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Past Letter  作者: 東師越
第2章 Always "Sadness" in their hearts
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第47話 閉ざされた心

 「お帰りなさい……それは何ですか?」


 「かっちょいいだろこの刀!」


 陽も暮れかけた夕方、ベイルは長い散歩から船に帰ってきた……人1人がちょうど座って入れる少女と刀を乗せた鉄の檻と共に。


 ベイルは檻から刀を取り出し、ラルフェウ達に見せびらかした。

 鞘は抜けず刀身は見せられなかったので、ラルフェウはかっこいいのか?と思ったりした。


 「……そのためだけに檻を?」


 「いや~それが抜けねぇからよ、こいつ事連れてきた」


 「……誰ですか?」


 ラルフェウは船を飛び降り、檻の中を覗いた。

 少女は柵にもたれ、膝を交えて座り、俯いて死んだ魚のような表情を浮かべたまま黙り込んでいた。


 「……奴隷でしょうか……衰弱しきってますね……」


 するとハロドックとマルベスも船を飛び降り、檻の中を覗いた。


 「どうされましたか?」


 「女の匂いがした」


 「しかもいい女じゃ」


 「はあ……」


 「……ジェノサイドって名乗ってたか?」


 「何で分かったんだ?」


 「そう言えば上手く世渡り出来るからな……あらゆる世界の領主やら貴族やら王族やらが保持する奴隷は全てジェノサイドから派遣されたモンだ……が、こいつはジェノサイドの烙印が押されてねぇ……違法奴隷だ」


 ハロドックはそう言って檻の柵の鉄柱を1本取り外し右人差し指を少女の口に突っ込み、〝贈与吸収(ギブオアテイク)〟で魔力を供給させた。


 ハロドックはこれにより少女は魔人族で無い事を確認した。

 少女はこれにより体力や飢えから解放され、パタンと倒れ眠りについた。


 「違法奴隷、ですか?」


 「合法的な奴隷はジェノサイドとの契約の元、健康で文化的な生活を保証し、契約上以外の要求はしないようにって事なんだが……ジェノサイドの夜の方の奴隷は金額がクソ高ぇから、こうやって闇ルートで、手頃な女を売りさばく連中は幾らでもいる……この子もその1人だ」


 「そんなに取引されるんですか?」


 「ジェノサイドの烙印で萎えるって事もあるが、何より相場より安いからな」


 「なるほど……」


 「まあ何にせよ、こんなか弱い女の子をここまで傷付けたのは許せねぇな……」


 「おい、いつ刀見れんの?」


 「……まあもうちょいで目ぇ覚ますだろ、しかし素晴らしいおっぱいだ、奴隷なんてもったいねぇな~」


 「とりあえず部屋に運びますね」


 ラルフェウは少女をおぶり、船内の空き部屋のベッドに運んだ。




   ※ ※ ※ ※ ※




 そして数分後少女が目を覚ますと、目の前にベイルの顔があった。


 「お、起きた」


 「……え……」


 「なあ、早速だがこの刀を」




 「いやああああああああああああ!!!!」




 ベイルが刀を手に取り少女に話しかけようとした瞬間、少女はどん底の恐怖を感じ叫び声を上げ、部屋の隅に素早く移動しベイルに背を向けしゃがみ込み、両手で両耳を抑えながら叫び続けた。


