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Past Letter  作者: 東師越
第3章 ホシノキズナ
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第68話 その秘密

 「その程度の闘値で、コーゴー本部の聖戦士の、俺を止めると言いたいのか?」


 「そうっすね」


 ルブラーン王宮エントランスでは、ランスがベイル達を追おうとするところに、レオキスが立ちはだかった。


 「……その槍……〝聖器(ポーマ)〟か」


 「……そうっすね」


 「分からないな……〝聖器(ポーマ)〟ともあろうモノが……こんな奴を選ぶとは……」


 「ちょっと事情があるんすよ」


 「……どうだっていい、叩いて挟み撃つ」


 ランスは剣を抜き、レオキスに向かって構えた。


 「オレにも意地くらいあるんすよ」


 レオキスは氷槍アイシクルを構え、ランスに向かい鋭く槍を左から右へと薙いだ。


 「っ!?」


 「はああっ!!」


 レオキスはランスを一切近付けず、素早く様々な種類の攻撃を次々と繰り出していった。


 レオキスがどれほど槍を振りさばいても、空気が振れる音はほぼしない……今までのレオキスとは考えられない程に、洗練されている。


 無駄が無い動き、戦うための動き、一行の誰よりもおそらくはベイルやハロドックなどと、出会ってきた敵ならばミソラやセロナ、ルナなどと同格にも思えるその動き。




 ───レオキスは演じていたのだ……力の無い、弱いただの己を。




 (奇妙だな……デカい図体からとは思えない繊細な槍さばき、それに体の使い方、槍のさばき方、動きに変化をつけて流れるように攻撃してくる……相当な熟練度だ……かなり長生きなのか……だが……)


