第152話 未知の世界へと
「……ハロドックさん、修業ってどういうことですか?」
別に挙げなくてもいいのだが右手を挙げて質問するアリシア。
「いい質問だアリシア、ここの奴らは本来なら全員が全員化け物級の強さでジェノサイドもコーゴーも寄せ付けないハンパない集団であるはずなんだよ……
……がしかーし! なんかもう、弱い!」
「は~っきり言うなてめぇ~……」
「俺も弱いもん、この際はっきり言いましたー」
「はい」
「はいバニルちゃん」
バニルもアリシアを真似して挙手をしてハロドックと対話し始めた。
「……その……修業というのは……一体どこでするんですか?……」
「お、やる気なのね」
「当たり前です!!!……今はもう……自分の弱さに……怒りを覚えます……」
滾る思いは人一倍のバニルは思わず立ち上がり、自分自身への怒りを握る拳に込めて強く願う。
「うん、まあ同意を得るのは後でもいい、重大発表はその場所だかんな」
「……どこですか」
「んじゃ行くぞ?────────────〝巨界〟だ」
7秒近く勿体ぶった割には特に驚く要素の無い至ってシンプルな解答。
当然ながら誰も顔色を変えず、ハロドックは盛大にスベった。
「溜めましたね」
「いいだろ別に俺が面白ぇんだから」
〝巨界〟───主に巨人族が暮らす7つの世界の内の1つである。
人間界と同じく大陸は1つ、名をバルビッシュ大陸、他に幾つかの島で形成されており、伝統を重んじるため歴史的建造物に今も人々は暮らしている。
巨人族は巨人の一族ではなく、肉体を巨人化させられるという能力から巨人族と呼ばれるようになり、普段は人間他、他種族と見た目に特有の違いは無い。
特に自然族との親交が深く、毎年政府間での親交会が開かれ、千年戦争時は同盟を結び共に戦った戦友でもある。
基本的にのんびりとした穏やかな性格の者が多い種族だが、情に厚く、戦闘となれば絶大なパワーとスピードで敵を討つ。
千年戦争では、鋭い殺気を放つ巨人化した兵達が並ぶ圧倒的な迫力に敵は戦わずして敗走したという伝説もある。
「はい!」
「はいバニルちゃん!」
バニルは立っているのにわざわざ手を挙げて質問をするという、ハロドックの質問されたい欲に気付かず満たしていく。
ほぼ全員が黙っているのはハロドックと極力会話をしたくないからだ、理由は面倒くさそうだから。
「具体的には〝巨界〟のどこですか?」
「いい質問だな、その場所とは!───────────」
「もういいですから」
ヤケクソになってスベり倒しても意地でも溜めるハロドックに、嫌気が差したラルフェウは辛辣に言葉を放つ。
「ラルフェウ、止めんなよ俺の暴走を……場所は〝クレイセンダル〟だ」
「クレイセンダル……ってどこですか?」
アリシアの考えは皆同じようで、ハロドック以外の全員が聞き覚えの無いという表情を浮かべている。
「分かるよアリシア、俺も最初どこか全然分かんなかったもん……ていうくらい知名度激低いド田舎」
「何故そんな場所に行くの?」
ここでビオラが集合して初めて口を開く、単純な疑問を抱いたためだ。
「聞いて驚くなビオラ……そこには……俺のダチがいる」
「別に驚かないけど」
「ド田舎だが、そこには〝時軸変石〟の洞穴を改造した宮殿がある……
……安心しろ、そこには天樹イミルがあって、クレイセンダルはイミルの結界で領地内のクザラ王国ですらとも断交する奴らだ」
国内にありながら国とは断交し、なおかつ誰も手出し出来ない幻の地───クレイセンダル。
一行もかなり世話になったうさちゃんの統べるサン・ラピヌ・シ・ソノにもある〝時軸変石〟の洞穴がクレイセンダルにもあるという。
洞穴の外と中の時間の進行に歪みが生じる〝時軸変石〟の洞穴を利用し、短期間で相当な時間の修業を積む。
これがハロドックの今回クレイセンダルを選んだ魂胆だ。
「ハロドックちゃん人脈広いのね~」
「いや誰やねん」
キリウスとペリーはこれが初対面だ。
「それで、どうやって行くんすか?」
「そりゃ神樹林通るしかねぇだろ、さすがラルフェウ」
断りも無くラルフェウの呪力を利用して瞬間移動しようとするハロドック。
「何も言ってませんが……あと、場所が分からないので移動のしようがありません……」
「……無能」
「理不尽極まりないですね」
ここに行きたいと想像しただけで瞬間移動出来るほどラルフェウの呪力は万能ではない。
