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Past Letter  作者: 東師越
第6章 The Past is in the Past
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第154話 神は人々を救うつもりなど毛頭ない

 時は大きく遡り───


 一行が空中要塞とも言うべきジェノサイドの拠点でミルベル達の激闘を制し、アセンシル高原を出た翌朝。


 一睡も出来なかったクラジューは窓を閉めきったくらい部屋で、死んだ魚のような目を見開きながらベッドの上で仰向けに寝そべり、物音ひとつ立てず天井を見つめていた。


 「───」


 しばらくするとクラジューは起き上がり、立ち上がって椅子に座り、机の上の2つの指輪と、自身とゾーネと共に映る写真を見つめていた。


 赤面してツンデレを惜しみなく発揮したクラジューの横で、弾ける笑顔で幸せを惜しみなく発揮したゾーネの姿があった。


 8年前の結婚式で撮影した、似合わない純白のスーツと、ゾーネのために存在していると言ってもおかしくない純白のウェディングドレス姿。


 この世で1番の幸せを表したモノのはずなのに、今は見る度に胸が苦しくなる。


 愛する者の死、それを未だ受け止めることが出来ずにいるのだ。


 苦しくて、苦しくて、痛くて、痛くて、辛くて、辛くて、悲しくて、悲しくて。


 自分が何をすべきなのか見当たらない、何もかもが考えられない、体が重い、いつもの重りは着けていないのに。


 喪失感、そんな言葉で片付くならば、どうすればこの涙を止めてくれるか分かるはずだ。


 寝て、眠れず起き上がり、思い出し、心を痛め、また寝て。


 その日は、半日近くそれを繰り返していた。




 『───見てられませんね』




 「っ……」


 聞き覚えの無い声が、直接脳内に流れ込んでくる。


 辺りを見渡しても誰もいない、幻聴だろうと片付け再びベッドで横になる。


 『貴方の前にいますよ』


 今度は脳内からではなく、はっきりと目の前から声が聞こえたことが分かる。


 誰かがいる訳では無い、女性的な声音が聞こえた先には天槌ラファールが机の上にあるだけだ。


 『───私は天槌ラファール……クラジュー、少し私を話しましょう』


 微動だにしない、ポカンとする訳でも目をぱちくりさせる訳でも無い。


 「ばかばかしい」


 これが今日初めて発した言葉だ。


 本来〝聖器(ポーマ)〟に触れた者は必ず〝聖器(ポーマ)〟と対話する。


 そこで所有者か否かを判別し、この世で最も絆の深い関係となり本物の強者となるか、呪いにより嬲り殺されるかが決定する。


 『では、貴方を歓迎します』


 しかしクラジューは不思議な事に、ラファールと1度も対話したことが無い。


 故に困惑する、何故武器が言葉を話すのかを理解出来ない。


 「は?」


 その瞬間ラファールは眩く輝きだし、吸い込んでいくようにクラジューをその光で覆った。


 数秒すれば光が失せたが、クラジューはその場に初めからいなかったように消え失せていた。




   ※ ※ ※ ※ ※




 「……んだよここ……」


 目を開けたクラジューが見た景色は、地平線の向こうまで白い花が咲き乱れ、僅かな雲が漂う青い空が広がる楽園のような場所。


 そんな中でクラジューは半径10メートルくらいの円形で、足首程の水位の池の真ん中に立っていた。


 「こうやって会うのは始めてですね、クラジュー」


 するとクラジューの目の前から、長い黒髪で銀色の優しい目をした、麦わら帽子をかぶり白いワンピースを着て裸足のまま、心地良い声音で呼びかけクラジューの元に見知らぬ女の姿形をした者が歩み寄る。


