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Past Letter  作者: 東師越
第2章 Always "Sadness" in their hearts
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第24話 舞い散る花びら

 同じ頃、ラルフェウは結界の側で立ちすくんでいた。

 現状相当弱いベイルの気配は、その結界に入った途端に消えてしまった。


 (この気配……こんなところで……)


 ラルフェウはルナ達の気配を察知していたが、そこまで気にする事はなく、むしろベイルの方を気にしていた。


 するとラルフェウの元へ、アリシアが必死に走ってきた。


 「キューちゃん!!……はぁ……はぁ……」


 「アリシアさん……どうされましたか?」


 「はぁ……はぁ……兵団の人が来て……皆殺されちゃう!……」


 「まさか……この程度ですよ……いや……この結界が感覚を鈍らせて……彼でないなら……かなり危険ですね……」


 「……キューちゃん……助けて……皆を助けて!!」




 「───それは出来ません」




 「……どうして……」


 非情に聞こえたその言葉は、アリシアの微かな希望をへし折るには足りすぎた。


 「僕でも彼に触れる事すらも不可能だと思います、ベイル様はすぐ上にいます、ここで待ちましょう」


 「……行けないの?」


 「仮に行けたとしても、ベイル様の邪魔をする訳にはいきません」


 「……皆が死んでも?……」


 「はい」


 「……私が死んでも?……」


 「それは何とかします」


 「……え……何で……」


 「それはあなたが、〝ホシノキズナ〟を有するクルエルの末裔だからです、悪いですけど、僕にとってのあなたの価値観はそれ以上でもそれ以下でもありません」


 「……そん……な……」


 アリシアは信じてきた……ラルフェウの自身に対する言動は、きっと自分じゃなくて〝ホシノキズナ〟の事なんだと、分かりきっていた。


 だがそう思えば思うほど、少しくらいなら自分を気にしてくれているんじゃないかと、無意味な希望を胸の奥で考えていた。


 ただでさえルナを前にしてどうにかなりそうで、リドリー達を置いてきた罪悪感も感じているのに、ラルフェウは焦燥に駆られているアリシアの心などお構いなしに言い放った。


 「ですから、ここで待ちましょう」


 「───」


 アリシアはうつむき、歯を食いしばり両手を握りしめ、リドリーたちのいる方へと走っていった。

 どれだけ無駄で愚かでも、そんなことを考えている余裕は、既にアリシアには無い。


 「アリシアさん!」


 (……やっぱり……私は……私は!!……)


 ラルフェウはアリシアを先回りし、アリシアの前に立った。

 アリシアはラルフェウの姿を見て止まった。


 「落ち着いてくださいアリシアさん!」


 「キューちゃんは分かんないの!!?人が死ぬんだよ!!?皆が……今までそんなこと、気にしたことも無いのに……死ぬんだよ……」


 「人は死にます、その一人一人に目を向ける事は不可能です」


 「でも!!リドリーちゃん達は特別なんだよ!!目の前にいるのに……何で……」


 「……そんなに守りたいなら、アリシアさん自身が強くなればいい…僕に訴えるだけ訴えて自分は何もしないのは、傲慢にも程があります……個人的に僕は自分の力を、彼らを守るために使いたいとは思えません」


 ごもっともだった。正論故に、頭の回らないアリシアに、これ以上ラルフェウに何かを訴えることは出来なかった。


 仮に出来たとしても、太刀打ちなんて出来るはずが無い……アリシアとラルフェウとでは、言葉一つ一つの重みと説得力が違いすぎた。笑えるくらいに。


 「……じゃあ……何のためにあるの?……」


 「ベイル様のそばにいるためです」


 「……う……あ……っく……ぅぁあああああああ!!!!」


 アリシアは膝から崩れ、地面に両手を付き、突然涙をボロボロと流し大きな声で泣きわめいた。


 大好きな誰かを守りたい、死なせたくない。そう思う心が今、この時は、罪深いイカレた愚行にも錯覚した。




 (知らなかった……自分が無力な事……自分が無力な事を悔やめる事……心から生きていてほしいと思う誰かがいるのに……1人じゃ何も出来ない事……無力の……恐怖も)




 