 「おいちょっと」


 「いやだ!!!!いやあああああああ!!!!あああああああああ!!!!」


 「……んだよ……うるせぇな……」


 「いやだあああああああ!!!!げほっげほっ……やだあああ……ああああああ」


 少女はひどく怯え、涙をボロボロと流していた。


 ベイルは確かにいつも通り凄まじいオーラは放っているし、弱者が怯える事は本人にとってそこまで驚く事では無い。


 それでも少女のこの怯えようは異常だった。


 白い汚れた布切れ一枚の姿の少女は、頭の中が真っ白になり何も考えられなくなっていた。


 「……ベイル様、どうされましたか?」


 ラルフェウ達は少女の声を聞き、部屋に駆けつけた。

 しかし少女はラルフェウ達を見てさらに震え失禁する。


 「おいおい、下履いてないんだから素股でおもらし見えるぞー」


 「怯えておるようじゃが……」


 ハロドックとマルベスは少女の足元を顔を傾けて覗きながら、同時に少女の様子を見て、ある程度の状況を理解した。


 「ベイル様……」


 「俺もさっぱりだ」


 「……心を読んでみたりされたらどうですか?」


 「……いや、俺がんな事出来るとでも?」


 「ベイル様なら出来ますよ」


 「いや何だよそのごり押し……まあやってみるか……」


 するとベイルは眉間にしわを寄せて、数秒間少女を見た。


 「……分からん」


 「やはり無理でしたか……」


 「いや読めたっちゃ読めたんだけどな」


 「読めたのかよ」


 「すげぇのう」


 「……怖いしか見えなかったな……後は特に何も」


 すると少女は声を上げず気絶した、男に囲まれ僅かな時間で恐怖に苛まれ続け、精神に限界が来たのだ。


 「……掃除しないとですね……」


 「いや俺が舐める」


 「わしも」


 「……はあ……」


 ラルフェウは2人の言動に少し引きながら少女を再びベッドに運んだ。


 その後ハロドックとマルベスは床を舐める事はなかったが、湿った床を部屋から出るまで凝視し続けていた。


 「あの子無茶苦茶かわいかったな」


 「同感じゃ」


 「早く刀見てぇんだけどなー」




   ※ ※ ※ ※ ※




 その夜、4人は甲板で肉を焼きながら食事をとっていた。


 「やっぱ獲れたて肉は美ん味ぇ~」


 「ベイル様、しばらく彼女には近付かない方が良いかもしれませんよ」


 「何でだよ」


 「恐らくかなりトラウマになる迫害を受けて……重度な対人恐怖症になっているのでは……いえ、それ以外に無いかと」


 「あの子がメンタル弱ぇのか、そいつらが薬かなんかを使ったのか、まあ確実なのは……処女ではねぇ」


 「ハロドックさん狙ってるんですか?」


 「いいや?俺からは何もしねぇよ?全てはあの子次第だ」


 「やれやれまた面倒くさそうな問題を持って来たのう……ていうか肉全部無くなってんじゃん、ベイルお主ふざけんなよ」


 「刀~……」


 「にしても、ベイル様が刀に興味を持つなんて珍しいですね」


 「いや普通にかっこよくね?」


 「まあ、はい……」


 「……それ〝聖器(ポーマ)〟じゃね?」


 「…何故ハロドックさんには分かるんですか?」


 「勘」


 「───」


 「どうされましたかベイル様?今日はあまり召し上がられないようですが……」


 「……さあ」




   ※ ※ ※ ※ ※




 「っ……」


 同じ頃、少女はベイル達が自分を監視していない事を確認し、船から脱出し暗闇の森の中へと走って逃げていった。


 もちろんベイルをはじめ4人全員は気付いていない訳もなく、同時に森の方の気配も察知していた。


 「……ちょっくら行ってくる」


 ベイルは船から降り、一定の距離を保ちながら少女の後を追いかけた。


 「しゃーねーな、俺も行くか」


 「何故お主が行く?」


 「いや、ベイル死ぬだろ」


 「……お主は、それを望んでおるんじゃないのか?」


 「私情と面倒ごとは別だ……俺にとってベイルは、最後の最後の最後に取っておく最終兵器だからな」


 ハロドックは船から降り、少女の向かっていく場所を森を迂回して向かっていった。


 「……何故ベイルはあの子を求める」


 「刀を抜けるのが彼女だけだからなのでは?」


 「それ以外には?」


 「……ありませんでしょうね」


 「……たったそれだけのために、わざわざ命を捨ててまで行くものか?」


 「ベイル様は……たったそれだけのために、命をかけられる方です」


 ラルフェウは会話をしながら、食事の片づけを始めた。


 「以前ベイル様は僕に言ってくれました……」


 (───この世に〝あり得ない〟はあり得ない、奇跡も無い、まして当たり前や常識も無い……この世にあるのは、全て過去が織り成した結果に過ぎない……ははは……楽しくて仕方ねぇよ……俺は、夢だらけのこの世だから……俺は全部に命かけれんだよ)


 「……ベイル様の前では全ては等しく、命をかけられる意味があります……ベイル様には、その辺りの優劣が無いんです」


 「……そうじゃな……気に食わん……命は重いから無くなれば悲しいのじゃ」




   ※ ※ ※ ※ ※




 「……はっ……はっ……」


 少女はすぐに目が慣れ、暗い森の中を木々をかき分けて必死に走っていた。


 (……よく分からないけど……今しかない……)


 そして知らない間に昼間ベイルが立ち寄り、少女と刀の入った檻を見つけた場所に少女は入っていた。


 そこではベイルよりも何倍もの闘値の高い者達10数人が、連絡の途絶えたベイルが殺した男達の安否確認のために立ち寄っていた。


 少女はその事を、見張りの男が目の前に現れるまで一切気付かなかった。


 「何だお前?……まさか、商品の女?」


 「あ……ああ……」


 男の姿や右手に持つ剣などで、少女はすぐに何も考えられなくなり、尻もちをつき、恐怖の表情を浮かべ体を動かす事は出来なかった。


 「自分で戻ってくるとはな、利口な奴隷だな」


 「ちょっと待て」


 完全に気配を殺してから少女に近づく見張りの男の不意を完璧に突き、右脚のスネで見張りの男の顔面を跳び蹴りした。


 「ぐあっ!?……」


 男は少し吹っ飛び一度仰向けに倒れるも、すぐに体勢を立て直し剣を構えた。


 「何だてめぇ!!」


 「こいつ必要なもんで、連れて行かれるのは困る」


 「……え……」


 少女には何が起こったのか、全く理解出来ていない。


 自分を新たに攫ったのだと、あの部屋に閉じ込め痛めつけ、傷付け、辱め、殺されるものだとばかり思っていた。


 だがベイルは少女を守った……奴隷の取り合いなどではない、人として当たり前のように少女を守った。


 「おいガキ……こんな夜中に、誰に喧嘩売ってんのか分かってんのか?」


 「ジェノサイドっつって人生謳歌するチンピラ集団?」


 「はあ?……っはははははは!!……面白ぇ冗談だな……俺達はれっきとしたジェノサイドだ……そして俺は、幹部のステファノ・スリーメドマンだぞ?」


 「え?」


 ベイルが昼間殺した男達はハロドックは話を聞いただけでジェノサイドと偽るチンピラ集団だと推測したが、それは大きな間違いだった。


 ジェノサイドだからといって全員が全員闇に手を染めない訳では無い……さらに見張りをしていたこの男は、世界中に何万人といるジェノサイドの幹部の1人だった。


 「とりあえず売られた喧嘩は買う……売却拒否なんてのはねぇからなガキ」


 「知るかよ、こちとら刀見たいがために名前も知らねぇ女守ってんだ……さっさと死ね」

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