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Past Letter  作者: 東師越
第3章 ホシノキズナ
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第71話 ヒーロー

 約900年前、とある湖のほとりで、ベイルはうつぶせに眠っている青年を見かけた。


 気絶とか意識不明とかではなく、寝息を立てぐっすりと眠っているのだ。


 「……何だこいつ」


 「……息が小さいのう……生命維持を保っているだけの植物状態のようじゃな……」


 マルベスは青年の鼻の前に右手の平を近付け、呼吸の有無を確認する。


 「そゆときはこうだな」


 そう言ってハロドックはおもむろに青年の腰を両手でがっちり掴み、おもむろに湖に投げ入れた。


 湖のど真ん中にドボンと落ち泡がブクブクと水面に現れ、そして失せるまでの数秒間をベイル、ハロドック、マルベスの3人は真顔のまま見つめていた。


 「……何しとるんじゃエロドック」


 きっと死んだと天を仰ぐと同時にマルベスはハロドックの奇行を問い詰める。


 「その言い方やめろよ、どうせ沈んだらベイルが助ける」


 「何でだよ」


 きっと生きていると信じると同時にハロドックはいつものように冗談を交えて答える。


 またこの時のベイルのツッコミが普通すぎるあまり、渾身のボケだと自負していたハロドックはもう少し捻りがほしいという眼差しをベイルに向ける。


 しかしその捻りの無いツッコミはベイルの本心故にこれ以上も以下も無い……眼差しの意味が分からず、指を突っ込んでほしいのかと密かに右手でピースの形を取りかける。


 すると湖からはさっきから泡が噴き出し、直後に青年が目覚め湖から浮き上がってきた。


 「ぷはっ!!?……うぶっ……かはっ……はぁ……はぁ……」


 青年はあたふたしながらほとんど犬かきの泳法で泳ぎ、なんとか陸に上がってきた。


 「よっ」


 地面に腕を起き、足を上げて何とか上がってくる青年の前でハロドックはしゃがんで手のひらを見せて挨拶する。


 「……えっと……どちら様ですか?」


 「俺はエロを愛しエロに愛された生来の変態、ハロドック・グラエルだ、さあ崇めろ崇めろ」


 いつもの前置きを踏まえた上で、ハロドックは痛くも格好つけて自己紹介した。


 「……ハロドック・グラエルって……あの……」


 「お主、種族は?」


 どこかで聞き覚えのある名前の情報を脳からかき出すよりも先に、即答が可能な質問がマルベスから飛び込んできたため優先してそちらを先に答える。


 「……魔人族です」


 「ほお~、珍しいのう!いや~千年戦争で〝ヘルアンドヘブン〟が実質滅び、外に出ていた魔人族もほとんど死に絶えて……確認してる生き残りはわしら3人じゃったからのう……確認じゃから、本当は何人いるのやら……」


