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Past Letter  作者: 東師越
第3章 ホシノキズナ
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第70話 憤怒

 王宮地下1階では、ラルフェウとギュートラスが対峙していた。


 ちなみに地下の部屋の階層で最も間隔が離れているのがエントランスと地下1階で、10メートル近くはあるだろう。


 「……久しぶりだな、って言って……覚えてくれてんのかな?」


 「ええ、鮮明に」


 ラルフェウの表情はたったひとつの確かな感情に支配されている。


 静かに、心の内で猛々しく煮えたぎる怒りの感情だ。


 不敵な笑みを浮かべるギュートラスを前に確かな、普段怒りなどとは無縁なラルフェウが、確かな怒りを持っている。


 「ならよかった」


 「何一つ良くないですよ、顔も見たくなかったのに」


 冷静に会話出来ているのも、口を閉じギュートラスには見せずに歯を食いしばって、理性を保っているためだ。


 「言っとくが俺は何も知らされてなかったからな、ただ命令に従順だっただけで」


 「言い逃れしないでください……エルナを強姦し辱めた罪は背負ってください」


 「妹だったとは知らなかったんだよ」


 「……正確には妹ではありません……僕の両親を殺した男とその奥さんを僕が殺し、その2人の子供としてまだ赤ん坊のエルナを殺せず、妹と言って育てました……誘拐です」


 2人にしか分からない、昔話を繰り広げる。


 「なら実の妹より愛情が湧くのか?憎しみの対象じゃないのか?」


 「エルナに罪はありません」


 「ちゃんと割り切るんだな……へぇ、肝座ってんだな」


 握り締める拳の握力はどんどんと高まっていく、饒舌なギュートラスの無駄話が耳付近で飛び回る蚊ほどにうるさく思えてくる。


 「ミルベルは……元気ですか?」


 「知らねぇな……俺はもうジェノサイドはやめた、けどあいつ今や最高幹部だぜ、出世したな~」


 しびれを切らし出したラルフェウは口を開け、歯を思い切り食いしばり殺気染みたオーラを強烈に放ち始めた。


 「それよか、そっちの妹は元気なのか?」


 「行方不明です、安全な場所にいるとしか伝えられていませんし」


 「そんなとこ……〝癒波動の地(ヒーリング・ランド)〟しか心当たりがねぇな……けど確かあそこ、聖戦士を100人以上殺した男を匿ってたって事で、コーゴーが敷地全体を焼いたって話だぜ?10年前くらいに」