 するとラルフェウは泣きわめくアリシアの前にしゃがみ込んだ。


 「……自分のせいで誰かが死ぬと思うと、その恐怖は何よりも壮絶で、何よりも心身を壊します……人は、生きることに必死です……命は、何よりも恐ろしいモノです……」


 ラルフェウはアリシアの背中をさすった、アリシアの泣き声で少しルナ達の気配が掻き消されるから、早く泣き止んでほしいと思ったからだ。


 「それにアリシアさん、泣くのは早いですよ」


 「……ぐすっ……うっ……え?……」


 アリシアはラルフェウの顔を見る。


 「まだ誰も死んでいません」


 「……うん……」


 ラルフェウの放つ言葉が、アリシアの心を抉ったかと思えば慰め救いもする、アリシアもそれに振り回されてばかりいる。


 同時に垣間見せる優しさと冷酷さで、アリシアはまだどうしても、信じ切ることはできなかった。




   ※ ※ ※ ※ ※




 この数分前、クラジューはたった1人でルナと闘っていた。


 「ちぃ!!」


 「───」


 クラジューは雲を発生させルナの上空から恐ろしい数の雷を落とすも、ルナは顔色一つ変えずかわし、じりじりとクラジューに近づいていた。


 ルナはリラックスしている状態だった。雷が体を直撃しているというのに、呼吸やまばたきが崩れることはまるで無かった。


 「〝雷球(サンダー・コア)〟」


 クラジューの続けざまの攻撃もルナは剣を一振りして破壊した。


 「ソラの一族……滅びていなかったのか……それに雷を使えるとは、天性の賜物だな」


 「お前に言われたかねぇな」


 すると無音で大きな雷がルナの上空から落ち、直撃した。


 「〝静寂の雷霆(サイレント・サンダー)〟」


 しかしルナは何事も無かったかのようにクラジューに近づいていた。


 「……何で効かねぇんだよ……」


 「お前の攻撃が」


 するとルナは一瞬でクラジューの目と鼻の先に間を詰めた。


 「貧弱だからだ」


 ルナの言葉は間を詰めることによって途切れる事はなく、ごくごく自然な流れすぎたためクラジューは目の前のルナに戸惑いを感じた。


 「黙れ」


 ルナは右拳をクラジューの顔面に打ち込むも、クラジューは左腕で防いだ。


 「……骨は折れたが、破壊とまでは至らなかったか」


 「頑丈な方だからなっ!!!」


 クラジューは槌を左手から右手に持ち替えて右拳をルナの顔面に打ち込んだ、しかしルナは左人差し指を突き立てて防いだ。


 「……わざわざそんな事する必要あるか?」


 不敵な笑みを浮かべそう言うクラジューだが、内心は舐めている相手への怒りや、圧倒的な差を悔しがったりと、複雑に入り乱れている。


 「強さの誇示だ、おとなしく死ね」


 ルナはもう一度右拳をクラジューの顔面に打ち込んだ。クラジューは両腕で受けるも、激しく吹き飛び、アンビティオ号に激突した。


 「ぅあっ……」


 「クラジューくん!!!」


 「……んだよ……さっきと威力全く違ぇじゃねぇか……」


 「これで3割だ、妖人族は体形上肉弾戦に向かない体質と聞くが……ソラの一族は違うようだ……」


 ゾーネは吹き飛んだクラジューの元に駆けて寄り添った。


 「だいじょうぶ!?」


 「……ああ……楽勝楽勝」


 クラジューは立ち上がり、ゾーネの頭を撫で、自分は心配無いと言わんばかりに微笑んだ。


 「お前は殺させねぇ」


 「……クラジューくん……」


 ゾーネはクラジューの心配もそうだが、慣れてきたとはいえ、押し潰されそうな気配と敵意で、吐き気や頭痛などにも見舞われ始めている。


 「なら、そっちの女からだ」


 ルナはゾーネ目がけて剣で心臓を刺しにかかった。

 しかしクラジューは間一髪、槌で剣をゾーネから守った。


 「今さらエグゼル化か?それは大した強化ではないな……闘値が見えるようになる程度の、ただの通過点だ」


 「少しでも足しになるなら問題ねぇな……ぶっ殺す」


 クラジューはルナの背後に回り込んで槌をルナの頭上に振り下ろそうとするも、ルナはクラジューが背後に回り込んだと同時にクラジューのみぞおちに右肘を打ち込んだ。


