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Past Letter  作者: 東師越
第5章 神の器
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第145話 ネクストミッションスタート

 「っ……」


 「シキシマ?」


 シキシマはビジルと共にカヴガコロシアムの会場内を警備のために歩き回っていると、突然右耳に取り付けた〝小型言伝貝(パルバス・ディーシャレ)〟を押さえて立ち止まった。


 ちなみにカヴガコロシアムではコーゴーの警備を要請していない、これはシキシマ率いるアヤセ班がベイル一行捜索のために行っている。


 「……クグイ……シトネ……」


 「どうしたんだシキシマ」


 クグイとシトネからの連絡が途絶えたシキシマは2人の危機を察知し、途絶えたポイントへ向かおうとする。


 しかし異様な気配を感じるこの会場から離れることは出来なかった。


 「……いや……何でもねぇ」


 そしてシトネの〝小型言伝貝(パルバス・ディーシャレ)〟は破損するも、神殿跡に向かったクグイの〝小型言伝貝(パルバス・ディーシャレ)〟が無事にもかかわらず返答が無い事を怪しみ即座に自身の〝小型言伝貝(パルバス・ディーシャレ)〟を握り潰す。


 「そうなのか?……」


 「ああ」


 その近くにはアマネとヒワがおり、同じくクグイとシトネの危機を察知した2人はそれぞれの方へと既に向かっている。


 「……分かった」


 初任務にやや緊張が抜けきれないビジルは口数こそ少ないが、状況は冷静に俯瞰して見渡せているためシキシマの意向を察する。




 「さあ皆様大変お待たせしましたー!!! ただいまよりカヴガコロシアム1日目!!! 闘技大会の決勝トーナメントを開始しまーす!!!」


 そのすぐ後に観客はドッと盛り上がり、大歓声によりシキシマとビジルの会話は至近距離でも通じなくなった。


 「決勝トーナメント1回戦は!!! グループ1の72人をたった1人で撃破した今大会注目のダークホース!!! ハクリ選手ー!!! 対するはグループ4は総合格闘技のタイトルを総なめにする男!! シートン・ワーグナー選手ー!!!」


 「あいつは……リミル・ゼルア?……何してんだあいつ……」


 シキシマはハクリと名を偽って出場するリミルを発見し、気配をより殺して立ちながら会場に注目し動向を探り始める。


 ビジルもシキシマの隣でシキシマの指令を待つ。




   ※ ※ ※ ※ ※




 決勝トーナメント初戦開始数分前、グループ1控え室ではトーナメント表が発表されていた。


 「順当に行けば私とベイルは準決勝で当たるな」


 「僕は順当に行けば準々決勝であのパンダの方ですか……」


 「そこはまあどうでもいい、作戦決行はこの準決勝だ……いいなベイル」


 「へいへーい」


 ベイルはトーナメント表を見ずに控え室にある差し入れのドーナツを食べ尽くす。


 「どうでもいいって……殺し認可の大会なんですけど……」


 ラルフェウの恐らく命の危機であろう組み合わせに興味の無いリミル。


 誰も心配してくれないので温かいお茶を飲んで落ち着こうとするが、ベイルが声を出さずに笑ってこちらを指差すため、控え室にある全ての飲食料がベイルの胃袋にあることを悟る。


