第35話 無垢なる雫
「ほっほー、カオス、そしてよく見たら死体めちゃくちゃあるし」
ベイル、ラルフェウ、クラジューは外に出て、巨人化したゾーネがすぐに目に入った。
島には、リアやゾーネの暴走により、既にあまりにも多すぎる死体が至る所に並び、街は赤く染まっていた。
「排除スル、全テハ楽園ノタメニ」
ゾーネの切断された左腕から、スライムのようなどす黒い半固体の物質がゾーネの左腕を形成し、そしてゾーネの左腕が再生した。
「……なんだありゃ、賢者ベントスじゃねぇか」
「やはりそうですか……」
「なんだよその賢者なんたらってのは」
「おんなじ事ボソボソほざきながら破壊活動する野郎共の総称だ、昔全部倒したけど……いつ復活してもおかしくねぇな」
「しかし……何故ゾーネさんが……」
「知るか、まあしかし放置したら島崩壊だ……ゾーネのスタミナが保てばな」
※ ※ ※ ※ ※
「コロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスウウウウウウ!!!!」
リアはゾーネの足の筋を斬り落とすも、ゾーネは半固体の物質を瞬時に繰り出し再生させた。
リアは不気味な笑みをそのままに、ゾーネの周りを激しく速く跳び回り、ゾーネの体を斬り刻んでいくも、ゾーネは傷を負った瞬間に再生させている。
リアの動きを追えず蹴り上げた足は空を切り、振り下ろした拳は地面を殴り、地響きを起こしていた。
「でえええああらあああああ!!!!」
リアはゾーネの左太ももに飛び跳ねそこに剣を刺し、クライミングのように抜いて刺し穴に右手をかけ、塞がる直前に右手でゾーネの顔付近まで跳び上がり、加速した状態でゾーネの顎に近い首元に剣を突き刺した。
「……リア……」
「ランス隊長!!我々はどうなってしまうのですか!!?」
(……いつもより症状が重い……これだけやっても収まらないなんて……強い奴らに過剰反応を示しているのか?……さっきの者とか、この巨人は一体……何者なんだ……)
「排除スル、全テハ楽園ノタメニ」
リアはゾーネの肩や頭に乗ってゾーネの攻撃をかわしつつゾーネを斬り刻んでいった。
そしてリアがゾーネのうなじを刺しにいった瞬間、リアの真下の地面から巨大な先の尖った樹の幹が出現し、物凄いスピードで上昇し、リアの胴体を貫いた。
「げふぁっ……」
「排除スル、全テハ楽園ノタメニ」
すると島中に太く高さ数十メートルある葉の無い先の尖った木々が突然無数に隆起し、地面が崩れ島が壊し始めた。
「これは……巨人族にこんな能力は無いはずですが……それに呪力の気配でもない……」
「混じってんだろ、多分モリの一族だ」
※ ※ ※ ※ ※
その樹はコロシアムからも数本隆起し、コロシアムは完全崩壊した。
「……っぶねぇ……」
ドグラは間一髪でかわすも、気絶していた実況や観客や逃げ遅れたスタッフ、治療中のフレディやスデイルも犠牲となった。
「ふざけた力だ……逃げるか」
「支部長!」
するとドグラの前にウルが大急ぎで現れた。
「ご無事でしたか……よかった……」
「俺のこと心配してくれたの?かわいいとこあんじゃ~ん」
「眼球に指ぶち込みますよ」
「うわ痛ぇ!想像しただけで痛ぇ!」
「そんなことより……この状況は……」
「おい、人間界の兵っつーのは無能すぎやしねぇか?」
「コーゴーやジェノサイドが特別なだけです……だけど……これはコーゴーやジェノサイドでも手間取りそうですね……」
「あ~もう~……ちまちま面倒くせぇ書類やら訓練やらから脱けだして、バカンスついでに賞金稼いでその日の夜に全部女の子たちに注ぎ込む俺の計画が~~……」