 「……そうなんですか」


 「その目は、俺を殺すか?」


 「ええ」


 抑えきれない衝動のままにラルフェウはキブニウムが含まれる床が僅かに凹むほど足を踏み込み、正面からギュートラスを右拳で殴りにかかった。


 「賢くねぇな」


 ギュートラスは右の手刀でラルフェウの首を左から右へと薙ぎにかかるも、ギュートラスの目の前からラルフェウは消えた。


 「ほお」


 ラルフェウはギュートラスの懐に潜り込み、右拳を顎に振り上げた。


 「だから……賢くねぇっつってんだろ!!」


 ギュートラスはラルフェウの右拳を顎に激突したと同時にラルフェウの右手首を右手で掴み、ラルフェウのみぞおちを右膝で一発蹴り入れた。


 「がはっ……」


 ラルフェウは即左拳で反撃にかかるもギュートラスはあっさりかわし、掴んでいる右手首を握り折り右側に放り投げラルフェウは壁に激突した。


 「もういっちょ!」


 さらにギュートラスはラルフェウが地面に落ちる寸前にラルフェウの右脚を太ももの中腹辺りから、背負う剣を抜き大きく振って切断した。


 「ぐあっ……」


 「ちっとは大人しく……」


 するとラルフェウの右脚は数秒で再生し、元通りになった。


 「はぁ……ふぅ……こんなものですか?」


 ラルフェウは服についた埃を右手で払い、立ち上がった。


 「……化け物が」


 「お互い様です」


 血流速度が上がるみたく、ラルフェウの体を循環する魔力はさらに速度が上がり、濃度も濃くなっていく。


 それはギュートラスも同じく。


 無機質な鉄の部屋に、地響きのような轟音が響き始める。


 お互い一歩も足を動かさなくとも膨大な魔力がぶつかり合い、常人にも見える程に、ラルフェウは紫、ギュートラスは黒い魔力が激しくせめぎ合う。


 らちが明かないと足を先に出したのはギュートラス、コンマ01秒遅れてラルフェウも動き出す。


 スタートダッシュは間違いなくギュートラスの方が速い、それでも無駄が一切省かれイメージ通りに魔力が膨れ上がる拳が先に顔面を殴り飛ばしたのは、ラルフェウの右拳。


 それも予測済みだったのか、笑みを崩さず攻撃の方向に逆らう事無くギュートラスは頭を退ける。


 しかし吹っ飛ぶ事はなく両手を地面につけ、バク転しながら両足をラルフェウの右腕に絡めて離さない。


 なめらかな身のこなしをそのままに、両手を地面から跳ねて離しラルフェウを強く地面に叩きつける。


 「がっ……」


 その衝撃で、世界最固の床にまたしても今度は大きな凹みが生じた。


 この間約2、3秒……そんな速度で幾多の選択肢から手段を迷い無く決め駆け引きをする2人の姿は、どちらにも化け物に見えるだろう。


 何の力も持たない者がこの場にいたなら、濃すぎる魔力に満ちるこの部屋にいたなら圧迫死何てこともあり得る。


 2人が力の限り闘う事で純粋な戦闘能力を7種族の能力全体で鑑みて魔人族が最強だということ、そしてこの部屋の異次元の頑丈さを知らしめる。


 ほんの僅かに怯んだラルフェウのスキを見逃さず、天井に右足の裏をつけ踏み込んでラルフェウの四肢を無惨に斬り落とす。


 大振りだけでなく細かに標的の脆い部分を見抜き、綺麗に剣を振る剣術、なめらかな身のこなし、魔力による圧倒的な破壊力、近接戦においてギュートラスには死角が無い。


 それでも常軌を逸するとかそんなレベルの現象ではない、相手を絶望のどん底に叩き落とすラルフェウの再生スピード。


 四肢が完全に斬り落とされたとて数秒もあれば再生する……バカげていると言わんばかりに舌打ちするギュートラスから、間を取り呼吸を整えるラルフェウ。


 「イカれてんだろ……その再生力……」


 「僕だけの力じゃないのでどうとも言い難いですね」


 ラルフェウはさらに強烈な殺気も孕んだオーラを放ち、ギュートラスに立ちはだかった。


 「へぇ……」


 ギュートラスは片手で剣を遊ぶように振り回し、ほぼ前触れもなく突然ラルフェウの両腕が切断する。


 「……こんな容易く腕斬れんのに……何だよ……それ以上が出来る気がしねぇな……」


 ラルフェウは、例の如く数秒で両腕を再生させる。


 当然痛みや苦しみはある、血も多量に流れる、何ならさっきの攻撃はかわす事も出来た。


 用心に超したことは無いと、ラルフェウは自らの再生力を見せつけてギュートラスの精神を摩耗させる。


 「お前一体……何人なんだ?」


 「質問の意味が分かりません」


 それでもやるしか無い、やるほかに道は無いと己に言い聞かせ、ギュートラスは一瞬で間を詰めラルフェウの心臓を斬りにかかった。


 ラルフェウは寸前でかわし、剣に対応しつつ拳や蹴りでギュートラスに対抗していた。


 「甘ぇな、弱すぎるぜ」


 ギュートラスは左から右へ大きく剣を振った。


 ラルフェウはしゃがんでかわすもギュートラスの右脚が顔にもろに入り、吹っ飛ぶ直前にギュートラスは先回りし左脚でラルフェウの右側頭部を蹴り飛ばした。


 ラルフェウは空中で態勢を整え壁に右脚をつけて膝を曲げ、速度をつけてギュートラスの顔面を右拳で殴りにかかった。


 「まだやんのか」


 ギュートラスは安易にかわすも、瞬きの間にラルフェウはギュートラスの背後に立っていた。


 「こっちですよ」


 「なっ!?」


 ラルフェウはギュートラスの左脇腹を左脚で思い切り蹴り飛ばした。


 「ぅぐ……っ!?」


 魔力の濃さは互角であれど、魔力量の次元が違うラルフェウの一撃はギュートラスの体内にいつまでも響き渡り、苦痛が離れない。


 さらにラルフェウはギュートラスの吹っ飛んだ先に先回りし立ちはだかり、ギュートラスの右脇腹を右拳で殴り飛ばした。


 「速ぇ……くそ……」


 「速いとかじゃないんですよ」