 「ぶふっ……ふ……はぁ、はぁ……せ……せいぜい死なないように……な?」


 笑いを堪えながらのねぎらいに本心かどうかを疑わないラルフェウ。


 「ベイル様がそう言ってくれたなら、生き残るしかありません!! 死んでも!!」


 「どっちだよ……」


 いつもの調子のラルフェウがさらに控え室の空気をカオスにしていく。


 「……とにかく、船と裏道は今混戦中のようだ……私達で掴むぞ」


 「はい!」


 「へいへーい」


 混戦極める船上と地下道の端、正面突破を図る3人はいよいよ作戦実行に移す。


 リミルは大会スタッフに呼び出され、会場に姿を現した。




   ※ ※ ※ ※ ※




 そして現在に至る。


 「ああーっと一瞬!!! ハクリ選手!!! 一瞬でシートン選手を倒したー!!! ハクリ選手準々決勝進出でーす!!!」


 1歩も動かず蹴り一閃で総合格闘技の王者を一撃の下に倒し、何食わぬ顔で平然と控え室へと戻っていく。


 会場全体が面白いくらいに静寂に包まれ目玉が飛び出しそうなリアクションを取るが、その中でシキシマとビジルだけは顔色ひとつ変えない。


 「……クグイとシトネから通信が途切れたのと、リミル・ゼルアと何か関係あんのか?……とにかく、全員無事の帰還はまず無さそうだな……」




   ※ ※ ※ ※ ※




 その後トーナメントはベイルは一撃、ラルフェウとパンダはまあまあ怪しまれない様に時間をかけつつ圧倒的に勝利を収める。


 それ以外は約10万人の観客の期待を大きく上回る熱戦を繰り広げ、中には30分以上にも及ぶ激戦などもあり、そこから選りすぐりの強者が次々と勝ち残っていく。


 3人と1頭、またシキシマやビジルから見たならあまりに滑稽な試合だ。


 そして予定通り準々決勝第4戦でラルフェウとパンダが当たった。


 「さあここまで一度も攻撃を食らっていない二人が登場!!! 謎謎謎!!! 全てが謎に包まれた今大会優勝候補が1人!!! パンダ選手ー!!!」


 観衆は今まで以上の盛り上がりを見せ、ラルフェウとパンダが会場に入った。


 「対するは着実な一手で無難に勝ち上がってきたまたまた優勝候補!!! ハクラ選手ー!!!」


 「……鼓膜破けそうな勢いですね……」


 パンダとハクラことラルフェウは闘技場に立ち、大歓声の中で緊張感無く対峙する。


 「それでは!!! 試合開始!!!」

 

 「……え……」


 「───」


 ラルフェウは腰を低く下ろし、魔力が欠乏する中勝利を狙って臨戦態勢に入るが、パンダはその場で棒立ちしたまま動かなかった。


 「……お……おっとパンダ選手動かない……どういう事でしょうか……」


 パンダは困惑するラルフェウを数秒凝視すると、突如ラルフェウにジリジリと歩み寄ってきた。


 「な……何ですか……」




 「───あなたたち、神環(しんわ)を狙ってるの?」




 図星をつかれたラルフェウは眉一つ動かさない。


 ベイルとリミルも同じく、このパンダが自身達の目的を薄々勘付いているという予測はついていた。


 「何ですかそれは?」


 わざとらしくとぼけるラルフェウ。


 「いいいいもう分かってるから、妖術って侮れないもんだよ」


 歓声がほとんど止み、ラルフェウにしか届かない声量のパンダは流ちょうに舌を動かす。


 「……あなたは一体」


 「それは言えない、なんせ私もあなたたちを知らないから」


 「そうですか」


 


