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Past Letter  作者: 東師越
第3章 ホシノキズナ
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第67話 アイのカタチ

 「うおらああああ!!!」


 「排除スル、全テハ楽園ノタメニ」


 ドグラは立体的な動きでゾーネを翻弄しつつ攻撃を仕掛けるも、ゾーネはドグラの攻撃に全て着いていき、互角の戦いを繰り広げていた。


 そう、ドグラが強者の証である、〝零域(ゾーン)〟に入ってようやく、このゾーネと互角なのだ。


 「ちぃ……」


 「排除スル、全テハ楽園ノタメニ」


 するとゾーネは瞬時に巨人化し、右拳でドグラを殴り飛ばした。


 ドグラは城壁を突き破り、山に激突した。


 「っ……」


 しかしドグラの呪力はゾーネの攻撃には有利で、いつもみたくダメージは皆無だ。


 ゾーネはドグラの方へと視線を向けながら巨人化を解いた。


 「排除スル、全テハ楽園ノタメニ」


 暴走というには、あまりに理性的だった。


 以前ならば何振り構わず力を利用し、暴走して島全体を壊滅に追い込んでいた。


 しかし今回はドグラのみ狙い攻め続けている……と、目的が前回とは大幅に異なる。


 (マジかよ……前の島ん時より強ぇな……学習してんのか……何でもいい……あれだけはマジで潰さねぇとヤバい……絶対に……)


 ドグラはガタイの良さに似つかわしくない身軽さで王宮の壁に跳び、パルクールのように壁を蹴ってゾーネに向かって跳び上がりゾーネの頭上に剣を振り下ろした。


 ゾーネはかろうじて左側にかわし、巨人化を利用して右腕のみを巨人化させ右拳をドグラに放つ。


 ドグラは剣で対峙し直撃は避けるも、僅かに吹っ飛んだ。


 剣で拳を食い止めたのだが、ゾーネの拳には切り傷らしい切り傷は付いていなかった。


 「くそっ!!」


 ドグラはすぐに態勢を整え、恐ろしいスピードとスキの無い剣さばきでゾーネに攻めたて、ゾーネはそれを両腕でいなし受け止めつつ攻撃を加えにかかっていた。


 「排除スル、全テハ楽園ノタメニ」


 「それしか言えねぇのか木偶があああ!!!!」


 ドグラはゾーネの手足を細切れに斬りつけたと同時に跳び上がり、ゾーネの頭上から両足の裏までをさらに細切れに斬りつけた。


 「はぁ……はぁ……夜になれば……圧倒なんだが……はぁ……」


 すると細切れになったゾーネの肉体の傷口からどす黒い半固体がどんどん溢れ出し肉体を飲み込んでいき、半固体はうねうねと蠢きゾーネの肉体の形状を造りあげ、ゾーネは10数秒で再生した。


 「排除スル、全テハ楽園ノタメニ」


 「……クソが……さっさと前のかわい子ちゃんに戻れよ!!そんな気持ち悪ぃ目と体で寝たって気持ちよくなれねぇじゃねぇかよ!!!」


 ドグラはゾーネに、とにかく何度も斬りにかかっていった。


 しかしゾーネはついにドグラの剣閃を見切り、剣を右脚で蹴り飛ばし右手でドグラを握り上げた。


 「ちぃ……服まで再生ってか……よく出来てんな……ははは……がはっ!!!……」


 ゾーネは抵抗するドグラをさらに強く握り、両腕両足と肋骨を折った。


 「ぐああっ!!……な……んで……」


 たった1人でクラジューのその後に、自らより巨躯な者と闘うのはただでさえ疲労が蓄積される。


 それに重ねて〝零域(ゾーン)〟による体力の消耗も相まって、ドグラは常時の結界維持が出来なくなっていた。


 そのスキを見逃さなかったゾーネは拳を握り、ドグラの骨に大ダメージを負わせた。


 「排除スル、全テハ楽園ノタメニ」


 するとゾーネの背後に1つの、小さな光る球がふわふわとゾーネの背中に張り付いた。


 その瞬間にゾーネの全身に強烈な電流が走りドグラにもそれは流れ2人は気絶し、ゾーネはドグラを離して仰向けに倒れて気絶し、ドグラは地面に強く叩き付けられうつぶせに倒れた。


