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Past Letter  作者: 東師越
第2章 Always "Sadness" in their hearts
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第31話 波乱に忍ぶ影

 クラジューが会場から控え室に戻ってから10分ほどして、カヴガコロシアム会場では再び熱気がみなぎっていた。


 クラジューの事は無かった事にするみたく、異様な熱気だった。

 当然だ、ベイルの図体を見れば、今度は大番狂わせは起きないと人々は信じ切っているのだから。


 「続いて第二回戦!!!四天王からは!!!電光石火でどんな相手をも翻弄!!!自然族モリの一族!!!スデイル・クゾーラ!!!」


 実況の声も定評通りのけたたましい声(皮肉交じり)に戻り、会場全体や外までが再び地面が揺れる程に大熱狂していた。


 「えー対するは挑戦者、プードル選手ー」


 (ベイル様……あまり目立たないでください…)


 ラルフェウはさっきより緊張した様子で見ている。

 ベイルは一行の中の誰よりも騒ぎの元凶となり得るからだ。


 「うぇーい!!……ありゃ、俺じゃねぇのかよ……」


 2人は立ち位置につき、まるで緊張感の無いベイルを前に、スデイルは独特な構えを見せて戦闘態勢に入った。


 「……貴様、何故こんな無謀な挑戦をする」


 「ヴェルジイモ食いたいから」


 「……っははは、そうか……本気で来い、俺も本気でお前を狩る」


 「あっそ」


 あまりに安直なベイルの正直な質問への答えに、スデイルは思わず嘲笑しているが、ヴェルジイモを前にするベイルにとっては、そんなことは心底どうでもよかった。


 「それでは!!!試合開始!!!」


 ゴングが鳴ると同時にスデイルはベイルに向かっていこうと動くも、スデイルが一歩目を踏み出すよりも先にベイルがスデイルの背後に立っていた。


 「ほい」


 ベイルはスデイルが何一つ気付かぬ間にスデイルの尻を軽く蹴った。

 するとスデイルはいとも容易くうつぶせに倒れ、気絶した。


 特別なことは何も無い、ベイルの息をするように自然で、人を魅了する華が欠片も無い日常の一部のような一撃に、観客達はスデイルが倒れてから数秒間、試合が終わった事が分からなかった。


 「……もう終わったのかよ……」


 「……え……あ……」


 「おいおい実況しろよ、せっかく勝ったのに」


 「ベイル様……何故そうなってしまうんですか……」


 「し……し……勝者……プードル選手……」


 再び会場全体を静寂が包む。


 勝負と言うにはちっぽけ過ぎて、闘いと言うには呆気なさ過ぎて、観客達ははじめ自身の目を疑った。


 クラジューの時とは違うベイルの見せる無気力さに、人々は開いた口が閉じず、何かを言うことは出来なかった。


 結果的に力を示した事になるが、ベイルの無邪気な無気力さが人々に絶望感を植え付ける。


 もはや観客達が大金をはたいてまで見たかった世紀のビッグマッチなど、ここには無かった。


 「……ノリ悪ぃなったく」


 ベイルは勝ったのだから歓声が上がるものだと思っていたが、そんなものはハナから無く、静かな空気に包まれた会場を不満げに歩いて控え室に戻っていった。


 「……た……担架!」


 「……は、はい!」


 スタッフは唖然としたまま頭が回らず、ベイルが控え室に入ってから数十秒後にスデイルを担架で運んでいった。


 「……ええっと……私今までのカヴガコロシアム、見たこと無いんですが……恐らく歴代最短勝利記録でしょう……はい……ジャイアントキリングが、立て続けに起こっていますが……残り5試合……あるので……張り切って行きましょう……はい……」




   ※ ※ ※ ※ ※




 「さてと、俺か……」


 ドグラは立ち上がり、腕を上げて後ろ回しに右手を左肘に掴んで体を伸ばした。


 「瞬殺かよ」


 「お前も大して変わんねぇじゃん」


 話題は無いがクラジューは思わずベイルに話しかけてしまった。


 試合の様子を見ていたクラジューですら、ベイルの動きの全てを見切る事は出来なかった。


 「これでも躊躇した方だぞ?本気っぽく見せる躊躇」


 「知るか」


 ドグラは会場に入る際に、ゾーネと目線が合った瞬間にウィンクをした。完全に狙っている。


 「……?」


 「どうしたゾーネ?」


 「う~ん……どうやるのかな~?」


 ゾーネはドグラが見せたウィンクを再現しようとして片目だけを閉じようとするも、上手く出来なかった。




   ※ ※ ※ ※ ※




 「さあ気を取り直して!!!続いての四天王は!!!パワー、スピード、スタミナ、身体能力のオールマイティ!!!死角無きユーティリティプレイヤー!!!ポルミエ・サー!!!」