 「誰だよ」


 「ですから、ラファールですよ?」


 ラファールは池に足を踏み入れ、クラジューの目の前で立ち止まった。


 身長はクラジューと約10センチ程低く、上目遣いでゾーネとは対称的な薄い胸板を見せつける。


 クラジューは顔色ひとつ変えることは無い。


 「ラファールって女だったのか」


 だがラファールも笑みを絶やさない。


 「いえ、私はあくまで武器でしか無いので性はありません、しかし私の肉体は限りなく人で言う女、に近いのも事実……まずは、貴方にお礼を言わないとね」


 「お礼?」


 「あの時、僅かな時間ながら、私の本来の姿を引き出してくれてありがとう」


 クラジューがミルベルと2回目に戦闘した際、一時的にラファールは刃の大きな短剣に姿形を変貌を遂げた。


 ラファール曰く、それが本来の姿形らしい。


 「〝聖器(ポーマ)〟は本来の姿とかあんのか」


 「いえ、私だけです」


 「どういうことだ」


 「……千年戦争を引き起こしたのは、紛れもなく私達〝聖器(ポーマ)〟です、それぞれの種族に2つずつ存在し、私達を創り上げた神の目となり、人々を見ていました……


 ……そして、ジェノサイドにより堕ちていく世界を見た神は私達にこう命じました───〝清算しろ〟と」


 「───」


 不可解な言葉が次々と出てくるラファールのペースにクラジューはイマイチついて行けていない。


 「私達はただ命令に従い、人々から世界を守るために、殺し続けました…私は魔人族の〝聖器(ポーマ)〟だったため約300年、ルシファーと共に人々と戦い続け……


 ……そして、たった1人の者にルシファーを除く13の〝聖器(ポーマ)〟は降伏しました」


 「誰だ」




 「───〝霊王〟ノエル・シルバーハートです」




 この世のほぼ誰もが知らない〝霊王〟の名。


 ラファールはそれをあまりに自然に口にした。


 「……やっぱ強ぇのか」


 「はい、何もかもが桁外れ、手も足も出ませんでした……それからノエルに回収され、我々は……神の目を抜き取られ……自由の身となりました」


 「───」




 人類史を語るには欠かせない存在、〝聖器(ポーマ)〟。


 14のそれがこれまで2つずつ均等に7つの世界に存在していた理由は、〝聖器(ポーマ)〟を介して神がこの世を監視していたのだ。


 そういう点で言えば、ベイル・ペプガールを殺すために創られた賢者ベントスと同類の存在となる。


 しかしガービウ・セトロイ率いるジェノサイドが台頭した4000年前からの2000年間で、この世は大きく腐敗していった。


 そのため神は動き出した、人類を清算するために、例え何年かかろうと。


 神は〝聖器(ポーマ)〟に命じ、人類を滅ぼすために人々を唆し、戦争させるように仕向けたのだ。


 その誘いに乗りやすくするために、神はハナから人は戦う事を、殺し合う事を絶やせない種族性に創り上げた。


 神の思い通りに人々は500年間潰し合ったが、そんな神の思惑を知ったただ1人の人類、〝霊王〟によって〝聖器(ポーマ)〟による争いは終わりを迎えた。


 だが人類が清算するほど減ってはいない、そのために打った次の手段が、宗教だ。


 特に戦闘能力に長ける魔人族のほとんどが信仰するガウル教団を、神自身がそれぞれの宗教を唆し大きな戦争を続けた。


 それが功を奏し、計約1000年間続いた戦争で人類の数は総計で100万にも満たない数字となった。


 これが千年戦争の真実。


 そして神が人類を操るように仕向け、神を操っていたガービウ・セトロイという存在が千年戦争最大のフィクサーであることを神すらも知ることは無い、今もなお。




 「しかしその時、特に危険な力を持つ4つの聖器は、ある縛りを掛けられました……


 ……伊弉諾紅葉は刃を失い、蒼粒メディオクリスは魂を失い、業盾シードンは触れる者の命を奪ってしまうという所有者を選ぶ自由を失い……


 ……私は、元ある形と、記憶を失いました……」


 夏のひまわり畑にでもいそうな少女の格好のラファールは、クラジューを前に独白を続ける。


 「じゃあ、何で形が戻った」


 「貴方の力が、ノエルが私に科した縛りを上回った他に、違いないということです」


 「……俺が……」


 クラジューがラファールに触れた際に対話をしなかった理由は、ラファールが記憶を失い干渉手段をとれなかった事。


 そして本来の姿形に一時的ながら戻ったのは、その時のクラジューの力の放出量が〝霊王〟の呪いを上回る力だったという事。


 「ええ、そのため私は記憶も取り戻し、所有者への干渉方法も思い出して今に至る訳です」


 クラジューはゾーネを失い、その悲劇で手に入れた力でラファールは本来の力を取り戻せた。


 救ってくれたクラジューにぞっこんなラファールは、もはや所有者か否かの器を図ることも無い。


 「で、何のようだ」


 そして生きる意味を失った現在のクラジューの元に、あえて現れた理由。




 「貴方にはちゃんと生きてほしい、私のためにも……貴方のためにも」




 「───ふざけんな」

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