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Past Letter  作者: 東師越
第2章 Always "Sadness" in their hearts
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第39話 上には上がいる

 「───〝聖器(ポーマ)〟?……」


 「まず、貴様には感謝する……ありがとう」


 (二重人格?……にしては不自然過ぎる、オーラだけで分かる……強さの色が極端に違う……人じゃない……)


 「……さっきの人はどうした?」


 「ふっ、貴様があやつの肉体の核を壊したのだろう……おかげで意識にスキが生じた、だから無理矢理入れ替わった」


 (当人の意思関係なく、か……二重人格なのは確定だけど……自分を〝聖器(ポーマ)〟と名乗るのは、頭がおかしいとしか言いようが無い……ここまではまだ不確定要素の集合体、断言できるのは……私ではあいつに勝てない)


 「とは言え、我もまたこの肉体を依り代にしなくては不便となる身故、核の方は癒した……貴様、我と闘え……これは光栄なることぞ?」


 (逃げられない訳じゃないけど、セロナ様がまだ閉じ込められている……あいつの首を刎ねるのも容易だけど、こいつを前にそんな余裕があるかと考えれば……)


 「はぁ……」


 ミソラは自分の身が置かれたこの状況に、ただため息を吐いて受け入れるほかなかった。

 それは同時に、ミソラが今やるべきことを決断したということだった。


 「腹は決まったか?」


 「この場に私より強い者がいたら、あんたはどっちを選ぶ?」


 「いるのか」


 「ええ」


 「……ん~……」


 (セロナ様を、自分がこいつから逃れたいがための取引のダシにしてしまった……最悪切腹か……)


 ミソラの言動は、自分可愛さと保身のために上司に助けを求む他力本願だった。

 だがそれこそがミソラが生き残り、なおかつ勝算が最も高い決断だった。


 どう足掻いても勝てない相手を前に、ミソラにとって得策なのは紛れもなく、自分で何とかしてやると突っ走るきれいごとからの無駄死にではなく、セロナに託すことだった。


 それほどまでにミソラはセロナを絶対的に信頼しており、セロナの強さを信頼しているという意味付けが出来る。


 しかしこれらは全て〝もしも〟の話だ、その条件を呑むか否かを決めるのは、全てルシファーなのだから。


 ルシファーが望んでいるものが不明な以上、ミソラの経験からより強い者に関心が傾くだろうと推測した。


 だがその推測が、ミソラの決定的な落ち度だった。


 「いや、我は貴様と闘いたいと思っている、それ故に闘えと命じた、たとえ貴様の言う強い奴が我以上だとしても、そんなのはどうでもいい……我は貴様と闘ると、貴様が核を貫いた時から決まっているのだ」


 今ミソラが相手をしているのは、血に飢えた〝人〟ではなく、〝聖器(ポーマ)〟であることを、ミソラは意識出来ていなかった。


 まったくの予想外の返答で無いにしろ、ミソラはひどく驚いた。

 ルシファーの常識が、ミソラの選択肢にハナから当てはまってなどいなかった。


 ルシファーはイカれた戦闘狂ではない、〝聖器(ポーマ)〟とは武器、武器とは闘いに使われるモノ、ルシファーにとって戦闘とは存在意義であり、自身の価値の全てで、失われる事などあり得ない誇りがある。


 ルシファーにとって闘いとは、楽しむための一興ではない…己の全てだ。


 「貴様には我を目覚めさせた責任がある、相手になってもらおうぞ」


 「……っ……」


 目の前にルシファーが存在するというだけで、ミソラに逃げ場などありはしなかった。


 ミソラは自分の弱さを悔いた。得策とは言えセロナに全てを任せようと考えた事、ルシファーを怖れた事、命が奪われることを怖れた事。


 全ては自分の弱さが理由だと怒り、血が溢れるほど両拳を強く握り、徐々に徐々に威圧感を強め、ミソラを脅して選択を急かすルシファーを見て、自分が情けなくなった。


 「おい、刀を取るならわざわざ手を傷付けてどうする」


 「……悔しい……けど……全部勝てない……」


 「分かった」


 逃げ場を与えまいと放っていた威圧するオーラが、逆にミソラの戦意を奪っているのではないかと考えたルシファーはオーラを収め、右手の手刀で左脚を、膝から上まで切断した。