 ランスはレオキスの槍を剣で弾いた。


 レオキスはその手から槍を離さなかったものの、ランスは剣の持ち手側の先端でレオキスの顎を突き上げ腹部を右脚で蹴り飛ばした。


 レオキスは飛ばされ、宙に浮きつつ態勢を整えた。


 「土台がなっていない……技術は素晴らしいものだが、パワー、スピードがあまりにも無い、スキの無い攻撃を無下にするとは技に対する愚弄だ」


 「あざっす……我流なんすよ」


 地面に着地したと同時に、ランスに向かって槍を突く。


 やはりその動きには無駄というものがまるで見られない……思い切りもよく、切っ先は確実にランスの心臓を目掛けて胸のど真ん中を突きにかかる。


 しかしランスは真剣な表情を崩さないまま、嘲笑うかのように舞うようにしなやかにかわしレオキスと間を取る。


 「技術や柔軟な頭だけではどうにもならない、戦闘においてパワー、スピード、スタミナは必須、能力の駆使も無いならそれは、絶大なる強者か……あるいは阿呆だ」


 「堅いっすねー、大丈夫っす、もう能力は駆使してるっすよ」


 「……ああそうか」


 レオキスの持つ氷槍アイシクルから発せられた冷気によりエントランス全体の空気は冷たくなり、壁や床、扉、天井、階段などがところどころ薄く氷を張っていた。


 「オレのホームっすよ」


 にもかかわらずどちらの息も白くなっておらず、寒がる様子は見られない。


 「安心しろ、俺もホームだ」


 するとレオキスの頭上から、突然雨のように小さな無数の氷柱が落ちてきた。


 「うわっ……と」


 レオキスは咄嗟に転がってかわし、氷柱は硬い石の床に突き刺さった。


 「っ!!……」


 ひとつひとつが研ぎ澄まされた殺傷力を持つ氷柱に、レオキスは僅かばかりに焦りを覚えた。


 「次」


 さらにレオキスが移動した頭上からも無数に氷柱が降り注ぎ、レオキスは再び間一髪でかわした。


 「準備がいいっすね」


 「整えるべきは場の環境ではなく、攻撃手段だ」


 レオキスの行動に指摘をしつつ、自身が模範と言わんばかりの口ぶりでさらにランスは次の攻撃に入る。


 レオキスがかわし移動するところにはもれなく氷柱が降り注ぎ、レオキスはランスに近付けずにいた。


 「はぁ……はぁ……」


 「加えてスタミナも無いのか……やはり奇妙だ、土台を固めず技術を磨くとは……」


 「そうっすか……オレもそう思うっすよ」


 「は?」


 レオキスは頭上から降り注ぐ無数の氷柱を、かわす事をやめ、その場に立ち上がった。


 すると氷柱は空中で止まり、床に刺さっている氷柱も全て宙に浮き出した。


 レオキスは〝聖器(ポーマ)〟を利用しランスよりも充実した力で共鳴しランスの力を上回ったため、ランスとの共鳴とは切り離され冷気はレオキスに味方したのだ。


 「……何だ……」


 「全ての冷気は味方っす、氷槍アイシクルは〝聖器(ポーマ)〟っすから」


 すると氷柱は全て尖った先端がランスに向き、レオキスが槍をランスに向けると一斉に発射した。


 「ちぃ……」


 ランスは咄嗟にかわせず剣を高速で振りさばき、自身に向かってくる無数の氷柱を斬り落としていった。


 「くそっ……」


 「次っすよ」


 レオキスは槍を上に掲げ、ランスが斬り落としていった氷柱の欠片達が冷気によって繋がり、巨大な氷塊となり、尖った巨大な氷塊がランスの下から突き上げられた。


 「うっ……」


 ランスは冷気の動きを察知し、背後に跳び上がりかわした。


 しかし僅かに遅れ、右脚に深傷を負った。


 「くぅ……」


 「〝剛氷弾(ギガント・アイスグローブ)〟」


 レオキスは槍の持ち手側の先を地面に強く叩き、氷塊を巨大な球体に変え、恐ろしいスピードでランスに放った。


 「ぐっ……うっ……」


 ランスは剣で受け止めるも、右脚の深傷により今ひとつ踏み込めず、押し込まれていた。


 「……仕方が無い……」


 「……え……」


 その瞬間巨大な氷の球体は真っ二つに斬れ、斬れた球体は冷気となりランスから放たれていたオーラは全く無くなった。


 「調子に乗るなよ、序列外とはいえ本部聖戦士……支部なら上等にでもなれる……〝零域(ゾーン)〟など容易く入れる」




 正しく言えば、序列外はおろか序列内とて〝零域(ゾーン)〟に入ることは不可能に等しい。


 ハッタリでも何でも、レオキスを脅し精神的に優位に立つために言ったのだ。


 そんなランスが、序列外に甘んじている理由はただひとつ……




 ───それでも、特等聖戦士には届きはしないからだ。




 夢の最強は無理なのだと、聖戦士となりようやく知った。


 だから少しでも周りと自分とは違うのだと思い知らせたいがために、誰もやりたがらないリアとバディを組む決意をした。


 ランスにとってリアとは、自分が特別だと周囲に知らしめるための記号でしか無い。


 確かに周囲とは違うと人々は考え、そして悪い意味で人々はランスから離れていった。