ドグラはその場で座り込み、両手で頭を抱えて、髪をかきむしった。
「避難しますか?」
「たりめぇだろ!休みなのに任務とかする訳ねぇだろ!」
ウルの一言にドグラは跳び上がって立つなど、動きが忙しなかった。
「……了解しました」
「さっさと退散だ~」
ドグラはウルに着いていき、ウルが用意している船に向かって、混乱を避けながら走っていった。
※ ※ ※ ※ ※
「排除スル、全テハ楽園ノタメニ」
ゾーネはリアが貫かれた樹を右手で引っこ抜き、リアを突き刺したままリアを地面に叩き落とした。
「があああっ!!!!……ぁあ……」
傷口から血を噴き出し、断末魔のような叫び声を上げ、リアは遂に気絶した。
「……賢者ベントスの割にはかなり弱いな、ほっといても止まるだろ……過労で死んでそうだけど」
「……おい下僕魔人」
するとクラジューがようやく口を動かし、ラルフェウに話しかけた。
クラジューは今に至るまで軽い現実逃避のような事をしていた。あれはゾーネじゃない、つまりこれは夢だと目の前から逃げていた。
無理も無い、愛する者が突如自分だと認識されず、殺す気で殴りかかり、面影がなくなってしまえば、受けるショックは尋常じゃない。
それでもここで逃げたらゾーネも自分も救われない……暴力の権化と化したゾーネを止められるのは、元の笑顔を取り戻せるのは自分以外にいないと、己を奮い立たせた。
最善の方法なんかは見当たらない、誰も助けてはくれない、それでもやるしかない……いや、それで大丈夫なのか?それでゾーネは戻ってくるのか?……。
こんな自信と不安とのやり取りを、脳内で何十回何百回と繰り返した。
揺るがない絶対的自信は持っていない、それを持って行動し、上手くいかなかった時のショックを怖れたからだ……だからこそ、クラジューはラルフェウに乞うた。
「……僕ですか?」
「巨人化を強制的に解除する方法はねぇのか……」
「……あります」
「教えろ」
「……涙袋の真ん中に、〝巨門〟という巨人族特有のツボがあります……両方同時に突けば強制解除されます、巨人化のコントロールが上手くいかない幼児や老人、非健常者などがそこを抑えてコントロールしています」
「本当か?」
「実際に利用する人を見たこと無いので確信は無いですが、博識な知人が以前言っていたので……彼の言葉は信用に値します」
「……すまねぇな」
クラジューはゾーネのために踏み出す勇気が持てなかった自分が、ゾーネに申し訳なく思い、ラルフェウを利用してとにかく言葉にした。
その謝罪の言葉が誰の何に対する言葉だったのか、ラルフェウは聞くことはなかった。
「……クラジューさん……本気ですか?」
「ゾーネは死なせねぇ……確かに人はいつかは死ぬ……けど今じゃねぇ!!!」
クラジューは浮遊し、体内から天槌ラファールを取り出し、右手に持ってゾーネの元に向かっていった。
「……雨降ってきたな」
クラジューの能力と共鳴した訳でもなく、島全体に弱い雨が降り始めた。
共鳴したならば、雨は降らずただ雷が鳴るだけなのだから。
「絶対助けてやるぞ、ゾーネ」
クラジューはゾーネに弱い電圧の雷を槌から放つも、ゾーネには全くの無効だった。
「排除スル、全テハ楽園ノタメニ」
ゾーネは右手の平をクラジューに向け、地面から先の尖った樹を繰り出し矢のように放った。
「っ!?」
クラジューはかわすも、左頬に切り傷を負い、血が少し出た。
「ゾーネの動きを止めねぇ事には……」
クラジューは立て続けに槌から微弱な雷を繰り出し全て命中するも、ゾーネは全く弱る気配は無く地面から樹を放ってクラジューを潰しにかかっていた。
「近づけねぇ……ちぃ……」
※ ※ ※ ※ ※
「やはりクラジューさん、加減してますね……」