 「ぐあっ……」


 「遅い」


 「っぐ……おお!!!」


 クラジューは槌をルナの顎に打ち上げにかかるも、ルナはクラジューが動作に入ったと同時にクラジューを蹴り飛ばした。


 クラジューは再び船にぶつかり、うつぶせに倒れた。


 「───」


 するとルナは唐突に右に一歩立ち位置を移動した。

 そしてすぐにルナのいた立ち位置に無音の雷が落ちた。


 「……何で……分かんだよ……」


 「俺の呪力、〝未来予測(プリデクション)〟の前では静寂の雷も無意味だ」


 「……はっ……そんな大事なこと……言っちまっていいのか?……」


 「言っても問題ないから言った」


 ルナは余裕を見せているが、侮ったり、舐めたりしているつもりは一切無い。

 だが、絶対的な強者を前に、弱者はその気の抜けたように感じられる一挙手一投足を、舐めているようにしか思えないのだ。




   ※ ※ ※ ※ ※




 同じ頃、島の頂上ではビオラとベイルがまだ話し込んでいた。


 「……器にまで選ばれてんのかお前……持ちすぎだろ色々……」


 「……生まれた頃から何もかも持つ不幸……アナタなら分かると思っている」


 「分かんねぇな、俺は生まれつき力の類は何一つ持ち合わせてなかったからな」


 「……そう……なら共感のしがいが無いわね……」


 「……なあ、この花なんて言うんだ?」


 「何故そんな事を聞くの?」


 「聞いたらマズいか?」


 「……はぁ……トゥラナイナビオラ……花言葉は……孤独の美」


 「はあ……なんじゃそりゃ」


 「〝自然郷〟にしか咲かない花、ワタシがいくつか種を持ち出して植えた、花はワタシに何も言わないから」


 「は?」


 「花は、ただ花らしく美しく咲き、そこを居場所とし、やがて儚く散る……ワタシには美も居場所も儚さも無い……戦う術を持ち、力を持ち……ワタシは花になりたい」


 「お前はバカか」


 「……何が?」


 「花らしく美しく咲くってか?お前はバカだな、花だって戦ってんだよ、より美しく咲くために広く根張ったりな、その上で勝ち負けが存在すんだよ、生物の基本を人が勝手に醜いって意味付けしてるだけだ、ちと考えりゃ分かるだろ」


 「……花も……戦っている……」


 「花は咲きゃそこが居場所になるが……そりゃ人も同じだ」


 「……どういうこと?」


 「お前自身の思うがままの姿がお前の居場所だろ、居場所のためにわざわざ土地とか建物とか、誰かが必要なのか?」


 「……居場所は……ワタシ……」


 すると突然花畑の花がビオラの足下の一輪を除いて花びらが全て舞い散り、枯れていった。


 ベイルの言葉は、いささか強引な感じと受け取れるが、それでもビオラには、何も見えずに苦しんでいたビオラには、その一言を800年もの間待ち続けていたみたいだった。


 だがその言葉欲しさに、あえて自らを卑下して同情を得てから相手に言わせる、そんなビオラ自身も気付いていない無意識な駆け引きは、成功ととれる。


 おかげで吹っ切ることが出来たのだろう。あの花々は1輪1輪、ビオラの心の暗い部分を代弁するように咲いていた、そう思わせる散り方だった。


 それでもビオラは表情を変えない、しかし変えずとも、ベイルはビオラの気持ちを手に取るように理解出来た。


 「……ありがとう……答えがそれかは分からないけど……きっかけにはなった」


 ビオラはエーギルの結界を解き、その結界はビオラの顔の前で、ビオラの顔の大きさ程の水の球となって浮遊し、その水の球はビオラの体に張り付き、ワンピースのような服となってビオラの身を包んだ。


 「なんじゃそりゃ」


 そしてビオラは余った水で輪を作り、後ろで髪をまとめてその輪でくくりポニーテールにし、咲き残った一輪の花を髪に飾った。


 「……アナタに着いていくわ」


 「いいのかよ」


 「ええ……




 ───アナタの見る世界に、興味が湧いた」

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