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Past Letter  作者: 東師越
第1章 〝死神〟と呼ばれる男
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第14話 最後の空人

「だったら何だ」


 赤髪はソラの一族の特徴である事を思い出し、ラルフェウはその場から去ろうとしたクラジューにそう問い詰めた。


「だとしたら、何故ベイル様を狙ったのかが気になったんです……ベイル様はあなたの何ですか」


「お前に話すことはねぇな」


「強者を喰らいたいだけですか?」


 その答えが的を射ていたのか、その言葉が再び去ろうとしていたクラジューの足を止めた。


「はっきり言いますが、その程度の闘値で威勢良く吠えられるのはせいぜいここ人間界くらい……今がチャンスですよ、ベイル様の力を見たくないですか?」


「は?」


「あなたの欲求を満たすには、今のベイル様は物足りないでしょう……かといってここで中途半端なままあなたが去り、ベイル様に恥をかかせるのであれば……僕はあなたを殺します」


「おい、お前は結局何がしたいんだ?」


「そもそもあなたはベイル様にたった1人で勝負を仕掛けたことその時点で完全敗北を喫していることを、あなたは未だに理解出来ないんですか?」


 ラルフェウは冷静さの中に込み上がる怒りを混じらせた言葉を吐き、全身から目で見えるほど濃い魔力を放ってクラジューを脅す。


 クラジューはラルフェウの姿を見て驚いてはいるものの表情にはほぼ出さず、「はぁ」とため息をついてこう言った。


「やる気を出したベイル・ペプガールは俺に勝てるのか?」


「ええ」


「……ならそれでいい、俺もすっきりしねぇし、それでひっくり返せるくらいの力を返り討った方が楽しいしな」


「ありがとうございます──ですってベイル様」


 ラルフェウが気絶しているベイルに向かってそう呼びかけた。


 直後に、辺りに人だかりが出来ている中気絶しているベイルは目をパッチリと覚まし、右手で後頭部を掻きながら起き上がった。


「え、狸寝入り?」


「いえ、ちゃんと気絶してましたよ……3秒ほど」


 アリシアの咄嗟に出た言葉にラルフェウはちゃんと目を合わせて答えただけなのに、何故かリドリーに睨まれる。


「え? ホントに……え?」


 ベイルが立ち上がった時、よってたかっていた集落の人々は驚き、誰も一声もあげること無くおぞましいものを見る目でベイルを見ていた。


 ベイルはそんな視線に気付かず首を傾げてコキッコキッと鳴らして、クラジューの前に歩いて向かっていく。


「つーかラルフェウ、何俺が負けたことにしようとしてんだよ」


「申し訳ありません、ですがあれではベイル様のメンツが」


「んなモンどうだっていいんだよくだらねぇ、どんだけボロクソでも、勝てばいいんだよ──勝てば」


 ベイルは「勝てば」の言葉を歩いていた場所からクラジューの数センチ目の前まで一瞬で移動して言い、クラジューの額をデコピンした。


「ぬあっ!!?」


 クラジューは今までとあまりにも違うベイルの攻撃に戸惑い、その速さに追いつけずにまともにくらって数十メートル吹き飛ばされる。


「くっ……なっ!?」


 宙に浮いた状態でなんとか食い止まり、体勢を立て直そうとして前を見ると、ベイルが既についさっきデコピンされた際の距離まで詰めている。


「ほっ」


 明らかにスピードもパワーも上がったベイルに、クラジュー無防備なみぞおちに思い切り右脚を振り抜かれた。


 クラジューは上空にさらに数十メートル蹴り上げられるも、即座に体勢を吹っ飛ばされながら立て直す。


 クラジューの真上に現れたベイルの周りに10数個の〝雷球サンダー・コア〟を張り巡らせる。


「おっ」


「〝連鎖雷波チェイン・サンダー〟」


 ベイルは驚きながらも余裕気を孕んだ表情を浮かべる。


 少し体を微動させただけで動かした右手に最も近い〝雷球サンダー・コア〟がベイルに電撃波を放ち、連鎖して他の〝雷球サンダー・コア〟も一斉にベイル目掛けて電撃波を放った。