 「……全く戦わない……一体どういう事なんでしょうか……」


 「おい何やってんだよ!!!」


 「戦え戦え!!!」


 「こっちは高い金払ってんだよ!!!」


 「牽制とか要らねぇんだよ!!!」


 2人が戦闘を行わずに話し込むため観衆は怒り立ち、罵声を浴びせたり、ジュースやエールの入っていた空の紙コップなどのゴミやものを会場に投げ込む。




 「……やはり妖人でしたか……」


 呪力や魔力の感覚ではない、パンダの内側から発せられる力の気配……霊力を直接感じた事により、ラルフェウはパンダを霊力を持つ〝妖人族〟だと断定した。


 「私は旅の小遣い稼ぎのために出たけど、いいよ」


 「え?」


 「あのコーゴーとジェノサイドに真っ向から立ち向かうクレイジー集団、しかも率いるのは人間界の元女王様なんでしょ? 私も一緒に手伝っていいかなって感じ?」


 ……唐突な提案に刹那フリーズ、そして結論は早く。


 「何のつもりかは知りませんが信じません、なので試合をしましょう」


 当然といえば当然、もしかしたら想定外の敵、新手の刺客かとかかった異物には敵意は無く、愛嬌の塊のような容姿で手を組みたいと言いだした。


 子供じゃあるまいし、そんなホイホイとはい組みますと言う方がおかしいとすら思うラルフェウ。


 「……そう、話は通じないか……じゃあ通じる人に聞くしか無いか」


 埒があかないとラルフェウは、数メートル程の差しか無い至近距離にあるパンダの顔面に左拳を殴りにかかる。


 パンダは霊力の衝撃波を起こす張り手で対応しにかかるも、ラルフェウは素早くしゃがみ込んでパンダの懐に入った。


 衝撃波は観客席に到達し、広範囲に渡り客席が崩落する。


 人々は肉体が粉々に飛び散る事はなかったが軽く気を失い、何百人ものの人々が瓦礫に飲まれていった。


 「っ!」


 「甘いですね」




 凄まじい熱狂は阿鼻叫喚へと変わり、崩落した客席の近くから人々が混乱状態となり逃げ惑う。


 それをどうにかして静めようと動くスタッフやシキシマ達よりも早く、パンダは霊力を駆使して観客スタッフ総勢約10万人を眠らせた。


 そして怪我をした人々に治癒をし、崩落した観客席は時間が巻き戻されるように修復し、何事も無かった様に元に戻した。


 「え……」


 気が付くと何もかもが無かった事にされていた光景に、ビジルはひたすらに驚嘆する。




 しかしそんなことは気にしないラルフェウは迷うこと無く右拳をパンダの腹部に打ち込んだ……と思われたが、ラルフェウの右拳はパンダに打ち込む直前に硬直し、そして体全体が全く身動きが取れなくなった。


 「っ!!?」


 「残念」


 パンダは再び霊力の衝撃波を起こす張り手をし、その手とラルフェウの顔面が触れる寸前にラルフェウは殴られたかのように吹っ飛んだ。


 「っぐ……」


 ラルフェウはかなり強く吹き飛ばされるもなんとかこらえ、立ち上がろうとするが力が尽きだし目が眩み、手をついてしまう。


 「……はぁ……はぁ……」


 目覚めた観客達やスタッフは何が起こったのか分からず、2人の戦闘をポカンと口を開けてただ眺めるだけだった。


 「さすが、一発じゃ無理か」


 (さっき殴れなかったときの違和感と、打たれたときの違和感は異なるものだった……


 ……動く感覚はそのままあるのに近づけ無いものと、触れる寸前に風圧とは違う何かが襲って吹き飛ばされた……


 ……恐らく攻撃のモーションは意味なく、何らかの妖術そのものが恐ろしく強いのでしょう……観客席の不可思議もとなれば、とてつもない実力者……


 ……本来なら闇雲に攻めたくないですが、僕はあのパンダのように上手いイカサマは出来ない……今の僕の膂力では太刀打ち出来ない……)


 「……降参です」


 客観的に自分の現状の力とパンダの底知れない力とを鑑みて、作戦に支障をきたさない事を優先して両手を挙げる。


 (可能な限り排除しようとは思っていましたが、敵意は無いみたいですし、ここは下がるが吉ですね)