 「……〝ヘルアンドヘブン〟が……え……今……」


 しかしそんな顔だけは優しそうな老人から発せられたとは到底思えないような膨大な情報量を、自身の脳内だけでは整理出来ない。


 「お主、最後の記憶は何年じゃ」


 戸惑いを見せていた青年を見て、マルベスは再び青年が即答出来そうな質問をする。


 「……確か……クロユ暦3048年……です……」


 「それはもう300年も前の事じゃな」


 「……そんな……」


 ピンと来なかった、当然だ。


 最後の記憶が300年前ということは、自分は300年間こんな所で眠っていたという仮説が真っ先に浮かんでくる。


 誰かが連れてきたのか、タイムスリップしたのか、何より戸惑う事は自分がこの湖畔の景色に一切の見覚えが無い事だ。


 しかしそれについては青年にはある程度予想はついている、それよりも本当にここが300年経った世界なのかと確認したかった。


 「何だよクロユ暦って」


 「〝ヘルアンドヘブン〟の暦だよ」


 「へ~」


 「あの……戦争は……終わったんですか……」


 ベイルとハロドックの日常会話そのもののやりとりには気にも留めず、マルベスの目を見て、やや不安げに質問する。


 「ああ、100年前に終わった……そして、魔人族は実質滅亡した」


 信じられない単語が次々と出てくる……まず、戦争が終わった事にはひとまず安堵した、そして口ぶりからして自分のいた魔人族は敗戦を喫したのだろうと察せた。


 だがそれと滅亡したという事実とは噛み合わない、負けたから滅亡したのか、滅亡したから負けたのか、それとももっと別の何かで、戦争とは無縁の何かが滅亡させたのか……。


 とにかくどういうことなのか詳しい質問を求める、マルベスはそれに何の見返りも要求すること無くほいほいと教える。


 理由として、この会話にマルベスの損得は発生しないからだろう。


 「……魔人族最大の目的じゃった、〝ホシノキズナ〟の奪取……このために魔人族は総勢1億、魔人族の人口のほぼ全てを投じ人間界に攻め込んだ」


 1億という数字がピンと来ない、でもその数は自分もよく知る魔人族の総人口の9割強だということは理解出来た。


 「その数の軍勢を……人間界は、何億人で迎え撃ったのでしょうか……」


 「1人じゃよ」


 「は?……」


 あり得ない回答に、思わず声がこぼれる。


 まずどの戦争でもあり得ないような数、1億という事実もまだ飲み込み切れていないのに、こちらもまたどの戦争でもあり得ない数を発せられ困惑が顔ににじみ出る。


 「……やったのは……ガービウ・セトロイじゃ」


 それは聞き覚えのよくある名前だったが、〝千年戦争〟にジェノサイドは全く関わりは無いと思っていたために超意外な人物だった。


 しかしそれでも1億に勝機を見出してたった1人で迎え撃ったのがガービウ・セトロイだと、何故か納得がいってしまう。


 「……それはそれは凄まじかったそうじゃ……なんせ、三日三晩で1億の軍を1人残さず滅したのじゃ……人間界に依頼されたかなんだかよく分からんが…この出来事が、〝千年戦争〟最大の戦、ルブラーンの戦いは……こうも称されておる……