 「はぁ……はぁ……ゾーネ……」


 その光る球の正体は、クラジューが繰り出した〝雷球(サンダー・コア)〟だ。


 クラジューは傷を全て治し、貧血で力が入らず肘を立てて這ってゾーネに近づいていった。


 「はぁ……はぁ……はぁ……」




   ※ ※ ※ ※ ※




 クラジューは気絶している間、再び過去の記憶を見ていた。


 何故かは分からないが、さっきといい今回といいクラジューは不自然にピンポイントの記憶を思い出す。


 ───それは急成長の合図だとは、クラジューはこの時全く気付いてはいない。




 「はぁ……はぁ……使い切って動けなくなって、はぁ……向こうが……はぁ……ピンピンしてたら、はぁ……死ぬな……はぁ……はぁ……」


 クラジューは男から〝無双の妖術(ザ・インビジブル)〟を教わり、ほんの数秒ほど試した。


 それでも初めて発動させたたった数秒でクラジューはスタミナのほとんどを持って行かれ、両膝に手をつき呼吸を荒げたまま、冷静に分析した。


 「んーけど、ある程度残したら反動でガタガタになった体へのダメージは、〝治癒の妖術(リバース・キュア)〟で治癒出来る」


 「霊力……足りねぇだろ……」


 「いやあれはさほど霊力は必要ないんだよ、なんなら高等妖術に指定されてる中で一番使わねぇ」


 「なんだそりゃ」


 「難しいのは術を組む術式だ、妖術唯一の回復をするタイプだからあらゆる妖術とは根本的に術式が違う、完璧に記憶してコツを掴めば霊力は1あれば止血くらいなら出来る」


 「……おお」


 「さらに!お前はソラの一族だ!ソラの一族と通常の妖人族との決定的な違いは2つ、まず、ソラの一族は近接戦に強い、普通の妖人族は霊力の扱いは確かだが、何分体がなよなよしい、そしてもう一つが……自然治癒が可能であるという事だ!」