 「いい決断だと思うよ」


 「……な……なんとハクリ選手!! 今大会初の降参宣言ー!!! これにより!!! 準決勝進出はパンダ選手ー!!!」


 今大会はおろか前大会ですら無かった出来事のために観客は騒然、一部はチキン野郎呼ばわりをして罵詈雑言を浴びせる。




 「……何だあのパンダ……」


 シキシマは両者の試合を見て驚きを隠せずにいた。


 「……霊力か?」


 ビジルもパンダの放つ霊力にすぐさま気付く。


 「その通りだろうよ……ったく何でこんなにヤバいのが人間界の島に揃うんだよ……」




 ラルフェウとパンダは何事もなかったかのように控え室に戻っていった。


 「どしたラルフェウ?」


 「申し訳ありません……しかし、膂力だけではどうしても勝てないと判断しました」


 「使えばいいだろう魔力」


 「ルール違反じゃないですか……」


 「向こうもそうしてるじゃん」


 「僕はそんな器用じゃありませんので……」


 喉が渇いたので水を飲もうとするがベイルが全て飲み干していた事を思い出し、ちょっと舌打ちしそうになるラルフェウ。


 「何か言われたのか?」


 「……我々の意図を知られ、なおかつ協力したいと言われました」


 「何それヤバくね?」


 ベイルはラルフェウが出て行った際と変わらない体勢で寝転がっていた。


 「もちろん断りましたが……何しろ正体が全くの未知ですから」


 「そこはどうでもいい、あれが敵で無いという事は判明したが……客席にシキシマがいる」


 もうベイル一行やそれらを取り巻く人物がアリシア以外、常人離れしていることは当たり前だと捉えてもらっても構わない。


 リミルは地獄耳でパンダが敵では無い事を聞き取っていた、無論信じているといえば嘘になる。


 「誰それ」


 「……特等聖戦士のシキシマ・アヤセですか?……どうしてここに……」


 「意図は知らないが、間違いなく邪魔になる……行くぞベイル」


 「うし、準備しとけよラルフェウ」


 「はい!」


 これよりベイルとリミルは会場に入っていき、ついに作戦は次の段階へと入る。




 「さあ闘技大会もいよいよ準決勝!!! 残すはあと3試合!!! 佳境に入る1日目を最も盛り上げてくれること間違いない二人がぶつかります!!! ハクリ選手対ハクル選手ー!!!」


 先ほどまでの事から完全に切り替えた実況は声を張り上げ、観衆は総立ちして盛り上がり会場に入る2人を迎えた。


 「やれやれ、何故そうも盛り上がんのやら……」


 「金を賭けてるんだろう、金は人の人生を支配する悪魔だからな」


 「面倒くせぇな人生って」


 「大事な事は悪魔を受け入れる事だ、偉そうにして、怒り狂って、欲情して、妬いて、欲深く、激しく飲み食い、怠ける……


 ……生き抜く秘訣としては、悪魔を受け入れ、悪魔になるしか無い……悪魔とは所詮、人が作り出した現実を風刺する空想なのだから」


 「何の話だよ……」


 「悩み相談じゃないのか?」


 「それでは!!! 試合開始!!!」


 試合開始の合図とほぼ同時に動き出したベイルは左拳でリミルの顔面を殴りにかかり、リミルも右拳でベイルの左拳を殴り、恐ろしく激しくぶつかり合った。


 「っは」


 「何を笑っているベイル」


 「いや~面白いだろ、たった一発でもよっ!!!」


 ぶつかり合う2人の拳からは衝撃波が全方位に走り、パンダが元通りに戻した会場全体に亀裂が生じ、観衆たちが衝撃波に吹き飛ばされ、一瞬にしてコロシアムは全体が崩れ去った。


 「行くぞ」


 リミルがそう言うと、先ほどの2撃の衝撃で会場が崩壊したことにより床が壊れ、地下に謎の大きな穴が現れた。


 リミルとベイルはそこに飛び込んでいき、ラルフェウも控え室から飛び出して2人の後を追っていく。


 崩落する会場の轟音は島中に響き渡り、島中の人々がその惨劇を目にした。




   ※ ※ ※ ※ ※




 「……なんってこった……」


 シキシマとビジルは助けられるだけの人々を担いで跳んで避難するが、砂煙にまみれる瓦礫には人々が押し潰され、数万人規模の死傷者が出た。


 「……シキシマ」


 「どうした」


 「……何であの戦ってた会場だけ無傷なんだ?」


 「は?……マジか……」


 砂煙が晴れると、崩落したはずだった会場の床だけが、先ほどラルフェウとパンダが戦闘した際と同じように何事も無かったかのように、不自然に無傷だった。


 「……クソっ、壊せねぇ……」


 シキシマは闘技場に着地し無傷の床を一度足踏みして、大規模な攻撃でなければ壊れないと断定する。


 「……奴の狙いは何なんだ……」


 リミルの狙いが全く読めないシキシマは焦燥感に襲われつつも、可能性を模索してとにかく頭を回す。


 「……シキシマ」


 「……何だ……」


 「……あのパンダの気配も無い」


 ビジルの言葉にハッと気がつくシキシマは、会場全体の気配を探ってもあのパンダの気配が失せていることを知る。


 今ので死んだ訳が無いとすれば、このどさくさに紛れてどこかへ消えたとしか情報は無いが……。


 「……どうなっていやがる……」

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