第44話 生来の変態
「───ハロドックさん……」
「知り合いなのかアリシア?」
アリシアがその名を口にした途端戦闘態勢に入っていた一行は全員驚愕の表情を浮かべていたが、リドリーとゾーネはイマイチピンときていない様子だった。
「だ~れ~?」
「なるほどなるほど、こんなに美しい子とかわいい子に知られていないとは……俺もまだまだだな」
ハロドックは咳払いをし、一行全員の注目を集めてから自己紹介をした。
「俺の名はハロドック・グラエル! 魔人族! エロに愛されエロに愛された、生来の変態だ!」
ラルフェウと同種族のためか、黒髪黒瞳に黒が特徴的な服装で、一行の誰よりも芯が一本通った強さの象徴たる肉体を有している。
「……せいらいってな~に~?」
「ガクッ! おいおいちょっとおバカちゃんとか、何なんだよ男心鷲掴みじゃねぇかこのふわふわおっぱいちゃん!」
「あ?」
言葉や言い方に下心満載のハロドックにただただイラつくクラジューは、戦闘態勢を解いていなかった。
「んだよボディーガードいんのか……ていうか、何でこんなに知らねぇ奴ら集まってんの?」
「全員〝死神魂〟を所持しています」
「……ほう……なら成功だな……ラルフェウが上手い事機能させたんだろうな……また会えて嬉しいよアリシア」
「……は……はあ……」
「おい、だから何でお前がアリシアを知ってんだ」
「……こっちもボディーガード付いてんの~?俺ワンタッチも出来ねぇじゃねぇか~……美おっぱい、ふわふわおっぱい、ロリおっぱい……」
ハロドックは両手と両膝を地に着け、あからさまな落胆の様子を見せた。
「……でもハロドックさん……触りましたよね」
「は?……え?……」
クラジューはラルフェウの言葉の意味が分からない中、目の前で突然ゾーネが両手で両胸を押さえながら顔を赤らめて恥ずかしそうな表情を浮かべてしゃがみ込んだ。
リドリーはますます血管がはち切れそうなほど怒りの表情を表し、ビオラはこの世の絶望を知ったみたいな表情を浮かべ、キリウスは海パンの中を覗いた。
「……何が起こったんすか?……」
「俺の呪力は〝時停世界〟、俺以外の全ての時間を止める……まさに俺のためにある呪力!!俺はエロに愛されているう!!!」
ハロドックは膝を付いたまま両手と顔を空に掲げ、狂ったみたく叫んだ。
「……てことはつまり……」
「はい、ハロドックさんは初見の女性の胸を呪力を駆使して揉みしだくんです」
これにはさすがのラルフェウも呆れ顔になり、うさちゃんもため息を吐いた。
「死ね」
ビオラはハロドックの体内の水分と共鳴し、刃物のように鋭利な形にしてハロドックの首を内部から刎ね、ハロドックの首と胴は真っ二つになった。
「……ビオラサン……躊躇無いっすね……」
「ホントだよ、痛ってぇなマジで」
ハロドックの首はそうやって喋り出した。
ハロドックの胴は首を持ち傷元をピッタリくっつけ、肉体が再生して元の状態に戻った。
「……やはり、噂は本当みたいね」
「その通りだよお嬢ちゃん……何の噂?」
「……ハロドック・グラエル、魔人族、あらゆる組織に名を連ねているにも関わらず、誰もその正体を知らない……ただし、刃を向ける者は全て殺し、たった1人で強大な世界にその名を轟かせる……異名は〝狂犬〟……そして……
───この世で唯一、神すらも受けられなかった祝福……〝不死身〟を持つ、と……」
ビオラのその言葉に驚く者はいなかった……不死身とはあくまで噂程度のモノだったが、実物を目にすれば、誰もが頷くしかない。
ハロドックの気配には、圧倒的に欠如した力がある、それは生命力。
どんな気配でも、その基盤は生命力から満ちあふれる生命エネルギーからなる。