 「……え……」


 「人とは、どんな逆境にも抗う精神を持ち、乗り越える心を持っている……我が創られし際に神から授かった言葉だ」


 さらにルシファーは右手の指を5本全て、左手で引っこ抜くように千切った。


 「だが、全ての者が等しく抗える訳では無いらしい……お互い確固たる意志と誇りを持って万全を期すのならば……必要なのは一方的な干渉ではない、魂のぶつけ合いだ」


 止血程度の再生を終え、一本足ながら一切ブレる事の無い軸を持つ肉体に魔力をより速く流し、ミソラの目の前に飛び込んだ。


 「っ……」


 「……どうした、反撃しないのか?」


 ミソラは小刻みに震え、ルシファーを前に顔が向けられなかった。

 刀を握り、強がってみえる顔でルシファーを見、目の前の絶望に抗おうとしていた。


 ルシファーは攻撃の手を止めた。己を前にして戦意の削がれた者は、たとえ目覚めさせた相手であろうと許さない。


 〝聖器(ポーマ)〟にとってその精神状態は、極めて無礼なことだった。


 「……わ……たし……は……」


 「くだらん」


 無慈悲な右拳は、ミソラを気絶させるには十分過ぎる一発だった。


 ミソラの構える刀を折りながら顔面を砕く勢いで殴ったが、これほどまでに無礼な相手に、己が奪う価値のある命は無いと、生かした。




 ───ミソラが伸びた直後、この火山島にあった強大なエネルギーが瞬間的に消え去る感覚をルシファーは覚えた。




 「はぁ……はぁ……はぁ……」


 ベイルはついに意識を失い、閉じ込められていたセロナはルシファーの目の前に現れ、心身共に疲れ果てた表情を浮かべていた。


 「……ほう、これが貴様の言っていた強き者か……だが、万全というにはほど遠い」




   ※ ※ ※ ※ ※




 セロナは閉じ込められてから戻ってくるまで、要した時間は10分にも満たないが、体感時間は20年を越えていた。


 腹は減らない、喉も渇かない、眠気も襲ってこない、体は約10分の時間の流れを生きているが、セロナ自身の意識は20年を過ぎたと錯覚を起こしていた。


 まず〝幻影空間(ファントム・サークル)〟でセロナの五感やあらゆる意識に幻をかけ、そこに無いものを在るように錯覚させた。


 次に〝時空変空間(クロノス・サークル)〟でセロナの意識の中へ、時間の狂いを介入させた。


 最後に〝完全無欠空間(イージス・サークル)〟で完全に閉じ込め、外からも侵入することは不可能となり、ベイルが解除するか意識を失う以外にセロナの脱出は不可能となった。


 セロナは意識的に20年休むこと無く、全く同じパターンでのみ殺しにかかってくるベイルの虚像を相手にしてきたため、退屈と疲労感から、何度も何度も精神が壊れかけた。


 しかし屈せず己と闘い続け、そして勝ったセロナはまさに特等聖戦士、まさに〝剣聖〟、それらの称号に恥じない姿は見事と言う他に無い。


 ───では何故、ベイルは意識を失ったのか。


 ベイルはその呪力で、内部に効果を与える空間を造り出せ、なおかつ効果の種類は本人の創造力次第みたくなっている。(創造しても出来ないものはもちろんある、むしろそちらの方が多い)