 「行けー!!!」


 「頼むぞー!!!」


 「そしてまあ一応期待しておきましょう、挑戦者のマリオ選手ー」


 クラジューとベイルが大番狂わせを見せても、観客達は謎のプライドで奇跡を信じていないため、ドグラに対する熱い応援など無かった。


 「まさか、フレディとスデイルがああも簡単に……今回は異常事態だな……」


 「そうですね……カヴガコロシアムには魔物が棲むと言われてはいますが……ここまでとは……」


 ラルフェウの隣に座る2人の記者であろう、メモとペンを持つ男達が話す内容を、大歓声響き渡る中でもラルフェウは聞いていた。


 (どれほど小さなきっかけでも、ベイル様だと辿り着くならば……ジェノサイドは分からないけど、コーゴーは間違いなく動く……ベイル様ですから、特等は避けられないでしょうし……まだ彼と合流していないのに……)


 「それでは!!!試合開始!!!」


 (さっきのチビの攻撃……見ていたが……あれは神業だ……威力ある蹴りで奴は、構えていた訳でも無く吹っ飛ばず、その場で倒れた……


 要するに蹴りの力を一切逃がさない、あり得ないことをやってのけた……鈍い音はちゃんとしたから呪力ってのも考えにくい……何者だ……)


 試合開始の合図は送られ相手と面と向かっているにもかかわらず、ドグラの興味はベイルにあった。


 「……かかってこないのか」


 「ん?お前やる気ねぇだろ、俺はかの四天王さんと闘える唯一の機会だから、出来れば本気を出してほしいんだけどな~」


 「……ついにこんな場所まで、かのような強者が入り込んでしまった……平和は、終わりを告げるようだ」


 「おいおいどうした、頭にヤベぇのが寄生でもされてんのか?せめて右手にしとけよ」


 「……全く動きがありません……2人の会話が続き、一向に試合が始まりません……」


 「何やってんだ!!」


 「さっさと闘え!!!」


 しびれを切らした観客達の一部は、ヤジを飛ばし、ゴミを投げたりし始めた。


 「み、皆様!!試合中に物の投げつけはやめてください!!」


 (……あのマリオという人、強いな……何者なんだろう……)


 嫌なムードになっていく観客席で、ドグラの強さを理解しているのはラルフェウただ1人だった。


 「……俺は〝癒波動の地ヒーリング・ランド〟出身者だ、コーゴーや裏の者が我々より強い事は分かっている、我々程度でも稼げるこの娯楽闘争のおかげで、世界中の者達は衰退し、裏やごく一部だけが増強していく……あなたは、どちらの方で」


 「守秘義務って知ってるか?」


 「なるほど……もう、我々の居場所は、ここには無いようですね」


 「結構強いだろお前、序列内聖戦士は無理でも序列外くらいなら」


 「殺したい訳ではないのです……たとえ法の下だとしても」


 「……あのー……試合始まってるんですけどー…」


 「降参するよ」


 「……こ……え……こ……降参?……」


 ポルミエは既にやる気の失せた実況席に向かって、利き手の左手を挙げてそう言った。


 再び会場はどよめき、観客達はほぼ一斉にブーイングや罵声を浴びせ出し、席を立って帰る人もちらほら出てきた。


 「いいのかよ」


 「我々が弱いことを、世界は再び教えてくれた……次出てくる弟とも話した、弟も棄権する……あなたたちは……我々を幸福にしてくれて、そして不幸にする……世の常ですね」


 「……まあ……その……頑張れ」


 「───」


 最後は何も声に出さず、少し笑みを浮かべてポルミエは会場を歩いて去っていった。


 「……えっと……ポルミエ選手は降参……そして今……弟で四天王のラムフリーム選手は棄権の申し出がありました……よって……マリオ選手と、ポメラニアン選手は準決勝進出……はい……えぇ……はい……」