しかしハロドックには死という概念が存在しないので、生きようとする力や心は著しく低い。
そんなごく僅かなハロドックの気配やオーラを一行の誰よりも強く大きく見せていたのは、魔力と殺気だ。
魔人族最高最大とまで謳われるラルフェウの魔力量と同格以上、不死身以前にハロドックは桁違いの強さを誇る事は目に見えている。
さらに上乗せされた殺気、ただしこれは一行に向けられたモノでは無い……全てベイルに向けられたモノだった。
ベイルもまたそれを理解し、等しく殺気を向けていた。
一行が感じた寒気はこの殺気のぶつかりによるモノだ。
「……噂っつーか、全部事実じゃねぇか」
「人並みを度外視した事実は、信用されず噂にされる、要するに……それだけ規格外って事ね」
「おいよせよ、俺で規格外なんて言ってたらこの先渡っていけねぇぞ……そっちのチビの方がよっぽど規格外だ」
「───ちょ~っと待て~い!!」
すると突然ハロドックが現れた木の根の中から勢いよくジャンプし、空中で叫び、見事に着地を失敗して地面に頭突きする一羽のペンギンが現れた。
「ったああああっはあああ!!!……痛~っててて……ゴホン、ちょ~っと待て~い!」
「あ、言い直した」
「そ~この変態魔人の説明はもう十分だろ~?そ~ろそろオレっちの出番だぜ~!」
ペンギンは立ち上がり、どこからか取り出したサングラスをかけ大人の色気を出す渋く特徴のある声を出し、一行達の声を聞くために急に無口になった。
しかし一行は特に反応を示す訳でも無く、石ころを見る目でペンギンを見ていた。
「うおおおい!!こ~のオレっちが来たのに!!しゃ~べるペンギンだぞ!!?」
「いや、もう喋るウサギいるし」
「ぬおおおおお!!ウ~サギよりペンギンの方がかわいいだろうがあああ!!!」
ベイルの一言でペンギンは右翼で地べたをバンバン叩き、涙目で叫んでいた。
「……おい、何だこいつ」
ベイルはペンギンを指差し、ハロドックに問うた。
「……そいつはニコラス、呪力も持ってるペンギンだ……何十年か前に拾ってここに預けてた……まあ、そこのウサギ野郎とは、同種じゃねぇよとりあえず」
「……面倒くさそうだな」
「かわいい~~~!!!」
ゾーネはうさちゃんの際と同じく、ニコラスに向かって飛び付き抱きついた。
「うおっ!?な~んだこいつ!?離れろクソっ!」
「えへへ~♪おくちかた~い♪」
「て~めぇオレっちのストロングポイントであるくちばしをその汚ぇ指で触ってんじゃねぇよ!!」
その瞬間クラジューはゾーネからニコラスを引き剥がし、真上に向かって渾身の右脚で蹴り上げた。
「な~んでだよおおおお!!!」
ニコラスはすぐに真上の結界に激しくぶつかり、はためく両翼も虚しく一直線に地面に落下し、地面にくちばしが刺さった。
「……騒がしいですね……まだパーティー始まって無いのに……」
※ ※ ※ ※ ※
数時間後、夜になった外と連動し結界の光も少し落ち着かせ、うさちゃんは夜の雰囲気を醸し出した。
サン・ラピヌ・シ・ソノに住む人々は手際よく準備を進め、芝生の広場にはたくさんの椅子やテーブル、バーベキューや酒樽が並び既にお祭り騒ぎとなっていた。
「ふふぇふぁふぉふぇ!!!ふぁいふぉうふぁふぉ!!!」
「ベイル様とりあえず串は置きましょう、誰か刺してしまいますから」
ベイルは広場を子供のように駆け回り、片っ端からバーベキューをかっさらって食べまくり、ラルフェウはひたすらベイルを追いかけていた。
「ねぇねぇ!お兄さんも飲みましょうよ!」
ラルフェウは左腕全体に、エールが一杯に入っているジョッキを持つ三角形タトゥーを何個か入れている酔った女に絡まれた。