 ただ、内部に閉じ込められたらほぼ勝ち確定の技のため、空間1つを造り出すために莫大なエネルギーを要する事は必須だ。


 全盛期のベイルが使用していたものと変わらないため、〝死神魂(デケム・メア)〟とされて力が抜き取られている現在のベイルでは、本来は1日に1つが限界だった。


 それを一度に3つも繰り出したのだから、全身にあらゆる異常が生じた。

 必要なエネルギーを体から喰らい尽くす感覚に襲われ、最終的に枯渇したベイルはほんの僅かな生命力だけを持って力尽きた。


 この場において絶対的な存在を、疲弊しているとはいえ解き放ったため、ルシファーとて無事では済まないとすぐに理解した。


 「……ミソラ……」


 己に負け、こちらも力尽きたミソラの姿を見て、セロナの20年分の疲労感は全て吹っ切れたみたく、急激に集中力が研ぎ澄まされた。


 「……お前がやったのか?」


 「否、これを望んだのはこやつ自身だ……お前を信頼し、お前を待ち、それでも来ないがために、自ら剣を取り、一撃で沈んだ……哀れな女よ」


 事実ではない情報を吹き、セロナを煽って研ぎ澄まされた腕と刃を己に仕向けるように謀った。


 その言葉を聞いた瞬間、セロナは自身の力の全てではないがルシファーを圧倒するには十分なエネルギーを体外に放出した。


 地面は大きく揺れ、空も雲が大きくうねり、海は自然では考えられないほど波は高くなり、それははたまたセタカルド諸島や、遠く遠く離れたルブラーンにまで至った。


 「……貴様、コーゴーの者か?」


 「だったら何だ、殺す」


 セロナが構えたと同時に、全身が震え上がったルシファーは呪力で瞬間移動しセロナと火山を挟んで対称の位置に立った。


 「……なっ!?」


 遅れること数秒、ルシファーの四肢は真っ二つに斬れ、腹部は3つの刺し傷があり、全て貫通していた。


 血を吐き、うつぶせのまま動けないルシファーが、向けられた己への殺気を感じ、もう一度瞬間移動しようと考えた時には既に遅かった。


 「死ね」


 セロナは右手だけで刀を持ち、ルシファーに向けてゆっくり振り下ろした。


 その瞬間、莫大なエネルギーを持つ斬れる衝撃波が火山をを真っ二つに斬り、ルシファーの上半身と下半身を真っ二つにし、海を、無人島を4つ、有人島を1つ真っ二つにし、ルブラーンのある大陸も数キロ斬った。


 常人では理解不能なその力を見たルシファーは、そのまま気を失った。




   ※ ※ ※ ※ ※




 「……何……今度は……」


 セロナの目の前には、崩壊した火山の瓦礫や溶岩を完全に食い止める結界が張られた。ビオラの持つ結界だ。


 ビオラは海に吹っ飛ばされた後、海中で反撃の機会を伺っていたが、予想外の出来事が次々起こり動けずにいた。


 島が真っ二つになり、海に沈んだアリシアや既に全身を再生し終えていたラルフェウ、レオキス、リドリーを海中で介抱し、船の甲板に放り投げた。


 結界を全て使い全裸だったビオラは、瓦礫や溶岩を結界で、風呂敷で包むように包み込み、海に沈め、結界を服に戻し、セロナの前に立った。


 「……同じ特等聖戦士なのに、人間界のあの長官とは歴然の差なのね」


 「ルナは特等じゃ新人な方だからね~、まあでも、素質はホーウェンとかに並ぶよ」


 セロナはビオラに敵意が無い事を理解し、刀を納めエネルギーを収めた。


 「……なんや、終わったんか?」


 「……は?……」


 キリウスは気を取り戻し、起き上がった。


 頭をかきながら、全裸でビオラとセロナの間に立ったキリウスが内に秘めている力は、数分前とは比べ物にならない……先ほどセロナが放っていたあの力と、ほぼ同じくらいのモノだった。


 「……なんや?」

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