「……あ、そういや重り拾ったんだけどよ」
そう言ってクラジューはヴェルジイモの箱の中からクラジューが普段取り付けている重りを取り出した。
「この前より重くなってね?」
「……ベイル様、果てしなくどうでもよくないですかその話?」
「いやー手加減したとはいえ体バラバラにされるとは思いもしなかったもんでね~」
ベイルは一つ70キロはある重りを軽々と右手で持っていた。
※ ※ ※ ※ ※
一方クラジューはゾーネの動きを止めようとどうにか近付こうとするも、ゾーネの妨害により近付けず、切り傷を増やしていた。
「排除スル、全テハ楽園ノタメニ」
「……くそっ!!!」
クラジューは目の色を変え、ゾーネの妨害を全て紙一重でかわし、ゾーネの顔の前に辿り着いた。
「……悪ぃ……ゾーネ……」
クラジューは雨雲に向かって槌から雷を放ち、威力が増大した雷がゾーネの頭上に落ちた。
「───……っ……ク……ラ……ジュ……くん……」
ゾーネの目の紫色はほんの一瞬薄くなり、ゾーネの瞳が垣間見え、クラジューの名前を呼んだ。
クラジューは驚きの表情を隠せず、続けて繰り出すはずの攻撃の手を止めた。
「……た……す………け……て……」
両目から一筋ずつ流れる涙に、クラジューはしっかりゾーネの意思が見えていた。
苦しそうなゾーネの表情、救いを求める言葉、涙───偽りないゾーネの姿を見てクラジューは槌を強く握り直し、歯を食いしばり、ゾーネをこんな目に遭わせた得体の知れない何かへの怒りを露わにした。
「っ……ゾーネ……」
しかしクラジューはすぐに怒りをこらえた。下唇を血を流すほど噛み怒りをエネルギーに変え、雷を降らすように島中に落としてゾーネが繰り出した樹々を壊した。
「……今……助けてやる……」
しかし既にゾーネは暴走状態に戻っており、クラジューを右拳で殴りにかかってきた。
その右腕を、クラジューは躊躇なく槌で叩き壊した。
「お前は頭が足りねぇから、植物はあんな樹しか出せねぇ……攻撃の筋がワンパターンだ……〝雷球〟」
クラジューは槌から二つの小さな光る球を繰り出し、ゾーネの両涙袋の真ん中で電撃を放った。
「いい加減出て行け……そこにいるべきはお前じゃねぇ……誰も、お前を望んじゃいねぇ」
その瞬間ゾーネは通常のサイズに縮み、両膝をついた。クラジューはゾーネの前に降り立ち、天槌ラファールを体内に取り込んだ。
「排除スル……ル……全テテテハ楽園ノタタメニ……」
「……ゾーネ……」
するとゾーネは最後の力を振り絞ったかのように、クラジュー目掛けて地面から先の尖った樹を放った。
意表を突かれ、避けきれずに、その樹はクラジューの胴体を貫いた。
「……げはっ……」
クラジューは血を吐き、ゾーネの目の前で膝をついた。
「……ゾー……ネ……」
クラジューは右腕で口周りの血を拭い取り、ゾーネの顔の両頬を両手でそっと触れ口づけを交わした。
「っ……」
再びゾーネの両目からは涙が溢れ出し、ゾーネの目の色は徐々に戻っていった。
クラジューを貫いた樹はボロボロと灰になって消えてなくなった。
「……ゾーネ……」
クラジューは精一杯の微笑みをゾーネに向けた。
その笑顔を見たゾーネは、目の色は抜け、気配もオーラも穏やかになり、完全に元に戻った。
※ ※ ※ ※ ※
「……クラジューくん?……」
その瞬間クラジューは気絶し、ゾーネの右肩に正面から顔に寄りかかった。
「クラジューくん……クラジューくん!!クラジューく……あれ……」
そしてゾーネは突然スイッチが切れたように仰向けに倒れ気絶した。
「……収まりましたね……ベイル様……」
「……全く、何がどうなってんだか」