 目を輝かせ男はクラジューの可能性を嬉しそうに話すが、クラジューにはウザくて仕方ない。


 「……そんなの誰でも出来るだろ」


 「いやまあそうなんだが、この話での自然治癒は、自然と共鳴し驚異的な速度での治癒を指す、いいな」


 「お、おう……」


 より一層止まりそうもなくその上から丸め込まれ、クラジューの聞く気の無い耳など意に介さず話を続ける。


 滑るように言葉がこぼれる男に気圧され、クラジューは微妙な返事をするだけに終わった。


 「ソラの一族は空気と共鳴する……つまり空気さえあればどこでも自然治癒可能だ、これは5つの自然族の中で最も治癒可能範囲が広いんだ」


 「だから何だよ」


 「つまり、ソラの一族は〝治癒の妖術(リバース・キュア)〟と自然治癒の併用が唯一可能な一族だ、リカバリーが誰よりも早い最も戦闘に適した一族だな」


 「……へえ」


 「しかも霊力はあらゆる世界のどこの空気中にもあるから、減れば徐々に体内に蓄積されていく、ソラの一族も妖人族だから勝手に蓄積されていく体質なんだよ」


 「知らなかった」


 クラジューは半分も聞いていない、これは何度も何度も聞いた話だ。


 自身の事をまるで自分のように話すその男は、本当この少年の事を心から愛しているのだと、誰から見てもそうニヤけながら思うだろう。


 誰もが、微笑ましくて思わずニヤけてしまうだろう。


 「知らなかったって……お前ろくに学校通ってなかったのか?」


 「親いねぇし、保護者ヤク中だし」


 「あ、そうなんだ……なんかごめん」


 だがこの男は、クラジューの過去を知りはしなかったようだ。




   ※ ※ ※ ※ ※




 クラジューはゾーネの顔に体を乗り上げ、両目の下の涙袋を押さえゾーネの巨人化を解いた。


 ルービ島を出た時、今度いつまた暴走しても誰もゾーネには傷つけさせない、ゾーネに心の傷を負わせないために対策は練っていた。


 この〝巨門(おうもん)〟の位置を正確に覚えていたのだ。


 「はぁ……はぁ……」


 クラジューは仰向けのゾーネに覆い被さり、優しく唇を交わした。


 それが経験による、ゾーネの暴走を唯一止められる手段だ。


 「……ゾーネ……」


 クラジューが唇を離すと、ゾーネはそのまぶたを、ゆっくりと開いた。


 しかしゾーネの目の色は変わらなかった。


 「……何でだよ……」


 「排除スル、全テハ楽園ノタメニ」


 「……何で……」


 ゾーネは耳にタコが出来そうなくらいに繰り返す心のこもっていない言葉を、クラジューの前で口にする。


 ゾーネはまだ痺れが取れず、身動きが取れずにいる。


 クラジューは涙を流し、再び何度もキスを交わした。


 「……ゾーネ……ゾーネ……戻ってくれよ……ゾーネ……」


 「排除スル、全テハ」


 「失せろ!!!ゾーネの体乗っ取って好き勝手してんじゃねぇよ!!!!!」


 怒りを露わにした。


 それは自分に対する怒りなど無い、ゾーネを救えない自分への怒りによる怒号では無かった。


 今目の前にいるのが、ゾーネの中にいるゾーネではない何かだという事に確信を持っていた。


 それに対する、底無き怒りだった。


 するとクラジューはキスの際に舌を入れ、絡んだ瞬間にゾーネの舌を噛みちぎった。


 「ゾーネの舌でふざけた事垂れてんじゃねぇ……ゾーネを返せえええ!!!!」


 多少ゾーネが傷付いてでも、いや、そうでもしないとこの何かはゾーネの中から出ていかないという独断と偏見による行為だ。


 しかし幸運にも、その行為が功を奏した。


 噛みちぎったゾーネの舌の傷口からどす黒い半固体が溢れ出し、急激に膨れ上がった後クラジューとゾーネを飲み込むように覆った。




   ※ ※ ※ ※ ※




 「……ここは……ゾーネ!!」


 クラジューが目を開けると、全裸で暗闇の中を、水中にいる感覚を覚えた。


 そして暗闇の中にクラジューの下の奥深くに、膝を立てて座り込む全裸のゾーネの姿があった。


 「……クラジューくん」


 「ゾーネ!!……無事だったのか……」


 ゾーネはクラジューの方を振り向き、クラジューは泳ぐようにゾーネに近づいていき、クラジューはおもむろにゾーネを抱きしめた。


 「なんだよ……こんなとこにいたのか……」


 「……ないてるの?……なかないで……」


 「……あ、え、これは……その……嬉し涙だよ……」


 あれだけの怒りの中に込められた、ゾーネへの想いは計り知れない。


 声をかけると返事をしてくれるゾーネを見たのならば、嬉し涙の一粒を出しても意外でも何でも無い。


 「……そっか……」


 クラジューとゾーネは並んで座った。


 「……なあゾーネ、あれは何なんだ?」


 「……うちにもわかんないよ……このまえもあったよね……」


 「ああ……」


 「うち、ぜったいにしにたくないって……おもったら……きがついたらここにいたの……さっきも……クラジューくんをたすけたいっておもったら……ここにいて……」


 (感情の昂りでああなるのか……なんにせよ不安定すぎるな……俺が弱いと、ゾーネが苦しむのか……)


 「……ど~したの?」


 「……ごめんな……ゾーネ……俺が弱いから……お前に苦しい思いをさせて……」


 「……クラジューくん」


 「……っ?……」


 ゾーネはうつむくクラジューの顔を見て、右手で優しくクラジューの頭を撫でた。


 「ありがとう、うちのためにつよくあってくれて……ありがとう、うちのためにいっぱいかんがえてくれて……ありがとう……うちと……であって……くれて……」


 「っ……ゾーネ……」


 「だいすきだよ、クラジューくん♪」


 「───」


 毎日聞くその言葉は、遠回らない、単純で、直球な言葉は……耳にタコが出来るほど聞き、いつの間にか返事がいい加減になっているその言葉は……今のクラジューには……何にも敵わない……ボロボロのクラジューを……いとも容易く癒した……。


 「ゾーネ……俺も……俺も、大好きだ」


 クラジューはゾーネの顔を見上げ、自然な笑顔でそう言った。




   ※ ※ ※ ※ ※




 すると2人を覆っていた半固体は弾けるように散り、クラジューと自我を取り戻したゾーネが立ち上がる。


 意識を取り戻すも立てなくなっているドグラの元に歩み寄った。


 既にドグラの体力は、底をついていた?


 「……っはは、今さらなんだよ……龍人は治癒とかねぇぞー……」


 「だが決着はつける、俺はこの世の誰よりも強くなる、その糧として……俺の手で死ね」


 「……はぁ、せっかく人生で初めて好きな子出来たのになー」


 「〝雷槍の一撃(サンダーボルト)〟」


 クラジューは天槌ラファールを空に掲げ黒雲を繰り出し、一筋に光る巨大な落雷をドグラに放った。


 攻撃はドグラに直撃し、ドグラは絶命した。


 その落雷は、僅かに黒光りを見せた。


 この覚醒の予兆をクラジューは見ること無く、ゾーネに目を向ける事に一生懸命だ。


 「……クラジューくん……」


 「……ちょっと休憩」


 クラジューは仰向けになり、大の字に寝転がった。


 「おつかれさま♪」


 ゾーネはクラジューのそばに寝転がり、左頬にキスをした。


 「だいすきだよ♪」

次話はゾーネの過去編です。

よろしくお願いいたします。

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