おいゾーネ起きろって離せよ!……力強っ!!?」


 抱き枕か何かと勘違いしたのだろうか……力が入らない現在のクラジューでは引き抜けない程に、ゾーネは右腕を抱きしめる。


 「だ~め~な~の~♪……むにゃむにゃ……」


 本気で眠っているのかを疑う事はいつものこととして、いつまで経ってもクラジューはゾーネのスキンシップに慣れない。


 ただでさえ恥ずかしいこのやり取りを、野郎に見られている事は羞恥の極み。


 いくらゾーネのザルブかぜでの治療で手厚いサポートを受けたレオキスだとしてもさっさとどっかに行ってほしい。


 そしてハニーローストピーナッツ持って来い。


 「……失礼したっす……」


 レオキスは2人を見て察し、ルブラーンの正門の方に歩いていった。




   ※ ※ ※ ※ ※




 「はぁ……はぁ……」


 「まだするか」


 少し前、王宮地下7階ではリドリーがアリシアの元に向かおうとするも、ことごとくシュベレットの前に打ち崩されていた。


 「……くそ……アリシア……」


 「まだやるか、チの女」


 「うるせぇ!!!!」


 リドリーは地斧デゼルトでシュベレットの胴体を斬りにかかるも、シュベレットの体はそれを通さなかった。


 「その力、噂に聞く〝聖器(ポーマ)〟とやらか、それでこの威力……笑止」


 この言葉は要するに、リドリー本人には眼中に無い。


 武器に人よりも強い気配を宿すというのは武器そのものに魂が存在する〝聖器(ポーマ)〟のみだ、それを知るシュベレットは容易に〝聖器(ポーマ)〟だと判断出来た。


 シュベレットは素早く動くリドリーの動きを読み、先回りして腹部を右拳で殴り飛ばした。


 リドリーは壁に激突し地面に叩き付けられ、キブニウムの壁はめり込んでいた。


 塊と言わんばかりに筋骨隆々とした肉体……そこからは見た目通りの凄まじいパワーと、想像出来ないほどのスピードがリドリーを苦しめる。


 最速でアリシアの元へと向かいたいリドリーだが、戦闘に置けるあらゆる要素で自身に勝るシュベレットの壁は分厚く、手応えすらも感じられない。




 「私は自らが許せない、何も守れなかった……ならばせめて、ユリ様のご子息を……希望の願いを……守り抜くと決めた、私のこの分厚い肉体は!折れぬ我が心は!貴様程度に崩される程腐ってはいない!!」


 「っ……てぇな……筋肉ダルマが……」


 策を考える暇さえ与えない、シュベレットの絶え間ない攻撃。


 リドリーはギリギリでかわしているが、明らかに手を抜かれている事は早くに理解出来、腹も立っている。


 息も切れだした、共鳴が出来ない、呪力は命のリスクが高い、アリシアに届かない……。


 高いレベルの範疇でバランスが良い……可も無く不可も無い、やりにくい……。


 斧はその頑丈さでシュベレットの攻撃を防いでくれてはいるが、どうしても吹き飛ばされてしまう。


 「自然族は自然との共鳴、巨人族は巨人化、妖人族は霊力、魔人族は魔力、龍人族は龍の力、和人族は不明だが、身体能力の平均値が他種族の群を抜いて高い……」


 なるべく無駄な殺生は望まないシュベレットは、心の内側から諦めさせるために口を動かす。


 「……だが私は純なる人間、人間には数と知能という他種族に劣らぬ力を持っているが、孤独を好み頭も悪い私には、筋肉しかなかったのだ……」


 猪突猛進とただ突っ込むだけとなり、動きが大雑把で雑になり始めたリドリーに追い込みをかける。


 「……おかげで人間族史上初の特等聖戦士となった、生と同時に受けた恩恵を微塵も使えない貴様が私に勝機など存在しない」


 足がもつれたリドリーは姿勢が僅かに乱れ、それを見逃さないシュベレットはみぞおちへと正確に回し蹴り、かかとをぶつけた。


 リドリーは両手で斧を持ち直撃を避けられたが、再び壁が凹むほど背中を大きく打ち、体全体に衝撃が走る。


 ほんの一瞬だけ意識が途切れ、ガンガンと痛む全身は少しずつ震えだし立ち上がるだけで精いっぱいだった。


 「……はぁ……」


 それでもリドリーの目は諦めを欠片も思わせない色をし、シュベレットを睨み付ける。


 「何のため息だ」


 「知り合いのバカ神が言ってたんだよ……人が一番脆くなる瞬間は、確信を持ったとき……人が一番強くなる瞬間は、確信を得たときだってよ」


 諦めるなんて、あり得ない。


 今こそ、この時こそ、乗り越えるべきだ、弱い自分から。


 アリシアをただ純粋に愛し続けるために強くなる、それがこの時だ。


 試練は上手いこと自分にかかってきたものだ……まさに絶望的な状況、考える暇を与えない……だから、アリシアを想い続けられる。


 アリシアはどんな時でも自分を支えてくれた、想う事よりも力がみなぎるモノなど在りはしない。


 全てはアリシアを助け出すために、そうやって自分を奮い立たせる。


 息を整える……酸素が肺を介し、全身に巡っていく、血が速く、より速く流れるのを想像し感じる。


 負の意識は払拭できる、諦めの悪さなら自信がある、イメージしろ、あいつに勝つ己の姿を。


 思い出せ……自分の大義を、闘う理由を、生きる意味を。


 幼さを残すあどけない笑顔がリドリーの瞼の裏に映った時、斧を握る手は強くなり、怖じ気づきだしていた体の震えは止まった。


 「理解不能だな」


 シュベレットは右人差し指でリドリーの喉を突きにかかるもリドリーは何とかかわし、空中で体を反転させてシュベレットのうなじを斬りにかかった。


 「てめぇのおつむで決めつけんなって事だよ」


 リドリーの攻撃でシュベレットのうなじには若干の傷が入った。


 「っくぅ……はあっ!!」


 シュベレットはリドリーの左脇腹を回し蹴りで右脚のかかとで蹴り飛ばした。


 しかしリドリーは壁がめり込む程強く激突しても、すぐに立ち上がった。


 「貴様こそ妄言もいいところだ、どこの神を信仰しているか知らんが……確信の得られない弱さを思い知れ」


 (……やれやれ、一番厄介な女だ……底が見えない上、戦いの中で成長し続ける……ガービウ・セトロイのようなタイプか……ならば)


 「ふん!!!!」


 するとシュベレットは背広の上半身を破き捨て、さらに筋骨を盛り上げた。


 「服の下から筋肉盛って破るイベントじゃねぇのかよ」


 「特注の丈夫な服でな、それに仮にそうすれば首に負担がかかる、冗談でもするべきではない」


 全てが一段階上のステージに入った……そんな感覚をリドリーは覚えた。


 手加減の枷は外れかけている……このデカブツを徐々にだが追い詰めている……その自信が、シュベレットの覚悟を垣間見て湧く。


 「……従順な犬精神のてめぇに、あたしが負ける訳にはいかねぇな」


 「……その目が危険故に、貴様はここで死ぬ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