「あ、いえ……僕はお酒は……」
(腕に三角形のタトゥー……確かコオリの一族が、殺人などの重罪を犯した人に入れるとか……本当にここの人達は罪人ばかりなのか……)
「はい不意打ち~!」
「んぐっ!?」
考え事をしていたラルフェウのスキを突き、女はラルフェウの口の中にエールを流し込んだ。
ラルフェウは不可抗力で飲んでしまったが、半分ほど飲んでからジョッキを口から離した。
「ぼっ!僕は!お酒……ダ……メ……」
ラルフェウはジョッキを口から離した2秒後に、パタンとうつぶせに倒れ気絶した。
「えちょっ!?えっ!?」
「なんすかあれ……」
レオキスは肉や野菜を焼きながら、となりでエールのような飲みっぷりでジョッキの牛乳を一気飲みしたハロドックに質問した。
ちなみに10数人が調理する中、レオキスの所だけ長蛇の列が続いていた。
「なんすかって、酔いが回ったんだろ?」
「いくら何でも早すぎないっすか?……あ、この辺りの肉焼けたっすよ」
レオキスは会話しながらも、器用に並ぶ人々に肉を提供し続けていた。
「魔人族は外から魔力を供給してんだ、魔力の総量が多いって事はそれだけ魔力の吸収が多くて、体を循環する流れが速えんだ……アルコールはその魔力の流れに乗っちまうから、ラルフェウ級ともなればすぐにあーなる」
「それ急性アルコール中毒っすよね」
「ま、死にはしねぇだろうけど、翌日頭はクソ痛ぇだろうな、っはははは!さすが俺が認めた最初で最後の魔人だぜ」
※ ※ ※ ※ ※
「ん……あれぇ……なんかへんなあじぃ……」
「おいゾーネ……それ……酒だぞ」
大テーブル席の1つに座りパーティーを堪能する一行だが、ゾーネはさっきから飲んでたジュースと間違えクラジューが飲んでいたエールを飲んでしまった。
「大丈夫かゾーネ?」
「……なんかねぇ……からだがぁ……あついのぉ……」
すると酔いで顔を赤らめたゾーネはクラジューに胸を押し付け、クラジューの右手を自身の胸に触れさせた。
「なっ!!?ちょっ!!」
「クラジューくぅん……」
つぶらで、それでいて色気のあるゾーネの上目遣いにクラジューは自分の心臓の音がはっきり聞こえだし、つばをゴクリと飲んだ。
「……い……いや……その……」
最初の「い」で、クラジューは声が裏返った。
そこまで強いとは言えないアルコールが、ゾーネが本来持っている魅力の全てを、クラジューの目の前で弾け出した。
「……あ……クラジューくぅん……」
「ど、どうした……」
「……お……」
「お?…お水か?」
「お……おしっこ……」
「は!?え!?ちょっと待て!!トイレどこだよ!!」
「お前が飲めよ童貞君」
突然ハロドックが2人の会話に割り込んできた。
「はあ!?てめぇ頭おかしいのか!?」
「なら俺が直飲みする、それは俺に新たなエネルギーをもたらす聖なる水だ」
「死ね」
※ ※ ※ ※ ※
その目の前で、ビオラは運ばれてくる食べ物を片っ端から掃除機のように吸い込むように食べていた。
「……まさか現在のヒュドール様があなただったとは……〝自然郷〟も変わりましたね……」
「エーギルの結界を張れるのはヒュドールと同格の者のみ……ただ、ヒュドールと同格ながらヒュドールにならなかった者は、この世にたった2人」
ビオラはエールを飲んで口の中のモノを飲み込み、うさちゃんの目を見て言った。
「……誰でしょう」
「1人はホーウェン・フェンリル……けど、彼は自ら辞退した……もう1人は……かつて〝千年戦争〟にて最も活躍した戦士の1人、異名は〝韋駄天〟……そうよね……
───シシ・リンドラント」
「……その名は、捨てたと言ったはずですが」