明確な位置を把握している地点への瞬間的な移動のため、人間界と〝巨界〟を結ぶ扉樹の地点を知らないラルフェウは呪力を使えない。
「あたしがやるわよ」
瞬間、全員がペリーの顔に注目を集める。
「……何かしら」
「いや誰やねん」
「んも~一から説明しなきゃダメ~?」
謎の男が何故かここにいて何のためにこのメンツに協力をするのか、半分はその理由で注目する。
もう半分はペリーがこのタイミングで言葉を発したことに驚いたためだ、味方であることは理解していたがそこまで協力的だとは誰も思っていなかった。
ペリーはとにかく信用を得るために今一度軽い自己紹介をその場で行った。
「……デウロ・グリスエル……」
「知っとるんか?」
「知らない方がおかしい、下手をすれば〝霊王〟よりも有名かもしれない……色んな意味で」
「どっちも知らんわ」
例によってやはりキリウスの欠けた記憶にはペリーの情報は無い。
ビオラは知っている様子だが、あまりいい印象を持ってはいないようだ。
「瞬間移動程度なら余裕よ、じゃあ行くわよ」
そう言った瞬間に船は今いる地点から〝扉樹〟に繋がる森のある大陸北部の湖の岸に移動した。
※ ※ ※ ※ ※
「こんなものかしら」
「ペリーさん、すごいですね、今の呪力じゃないんですよね!!」
「そうよ~」
ヒーローが敵を倒した瞬間を見た子供のように目をキラキラ輝かせてペリーに食いつくバニル。
「私にも妖術使えるでしょうか!!?」
「それは無理よ」
「え……そうなんですか……」
変なところで無知なバニルは少ししょぼくれ、その様子を見てペリーはナチュラルにバニルの頭を優しく撫でる。
「少なくとも妖人の血が入ってないとねえ、霊力が無いと妖術は使えないし……まあ言っても、妖術は呪力の下位互換なだけなんだけどね」
「下位互換?」
「呪力をそれっぽく再現するのが妖術なの」
かつて霊王が終結させたとされる1万年前の大戦にて、人々は呪力に対抗すべく様々な手を駆使してきた。
それが魔法であり、〝零域〟であり、そして妖術だった。
霊力に術式を書き込む技術が真新しかった当時、呪力を扱える敵軍を捕虜に取り、呪力が霊力に術式を加えた〝妖術〟として形成する決定的な材料であることが判明した。
そこから徐々に術式の数は増えていき、現在は呪力の質が他と常軌を逸する〝五聖〟以外は全て妖術としても能力を発揮出来る。
妖術はいわば、呪力のコピーのようなものだ。
バニルは集中して聞いていたが、大半の一行はダイニングから姿を消し、残ったのはアリシア、ハロドック、バニル、ペリーだけとなっていた。
「……ベイルさんも戻っちゃいましたか……」
「皆興味なさ過ぎるわね~、これから通路なのに」
「通路?」
「そうよ、扉樹に入るとしばらく長い光の道に入るの、まあ霧深い上に何も無いから景色を楽しめる訳じゃないけど」
扉樹は世界のあらゆる地点に存在しており、その世界にある扉樹をくぐると光り輝く霧深い道が現れる。
どの世界からも隔絶されたその場所で無数の道が1つとなり、〝ウーヴォリンの神樹林〟へと辿り着くのだ。
「……私……見たこと無いので、楽しみです」
「あなたは確か……アリシア・クルエルかしら」
「……はい……」
「そう……アリシア、あなたが何も悪くない事は分かるわ」
「……え、どうしてですか……」
アリシアはルブラーン襲撃に対し何の策も立てておらず、結果的に大虐殺を起こしてしまったというイメージが世間の常識だ。
「目を見たら分かるわ、あたしはこれでも結構長生きしてるのよ?」
だがペリーはそんなモノには流されず、ちゃんと本人を見て、考えを知って、そしてこの人はこういう人なんだなとイメージする。
あくまで主観を貫く恐れ知らずの言動に、アリシアは感動した。
「……ありがとうございます」
「どうして?」
「……私、生まれて初めて言われました、悪くないって……安心する言葉……初めて、言われました……」
リドリーの件もあり、いっぱいいっぱいになっていたアリシアは、何気ない言葉とペリーの優しさに涙ぐむ。
「まあ、こんなかわいい子に優しい言葉を投げかけないなんて馬鹿ばっかりなのねここの野郎達は」
「あははは……けど……居心地はいいですよ、飽きないから」
「それは良いことね、ほら、入るわよ」
やがて船は扉樹に入り、光の通路を走っていった。