 組織において必要不可欠な能力とも言える、団体行動を捨て、自身の心を満たすためだけに孤独の道を選んだ。


 実力主義社会のコーゴーなので、序列内へのランクアップの推進自体はあるのだが、ランスはそれすらも拒んでいる。


 周りとは違う自分に酔いしれ、出世など遠の昔に興味が消えていた。




 「……光栄っすね……今のオレなんかに本気出してくれるなんて」


 「……とぼけるな、お前ではない、〝聖器(ポーマ)〟だ」


 ランスはレオキスの「今のオレ」、という言葉に若干の違和感を覚えたが、些細な事だと切り捨てた。


 「……ま、そうっすよね」


 「冷静だな……どこまで想定内なのやら」


 冷気との共鳴により深傷を負ったランスの右脚は、完全に治癒されていた。


 「弱いフリって大変っすよ、まあ今実際弱いんすけど……」


 するとランスはまるで一歩も動かなかったと思わず錯覚を起こしてしまう程のスピードで、レオキスの左腕を切断した。


 〝零域(ゾーン)〟によって爆発的に向上した身体能力にレオキスも追いつけなくなる。


 「……あらら」


 左腕が切断されたにもかかわらず痛がる様子も苦しがる様子も無く、少しため息をつきながら傷口から溢れ出る血を眺めている。


 「何故かわす素振りすら見せなかった?」


 「……速くて見えなかったっすもの」


 「お前の眼は俺を追っていた、〝聖器(ポーマ)〟の扱いにかなり長けている、同じ〝聖器(ポーマ)〟を使う者でもただただ雷を落とす放つだけのようなあの奴とは大違いだ……


 ……その槍さばきも、土台不足を補うようなモノでもなかった……まるで身体機能を抜き取られているような……そんな感覚だ……


 ……答えろ、気になりだしたら突き止めたい性分なんでな」


 「……いやー言えないっすよー……コーゴーの人なんすよね?それは隠さないとっすね……」


 ランスのお察しの通り、レオキスにはまださらなる秘密はある。


 レオキスも何とか一行の誰にも怪しまれないようにしてきたが、生きて全員無事に終わるには、自分が犠牲になる行為は矛盾だと気付く。


 諦めたレオキスは微笑み、全身の力を抜いた。




 ───するとレオキスの左腕は自然治癒ではなく、ゾーネのようなどす黒い半固体が傷口から溢れ出し、再生した。




 「……それは……あの島の巨人の……」


 「何のことっすか?」


 レオキスは実際にルービ島でのゾーネを見た訳では無いので本気で困惑した。


 自分のこの姿を見せて、驚き方のベクトルの違いにそれこそ不思議に思った。


 「……叩けば埃だらけと言ったところか」


 「皆まで言わないんすね」


 するとランスはさっきと同じスピードでレオキスの左腕を斬りにかかるも、レオキスは槍で防いだ。


 「さっきからその余裕綽々な口ぶり……舐めているのか?」


 「冗談じゃないっすよ、命の危機なんすよ?」


 ランスはここでようやく気が付いた。


 ……レオキスもオーラを完全に消し、〝零域(ゾーン)〟に入っていた事を───。


 「真っ向勝負のつもりか」


 「ひえ~、出来れば避けたいっすね~」


 舐めている、挑発していると思わない方が不自然なレオキスの口ぶりにランスはより集中力を高めた。


 もはやレオキスは自身よりも強い存在だと、嫌でも自覚しその上で倒さなければならないと、強く思ったからだ。




   ※ ※ ※ ※ ※




 それと同じ頃、ルブラーンの街中でビオラは泣き終わり涙を拭って前を見ると、キリウスが気怠げにビオラを見ていた。


 「……何」


 「いやこっちのセリフや!泣きすぎやろ!」


 ビオラの目はかなり赤く腫れており、呼吸も少し荒い……赤ん坊のように全身全霊で涙を流していた事が、その様子を見ればキリウスには理解出来た。


 「……今まで流すはずだった分が……一気に出たんだと思う」


 「冷静に分析してるようで実はしてないで?」


 「何のために見てたの?」


 「心読めるんちゃうんかい」


 「何も入ってこないから」


 「そりゃそうやな、理由無いもん」


 キリウスにとってビオラの慟哭を見る事に理由など必要ない……明確な目的が無いために、今精神が不安定なビオラにはキリウスの心が読み切れない。


 「……串刺しされる予定なの?」


 「そこは読むんかい」


 しかしキリウスの同時に頭の中で鮮明に残る、謎の女の声をビオラは読み取っていた。


 「……記憶、戻るといいね」


 「すぐ戻す方法とか無いんか?」


 「思い出の品を見るとか」


 「知らんわ~」


 「……ワタシも手伝う」


 「……何を?」


 「アナタの記憶を、取り戻すのを」


 「……何でや」




 「───アナタに興味がある……不思議な事に、ベイル・ペプガールとは違う……別な意味での興味が」




 「……あっそう」

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