 ───〝魔神の再臨〟と」




 「わ……分かりました……ありがとうございます……」


 話の壮大すぎるスケールに、あっけにとられてしまった。


 青年の想像力じゃどう描いても描ききれない未知のやり取りが、眠っている間に起きていたことを実感し体が震える。


 「……僕以外に、ここには誰かいませんでしたか?……」


 マルベスには話題を変えるための質問と捉えたようだが、青年にはもっと切実な思いがあって聞いた質問だ。


 「いやお主1人じゃぞ、ずっと」


 「そ……そうですか……」


 「おいまだ話終わんねぇのか?俺はいつまでこいつの理想のおっぱいの形の熱弁聞いてなきゃいけねぇんだよ」


 「おい、この世におっぱいよりも大事な胸に秘めるモンなんてあんのかよ」


 ベイルの話した内容とは論点が斜め上の上までズレてる上に、真面目な顔で口を開くものだから対話する相手はハロドックのエロトークのペースにあっという間にのまれる。


 さっきから青年もこの2人が気になって仕方が無い、片方は聞いたことある名前だしもう片方は……あまりにも異様な気配を感じる。


 もはや人では無い何か、獣などでもない別の何かに思えてくるほど異質なオーラだ。


 「……あの……貴方は……」


 「ん?俺?ベイル・ペプガール」


 「……え……えええええええええええ!!!!?」


 すり減りきったはずの体力を横目に腹の底から驚嘆した青年は、座りながら後ずさりして背中から湖にドボン。


 再び顔を出し陸の上に上がると、もう一度腹の底から驚嘆した……今度は落ちないように後ずさらず。


 「何だようるせぇな」


 「ぼ……ぼぼぼぼぼ僕!!……ベイル・ペプガール様が……永遠のヒーローなんです!!!!」


 「……ヒーロー?」


 様と敬称する辺り、相当崇拝しているのだろうとハロドックとマルベスは思う。


 「ヒーローってっはははははははは!!こいつが!!?なっははははははは!!!あっはははははははげほっげほっ!!」


 「笑いすぎじゃろ生来の変態」


 しかしヒーローと呼べる逸話を残してなどいないベイルが敬称され、ヒーローだと言われたのだから笑いが止まらない。


 「俺が……ヒーロー……」


 「はい!!!!あ!僕はラルフェウ・ロマノフといいます!!」


 胸の奥でスイッチが入っちゃったベイルの震わせた言葉をラルフェウは全力で肯定する。


 「おほっ……なんかいいな……おいおい!おい!」


 「はい!!」


 「俺の下僕になれえええええええ!!!!」


 「はああああああああああああい!!!!」


 「「ええええええええええええええ!!!!?」」


 ベイルは大声でラルフェウに指図し、ラルフェウは大声で答え、ハロドックとマルベスは同時に大声で目を飛び出して驚愕していた。


 当たり前だ、ベイルの突拍子も無い命令を疑う余地も無く受け入れるラルフェウ、それがその場のノリとかでは無いから恐ろしい。


 ハロドックとマルベスはきっと目玉が飛び出しただろう、いや違いない。


 その日一番のラルフェウの笑顔がこの瞬間だったのだから───。




   ※ ※ ※ ※ ※




 「……うん、やはりすごいな……ギュートラス・ゴージス」


 「は?」


 ラルフェウ……否、ラルフェウの体だが精神は全くの別物、男曰くエルドラド・サンダースは、ギュートラスと目を合わせる事無くラルフェウ自身の右腕を上げ、見つめたまま会話が始まる。


 ギュートラスはラルフェウが人格が全く変わるという事を知っている口ぶりだった。


 しかし出てきたのは火山島でミソラ相手に現れた自称〝聖器(ポーマ)〟の闇弓ルシファーではなかった。


 しかし、エルドラドと名乗るその人格が現れてから、さっきまでダダ漏らしていた怒りや殺気は消滅したかのように失せている。


 「ラルフェウ君は才能の塊だ……魔力の濃さは修練で如何様にも出来るが、魔力量は身長と同じく天性の素質……この魔力量は、歴代魔人族でも最高だということはまず間違いない」


 「何が言いてぇ」


 怒りや殺気も無いが、スキも無い。


 人格が変わる前よりも、明らかな闘値の上昇をしている……8億だ。


 ギュートラスは人生に置いて自身よりも闘値の高い者は何人も見てきた……自身は1億ジャストだが、それより強い者はゴロゴロいる。


 もちろんそれは数値上の話で、環境、相性、精神状態によって変わるのは当然だ、ギュートラスは強者相手でもそれらを駆使して対抗してきた。


 それでもどうにもならない相手が、差が大きすぎる強者だ。


 ギュートラスと大幅に差のある強者ならば、環境、相性、精神状態に左右される事もほぼ無いだろう、あっても即座に適応してくるだろう。


 この闘値という数値が表す最も重要な情報が、対象の身体における総合能力だということ。


 「君が1億というのも頷ける、魔人族は魔力による破壊力に耐性を持つためどの種族よりも頑丈だ……さらにこの魔力量で常に身を守っている……


 ……こんなにも固い体であるラルフェウ君の四肢を、ああも容易く切断するんだ……末恐ろしい男だ」


 「知るか」


 「それでいい……そして、私は君の罪を許しちゃいない……贖ってもらう……人を不幸に陥れる事は、悪いことだ」


 ようやくエルドラドはギュートラスの目を見て、強い意志を持ってそう言った。


 「……俺のダメージ持ってて飄々としてんのは……気に食わねぇな」

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