「っあ……」


「おおおおおッッ!!!!」


 ベイルが怯んだスキを、クラジューはベイルの真上から突き、槌を頭頂部に振り下ろした。


「はああッッ!!!!」


 ベイルは真下に一直線に落ちていき、地面に激しく衝突してクレーターのような大きな穴が出来る。


 大きな砂埃を上げ、ベイルは仰向けのまま意識を保つだけで精いっぱいだった。


 そこからクラジューは追い打ちをかけ、ベイルに向かって槌を大きく振り下ろして稲妻を落とす。




「っ……」


 アリシアは何も言わず固唾をのんで2人の闘いを見て、レオキスとリドリーもまた驚きを隠せない中でラルフェウはただ1人だけ一切顔色を変えずに見守っていた。


「はぁ……はぁ……」


 全力の攻撃を繰り返したクラジューは息を切らしながら地上の穴の外側に降り立ち、砂埃が晴れるのを待っていた。


「……嘘だろ……」


「ふぅ、まだちょっちピリピリすんな~」

 

 ベイルはひょうひょうとして立ち、服の埃を手で払ってクラジューに目線を向けた。


 あれだけの猛攻を防御もせずに食らい続け、しかしその体には一切の傷は無い。


「……ちぃ」


(ダメージは確実に受けていた……今さっき、たった数秒であの傷とダメージを治したのか……速くなったり、一撃が重くなったり……何の呪力だ……)


「お前は、俺と似てるな」


「……どういうことだ」


 ベイルはゆっくりとクラジューの元に、穴を上って歩き出した。


「俺もお前も、クソほど弱ぇ……お前の技も、動きのひとつひとつに努力の跡がある、見えちまう」


「……それのどこが似てるんだ」


「悔しいだろ、血反吐吐く努力を人の何百倍、毎日毎日繰り返して、それでも人並みにすら追いつかない……持ってる才能と、それを使えない素材の鈍さっつーモンを抱えて──悔しいだろ?」