   ※ ※ ※ ※ ※




 同じ頃、リアとランス率いる兵達は街の中心部に到着していた。


 「……閑散としてるな……まあ今はコロシアムで試合中だろうし、俺とリアはここにいる、他は全員コロシアムで配置に着いてくれ」


 「え……全員ですか?……」


 「ここにいる200名が束になっても俺より弱い事は周知の事実のはずだ」


 「だったら尚更お2人のどちらかが行くのが最善かと」


 「君たちの命と、民衆の命……守る命はどちらだ?」


 「おい、聞いてないのか?リア隊長のこと」


 「っ!も、申し訳ありません!先ほどキスイウ支部から合流したので何も……」


 「……はぁ……全く、ドグラ支部長は何一つ説明してないのか……いいか…」


 リアは右手で左手の指をポキポキ鳴らしていた。


 「……それ、指太くなるって聞いたが」


 「ならない……ガスの音だから……」


 「……そうか」


 何故この2人が共に行動しなければ民衆の命に危機が及ぶのか、その真実はこのすぐ後、未曾有の惨劇と共に明かされる───




   ※ ※ ※ ※ ※




 数分後、会場では試合が始まらず、何の情報も入って来ない会場の外で見えずとも観戦していた人々はざわついていた。


 「おいどうなってんだよ!」


 「試合始まんないんだけど……」


 そんな中に、会場から出てきた人々がなだれ込んできた。


 「フレディ様もスデイル様も……ポルミエ様は降参でラムフリーム様は棄権だなんて……」


 「訳分かんねぇよ……」


 「あいつら偽物なんじゃないの?」


 「つまんね~」


 「金返せ!!」


 「えーただいま、四天王側からの前代未聞の降参宣言が出たため、委員会の皆様による審議中でございます……会場にお越しの皆様、今しばらくお待ちください」


 ルールはルールだが、降参宣言は一般参加の選手が四天王に全身をボロボロにされ、最悪命を落とすという危険を避けるためのルールなので、審議と言って2人と話し合う機会を設けていた。




   ※ ※ ※ ※ ※




 その頃、ポルミエの控え室では、サー兄弟とスーツ姿の男性2人や、トレーナー達が話をしていた。

 スーツ姿の男達はサー兄弟に出資するスポンサーらしい。


 「一体どういうことなんだ!?降参に棄権だと!?」


 「ルールに則った上での判断です、何か問題でも?」


 「闘ってもいないのに、ましてや四天王なのに!一体この大会のためにいくら払ったと思っているんだ!!」


 「彼は俺より強かった、闘っても無意味だと思ったからです」


 「そんなことはやってみなければ分からないだろう!君たちの仕事は!パフォーマンスで人々を魅了することだろう!!」


 「僕の仕事は……価値の無い己自身を、周りに肯定させるための繋ぎでしかありません」


 「……弟と同意見です」


 「……君たち何を言っているんだ!!?」


 「金のために我々を利用するあなた方と同じような不純な動機だ、文句はあるはず無いだろう」


 「っ……」


 「……だが」


 「失礼する」


 「……では」


 サー兄弟の2人は控え室を出て行き、スポンサーやトレーナー達は呆然と立ち尽くしていた。




   ※ ※ ※ ※ ※




 「ぜんぜんはじまらないね~♪」


 「そうだな」


 ベイル達の方の控え室ではベイルはおらず、ドグラはクラジューとゾーネが談笑している様子を天井と目線をチラチラと行き来させていた。


 「ね~ね~クラジューくん、こっちのめだけつむるのできる~?」


 「え?ああ、こうか?」


 クラジューは右目を閉じてウィンクをした。


 「すご~い♪うちぜんぜんできないの~、なんでかな~?」


 「その内出来るだろ」


 「うん!がんばるね!」


 そしてクラジューは僅かにドグラの様子を伺っていた。


 (何なんだよさっきから……うぜぇな……いや、よく考えたらうぜぇの俺らなんだけど……にしても不自然に見過ぎじゃね?)


 (俺のウィンク返すために練習してくれてる~マジかわいいな~好きだわ~略奪してぇ~あのデカいおっぱいを揉みしだきてぇ~)


 (おいおいまさか、突然ウィンクの練習しだしたのこいつが仕掛けたからとかじゃねぇだろうな……)


 (あ、どうしよ、準決勝で当たったときあの観客の面前で抱くとかいう公開処刑面白そ~……あーダメだ、トイレ行こ~っと)


 ドグラは立ち上がって控え室を出た。その数秒後にベイルが控え室に入ってきた。


 「小便しに行っただけで迷子になったぞおい……広すぎる上に複雑なんだよ……」


 「おい、もうアナウンスかかってんぞ」


 「ふいふーい」




   ※ ※ ※ ※ ※




 「先ほど審議が決定し、ポルミエ選手の降参とラムフリーム選手の棄権が受理されました!お待たせしました!あのフレディ選手とスデイル選手を破った2人の闘いとなります!まさかまさかの展開!挑戦者チワワ選手対!挑戦者プードル選手!」


 実況の声は若干小さくはなっているが、大会のために最後まで実況を続けるようだ。

 既に観客席は、9割近い観客が会場を出て、閑散としている。


 「サツマイモは俺のもんだぞロリコン」


 「俺のだよクソチビ」

控え室は四天王は個室ですが、一般参加は同じ大部屋です。


また審判がいないのは、ジャッジに不満を感じたフレディが審判に重傷を負わせた過去があるため


なのでアナウンス力は微妙でも、審判の資格を持つこのけたたましい声の人が選ばれた。

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