 ラルフェウは殴り蹴り飛ばしてはギュートラスに先回りし何度も何度も殴り蹴り飛ばした。


 「〝全神経破壊(ナーヴ・デストロイ)〟」


 そしてラルフェウは飛ばされ向かってくるギュートラスに向かって右手の指先を揃え親指を上に構え、右手から魔力で作った矢を放った。


 「はっ」


 ギュートラスはわざと右手の中指の先端に矢を当て、即座に中指を第1関節までを切り落とした。


 「よっ」


 ギュートラスはラルフェウとかなり近い距離で剣を突き立てラルフェウの首元を刺しにかかった。


 「っ……」


 ラルフェウは〝瞬間移動(ワープ)〟で間一髪避け、ギュートラスの真後ろでかなり距離を取った。


 ギュートラスは剣を壁に突き刺し止まろうとするも壁は固く刺さらず、ギュートラスは右手の平を壁に当て急停止した。


 すると剣にはヒビが入り、先端は完全に欠けた。


 「……ちっ、頑強な肉体に化け物染みた再生力ってか」


 「壁のせいでは?」


 と、わざとらしくとぼけるラルフェウ。


 「そんななまくらじゃねぇよ、クソが」


 ギュートラスは剣を捨て、手の指をボキボキと鳴らした…ギュートラスのイライラは来るところまで来ている。




 暗殺で人間界に雇われ、単体の戦闘能力だけなら上等聖戦士にも及ぶ……それがギュートラス・ゴージスという男だ。


 それに対峙するは規格外の魔力量、さらに魔力を具現化までしてしまう天賦の才。


 どの道凄まじい速度で再生させてしまうため、肉体をバラバラにする以前に再生させてしまうだろう、自分の攻撃よりも再生の方が速いと、どこまでもギュートラスを嘲笑し、諦めかけさせる力を持つ。


 弱点なのであろう首は入念に守り、仕留めきれないという、暗殺者にとっての屈辱をこれでもかと味わせる。


 辟易するギュートラスを、復讐の対象と言わんばかりに怒りを見せ、ぶつけてくる。


 暇つぶしとしては、手に余りすぎる。


 ───魔力に狂おしく溺愛される男、ラルフェウ・ロマノフを前に……ギュートラスはそれでも挫けない。


 戦闘能力は勝っている、勝機はある、押しているのは自分なのだから。


 魔力量という数の暴力で、倒す事を非常に困難とさせているだけなのだから。




 「いいのかよ、そんな簡単に呪力使っちまって」


 「呪力を安易に使うのは弱者だなんて風潮は古いです、それに僕にはプライドがありますから」


 「何だよ」


 「自身の力で敵を打ち砕く」


 「……なら、あん時俺を殺しかけたあいつは出さないってか?」


 「……ええ、それだけは何としてでも避けます」


 「なら力尽くでそいつを引っ張り出してやるよ」


 するとラルフェウの体に、突然凄まじい程のダメージが流れ込んできた。


 体のどこを切り離しても、きっと引かない痛みが、ラルフェウに流れてくる。


 「っぐ……うっ……うぁ……」


 ラルフェウは跪き、頭を下に向け、息も荒くなっていた。


 「〝痛傷譲渡(ペイン・トランスファー)〟、俺のダメージを最後に触れた生き物に譲渡する呪力だ、そして俺は全回……ノーリスクハイリターンだな」


 「……く……そ……」


 切り札だと言わんばかりに、自身の呪力を公表する。


 ギュートラスはこのために、ハナから自分の体にダメージを仕込んでいたのだ。


 加えて一撃の恐ろしく重いラルフェウのダメージ。


 呪力の影響で、どれだけ耐え難い苦痛もほとんど気にならない体質と精神状態にあるギュートラスの蓄積されたダメージが一気に流れてきたのだ。


 故に再生による治癒も施さない、体中の傷を治療しない、全ては闘いのために。


 ギュートラスが全回したのは事実だろう、切り落とした中指の先端も再生され、魔力量も濃さも一気に上昇した。


 久しぶりに苦痛から解放されたギュートラスは、再び笑みを浮かべて、準備運動のようにジャンプする。


 「さっさと出てこいよ、おい!」


 「う……うっ……くぅ……」


 するとラルフェウは頭を抱え、口を開けっ放しにしてよだれは垂れ流れる。


 すぐに再生し、長い苦痛とは無縁のラルフェウが味わうことの無いダメージがいきなり体内で暴れ回れば、意識もだんだん遠のいていく。


 ギュートラスとは焦点を合わさず睨み付け、そして気絶した。


 「……来たか……」




   ※ ※ ※ ※ ※




 「…ふぅ…んーっと…」


 するとラルフェウは何事もなかったかのように目覚め、平然と立ち上がり、腕を伸ばしリラックスしていた。


 「……あん時とは……違うのか……」


 「そうだね、あれは〝聖器(ポーマ)〟なんだがとんでもない暴れ馬で、抑えるのが大変なんだよ」


 「……人格が変わったのか?」


 「違うね、ラルフェウ君は一人だけ、私は訳あってまあそいつを抑えるためなんだけど、彼の精神に棲まわせてもらってるんだ、普段は表には出ないんだけど……今回は致し方ない」


 「〝聖器(ポーマ)〟を抑える?……何者だ」




 「───私はエルドラド・サンダース、魔人族、元コーゴー本部特等聖戦士───序列1位だ」

魔力を水にたとえて説明すると


常人の魔人族の1人辺りの魔力量が1リットルとすると、ギュートラスがだいたい5万リットル、ラルフェウは数千万リットル。


常人の魔人族の1人辺りの魔力の濃さが「少し綺麗」とすると、ラルフェウの濃さは「ドブをいくつもブレンドした汚水」、ギュートラスの濃さは「真っ黒」。


ちなみにハロドックは魔力量は数百万リットルで、濃さは「電気すら流さない清水」、要するに悟りを開いたに近い感じです、魔力の本質を理解してる的な。

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