 不敵な笑みを浮かべながら、ベイルはクラジューの心の内に入り込もうと詮索した。


 クラジューはベイルの言葉を聞いて、過去の記憶の断片を思い出した。






 全てが破壊された街に1人呆然と立ち尽くす少年。


 全身が血まみれ傷だらけで、尚も立ち上がろうと足掻く少年。


 さっきまで笑い合っていた少女は右肘だけを残して消滅し、名前の付けようの無いぐちゃぐちゃな表情を浮かべる少年。



 ──気が付くと、また誰もいなくなって……狂ったように笑いながら、涙が止まらない少年。






「弱い自分は嫌いだろ? 弱い自分が許せねぇだろ? 弱い自分が、信じらんねぇんだろ?」


「……言いがかりも良いところだな」


 クラジューはベイルに真っ正面から向かって槌を振りかざすも、クラジューが気付かない間に槌はベイルの右手の中にあった。


「重っ」


「ぐっ!!!」


 クラジューは素早く切り替え、右拳でベイルの顔面を殴りかかった。


 しかしベイルは左手の人差し指1本で防ぐ。


「今はこんなパンチに指を使わねぇといけねぇくらい弱いが、前はちゃんと強かった俺だ……お前の努力を理解した上で言う」


「ふざけるな!!! お前に俺の何が分かんだよ!!!」


「お前は強くなれる、そのベッタベタなセリフが2度と言えねぇくらい──


 ──〝陽ノ國〟の王様にも 

 ──〝龍界〟の王様にも

 ──〝霊王〟にも

 ──ガービウ・セトロイにも


 ──俺にも勝てるくらいな」


 根拠は無い、全てベイルの直感だ。


 それでも言葉には力があり、ベイルは自信と確信を持ってクラジューに言い放つ。




「〝負けない〟じゃねぇ──〝勝てる〟だ」




「何が言いたい……」


「お前の夢は何だ、俺にはあるぞ……どんな力もどんな頭脳もどんな技も、根幹が図太くねぇと意味がねぇ……言ってみろよお前の夢」


 ベイルはクラジューの胸ぐらを、右手で槌を地面に落としてからガシッと勢いよく掴んだ。


「自信が無ぇなら俺が命賭けても構わねぇ覚悟で今ぁ!!! てめぇの目の前で言ってやるよ!!! ──



 ──お前は、強い」



 クラジューには、ベイルの言っている意味が理解出来なかった。


 そんな子供みたいな、幼稚なものが自分を強くするなど無いと、この場では頭の中で切り捨てた。


 自分が歩んできた人生を否定された気分で、吐き気がした。そのために今一度どうしようも無い相手に向かって闘うために、ただそれだけのために間を取った。


 右手に微量の電気を帯びさせると、共鳴した槌も微量の電気を帯び、磁石みたく吸い付くように槌がクラジューの右手の元に戻ると、即座に槌からベイルに向かって、水平に稲妻を放った。


「……もういいだろ」


 ベイルは軽々と跳んで回避し、さらに余裕さを見せてからクラジューの背後でそう言った。


「なっ……」


「ほい」


 ベイルは右手の手刀でクラジューの頭頂部に振り下ろす。


 軽く思えた一発だが、クラジューは地面が大きく割れる程の勢いで地面に衝突した。


「かはっ……」


「はいドーン」


 ベイルはクラジューが起き上がる前に、クラジューの左脇腹を右脚で船の方へ蹴り飛ばした。


「え!? 船にぶつかる!!」


「問題ありません」


 アリシアの心配は的を外れ、吹き飛ばされたクラジューは船に激突する直前にドーム型の透明な結界にぶつかった。


 クラジューは地面に落ち、限界を迎えて意識が落ちていく。


「〝完全無欠空間イージス・サークル〟──俺がやる前に張っといたから、いや~しかしこんな雑魚相手に格好つけちまったな~、思いのほか良い駒かもな」


 ラルフェウ以外の3人は、ベイルの力を垣間見て、改めてベイルの恐ろしさを知り、鳥肌が立ったまましばらく治まらなかった。


「……あれ、今のは……」


「アニキが誰かを強いなんて言うんすね~…」


「実は僕も聞いたのは2回目です……ベイル様自身もそのくらいなのでは……」


「あれで弱いのかよ、化け物同士のヤバいじゃれあいに見えたけど」


「リドリーさんが思っているほど、世界は狭くないですよ」




   ※ ※ ※ ※ ※




「……ぐあ……」


 数分後、甲板の上で弱々しく目覚めたクラジューのそばでベイルが顔を覗く。


「まだやんの?」


(あんな大規模な結界張りながら……化け物かよ……)


 全て覚えており、1度気を失って冷静になったクラジューはため息交じりに口ずさむ。


「……負けた」


 潔く認めざるを得ない。


 力だけでなくそれ以上の何かを見せつけられ、勝てるイメージが浮かばなくなったのだから。


「じゃ要望言うね、俺と一緒に来い」


「……は……っ……」


 返事をしようとした瞬間、まだ完全に治りきっていないクラジューは再び力尽きて眠り始めた。


 そしてアリシア達はベイルの元に向かっていっく。(リドリーは単にアリシアに着いていっただけだが)


「ベイル様……まさか」


「こんなあっという間に4人目だよ〝死神魂デケム・メア〟、今週の俺の運バチクソ高ぇぞおいいい……で、何で雷とか出せんの?」


「彼はソラの一族です、しかし……雷を操るのはごくまれにしかいない……彼はいつの時代も稀有な存在である者です」


「ソラの一族? 自然族か」


「いえ妖人族です、以前は自然族だったのですが……しかし、100年程前に滅亡した種族のはずですが……」


「あっそう、あ~運んどいて」


「はい!」

クラジュー・エフィーグ


性別 男 種族 妖人族ソラの一族 年齢 ?? 呪力 ??

身長181センチ 体重87キロ 誕生日 誰からも聞いていないので不明。


 ソラの一族最後の生き残り。さらにその中でも希少な、雷と共鳴し操る能力を持つ。

 実は甘党だったり、巨乳好きだったりとちゃんと普通の趣向はある。

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